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2話
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騎士団長ギルバートによる一方的な護衛宣言は、学園中に衝撃を与えた。
彼は王太子の護衛隊長であると同時に、国王直属の騎士団長という、誰も逆らえない絶対的な地位にある。その彼が、王太子の婚約者であるとはいえ、まだ学園にいる一侯爵令嬢の護衛をするのは異例中の異例だった。
ユミリアは、ギルバートの背後で、周囲の貴族令嬢たちの好奇と嫉妬の視線を感じた。前世と同じ悪循環の始まりだと、ユミリアは内心で頭を抱える。
「騎士団長。私は貴方のような方の護衛を受けるような重要な人物ではありません。王太子殿下も公務でお忙しいはず。どうか、お戻りください」
ユミリアが丁寧な言葉で辞退を試みるが、ギルバートの態度は変わらない。
「命令だ。王家と騎士団の権威を以て、貴殿の安全は私が保証する」
彼の答えは、問答無用の絶対的な支配を意味していた。
ユミリアは諦め、ギルバートを巨大な背景として無視することにした。
前世のユミリアなら、ここで「王太子殿下がいるのに、貴方なんかいらない」と傲慢に振る舞っただろう。しかし今世の彼女は、脇役に徹する。
ユミリアは、王太子アルベルトが頻繁に訪れる華やかなサロンを避け、誰も来ない古い図書館に籠もり始めた。彼女の目的は、静かな追放生活を送るために必要な辺境領の運営知識を得ることだ。
分厚い歴史書や経済書を読み進めるユミリア。その傍らには、常に漆黒の騎士が立っている。
「邪魔でしょう?座ってください」
ユミリアが申し出ても、ギルバートは動かない。
「私の役割は護衛だ。貴殿の邪魔にならないことまでは保証しかねる」
彼の言葉は冷たいが、彼の視線は、周囲の者からユミリアを守る鋭い番犬のようだった。
ある日、ユミリアが疲れて居眠りをしていると、ギルバートが静かに彼女の傍に座り、彼女が読んでいた本を手に取った。それは、農作物と税制に関する難解な専門書だった。
「貴殿は、なぜこのような書物を?」ギルバートが初めて、護衛に関係のない質問をした。
ユミリアは寝起きのぼんやりした頭で、思わず本心を漏らした。
「……辺境に追放される準備です。いつか、誰にも迷惑をかけずに、静かに暮らせる場所を見つけたいだけですから」
その言葉を聞いた瞬間、ギルバートの感情のなかった瞳に、微かな動揺が走った。彼の冷たい指先が、ユミリアの頬にそっと触れる。
「追放など、させない」
「!」
「貴殿は、光だ。この王国に必要な、最も清らかな光だ。それを手放す愚行は、私が許さない」
その言葉は、まるで激しい独占欲と切実な切望を込めた愛の告白のようだった。ユミリアは困惑した。なぜ、自分を処刑した男が、今、自分を「光」と呼び、永遠に守ると宣言するのか?
その日の午後。ユミリアを心配した王太子アルベルトが図書館に姿を現した。
「ユミリア!こんな場所にいたのか。騎士団長、なぜ私の婚約者をこのような薄暗い場所に閉じ込めている!」
アルベルトは苛立ちを露わにし、ユミリアの腕を取ろうとした。
「殿下」
ギルバートは、即座にユミリアを背後に庇い、アルベルトの前に立ちはだかった。
「彼女は私の護衛対象です。殿下の許可なく、彼女に接触することは許可できません」
彼の態度は、王太子に対する忠誠心ではなく、獲物を守る番犬のようだった。ギルバートとアルベルトの間には、剣を交えるかのような鋭い緊張感が走った。
ユミリアは、静かな追放計画どころか、前世で絶対に起こりえなかった、二人の男による壮絶な争奪戦の渦中に放り込まれたことを悟った。
彼は王太子の護衛隊長であると同時に、国王直属の騎士団長という、誰も逆らえない絶対的な地位にある。その彼が、王太子の婚約者であるとはいえ、まだ学園にいる一侯爵令嬢の護衛をするのは異例中の異例だった。
ユミリアは、ギルバートの背後で、周囲の貴族令嬢たちの好奇と嫉妬の視線を感じた。前世と同じ悪循環の始まりだと、ユミリアは内心で頭を抱える。
「騎士団長。私は貴方のような方の護衛を受けるような重要な人物ではありません。王太子殿下も公務でお忙しいはず。どうか、お戻りください」
ユミリアが丁寧な言葉で辞退を試みるが、ギルバートの態度は変わらない。
「命令だ。王家と騎士団の権威を以て、貴殿の安全は私が保証する」
彼の答えは、問答無用の絶対的な支配を意味していた。
ユミリアは諦め、ギルバートを巨大な背景として無視することにした。
前世のユミリアなら、ここで「王太子殿下がいるのに、貴方なんかいらない」と傲慢に振る舞っただろう。しかし今世の彼女は、脇役に徹する。
ユミリアは、王太子アルベルトが頻繁に訪れる華やかなサロンを避け、誰も来ない古い図書館に籠もり始めた。彼女の目的は、静かな追放生活を送るために必要な辺境領の運営知識を得ることだ。
分厚い歴史書や経済書を読み進めるユミリア。その傍らには、常に漆黒の騎士が立っている。
「邪魔でしょう?座ってください」
ユミリアが申し出ても、ギルバートは動かない。
「私の役割は護衛だ。貴殿の邪魔にならないことまでは保証しかねる」
彼の言葉は冷たいが、彼の視線は、周囲の者からユミリアを守る鋭い番犬のようだった。
ある日、ユミリアが疲れて居眠りをしていると、ギルバートが静かに彼女の傍に座り、彼女が読んでいた本を手に取った。それは、農作物と税制に関する難解な専門書だった。
「貴殿は、なぜこのような書物を?」ギルバートが初めて、護衛に関係のない質問をした。
ユミリアは寝起きのぼんやりした頭で、思わず本心を漏らした。
「……辺境に追放される準備です。いつか、誰にも迷惑をかけずに、静かに暮らせる場所を見つけたいだけですから」
その言葉を聞いた瞬間、ギルバートの感情のなかった瞳に、微かな動揺が走った。彼の冷たい指先が、ユミリアの頬にそっと触れる。
「追放など、させない」
「!」
「貴殿は、光だ。この王国に必要な、最も清らかな光だ。それを手放す愚行は、私が許さない」
その言葉は、まるで激しい独占欲と切実な切望を込めた愛の告白のようだった。ユミリアは困惑した。なぜ、自分を処刑した男が、今、自分を「光」と呼び、永遠に守ると宣言するのか?
その日の午後。ユミリアを心配した王太子アルベルトが図書館に姿を現した。
「ユミリア!こんな場所にいたのか。騎士団長、なぜ私の婚約者をこのような薄暗い場所に閉じ込めている!」
アルベルトは苛立ちを露わにし、ユミリアの腕を取ろうとした。
「殿下」
ギルバートは、即座にユミリアを背後に庇い、アルベルトの前に立ちはだかった。
「彼女は私の護衛対象です。殿下の許可なく、彼女に接触することは許可できません」
彼の態度は、王太子に対する忠誠心ではなく、獲物を守る番犬のようだった。ギルバートとアルベルトの間には、剣を交えるかのような鋭い緊張感が走った。
ユミリアは、静かな追放計画どころか、前世で絶対に起こりえなかった、二人の男による壮絶な争奪戦の渦中に放り込まれたことを悟った。
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