時間を戻した元悪女は、私を捨てた王太子と、なぜか私に夢中の騎士団長から逃げられません

腐ったバナナ

文字の大きさ
2 / 20

2話

しおりを挟む
 騎士団長ギルバートによる一方的な護衛宣言は、学園中に衝撃を与えた。

 彼は王太子の護衛隊長であると同時に、国王直属の騎士団長という、誰も逆らえない絶対的な地位にある。その彼が、王太子の婚約者であるとはいえ、まだ学園にいる一侯爵令嬢の護衛をするのは異例中の異例だった。

 ユミリアは、ギルバートの背後で、周囲の貴族令嬢たちの好奇と嫉妬の視線を感じた。前世と同じ悪循環の始まりだと、ユミリアは内心で頭を抱える。

「騎士団長。私は貴方のような方の護衛を受けるような重要な人物ではありません。王太子殿下も公務でお忙しいはず。どうか、お戻りください」

 ユミリアが丁寧な言葉で辞退を試みるが、ギルバートの態度は変わらない。

「命令だ。王家と騎士団の権威を以て、貴殿の安全は私が保証する」

 彼の答えは、問答無用の絶対的な支配を意味していた。

 ユミリアは諦め、ギルバートを巨大な背景として無視することにした。

 前世のユミリアなら、ここで「王太子殿下がいるのに、貴方なんかいらない」と傲慢に振る舞っただろう。しかし今世の彼女は、脇役に徹する。

 ユミリアは、王太子アルベルトが頻繁に訪れる華やかなサロンを避け、誰も来ない古い図書館に籠もり始めた。彼女の目的は、静かな追放生活を送るために必要な辺境領の運営知識を得ることだ。

 分厚い歴史書や経済書を読み進めるユミリア。その傍らには、常に漆黒の騎士が立っている。

「邪魔でしょう?座ってください」

 ユミリアが申し出ても、ギルバートは動かない。

「私の役割は護衛だ。貴殿の邪魔にならないことまでは保証しかねる」

 彼の言葉は冷たいが、彼の視線は、周囲の者からユミリアを守る鋭い番犬のようだった。

 ある日、ユミリアが疲れて居眠りをしていると、ギルバートが静かに彼女の傍に座り、彼女が読んでいた本を手に取った。それは、農作物と税制に関する難解な専門書だった。

「貴殿は、なぜこのような書物を?」ギルバートが初めて、護衛に関係のない質問をした。

 ユミリアは寝起きのぼんやりした頭で、思わず本心を漏らした。

「……辺境に追放される準備です。いつか、誰にも迷惑をかけずに、静かに暮らせる場所を見つけたいだけですから」

 その言葉を聞いた瞬間、ギルバートの感情のなかった瞳に、微かな動揺が走った。彼の冷たい指先が、ユミリアの頬にそっと触れる。

「追放など、させない」

「!」

「貴殿は、光だ。この王国に必要な、最も清らかな光だ。それを手放す愚行は、私が許さない」

 その言葉は、まるで激しい独占欲と切実な切望を込めた愛の告白のようだった。ユミリアは困惑した。なぜ、自分を処刑した男が、今、自分を「光」と呼び、永遠に守ると宣言するのか?

 その日の午後。ユミリアを心配した王太子アルベルトが図書館に姿を現した。

「ユミリア!こんな場所にいたのか。騎士団長、なぜ私の婚約者をこのような薄暗い場所に閉じ込めている!」

 アルベルトは苛立ちを露わにし、ユミリアの腕を取ろうとした。

「殿下」

 ギルバートは、即座にユミリアを背後に庇い、アルベルトの前に立ちはだかった。

「彼女は私の護衛対象です。殿下の許可なく、彼女に接触することは許可できません」

 彼の態度は、王太子に対する忠誠心ではなく、獲物を守る番犬のようだった。ギルバートとアルベルトの間には、剣を交えるかのような鋭い緊張感が走った。

 ユミリアは、静かな追放計画どころか、前世で絶対に起こりえなかった、二人の男による壮絶な争奪戦の渦中に放り込まれたことを悟った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

【完結】婚約破棄はいいのですが、平凡(?)な私を巻き込まないでください!

白キツネ
恋愛
実力主義であるクリスティア王国で、学園の卒業パーティーに中、突然第一王子である、アレン・クリスティアから婚約破棄を言い渡される。 婚約者ではないのに、です。 それに、いじめた記憶も一切ありません。 私にはちゃんと婚約者がいるんです。巻き込まないでください。 第一王子に何故か振られた女が、本来の婚約者と幸せになるお話。 カクヨムにも掲載しております。

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

嫌われていると思って彼を避けていたら、おもいっきり愛されていました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のアメリナは、幼馴染の侯爵令息、ルドルフが大好き。ルドルフと少しでも一緒にいたくて、日々奮闘中だ。ただ、以前から自分に冷たいルドルフの態度を気にしていた。 そんなある日、友人たちと話しているルドルフを見つけ、近づこうとしたアメリナだったが “俺はあんなうるさい女、大嫌いだ。あの女と婚約させられるくらいなら、一生独身の方がいい!” いつもクールなルドルフが、珍しく声を荒げていた。 うるさい女って、私の事よね。以前から私に冷たかったのは、ずっと嫌われていたからなの? いつもルドルフに付きまとっていたアメリナは、完全に自分が嫌われていると勘違いし、彼を諦める事を決意する。 一方ルドルフは、今までいつも自分の傍にいたアメリナが急に冷たくなったことで、完全に動揺していた。実はルドルフは、誰よりもアメリナを愛していたのだ。アメリナに冷たく当たっていたのも、アメリナのある言葉を信じたため。 お互い思い合っているのにすれ違う2人。 さらなる勘違いから、焦りと不安を募らせていくルドルフは、次第に心が病んでいき… ※すれ違いからのハッピーエンドを目指していたのですが、なぜかヒーローが病んでしまいました汗 こんな感じの作品ですが、どうぞよろしくお願いしますm(__)m

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

処理中です...