婚約破棄された令嬢、冷酷騎士の最愛となり元婚約者にざまぁします

腐ったバナナ

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2話

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 会場のざわめきが、私の耳にまだこだましている。
 王太子の婚約破棄、平民の娘への愛情、嘲笑する貴族たち。
 胸が張り裂けそうなほど苦しく、肩を落として立ち尽くしていた私の目に、漆黒の騎士――アレクシス・クロードの姿がはっきり映った。

「リリアナ嬢、ついて来なさい」

 彼の低い声に、誰も逆らえない威圧があった。
 人々の視線を背中に浴びながら、私は彼の歩みに従うしかなかった。
 馬車に案内されるまでの間、周囲は一言も発せず、ただ私たちを見つめている。
 その視線の中には、あからさまな嫉妬と、驚きと、嘲笑が混ざっていた。

 馬車に乗ると、扉が閉まり、外の喧騒が一瞬にして遠のいた。
 夜風が揺れるカーテンの隙間から吹き込み、私の頬に冷たく触れる。
 恐怖と安堵が入り混じり、言葉にならない感情が胸を満たす。

「……アレクシス団長……」

「……どうして、私を助けてくれるんですか……?」

 震える声で尋ねる私に、彼は静かに、しかし確固たる口調で答えた。

「リリアナ嬢は、私が妻に迎える。二度と誰にも侮辱させはしない」

 その一言に、心臓が跳ね上がる。
 思わず目を見開くと、彼の黒い瞳が真っ直ぐ私を見つめていた。
 冷酷無比と噂される男が、私だけに優しく微笑む。
 その温かさが、屈辱に塗れた心を少しずつ溶かしていく。

「妻に……ですか?」

 言葉が震える。まだ信じられない。
 馬車の中、二人きり。外界の雑音はもう届かない。

「そうだ。お前を守るために、そしてお前だけを愛するために」

 彼はそっと手を差し出す。手のひらは大きく、力強く、けれど冷たさはない。

 目の前に広がる未来は、想像もしていなかった光景だった。
 誰もが嘲笑したその夜に、私はただ一人、騎士の腕の中で守られる。
 その安心感が、心の奥で小さく火を灯す。

「でも……私なんかが……」

「構わない。過去に囚われる必要はない」

 言葉に迷いはなく、揺るがない。
 私は、初めて自分がこの人に必要とされる存在だと実感する。

 その瞬間、ふと馬車の窓の外を見る。
 舞踏会の煌びやかさは、遠い夢のように霞んでいた。
 王太子も、嘲笑していた令嬢たちも、もう私に関係はない。
 私の未来は、今、この瞬間から変わるのだ。

 アレクシスの手が、私の指にそっと触れる。
 その温もりに、胸の奥でざわめくものがある――甘さと、力強さと、確かな誓い。
 ざまぁの始まりも、同時に予感する。

「リリアナ嬢、私の妻になれ」

 その言葉に、私は小さく頷いた。
 泣きたいほど嬉しくて、でもまだ信じられなくて、胸がいっぱいになる。
 長かった絶望の夜が、今、静かに終わりを告げようとしていた。
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