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彼の家 前編
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駅のホームにて電車を待つ光毅は、心なしか緊張していた。横に立つ部活仲間との会話も、どこか上の空で返していた。
今日、彼女が家に来る。
練習に集中している時は無心でいられたから良かったのだが、今はもう頭の中はその事でいっぱいになっていた。嬉しいやら恥ずかしいやら、もうごちゃごちゃとよく分からない。
もう、待っててくれてるのかな…?
光毅の心拍数は上昇していく一方だった。
ホームに電車が到着し、友人らと共に乗り込んだ。
「んじゃ、お疲れー」
「あ、ああ、お疲れ。明日な」
一緒に乗っていた友人の最後の1人が降りていった。光毅が降りる駅までは、あと2駅あった。
あと2駅で斉川に会える。
あー…なんか更に緊張してきた…。
扉の側に立ち、心が落ち着かないままに窓の外を眺めていた。
その時、トントンと誰かに肩を叩かれた。
「?」
振り向くと、何かが頬にむにっと刺さった。
それが何かを認識した途端、頭が思考停止に陥った。
自分の後ろに立った斉川が、人差し指を頬に向かって突き出していた。
目が合うと、彼女は笑ってその手を下ろした。
「ふふっ、練習お疲れ様。こんな古い手にも引っかかるんだねぇ」
「!!」
その言葉に、光毅の顔はみるみる赤みを帯びた。
ま、またやられた……。
「このくらいの時間に乗るのかなぁと思って乗ってみたら、当たりだった」
「えっ、じ、じゃあ…」
ずっと同じ電車に乗ってたって事か…。
「降りてから声かけようと思ってたんだけど、一緒にいた人達が降りてくの見えたから、もう大丈夫かと思って来てみた」
「だ、だからって…おどかさなくてもいいだろ」
光毅は刺された頬を触った。
「昨日変な話をさせるからだよ」
斉川は眉根を寄せた。
「え、べ、別に変な話じゃ…」
「お願いだから、絶対言わないでね?」
「うっ…」
不安気にこちらを見つめるその顔は、ものすごく可愛かった。
「わ、分かった…」
やっぱり…ずっと一緒にいたら心臓もたないかも…。
「あ、降りるのここだよね?」
「え?あ…」
斉川に言われ外を見ると、電車が駅に到着した所だった。
扉が開くと、2人は電車を降りた。
§
「ああ、そういえば」
駅を出て歩き出した辺りで、碧乃は持っていた箱を持ち上げ小坂に見せた。
「シュークリーム買ったんだけど、おうちの人甘い物好き?」
「え?あ、うん。うち皆好きだよ。ってか、そういうの気にしなくて良いのに、呼んだのこっちなんだから」
「そんな訳にいかないでしょ。それに買っていけって親にお金渡されたし」
「ああ、そうなの?」
碧乃は頷くと、持ち上げた手を下ろした。
「最初ケーキにしようかと思ったんだけど、何が良いか全然分かんなくてこれにした」
「別に何でも良いのに」
「私じゃ、どれも同じに見える」
「あ…そう」
小坂は苦笑いを浮かべた。
道の途中、小坂は美容室の前で軽く立ち止まり、店員数名に会釈をした。
「?」
碧乃も足を止め、店内を見た。
「…ああ、ここ圭佑ん家」
不思議そうな視線に気付いた小坂が、指を差して教えてくれた。
「え?あ、そうなんだ」
すると碧乃の存在に気付いた店員の1人が、片付けの手を止めて外に出てきた。
「お疲れ。光毅、今部活帰り?」
小坂に話しかけたその男性は、明るい色のくしゃっとしたパーマがかかる、柔らかい雰囲気の人だった。歳は20代前半という所だろうか。
「あ、ああ。そうだけど」
「こちらは?」
ふわっとした笑顔が碧乃に向けられた。
「え?ああ…」
「もしかして…斉川碧乃ちゃん?」
「え?」
碧乃は軽く目を見開いた。
なんで名前…?
「光毅に勉強教えてるっていうのを圭佑からちょっと聞いてて、そうなのかなと思って。…違った?」
「あ、そ、そうです…」
「ああ、やっぱりそうか。初めまして。圭佑の兄の瑛です。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします…」
お兄さんだったんだ…。何か全然似てないな。
「綺麗な黒髪。今時珍しいね。もしかして一度も染めた事ないの?」
そう言いながら、山内瑛は碧乃の髪に手を伸ばしてきた。
「!」
慌てて身を引き、彼の手から逃れた。
や、やっぱり似てたっ!
そのままわずかに小坂の後ろに隠れる。
「あらら、逃げられちゃった」
「兄弟そろってその癖やめろ」
苛立つ小坂が、未だふわふわ笑うその顔を睨みつけた。
「可愛い子に触りたくなるのは当然の事でしょ?特に髪の綺麗な子には。ね?光毅」
「俺に同意を求めるな」
「そういえば光毅、だいぶ髪伸びたねぇ。次いつ切ろうか?」
「あ?あー…、じゃあ来週ぐらい」
「分かった。ああ、今度碧乃ちゃんも切ってあげようか?」
急に話を振られ、碧乃はビクッと反応した。
「え!」
「あんたに任すとろくな事ないからだめ」
「え~?これでも腕は確かだと思うんだけど」
「そこじゃねぇよ。ってか、仕事放ったらかしで良いのか?」
「今の時間は予約入ってないから大丈夫。それより、今日はなんで碧乃ちゃん連れてきたの?」
「母さんが、勉強のお礼に夕飯ご馳走するから呼べって」
「なんだ、光毅が呼んだんじゃないのか」
「なんだ、って何だよ?」
「別に~?」
「……」
瑛の意味ありげな笑顔を、小坂は渋い顔で受けた。
「碧乃ちゃん気を付けてね。この人いろいろ危険だから」
瑛が再び碧乃に笑いかけた。
「え、き、きけ…?」
「何バカ言ってんだ!危険なのはそっちだろ!さっきから馴れ馴れしくしやがって」
怒りがピークに達した小坂は、碧乃の手を取って歩き出した。
「え…」
「これ以上話してらんない」
「光毅って、僕らよりたち悪いよね~」
「あ?何がだ?」
ズカズカ歩みを進めながら、瑛を睨んだ。
「なんでもなーい」
小坂に引っ張られながら後ろを振り向くと、ため息をつく呆れ顔が見えた。
十字路を曲がった所で歩くスピードが緩んだので、碧乃は小坂に話しかけた。
「…ねぇ、いつまでこのまま?」
「え?何が?」
「手」
「手?あっ!」
小坂は繋いだままの手を慌てて離した。
「ご、ごめん…」
碧乃はため息をついた。
全く…。
無意識にも程がある。本人が気付いていない行動をこちらが回避するなんて不可能だというのに。
本当、たちが悪い。
まぁ、謝れるくらいには学習したみたいだけど。
「あ、あそこ。あれが俺ん家」
ばつの悪さを隠すように、小坂は一軒の家を指差した。
白黒の外壁にモダンなデザインのおしゃれな家だった。
誰かの家にお邪魔するのは小学校以来なので、なんだか緊張する。
玄関に到着すると、小坂は扉を開けた。
「ただいまー。連れてきたよー」
碧乃を先に入らせ、後ろ手に扉を閉めた。
はーいという声と共に廊下の一番手前の扉が開き、母親らしき人が出てきた。
やはり小坂の母親というだけあってとても整った顔立ちをしており、碧乃の母親と同年代とは思えない程若く見えた。ゆるくウェーブがかかる長い髪とフレアスカートが揺れる、とてもかわいらしい人だった。
「いらっしゃーい。あなたが碧乃ちゃんね。初めまして、光毅の母の恭子です。恭子って呼んでね」
「え、きょ…?」
呼び方に戸惑っていると、小坂が耳打ちをしてきた。
「おばさんって呼ばれたくないから、友達みんなに名前で呼ばせてんの」
「ああ…」
そういう事か。
「そこ、余計な事言わなくて良いの。さ、上がって上がって」
「あ、はい。お邪魔します…」
碧乃は先程の扉からリビングへ通され、小坂は着替えてくると言って2階へ上がっていった。
リビングは、入って向こう側にアイランドキッチンが見え、とても広々としていた。
「あの、これ、良かったら…」
通されてすぐ、持っていたシュークリームの箱を恭子へと差し出した。
「あらー、なんだか気を使わせちゃったみたいでごめんなさいね」
「いえ。シュークリームなんですが、お好きですか?」
「大好きよ!甘い物ならなーんでも」
嬉しそうに笑う顔が小坂ととてもそっくりで、思わず笑ってしまった。
「ふふっ、良かったです。私の分は買ってないので、皆さんだけでどうぞ」
「あら、そうなの?悪いわねぇ。そういえば甘い物苦手って言ってたわね」
「あ、はい、そうです」
「そうそうそれでね!碧乃ちゃんにはハーブティーを淹れてあげようと思って用意してたのよ!」
恭子は、なぜか急に意気込んで話し出した。
「は、ハーブティーですか?」
「そうなの!今お出しするわね!ちょっとそこに座って待っててくれる?」
「はい…ありがとうございます」
興奮気味の恭子に気圧されつつ、キッチンの前にあったダイニングテーブルについた。
どんなハーブティーなんだろ…?
そこへ着替えを終えた小坂がやってきて、碧乃の隣に座った。
久々に見た私服姿は、白Tシャツに紺のパーカーを羽織り、黒のカーゴパンツを履いていた。くだけた格好でもおしゃれに見えてしまうのは、やはり顔の良さゆえだろう。
ちなみに碧乃は白Yシャツにグレーのセーター、その下にジーンズといういつも通りの地味な格好だ。他の子だったら人生で一番と言える程気合いを入れていただろうに、碧乃にはそんな気は一切起きなかった。人様の家に呼ばれるのだから緩すぎない格好が良いだろうとYシャツを選択しただけで、『気合い』なんて概念すら頭になかった。
「何、もうハーブティー淹れてんの?」
「あ、うん。そうみたい」
「俺、普通の紅茶が良いー。それもう飽きた」
小坂はうんざりした顔でテーブルに頬杖をつき、キッチンの向こうにいる恭子に話しかけた。
「分かってます!あなたにはもう飲ませません!」
「あっそ。そりゃ良かった」
プリプリ怒る恭子に、ニヤッと笑ってみせた。
「……」
そういえば、最近あまりこの顔見なくなったな。…これも良い傾向なんだろうか?
「ん?何?」
「ううん、何でもない」
彼の顔をじっと見ていたら、不思議がられてしまった。とりあえず質問をしておくか。
「飽きた、ってそんなに飲んだの?」
「え?うん。だっていっぱい作ったからって毎日出してくんだもん」
「?作った?」
「そうなのー!実はうちの庭でとれたハーブを使って私が作ったのよ」
「へぇー、そうなんですか」
「今年はいい出来なのよー」
「だからって毎日出さなくていいだろ」
「だってそうしないと、おいしいうちに飲み切れないんだもの」
「毎回毎回作り過ぎなんだよ。少しは学習しろよな」
「分かってるわよ!」
息子とのやりとりをしつつもハーブティーを淹れ終わり、恭子はテーブルにカップを置いた。花柄の可愛らしいティーカップだった。
「さぁ、どうぞ。はい、光毅には紅茶!」
「どうも」
「お口に合うと良いのだけど」
「あ、い、いただきます…」
向かい側に座った恭子の期待の目を受けながら、碧乃は一口飲んだ。
爽やかさと甘さの混じる香りがふわっと鼻を抜け、ほんのりとした苦味もすーっと消えていった。
「…すごい」
「どうかしら?」
「おいしいです。初めて飲みました」
「本当?良かったー」
「ハーブティーって香りがきつかったりしてちょっと苦手だったんですけど、これ普通に飲めたのでびっくりしました。落ち着く感じがして、むしろ好きです」
「嬉しいわー、喜んでくれて。そうなのよね。実は私も強い香りが苦手でね、売ってるものだとおいしいと思えないのよ。だから自分で作る事にしちゃったの」
「そうなんだ。すごいですね」
もう一口飲んで、幸せそうな恭子と微笑み合った。
「……へぇー、中野さんのコーヒー以外でもその顔するんだ」
「え!」
し、しまった…!
恐る恐る隣に目を向けると、小坂が驚いた様子でこちらを見ていた。
「……」
なんで、いちいち突っ込むかな。
顔をしかめる碧乃から視線を外し、彼は紅茶を一口飲んだ。
「今度探してみよー」
「……」
何をだ……。
「碧乃ちゃん、良かったらそのハーブティーお家に持っていかない?」
「え、良いんですか?」
恭子に話しかけられ、碧乃はそちらを向いた。
「もちろん!うちだと全然減らなくなっちゃって、ちょっと困ってた所なのよ。誰かさんが飲んでくれないから」
「だって飽きた」
「分かったから、飽きた飽きた言わないで!…だからもらってくれると嬉しいわ」
「あ、じゃあいただきます。きっと父も気に入ると思うので」
「ん?なんで父親?」
小坂が首を傾げた。
「私と味覚一緒だから」
「ああ、そうなんだ」
「じゃあ、帰る時にお渡しするわね」
「はい、ありがとうございます」
恭子はそこで一度話を切り、ハーブティーを一口飲んだ。
「…それにしても」
碧乃に優しい笑みを向けた。
「期待以上に素晴らしいお嬢さんだったわ」
「え…?」
「光毅がこうやって人前で素を見せてるの、初めてよ。この子、昔からとてもイメージを持たれやすいタイプでね、相手を傷つけまいとしてそのイメージを壊さないように振る舞う癖がついちゃったの。でも、碧乃ちゃんの前では本来の姿に戻ってる。…あなたには気を許しているのね」
「そ…そうなんですか…?」
驚いて隣を見ると、彼は恥ずかしさを隠すためか、あらぬ方を見やっていた。
いつもこうなのかと思ってた…。
「この様子だと、結構わがまま言ったりもしてるんじゃない?」
ギクッと反応して、小坂は目を泳がせた。
その様子に、恭子はため息をついた。
「やっぱり…。勉強教えてもらってる上に、わがまままで聞いてもらって…迷惑かけっぱなしで本当ごめんなさいね」
「え、い、いえ…」
「もし何かあったら、すぐに言ってちょうだいね?みっちり叱っておくから」
「え!?」
小坂は目を見開いて恭子を見た。
「何よ」
「いえ…何でもないです…」
恭子の目力に押され、隣の彼は小さくなってしまった。さすが母親だ。
「碧乃ちゃんのおかげで勉強もしてくれるようになったし、本当に感謝しているわ。ありがとう」
「いえ、そんな」
「とても迷惑だろうけど、もう少しだけこの子に付き合ってあげてくれるかしら?」
「え?…」
隣で縮こまっている姿を見たら、何だか可笑しさが込み上げてきた。
「ふふっ、はい。分かりました。……迷惑かけても大丈夫ですよ。ちゃーんと仕返ししますから」
そう言いながら、小坂に首を傾げて黒い笑顔を見せた。
「いっ!?」
碧乃と目を合わせてしまった小坂は、硬直したままみるみる赤くなっていった。
「まぁ。それは頼もしいわ」
恭子も意地悪な笑みを浮かべた。
夕食の仕度が終わるまで上にいてと言われ、碧乃は小坂に連れられて彼の部屋に向かった。
扉を開けた小坂に促され部屋に入ると、碧乃の目にベッドの上の大きなポスターが飛び込んできた。どこかのバスケの選手のようだ。
ベッドの脇にはバスケの雑誌が積み上がり、本棚にはバスケを題材にした漫画が並んでいた。部屋の隅には、サイン入りのバスケットボールまで転がっていた。
まさにバスケ一色だった。
「なんか…すごい部屋だね」
入ってすぐの所で立ち尽くし、驚くままに感想を述べた。
「え、そ、そうかな…?」
扉を閉め、後ろに立つ小坂は頭をかいた。
「あの人が好きなの?」
碧乃はポスターの選手を指差した。
「あ、うん。憧れっていうか、尊敬してる人だよ」
「そんなにすごい人なの?」
「うん、すごいよ。かなり」
小坂は碧乃の横をすり抜け、ポスターの前に立った。
「この人、バスケ始めてから一度も練習休んだ事ないんだ。毎日毎日同じメニューこなして、どんなに辛い時でも絶対それを変えようとしない。そうして、自分が欲してる地位を確実に手に入れていってる。…それ知った時、『努力は報われる』って言葉は本当なんだって思ったよ」
ポスターを見つめるその目には、強い想いが宿っていた。
「だから俺もこの人見習って毎日頑張ってみてるんだけど、やっぱりどうも大変でさ。途中で何度も挫折しかけて、その度にこれ見て自分を戒めてる」
「そうなんだ…」
毎日の練習にそこまでの想いを抱いていたなんて、知らなかった。
「俺は、斉川みたいに強くないからさ」
「え…?」
私が…強い……?
小坂は優しい笑みで碧乃を見つめた。
「夢を叶えようって思ってそれを実行に移すなんて、普通は怖くてできないよ。夢はあっても、それを追う程の勇気は俺にはない。…だから、それができる斉川はすごい」
「……」
「昨日、見てても良い?って訊いたのは、そうしていれば斉川から勇気を分けてもらえるかもって思ったからなんだ」
小坂はニカッと笑った。
純粋なそれは、とても眩しいものだった。
……私なんかに、そんな良い顔見せちゃいけない。
「んー…」
碧乃は目線をそらし、渋い顔で頭に手をやった。
「…残念ながら、それは無理かな」
「え!」
どうして、と不安気な顔をされてしまい、その視線が痛く感じた。
「だって…私は強くないんだもん…。勇気だって、これっぽっちも持ってない」
「え、そんなこと…」
「あるの。現に私は、見てるって言ったその目を利用しようとしたんだから」
「り、利用?」
目を見開く彼に、こくっと頷いて返した。
「私に監視の目を向けていてもらおうと思ったの。次は逃げ出さないように」
「次…?」
…こうなったら、全て話してしまおう。
「実は…高校受験の時ね、今の高校よりもっとレベルの高い所に行ったらどうかって言われてたの。私も夢を叶えるためにはその方が良いと思って、最初はそこを目指して勉強してた。…でも、ものすごく辛かった。辛くて…そこまでしなくても良いんじゃないかって、思っちゃった」
「……」
「だから…家から通える所が良い、家族と一緒にいられる方が良いって言って……家族を利用して、進路を変更しちゃったの。ずるい手を使って、楽な方へ逃げた」
碧乃は、苦く微笑んで彼を見た。
「私は強いんじゃない…ずるいんだよ。誰かが監視してないと、きっとまた逃げ出す。次逃げたら、多分もう夢なんて叶わない。…私が夢の話をしたがらないのは、叶わなかった時の逃げ道を確保しておくためっていうのもあると思う」
「……」
「でも…その逃げ道もなくなっちゃったね」
こうして、あなたに話してしまったから。
「え…」
「こうなったら、私からもお願いするよ。もう逃げ出したりしないように、その目で私を監視してて。もし逃げたら、思い切り蔑んで見放してくれていいから」
そうすれば、やらなければいけない状況に自分を追い込む事ができるから。
言い終えると、2拍ほど間を置いて目の前の彼はクスッと笑った。
「…分かった。斉川の事、ちゃんと監視しておくよ」
「そう、分かった」
「でも、蔑んで見放したりなんかしないよ?」
「え?」
「もし逃げそうになったら…」
小坂は碧乃の手を取って持ち上げた。
「こうやって捕まえておいてあげるから」
「っ!?」
目の前に、今までで一番の意地悪な顔が浮かんでいた。
なっ、なんで今その顔にっ?!
一瞬にして、碧乃の顔から血の気が引いた。
「いっ、いいよ、見てるだけで!」
「だって逃げ道塞いじゃったの俺だろ?ちゃんと責任取らないと」
「取らなくていい!そんなとこに責任なんか感じなくていいから!」
「手も貸さずに見てるだけなんて、できる訳ないだろ」
「じっ、じゃあやっぱり見なくていい!自分で何とかする!」
「何言ってんの。知っちゃった以上、放っておけないよ。そんな事したら罪悪感で押し潰されちゃう」
「じゃあもう忘れて!」
「無理」
あーーーーーーもう!!なんで言っちゃったんだ、私のバカ!!
「つーか、いつまで立ってんの?疲れるから座ろうよ」
「わっ!?」
掴んだままの手を引っ張り、ベッドに横並びに座らせた。
だからいちいち近いって!ってか、なぜベッドの上?
碧乃の顔が、青から赤へと転換した。
「し、下でいいよ」
「こっちの方が座りやすいよ。下、カーペット敷いてるけど結構冷たいし」
「ああ、そう。って、これもう離して」
繋がれたままの手を示した。
「え、なんで?ここなら別に誰も写真撮らないよ?」
「はぁ?!」
懲りたんじゃなかったの?!
「そういう問題じゃない!嫌だから離して!」
「やだ」
「なんで?!」
「斉川手冷たい。温まるまでこのまま」
「温めなくていいから!!」
引っ張っても全然抜けず反対の手で引き剥がそうとしたら、そっちまで取られてしまった。
「こっちも冷たい」
「なっ!?」
「え、大丈夫?部屋ちゃんと温めたんだけど、まだ寒い?」
「さ、寒くない、大丈夫」
碧乃は全力で首を振った。
「本当に?」
「ほ、本当だって。いつもこうだから気にしないで」
「だって室内だよ?」
「大丈夫だってば!離して、これじゃ動けない」
「話するだけなら、動かなくていいだろ」
「くっ…」
この、無自覚わがまま王子が!!
完全に元の状態に戻ってる。せっかく大人しくなったと思ったのに。
本当、言うんじゃなかった…。二度と弱みを見せるか!!
§
斉川の手はまだ冷たい。もう少しこのままにしておかないと。
これまでは外にいたから冷たいのかと思っていたけど、違ったみたいだ。家に入ってだいぶ経つのに、全然変わってない。いつもと言ったから、多分冷え性なのだろう。
冬は大変なんだろうな。
しかしそこに嬉しさを感じてしまった自分がいた。なぜなら、手を繋ぐ口実を見つけてしまったのだから。
実は手を温めるというのは、半分本当で半分嘘。動揺してる姿がたまらなく可愛くて、離したくなくなってしまったのだ。ここなら誰も邪魔しないし。
…けど。
繋いだ後で気付いたが、この状況、さすがにちょっとやばいかも。
すぐ近くにある彼女の顔は、嫌そうに歪みつつ真っ赤になっていた。
光毅の中に疼くものが、その表情に反応し始める。
…もっと、困らせてみたい。
しかし純粋な気持ちがそれを抑制する。
…でも、嫌われたくない。
相反する2つの感情が、心の中でせめぎ合う。
と、俯き気味だった彼女が顔を上げた。
「…なに?」
「っ!?」
おかしな視線に気付いた斉川が、射殺す程の鋭さで光毅を睨んだ。疼くものが、音を立てて一気にしぼんでいく。
怖いっ!!怖すぎる!!これ以上やったら絶対嫌われる!!
一瞬にして凍りついた体を何とか動かし、彼女を解放して両手を上げた。
「ご…ごめん……やりすぎました」
斉川はその様子を確認すると、緩慢に視線を外し腕を組んだ。そしてため息をつき、眉根を寄せたまま短く返した。
「…ん」
そのままそっぽを向いてしまった彼女に、今までにない焦りを感じた。
やばい、どうしよう…怒らせちゃった……。
光毅の顔からは、サーッと血の気が引いていった。
「あ、あの…ごめん。お…怒ったよね…?」
「…怒ってない」
「え、う、嘘…だってこっち見てくれない…」
斉川はゆっくりこちらを向き、煩わしそうに自分を見た。
「怒ってない」
怒ってるよ……。
再び視線をそらされ、胸が苦しくなった。
光毅の顔が嫌われる事への恐怖で歪む。
「ごめん。本当ごめん。もうしない」
「分かったから、もういいよ」
斉川は未だそっぽを向いたまま。
全然よくないじゃんか…。
「ごめん……もうしないから………」
お願い、嫌いにならないで…。
光毅は、今にも泣き出しそうな顔で俯いた。
「…………」
「…………」
2人の間に長めの沈黙が流れる。
すると、少々深めのため息がその静けさを破った。
「…いつまでそのままでいる気?」
「……え…?」
恐る恐る顔を上げると、斉川が呆れたようにこちらを見ていた。さっきとはうって変わって、表情が和らいでいる。
「…も、もう……怒ってないの?」
おずおずと訊くと、彼女は可笑しそうにクスッと笑った。
「怒ってない。呆れてるんだよ」
「え…」
「全然学習しないんだね」
「うっ…」
刺さる言葉に、思わず目が泳ぐ。
「そんなに落ち込むなら、最初からしなきゃいいのに」
「うぅ…だ、だって…」
可愛かったから。
「…まぁでも、これで1つ借りができたねぇ」
「え?」
「次やったら、合わせて返してあげるよ」
うっそりと笑うその目には、無垢な黒さが宿っていた。
「っ!?」
光毅の体を戦慄が走る。
やばい!!またあんな事されたら俺死んじゃう!!
「やっ、やだ!やだやだ、あれ心臓に悪いからやめて!」
「嫌なら次をやらなきゃいいんだよ」
「やらない!もう絶対やらない!」
「ふふっ、どうかな?」
「やらないって!」
「ふーん、まぁ、あまり期待しないでおくよ」
「期待してよ!」
「無理だね」
「うぅ…」
もうおかしな事は絶対しない!!
今日、彼女が家に来る。
練習に集中している時は無心でいられたから良かったのだが、今はもう頭の中はその事でいっぱいになっていた。嬉しいやら恥ずかしいやら、もうごちゃごちゃとよく分からない。
もう、待っててくれてるのかな…?
光毅の心拍数は上昇していく一方だった。
ホームに電車が到着し、友人らと共に乗り込んだ。
「んじゃ、お疲れー」
「あ、ああ、お疲れ。明日な」
一緒に乗っていた友人の最後の1人が降りていった。光毅が降りる駅までは、あと2駅あった。
あと2駅で斉川に会える。
あー…なんか更に緊張してきた…。
扉の側に立ち、心が落ち着かないままに窓の外を眺めていた。
その時、トントンと誰かに肩を叩かれた。
「?」
振り向くと、何かが頬にむにっと刺さった。
それが何かを認識した途端、頭が思考停止に陥った。
自分の後ろに立った斉川が、人差し指を頬に向かって突き出していた。
目が合うと、彼女は笑ってその手を下ろした。
「ふふっ、練習お疲れ様。こんな古い手にも引っかかるんだねぇ」
「!!」
その言葉に、光毅の顔はみるみる赤みを帯びた。
ま、またやられた……。
「このくらいの時間に乗るのかなぁと思って乗ってみたら、当たりだった」
「えっ、じ、じゃあ…」
ずっと同じ電車に乗ってたって事か…。
「降りてから声かけようと思ってたんだけど、一緒にいた人達が降りてくの見えたから、もう大丈夫かと思って来てみた」
「だ、だからって…おどかさなくてもいいだろ」
光毅は刺された頬を触った。
「昨日変な話をさせるからだよ」
斉川は眉根を寄せた。
「え、べ、別に変な話じゃ…」
「お願いだから、絶対言わないでね?」
「うっ…」
不安気にこちらを見つめるその顔は、ものすごく可愛かった。
「わ、分かった…」
やっぱり…ずっと一緒にいたら心臓もたないかも…。
「あ、降りるのここだよね?」
「え?あ…」
斉川に言われ外を見ると、電車が駅に到着した所だった。
扉が開くと、2人は電車を降りた。
§
「ああ、そういえば」
駅を出て歩き出した辺りで、碧乃は持っていた箱を持ち上げ小坂に見せた。
「シュークリーム買ったんだけど、おうちの人甘い物好き?」
「え?あ、うん。うち皆好きだよ。ってか、そういうの気にしなくて良いのに、呼んだのこっちなんだから」
「そんな訳にいかないでしょ。それに買っていけって親にお金渡されたし」
「ああ、そうなの?」
碧乃は頷くと、持ち上げた手を下ろした。
「最初ケーキにしようかと思ったんだけど、何が良いか全然分かんなくてこれにした」
「別に何でも良いのに」
「私じゃ、どれも同じに見える」
「あ…そう」
小坂は苦笑いを浮かべた。
道の途中、小坂は美容室の前で軽く立ち止まり、店員数名に会釈をした。
「?」
碧乃も足を止め、店内を見た。
「…ああ、ここ圭佑ん家」
不思議そうな視線に気付いた小坂が、指を差して教えてくれた。
「え?あ、そうなんだ」
すると碧乃の存在に気付いた店員の1人が、片付けの手を止めて外に出てきた。
「お疲れ。光毅、今部活帰り?」
小坂に話しかけたその男性は、明るい色のくしゃっとしたパーマがかかる、柔らかい雰囲気の人だった。歳は20代前半という所だろうか。
「あ、ああ。そうだけど」
「こちらは?」
ふわっとした笑顔が碧乃に向けられた。
「え?ああ…」
「もしかして…斉川碧乃ちゃん?」
「え?」
碧乃は軽く目を見開いた。
なんで名前…?
「光毅に勉強教えてるっていうのを圭佑からちょっと聞いてて、そうなのかなと思って。…違った?」
「あ、そ、そうです…」
「ああ、やっぱりそうか。初めまして。圭佑の兄の瑛です。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします…」
お兄さんだったんだ…。何か全然似てないな。
「綺麗な黒髪。今時珍しいね。もしかして一度も染めた事ないの?」
そう言いながら、山内瑛は碧乃の髪に手を伸ばしてきた。
「!」
慌てて身を引き、彼の手から逃れた。
や、やっぱり似てたっ!
そのままわずかに小坂の後ろに隠れる。
「あらら、逃げられちゃった」
「兄弟そろってその癖やめろ」
苛立つ小坂が、未だふわふわ笑うその顔を睨みつけた。
「可愛い子に触りたくなるのは当然の事でしょ?特に髪の綺麗な子には。ね?光毅」
「俺に同意を求めるな」
「そういえば光毅、だいぶ髪伸びたねぇ。次いつ切ろうか?」
「あ?あー…、じゃあ来週ぐらい」
「分かった。ああ、今度碧乃ちゃんも切ってあげようか?」
急に話を振られ、碧乃はビクッと反応した。
「え!」
「あんたに任すとろくな事ないからだめ」
「え~?これでも腕は確かだと思うんだけど」
「そこじゃねぇよ。ってか、仕事放ったらかしで良いのか?」
「今の時間は予約入ってないから大丈夫。それより、今日はなんで碧乃ちゃん連れてきたの?」
「母さんが、勉強のお礼に夕飯ご馳走するから呼べって」
「なんだ、光毅が呼んだんじゃないのか」
「なんだ、って何だよ?」
「別に~?」
「……」
瑛の意味ありげな笑顔を、小坂は渋い顔で受けた。
「碧乃ちゃん気を付けてね。この人いろいろ危険だから」
瑛が再び碧乃に笑いかけた。
「え、き、きけ…?」
「何バカ言ってんだ!危険なのはそっちだろ!さっきから馴れ馴れしくしやがって」
怒りがピークに達した小坂は、碧乃の手を取って歩き出した。
「え…」
「これ以上話してらんない」
「光毅って、僕らよりたち悪いよね~」
「あ?何がだ?」
ズカズカ歩みを進めながら、瑛を睨んだ。
「なんでもなーい」
小坂に引っ張られながら後ろを振り向くと、ため息をつく呆れ顔が見えた。
十字路を曲がった所で歩くスピードが緩んだので、碧乃は小坂に話しかけた。
「…ねぇ、いつまでこのまま?」
「え?何が?」
「手」
「手?あっ!」
小坂は繋いだままの手を慌てて離した。
「ご、ごめん…」
碧乃はため息をついた。
全く…。
無意識にも程がある。本人が気付いていない行動をこちらが回避するなんて不可能だというのに。
本当、たちが悪い。
まぁ、謝れるくらいには学習したみたいだけど。
「あ、あそこ。あれが俺ん家」
ばつの悪さを隠すように、小坂は一軒の家を指差した。
白黒の外壁にモダンなデザインのおしゃれな家だった。
誰かの家にお邪魔するのは小学校以来なので、なんだか緊張する。
玄関に到着すると、小坂は扉を開けた。
「ただいまー。連れてきたよー」
碧乃を先に入らせ、後ろ手に扉を閉めた。
はーいという声と共に廊下の一番手前の扉が開き、母親らしき人が出てきた。
やはり小坂の母親というだけあってとても整った顔立ちをしており、碧乃の母親と同年代とは思えない程若く見えた。ゆるくウェーブがかかる長い髪とフレアスカートが揺れる、とてもかわいらしい人だった。
「いらっしゃーい。あなたが碧乃ちゃんね。初めまして、光毅の母の恭子です。恭子って呼んでね」
「え、きょ…?」
呼び方に戸惑っていると、小坂が耳打ちをしてきた。
「おばさんって呼ばれたくないから、友達みんなに名前で呼ばせてんの」
「ああ…」
そういう事か。
「そこ、余計な事言わなくて良いの。さ、上がって上がって」
「あ、はい。お邪魔します…」
碧乃は先程の扉からリビングへ通され、小坂は着替えてくると言って2階へ上がっていった。
リビングは、入って向こう側にアイランドキッチンが見え、とても広々としていた。
「あの、これ、良かったら…」
通されてすぐ、持っていたシュークリームの箱を恭子へと差し出した。
「あらー、なんだか気を使わせちゃったみたいでごめんなさいね」
「いえ。シュークリームなんですが、お好きですか?」
「大好きよ!甘い物ならなーんでも」
嬉しそうに笑う顔が小坂ととてもそっくりで、思わず笑ってしまった。
「ふふっ、良かったです。私の分は買ってないので、皆さんだけでどうぞ」
「あら、そうなの?悪いわねぇ。そういえば甘い物苦手って言ってたわね」
「あ、はい、そうです」
「そうそうそれでね!碧乃ちゃんにはハーブティーを淹れてあげようと思って用意してたのよ!」
恭子は、なぜか急に意気込んで話し出した。
「は、ハーブティーですか?」
「そうなの!今お出しするわね!ちょっとそこに座って待っててくれる?」
「はい…ありがとうございます」
興奮気味の恭子に気圧されつつ、キッチンの前にあったダイニングテーブルについた。
どんなハーブティーなんだろ…?
そこへ着替えを終えた小坂がやってきて、碧乃の隣に座った。
久々に見た私服姿は、白Tシャツに紺のパーカーを羽織り、黒のカーゴパンツを履いていた。くだけた格好でもおしゃれに見えてしまうのは、やはり顔の良さゆえだろう。
ちなみに碧乃は白Yシャツにグレーのセーター、その下にジーンズといういつも通りの地味な格好だ。他の子だったら人生で一番と言える程気合いを入れていただろうに、碧乃にはそんな気は一切起きなかった。人様の家に呼ばれるのだから緩すぎない格好が良いだろうとYシャツを選択しただけで、『気合い』なんて概念すら頭になかった。
「何、もうハーブティー淹れてんの?」
「あ、うん。そうみたい」
「俺、普通の紅茶が良いー。それもう飽きた」
小坂はうんざりした顔でテーブルに頬杖をつき、キッチンの向こうにいる恭子に話しかけた。
「分かってます!あなたにはもう飲ませません!」
「あっそ。そりゃ良かった」
プリプリ怒る恭子に、ニヤッと笑ってみせた。
「……」
そういえば、最近あまりこの顔見なくなったな。…これも良い傾向なんだろうか?
「ん?何?」
「ううん、何でもない」
彼の顔をじっと見ていたら、不思議がられてしまった。とりあえず質問をしておくか。
「飽きた、ってそんなに飲んだの?」
「え?うん。だっていっぱい作ったからって毎日出してくんだもん」
「?作った?」
「そうなのー!実はうちの庭でとれたハーブを使って私が作ったのよ」
「へぇー、そうなんですか」
「今年はいい出来なのよー」
「だからって毎日出さなくていいだろ」
「だってそうしないと、おいしいうちに飲み切れないんだもの」
「毎回毎回作り過ぎなんだよ。少しは学習しろよな」
「分かってるわよ!」
息子とのやりとりをしつつもハーブティーを淹れ終わり、恭子はテーブルにカップを置いた。花柄の可愛らしいティーカップだった。
「さぁ、どうぞ。はい、光毅には紅茶!」
「どうも」
「お口に合うと良いのだけど」
「あ、い、いただきます…」
向かい側に座った恭子の期待の目を受けながら、碧乃は一口飲んだ。
爽やかさと甘さの混じる香りがふわっと鼻を抜け、ほんのりとした苦味もすーっと消えていった。
「…すごい」
「どうかしら?」
「おいしいです。初めて飲みました」
「本当?良かったー」
「ハーブティーって香りがきつかったりしてちょっと苦手だったんですけど、これ普通に飲めたのでびっくりしました。落ち着く感じがして、むしろ好きです」
「嬉しいわー、喜んでくれて。そうなのよね。実は私も強い香りが苦手でね、売ってるものだとおいしいと思えないのよ。だから自分で作る事にしちゃったの」
「そうなんだ。すごいですね」
もう一口飲んで、幸せそうな恭子と微笑み合った。
「……へぇー、中野さんのコーヒー以外でもその顔するんだ」
「え!」
し、しまった…!
恐る恐る隣に目を向けると、小坂が驚いた様子でこちらを見ていた。
「……」
なんで、いちいち突っ込むかな。
顔をしかめる碧乃から視線を外し、彼は紅茶を一口飲んだ。
「今度探してみよー」
「……」
何をだ……。
「碧乃ちゃん、良かったらそのハーブティーお家に持っていかない?」
「え、良いんですか?」
恭子に話しかけられ、碧乃はそちらを向いた。
「もちろん!うちだと全然減らなくなっちゃって、ちょっと困ってた所なのよ。誰かさんが飲んでくれないから」
「だって飽きた」
「分かったから、飽きた飽きた言わないで!…だからもらってくれると嬉しいわ」
「あ、じゃあいただきます。きっと父も気に入ると思うので」
「ん?なんで父親?」
小坂が首を傾げた。
「私と味覚一緒だから」
「ああ、そうなんだ」
「じゃあ、帰る時にお渡しするわね」
「はい、ありがとうございます」
恭子はそこで一度話を切り、ハーブティーを一口飲んだ。
「…それにしても」
碧乃に優しい笑みを向けた。
「期待以上に素晴らしいお嬢さんだったわ」
「え…?」
「光毅がこうやって人前で素を見せてるの、初めてよ。この子、昔からとてもイメージを持たれやすいタイプでね、相手を傷つけまいとしてそのイメージを壊さないように振る舞う癖がついちゃったの。でも、碧乃ちゃんの前では本来の姿に戻ってる。…あなたには気を許しているのね」
「そ…そうなんですか…?」
驚いて隣を見ると、彼は恥ずかしさを隠すためか、あらぬ方を見やっていた。
いつもこうなのかと思ってた…。
「この様子だと、結構わがまま言ったりもしてるんじゃない?」
ギクッと反応して、小坂は目を泳がせた。
その様子に、恭子はため息をついた。
「やっぱり…。勉強教えてもらってる上に、わがまままで聞いてもらって…迷惑かけっぱなしで本当ごめんなさいね」
「え、い、いえ…」
「もし何かあったら、すぐに言ってちょうだいね?みっちり叱っておくから」
「え!?」
小坂は目を見開いて恭子を見た。
「何よ」
「いえ…何でもないです…」
恭子の目力に押され、隣の彼は小さくなってしまった。さすが母親だ。
「碧乃ちゃんのおかげで勉強もしてくれるようになったし、本当に感謝しているわ。ありがとう」
「いえ、そんな」
「とても迷惑だろうけど、もう少しだけこの子に付き合ってあげてくれるかしら?」
「え?…」
隣で縮こまっている姿を見たら、何だか可笑しさが込み上げてきた。
「ふふっ、はい。分かりました。……迷惑かけても大丈夫ですよ。ちゃーんと仕返ししますから」
そう言いながら、小坂に首を傾げて黒い笑顔を見せた。
「いっ!?」
碧乃と目を合わせてしまった小坂は、硬直したままみるみる赤くなっていった。
「まぁ。それは頼もしいわ」
恭子も意地悪な笑みを浮かべた。
夕食の仕度が終わるまで上にいてと言われ、碧乃は小坂に連れられて彼の部屋に向かった。
扉を開けた小坂に促され部屋に入ると、碧乃の目にベッドの上の大きなポスターが飛び込んできた。どこかのバスケの選手のようだ。
ベッドの脇にはバスケの雑誌が積み上がり、本棚にはバスケを題材にした漫画が並んでいた。部屋の隅には、サイン入りのバスケットボールまで転がっていた。
まさにバスケ一色だった。
「なんか…すごい部屋だね」
入ってすぐの所で立ち尽くし、驚くままに感想を述べた。
「え、そ、そうかな…?」
扉を閉め、後ろに立つ小坂は頭をかいた。
「あの人が好きなの?」
碧乃はポスターの選手を指差した。
「あ、うん。憧れっていうか、尊敬してる人だよ」
「そんなにすごい人なの?」
「うん、すごいよ。かなり」
小坂は碧乃の横をすり抜け、ポスターの前に立った。
「この人、バスケ始めてから一度も練習休んだ事ないんだ。毎日毎日同じメニューこなして、どんなに辛い時でも絶対それを変えようとしない。そうして、自分が欲してる地位を確実に手に入れていってる。…それ知った時、『努力は報われる』って言葉は本当なんだって思ったよ」
ポスターを見つめるその目には、強い想いが宿っていた。
「だから俺もこの人見習って毎日頑張ってみてるんだけど、やっぱりどうも大変でさ。途中で何度も挫折しかけて、その度にこれ見て自分を戒めてる」
「そうなんだ…」
毎日の練習にそこまでの想いを抱いていたなんて、知らなかった。
「俺は、斉川みたいに強くないからさ」
「え…?」
私が…強い……?
小坂は優しい笑みで碧乃を見つめた。
「夢を叶えようって思ってそれを実行に移すなんて、普通は怖くてできないよ。夢はあっても、それを追う程の勇気は俺にはない。…だから、それができる斉川はすごい」
「……」
「昨日、見てても良い?って訊いたのは、そうしていれば斉川から勇気を分けてもらえるかもって思ったからなんだ」
小坂はニカッと笑った。
純粋なそれは、とても眩しいものだった。
……私なんかに、そんな良い顔見せちゃいけない。
「んー…」
碧乃は目線をそらし、渋い顔で頭に手をやった。
「…残念ながら、それは無理かな」
「え!」
どうして、と不安気な顔をされてしまい、その視線が痛く感じた。
「だって…私は強くないんだもん…。勇気だって、これっぽっちも持ってない」
「え、そんなこと…」
「あるの。現に私は、見てるって言ったその目を利用しようとしたんだから」
「り、利用?」
目を見開く彼に、こくっと頷いて返した。
「私に監視の目を向けていてもらおうと思ったの。次は逃げ出さないように」
「次…?」
…こうなったら、全て話してしまおう。
「実は…高校受験の時ね、今の高校よりもっとレベルの高い所に行ったらどうかって言われてたの。私も夢を叶えるためにはその方が良いと思って、最初はそこを目指して勉強してた。…でも、ものすごく辛かった。辛くて…そこまでしなくても良いんじゃないかって、思っちゃった」
「……」
「だから…家から通える所が良い、家族と一緒にいられる方が良いって言って……家族を利用して、進路を変更しちゃったの。ずるい手を使って、楽な方へ逃げた」
碧乃は、苦く微笑んで彼を見た。
「私は強いんじゃない…ずるいんだよ。誰かが監視してないと、きっとまた逃げ出す。次逃げたら、多分もう夢なんて叶わない。…私が夢の話をしたがらないのは、叶わなかった時の逃げ道を確保しておくためっていうのもあると思う」
「……」
「でも…その逃げ道もなくなっちゃったね」
こうして、あなたに話してしまったから。
「え…」
「こうなったら、私からもお願いするよ。もう逃げ出したりしないように、その目で私を監視してて。もし逃げたら、思い切り蔑んで見放してくれていいから」
そうすれば、やらなければいけない状況に自分を追い込む事ができるから。
言い終えると、2拍ほど間を置いて目の前の彼はクスッと笑った。
「…分かった。斉川の事、ちゃんと監視しておくよ」
「そう、分かった」
「でも、蔑んで見放したりなんかしないよ?」
「え?」
「もし逃げそうになったら…」
小坂は碧乃の手を取って持ち上げた。
「こうやって捕まえておいてあげるから」
「っ!?」
目の前に、今までで一番の意地悪な顔が浮かんでいた。
なっ、なんで今その顔にっ?!
一瞬にして、碧乃の顔から血の気が引いた。
「いっ、いいよ、見てるだけで!」
「だって逃げ道塞いじゃったの俺だろ?ちゃんと責任取らないと」
「取らなくていい!そんなとこに責任なんか感じなくていいから!」
「手も貸さずに見てるだけなんて、できる訳ないだろ」
「じっ、じゃあやっぱり見なくていい!自分で何とかする!」
「何言ってんの。知っちゃった以上、放っておけないよ。そんな事したら罪悪感で押し潰されちゃう」
「じゃあもう忘れて!」
「無理」
あーーーーーーもう!!なんで言っちゃったんだ、私のバカ!!
「つーか、いつまで立ってんの?疲れるから座ろうよ」
「わっ!?」
掴んだままの手を引っ張り、ベッドに横並びに座らせた。
だからいちいち近いって!ってか、なぜベッドの上?
碧乃の顔が、青から赤へと転換した。
「し、下でいいよ」
「こっちの方が座りやすいよ。下、カーペット敷いてるけど結構冷たいし」
「ああ、そう。って、これもう離して」
繋がれたままの手を示した。
「え、なんで?ここなら別に誰も写真撮らないよ?」
「はぁ?!」
懲りたんじゃなかったの?!
「そういう問題じゃない!嫌だから離して!」
「やだ」
「なんで?!」
「斉川手冷たい。温まるまでこのまま」
「温めなくていいから!!」
引っ張っても全然抜けず反対の手で引き剥がそうとしたら、そっちまで取られてしまった。
「こっちも冷たい」
「なっ!?」
「え、大丈夫?部屋ちゃんと温めたんだけど、まだ寒い?」
「さ、寒くない、大丈夫」
碧乃は全力で首を振った。
「本当に?」
「ほ、本当だって。いつもこうだから気にしないで」
「だって室内だよ?」
「大丈夫だってば!離して、これじゃ動けない」
「話するだけなら、動かなくていいだろ」
「くっ…」
この、無自覚わがまま王子が!!
完全に元の状態に戻ってる。せっかく大人しくなったと思ったのに。
本当、言うんじゃなかった…。二度と弱みを見せるか!!
§
斉川の手はまだ冷たい。もう少しこのままにしておかないと。
これまでは外にいたから冷たいのかと思っていたけど、違ったみたいだ。家に入ってだいぶ経つのに、全然変わってない。いつもと言ったから、多分冷え性なのだろう。
冬は大変なんだろうな。
しかしそこに嬉しさを感じてしまった自分がいた。なぜなら、手を繋ぐ口実を見つけてしまったのだから。
実は手を温めるというのは、半分本当で半分嘘。動揺してる姿がたまらなく可愛くて、離したくなくなってしまったのだ。ここなら誰も邪魔しないし。
…けど。
繋いだ後で気付いたが、この状況、さすがにちょっとやばいかも。
すぐ近くにある彼女の顔は、嫌そうに歪みつつ真っ赤になっていた。
光毅の中に疼くものが、その表情に反応し始める。
…もっと、困らせてみたい。
しかし純粋な気持ちがそれを抑制する。
…でも、嫌われたくない。
相反する2つの感情が、心の中でせめぎ合う。
と、俯き気味だった彼女が顔を上げた。
「…なに?」
「っ!?」
おかしな視線に気付いた斉川が、射殺す程の鋭さで光毅を睨んだ。疼くものが、音を立てて一気にしぼんでいく。
怖いっ!!怖すぎる!!これ以上やったら絶対嫌われる!!
一瞬にして凍りついた体を何とか動かし、彼女を解放して両手を上げた。
「ご…ごめん……やりすぎました」
斉川はその様子を確認すると、緩慢に視線を外し腕を組んだ。そしてため息をつき、眉根を寄せたまま短く返した。
「…ん」
そのままそっぽを向いてしまった彼女に、今までにない焦りを感じた。
やばい、どうしよう…怒らせちゃった……。
光毅の顔からは、サーッと血の気が引いていった。
「あ、あの…ごめん。お…怒ったよね…?」
「…怒ってない」
「え、う、嘘…だってこっち見てくれない…」
斉川はゆっくりこちらを向き、煩わしそうに自分を見た。
「怒ってない」
怒ってるよ……。
再び視線をそらされ、胸が苦しくなった。
光毅の顔が嫌われる事への恐怖で歪む。
「ごめん。本当ごめん。もうしない」
「分かったから、もういいよ」
斉川は未だそっぽを向いたまま。
全然よくないじゃんか…。
「ごめん……もうしないから………」
お願い、嫌いにならないで…。
光毅は、今にも泣き出しそうな顔で俯いた。
「…………」
「…………」
2人の間に長めの沈黙が流れる。
すると、少々深めのため息がその静けさを破った。
「…いつまでそのままでいる気?」
「……え…?」
恐る恐る顔を上げると、斉川が呆れたようにこちらを見ていた。さっきとはうって変わって、表情が和らいでいる。
「…も、もう……怒ってないの?」
おずおずと訊くと、彼女は可笑しそうにクスッと笑った。
「怒ってない。呆れてるんだよ」
「え…」
「全然学習しないんだね」
「うっ…」
刺さる言葉に、思わず目が泳ぐ。
「そんなに落ち込むなら、最初からしなきゃいいのに」
「うぅ…だ、だって…」
可愛かったから。
「…まぁでも、これで1つ借りができたねぇ」
「え?」
「次やったら、合わせて返してあげるよ」
うっそりと笑うその目には、無垢な黒さが宿っていた。
「っ!?」
光毅の体を戦慄が走る。
やばい!!またあんな事されたら俺死んじゃう!!
「やっ、やだ!やだやだ、あれ心臓に悪いからやめて!」
「嫌なら次をやらなきゃいいんだよ」
「やらない!もう絶対やらない!」
「ふふっ、どうかな?」
「やらないって!」
「ふーん、まぁ、あまり期待しないでおくよ」
「期待してよ!」
「無理だね」
「うぅ…」
もうおかしな事は絶対しない!!
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