17 / 51
逆転前夜
しおりを挟む
「お前はいつになったら行動を起こすんだーーーー?!!」
席替えの日から1週間経った土曜日の夜、圭佑の家では彼の怒号が響いていた。
「うるせぇなー。騒ぎが収まったらって言ってんだろ」
光毅は、耳を押さえた手を離しながら答えた。
「収まってんじゃねーか、とっくに!」
写真の件はそこまで周囲の興味を引くものではなかったらしく、土日を挟んだら一気に収束していった。
「いや、だって、また何かやらかしちゃったら困るし…」
「やらかすぐらいの勢いでいけよ!」
「それで嫌われたらどうすんだよ!」
「知るかっ!」
「それだけは絶対嫌なんだって!」
圭佑は大きなため息をついた。
「『僕、碧乃ちゃんに嫌われたら生きていけなーい』ってか?」
「気安く名前を呼ぶな」
「あー、はいはい。…でも、早くしないと本当にやばいかもなぁ」
「…なんでだ?」
光毅は怪訝な表情を見せた。
「今回の騒ぎで、斉川碧乃の存在が全校生徒に知れ渡ったんだ。1人くらいお前みたいに興味を持つ奴が現れてもおかしくない」
「!!そ、れは…」
圭佑の言葉に目を見開き、動揺を露わにした。
「いや、1人じゃ済まないか」
「えっ!」
「あいつ、真っ直ぐ人の目を見て話すだろ?あれをやられると大抵の男は勘違いするもんだ」
「う…」
「なのに本人には全く自覚がなく無防備なもんだから、こちらとしてはつい手を出したくなっちゃう訳よ」
「…お前、自分を正当化しようとしてないか?」
「んー?まぁ、否定はしないねぇ」
圭佑はニヤリと笑った。
「要するにあいつは今、お前が猛獣の中に放り込んだ餌って事だ。食われんのも時間の問題だなぁ?」
「なっ!?あ、あの写真は俺のせいじゃ…!」
「お前が中途半端に堂々とするから悪いんだろっ!」
「うっ!…」
「どうせなら学校中に知らしめるくらいの事をやらかせよ!」
「いや、でも…」
「でもじゃないっ!!」
§
同じ頃。碧乃はベッドに寝転がり、手に持ったあの栞をぼんやり眺めていた。
今日も図書館で本を借り、部屋にこもってじっくり読もうと思っていたのだが、どうにも集中できず今に至っていた。頭の中を苛立つものが占領して、文章が入り込む隙間を与えてくれないのだ。
写真の拡散による碧乃への注目は、そこまで危険度は増さなかった。小坂を慕う女子達から何かしらの攻撃でも受けるかと覚悟はしていたが、結局何もなかった。地味な見た目ゆえに、彼女らの努力をおびやかす存在とは思われなかったらしい。加えて、碧乃を問い詰めた所で大した話が聞ける訳でもないので、生徒達は早々に飽きていった。結論として、雨の中を歩く碧乃を可哀想に思った小坂が、手を引いて駅まで連れていったという事になったらしい。彼の優しいというイメージが増幅されただけで、この件は終了した。
碧乃の周囲は、再び平和な日常を取り戻した。…のだが。
どうも騒ぎの発端となった小坂が、未だこちらに負い目を感じているようなのだ。
何度も視線は向けてくるくせに、席替えの日以来全く話しかけてこようとしない。後ろにいる山内から『お前から話しかけろ』だの『癒やしてやれ』だの言われたが、こちらから話しかける事はしたくないので、そのまま放っておいた。そうしたら、1週間もその状態のまま過ごす事になってしまった。
もうこれ以上続くのは、さすがに限界だった。
終わった事をいつまでも気にしていたくはないのだ。からかうのでも何でも良いから、いい加減話しかければ良いのに。大胆なくせに変な所で考え込むとは、彼はかなり面倒くさい性格をしているようだ。
…やっぱり、こっちから話すしかないか。
しかし、何をどう話せば良いのだろうか。『写真の事は気にするな』だなんて直接的に言ったら、かえって逆効果だ。
一体どうすれば……?
ふと、栞を見ていて気が付いた。
碧乃は壁にかかるカレンダーに目を向ける。
確か次の期末試験は12月の第2週。今から4週間後。という事はあと2週間で試験勉強の期間に突入する。寝てばかりいる彼は、放っておいたらまた赤点を取るに違いない。それでまた無理に助けを求められたら、たまったもんじゃない。
ならばそうならないよう、こちらから先手を打つべきではないだろうか。今から少しずつでも勉強させる事ができれば、前回とは違い、彼も自分も余裕を持って試験に臨めるはずだ。
再び栞に目を戻す。
この間は午後3時には部活が終わっていた。集団から逃れて1人になりたいであろう今なら、明日のその時間、もしかしたらあの店にいるかも知れない。
「……」
…たまには、立場を逆転させてみようか。
碧乃は栞を見据え、かすかに黒い微笑を浮かべた。
席替えの日から1週間経った土曜日の夜、圭佑の家では彼の怒号が響いていた。
「うるせぇなー。騒ぎが収まったらって言ってんだろ」
光毅は、耳を押さえた手を離しながら答えた。
「収まってんじゃねーか、とっくに!」
写真の件はそこまで周囲の興味を引くものではなかったらしく、土日を挟んだら一気に収束していった。
「いや、だって、また何かやらかしちゃったら困るし…」
「やらかすぐらいの勢いでいけよ!」
「それで嫌われたらどうすんだよ!」
「知るかっ!」
「それだけは絶対嫌なんだって!」
圭佑は大きなため息をついた。
「『僕、碧乃ちゃんに嫌われたら生きていけなーい』ってか?」
「気安く名前を呼ぶな」
「あー、はいはい。…でも、早くしないと本当にやばいかもなぁ」
「…なんでだ?」
光毅は怪訝な表情を見せた。
「今回の騒ぎで、斉川碧乃の存在が全校生徒に知れ渡ったんだ。1人くらいお前みたいに興味を持つ奴が現れてもおかしくない」
「!!そ、れは…」
圭佑の言葉に目を見開き、動揺を露わにした。
「いや、1人じゃ済まないか」
「えっ!」
「あいつ、真っ直ぐ人の目を見て話すだろ?あれをやられると大抵の男は勘違いするもんだ」
「う…」
「なのに本人には全く自覚がなく無防備なもんだから、こちらとしてはつい手を出したくなっちゃう訳よ」
「…お前、自分を正当化しようとしてないか?」
「んー?まぁ、否定はしないねぇ」
圭佑はニヤリと笑った。
「要するにあいつは今、お前が猛獣の中に放り込んだ餌って事だ。食われんのも時間の問題だなぁ?」
「なっ!?あ、あの写真は俺のせいじゃ…!」
「お前が中途半端に堂々とするから悪いんだろっ!」
「うっ!…」
「どうせなら学校中に知らしめるくらいの事をやらかせよ!」
「いや、でも…」
「でもじゃないっ!!」
§
同じ頃。碧乃はベッドに寝転がり、手に持ったあの栞をぼんやり眺めていた。
今日も図書館で本を借り、部屋にこもってじっくり読もうと思っていたのだが、どうにも集中できず今に至っていた。頭の中を苛立つものが占領して、文章が入り込む隙間を与えてくれないのだ。
写真の拡散による碧乃への注目は、そこまで危険度は増さなかった。小坂を慕う女子達から何かしらの攻撃でも受けるかと覚悟はしていたが、結局何もなかった。地味な見た目ゆえに、彼女らの努力をおびやかす存在とは思われなかったらしい。加えて、碧乃を問い詰めた所で大した話が聞ける訳でもないので、生徒達は早々に飽きていった。結論として、雨の中を歩く碧乃を可哀想に思った小坂が、手を引いて駅まで連れていったという事になったらしい。彼の優しいというイメージが増幅されただけで、この件は終了した。
碧乃の周囲は、再び平和な日常を取り戻した。…のだが。
どうも騒ぎの発端となった小坂が、未だこちらに負い目を感じているようなのだ。
何度も視線は向けてくるくせに、席替えの日以来全く話しかけてこようとしない。後ろにいる山内から『お前から話しかけろ』だの『癒やしてやれ』だの言われたが、こちらから話しかける事はしたくないので、そのまま放っておいた。そうしたら、1週間もその状態のまま過ごす事になってしまった。
もうこれ以上続くのは、さすがに限界だった。
終わった事をいつまでも気にしていたくはないのだ。からかうのでも何でも良いから、いい加減話しかければ良いのに。大胆なくせに変な所で考え込むとは、彼はかなり面倒くさい性格をしているようだ。
…やっぱり、こっちから話すしかないか。
しかし、何をどう話せば良いのだろうか。『写真の事は気にするな』だなんて直接的に言ったら、かえって逆効果だ。
一体どうすれば……?
ふと、栞を見ていて気が付いた。
碧乃は壁にかかるカレンダーに目を向ける。
確か次の期末試験は12月の第2週。今から4週間後。という事はあと2週間で試験勉強の期間に突入する。寝てばかりいる彼は、放っておいたらまた赤点を取るに違いない。それでまた無理に助けを求められたら、たまったもんじゃない。
ならばそうならないよう、こちらから先手を打つべきではないだろうか。今から少しずつでも勉強させる事ができれば、前回とは違い、彼も自分も余裕を持って試験に臨めるはずだ。
再び栞に目を戻す。
この間は午後3時には部活が終わっていた。集団から逃れて1人になりたいであろう今なら、明日のその時間、もしかしたらあの店にいるかも知れない。
「……」
…たまには、立場を逆転させてみようか。
碧乃は栞を見据え、かすかに黒い微笑を浮かべた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる