2人の秘密はにがくてあまい

羽衣野 由布

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人を惑わせる力があるから

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 「おはよー。昨日は大丈夫だったか?」

 登校してきた山内に話しかけられ、碧乃は後ろを振り返った。

 「なんか大変だったみたいじゃん」

 そう言いながら席につく彼に、碧乃はふっと苦笑いを見せた。

 …やっぱり聞いたのか。

 「おはよう。…まぁ、なんとかね」

 あの後は、家に入った途端双子に碧乃の部屋まで連行された。今までの行動や服装についての説教から始まり、散々質問攻めをして、しまいには2人で盛り上がって勝手に彼を呼ぶ話を進め出した。碧乃のスマホから彼の連絡先を写し取ろうとした所で我慢の限界が来て、満面の黒い笑みで陽乃にどう仕返ししてあげようかをつらつら並べ立て、彼女を母の止め役に回らせた。顔面蒼白になっていたので、しばらくはもつだろう。弱点の多い人間は、こういう時に操作がしやすくて助かる。

 仕返しによって相手を牽制するという技は、2人の暴走を止めるために培ったものだった。まさか、家族以外にもその技を使う事になるとは思っていなかったが。

 彼女らの反応は、ある程度は覚悟できていた。しかし父親においては違った。彼には小坂の事を『友達』としか教えていなかったのだ。相手が男だと父に知られた事が、実は一番の痛手だった。常識的に考えて、どんな父親も娘が男といるのは抵抗があるものだろう。娘自身が何とも思っていなくとも。

 「…そっちこそ、大丈夫そう?」

 今度は碧乃が質問をした。

 「え?」

 「質問攻めで疲れさせたんじゃないの?」

 たいして聞く事ないのに。

 「あー、あはは。まぁ大丈夫じゃん?いつもの事だし」

 悪びれなく笑う彼に、少々怒りを覚えてしまった。

 「………いつも、何をそんなに知りたいの?」

 表情を消し、真っ直ぐに山内を見た。

 「…え…?」

 碧乃の様子に山内はたじろいだ。

 …なぜ皆、自分と彼との関係に口を挟もうとする?2人をくっつけて、何が楽しい?

 「……あくまでも、家庭教師だからね」

 それ以上なんて、あり得ない。…たまにおもちゃにはされるけど。

 「!……」

 山内は驚きの表情で、絶句した。

 「くだらない事で詮索しないで」

 そう言い残し、碧乃は前に向き直った。

 言葉を失った山内は、何も言ってこなかった。



 §



 2限目の授業が終わり、斉川からノートを受け取った。やっと起きた光毅に届けるためだ。彼が授業中に寝た時は、こうやって圭佑が届け役を担うようになっていた。

 「…な、なぁ」

 圭佑は、前に向き直ろうとしていた斉川をおずおずと呼び止めた。

 「…ん?」

 「純粋な疑問として聞きたいんだけどさ…」

 「何?」

 「あいつの事…どう思ってるの?」

 距離を縮める気はないのに、拒絶する気もない。彼女は、一体どういう位置づけで接しているのだろうか。

 「どう、って……別に何とも」

 「……」

 そうか。関心すら抱いていないから、距離をはかる気さえ起きないのか。

 「…強いて言うなら」

 「言うなら?」

 なんだ?なんかあるのか?

 「手のかかる犬」

 「犬?!」

 予想外の言葉に、圭佑は目を剥いた。

 人ですらないのかよ!!

 「うん。ねだられて仕方なく餌をあげたら懐いてしまった野良犬」

 「……なぜ野良犬?」

 「飼い犬だったらわがまま言わない」

 「ああ……そうですか…」

 あいつ、本当何やってるんだよ…。

 圭佑は呆れ顔で光毅の方を見た。

 2人の会話が気になるのか、彼もこちらを見ていた。

 ふと、彼らのやりとりがどういうものか気になり、圭佑は光毅を手招きした。

 「え、なんで呼ぶの?」

 斉川が不審の目を向けてきた。

 「ちょっとした確認を」

 「は?」

 「いいからいいから」

 「何が…」

 斉川が言いかけた所へ光毅がやってきた。

 「何だよ?」

 すぐ横に立つと、彼は訝る表情をこちらに向けた。

 「お前が犬だって」

 圭佑は斉川を指差して光毅に言った。

 「なっ!?」

 「は?!」

 斉川と光毅は同時に目を見開いた。

 「さ、斉川!!まだそれ!」

 光毅から向けられた大声に、斉川はビクッと反応した。

 「いや、だ、だって…」

 「だって何?!」

 「なんか、しっくりきたから…」

 「どこがだよ!違うって言ったじゃん!」

 「言ったけど……そこまで違うかなぁ?」

 斉川は首を傾げた。

 「なんでだよ!」

 「報酬のために頑張ろうとするのは事実でしょ?」

 「え!……い、いや…まぁ…」

 彼女の真っ直ぐな視線と言葉に、光毅は目を泳がせた。

 「犬のしっぽみたいに感情表現豊かだし」

 「う………そう…かな…?」

 「人の言う事素直に聞き入れてくれるし、何事にも全力で取り組むし」

 「……」

 「少なくとも私は、そこまで悪い意味では言ってない。まぁ言われて良い気はしないだろうから、もう言わないよ」

 「う…そ、そっか…」

 「うん。ごめん」

 「……………」

 「?」

 光毅はしばし斉川を見つめると、何かを思いついたのか口を開いた。

 「…悪い意味じゃないなら、言っても良いよ」

 「え?」

 そして意地悪くニヤッと笑った。

 「そのかわり斉川は猫ね」

 「は?!」

 突然の言葉と彼の表情に、斉川は顔をしかめた。

 「だって人の言う事全然聞かないし、勝手にどっか行っちゃうし」

 「え、いや、うーん……」

 今度は彼女が目を泳がせる。

 「間違ってはいないだろ?」

 「う……そ、そうだけど…」

 「じゃあ決まりー。俺は犬、斉川は猫」

 「なっ!?わ、私もう言わないって言ったでしょ!」

 「俺は言っても良いって言った。いいじゃん、猫可愛いよ?」

 「よくない!やめて!」

 「やだ」

 「なんで?!」

 「なんか面白い」

 「面白くない!」

 も…もう………無理!

 ここまで必死に笑いを堪えていた圭佑は、ついに我慢できずに吹き出した。

 「ぶっくく…あはははははははは!」

 「え?」

 「……」

 光毅はキョトンとした顔で、斉川は顔をしかめたまま圭佑を見た。

 「あっはっはっはっはっな、何?犬と猫って!!はははははっ!て、ってか、光毅本性出まくりだし!んなとこ初めて見た!」

 机をバンバン叩き、涙が出る程笑った。

 「は?ほ、本性って何だよ?」

 「いや、だってさ、くくくっ」

 圭佑はなんとか笑いを収め、息を整えた。

 「はー、笑った笑った。腹痛ぇ。いやー、まさかここまで嫌な奴だったとは」

 「あ?嫌な奴って、俺?」

 「そうだよ。ごめんって言われた時点で止めてやれよ」

 「え、だってなんか猫みたいだなぁって思ったら、つい…」

 斉川は光毅を睨みつけた。

 「……なんで人が下手に出るとすぐ調子に乗るかな」

 「え…」

 「これで借り2つ目ね」

 「え?あっ!!」

 光毅の顔がサーッと青ざめた。

 「?何、借りって?」

 「次またこうやって調子に乗ったら、仕返しする事になってたの」

 斉川は周りに聞かれないように、声のトーンを少し落として教えてくれた。

 「え、何それ!すげー面白そう!」

 「面白くない!ごめん!もう言わないから今の取り消して!」

 慌てた様子で、光毅は斉川に訴え出した。

 「おお?一気に形勢逆転だな」

 圭佑はまた傍観に回った。

 斉川が呆れ顔を光毅に向ける。

 「どうかな。昨日の今日でこれだよ?」

 「うっ…い、言わないって!」

 「もう1回くらい痛い目見た方が良いんじゃないかなぁ?」

 彼女の黒い笑みに、光毅だけでなく圭佑までも戦慄を覚えた。

 「やっ、やだやだ!!本当に死んじゃうからやめて!」

 「じゃあ今回だけね」

 「わ、分かった!もう絶対しない!」

 「次はないから」

 「うっ………はい…」

 完全に縮こまった光毅を見て、再び吹き出した。

 「あはははははは!やべー超面白れー!死ぬって何だよ!斉川、後で前回何したか教えて!」

 「え?ああ…」

 「教えなくていいから!!」

 「いいじゃん」

 「だめ!!」

 光毅が必死に阻止したせいで今日の内に聞き出す事はできなかった。彼がいない時に聞くとしようか。

 …にしても、ちゃんと仲良くなってんじゃねぇか。驚いて損した。



 §



 帰りのホームルームが終わり、担任が教室を出ていった。

 かばんを持って立ち上がると、教室の後ろの方にある席から藤野が声をかけてきた。

 「碧乃っちー!今日早く行かないとだから先行くねー!」

 「あ、う、うん。分かった」

 「バイバーイ!また明日ね!」

 バタバタと教室を出ていく藤野を、手を振り返して見送った。

 彼女の姿が見えなくなると、碧乃は手を下ろして周囲が気付かない程小さくため息をついた。

 …今日は1人で通るのか。

 いつもは三吉と藤野と3人で教室を出るのだが、三吉も今日は風邪で欠席だった。

 2階に並ぶ1年生の教室の前を1人で歩くのは、できる事なら避けたかった。

 なぜなら、あの男が話しかけてくるから。

 彼は必ず、碧乃が1人になった時を狙って接触してきていた。碧乃の教室に近寄る事もしていない。したがってクラスメイトはおろか、三吉達にも彼の存在は知られていなかった。当然小坂も気付いていない。どういう意図があっての事なのかは分からないが、1人にさえならなければ近付いてくる事はなかった。獲物を狙うような視線は向けてくるけれど。

 1人が好きだった自分は、今は1人になりたくなかった。

 しかし、迷惑をかける事はもっとしたくない。だから絶対、誰にも言わない。1人で解決しなくては。

 意を決し、碧乃は扉へ向かった。

 教室を出ると、他の生徒達に紛れるように廊下を歩いた。

 会いませんようにと祈りながら、並ぶ教室を通過していく。

 とりあえず無事に階段へ到着。廊下は大丈夫だった。けどまだ油断はできない。

 待ち伏せされていない事を確認しながら、平静を装って降りていった。

 最後の1段を降り切り、部室へ続く廊下を歩く。

 あと少し。部室に到達してしまえば、自分は1人じゃなくなる。

 そう思った時だった。

 「お疲れー、碧乃ちゃん」

 「っ!!」

 後ろからの突然の声に、碧乃の心臓は跳ね上がった。ビキッと体が動きを止める。

 不覚だった。焦るあまり、背後の確認を怠っていた。自分はどれ程追い詰められているのだろうか。

 装った平静を保ちながら、ゆっくり後ろを振り返った。

 あえてこのタイミングを狙って来たであろう谷崎は、笑顔で歩み寄り、碧乃のすぐ側で立ち止まった。

 「今から部活?」

 「……そうですが」

 「そっかぁー。頑張ってねー」

 「…そちらも頑張って下さい」

 「嬉しいなぁー、応援してくれて。それじゃ、金曜日楽しみにしてるね」

 「……」

 無表情でやりとりを終え、碧乃は部室へ向かおうと踵を返した。

 「…なーんちゃって」

 「!」

 不敵な笑みから発されたその声は、一瞬にして碧乃の体を硬直させた。

 「そろそろ良いんじゃなーい?俺、頑張って1週間は待ったよ?」

 恐れを隠し、再びゆっくりとその男を顧みた。

 「碧乃ちゃんがサボるの嫌いって言うから、練習もちゃーんと頑張った。すごいと思わない?俺、待つのも練習するのも嫌いなのにさ」

 「……」

 「だから俺、もうご褒美もらう資格あると思うんだけどなぁー」

 谷崎はニコッと笑いかけると、ずいっと手を差し出してきた。

 「さ、行こうか」

 「っ……」

 碧乃は、思わず一瞬たじろいだ。

 ついに…この時が来てしまった……。

 薄々気付いてはいた。先週のこの男の行動は、自分を追い詰めるために敢えて取っていたものだという事に。

 彼は最初から、約束の日まで待つ気などなかったのだ。

 だから尚更、1人になりたくなかった。次こそ捕まえに来るのではないかと恐れたから。

 未だ、彼への対抗策は見出せていない。気付いた所で策がなければ意味がないというのに。

 この男は、人に恐怖を与え追い詰める事に長けているようだ。

 しかしまだ捕まる訳にはいかない。なんとかこの場をかわさなければ。

 「行きませんよ」

 策略にはまってなるものかと、表情を変える事なく言い放った。

 谷崎は恐怖を見せない碧乃に軽く目を見張ったが、すぐにクスリと笑って手を下ろした。

 「俺の頑張りを褒めてくれないの?」

 「金曜日まで空いてないと言ったはずです」

 「うん、聞いたよ。でもその理由までは聞いてないなぁー。…どうして空いてないの?」

 「!!」

 しまった…!

 完全に失念していた。

 今美術部は課題も何も出されておらず、ほぼ帰宅部状態だった。金曜まで空いていないというのは、あの場を乗り切るためのただの嘘。部室に行こうとしていたのは、この男と鉢合わせないようにサッカー部の練習が始まるまで時間を潰すため。

 …なんでちゃんと考えておかなかったんだろう?

 もっともらしい理由さえあれば、すぐに切り抜けられたかも知れないのに。

 咄嗟の嘘が苦手な碧乃には、最悪な状況となってしまった。彼の策略にまんまとはまった。

 とりあえず、時間を稼ぎつつ考えなくては。

 「……なんで、言わないといけないんですか?」

 一瞬かすかに乱れた碧乃の表情を、谷崎は見逃さなかった。碧乃にニコッと笑いかける。

 「俺を待たせるほどの理由だよ?知りたいに決まってんじゃん」

 「……」

 彼は明らかにこの状況を楽しんでいる。獲物が動けなくなるまで、じわじわと追い詰める気だ。

 「教えてほしいなぁー。きっと余程の事なんだろうねぇ?」

 男の笑みが深みを増した。

 「っ……そ、れは…」

 なにか…言わないと…。嘘をつかないと……。

 碧乃の無表情に歪みが生じ始めた。

 「理由によっては、ちゃーんと待っててあげるから」

 語尾のハートマークにゾクリとし、碧乃の顔が更に歪む。

 理由……。お願い、何か思いついて…!

 「ね?だから教えて。…俺が納得できる理由」

 笑顔のまま、獲物を仕留めるような目で碧乃を射抜いた。

 「っ!…」

 谷崎から目を離せなくなり、碧乃は恐怖に顔をしかめた。

 嫌だ…!こんな所で捕まりたくない。なにか…なにか理由を……!

 恐怖と焦りが、碧乃の思考の邪魔をする。

 「あれー?どうしたの?納得できなきゃ連れてっちゃうよー?」

 谷崎は、1歩碧乃に近付いた。

 「!」

 反射的に1歩後ずさる。

 「俺には言いたくないのかなぁー?それとも…」

 また1歩近付いた。

 「何もないから言えないのかなぁー?」

 「っっ!」

 満面に浮かぶ冷酷な笑みに、碧乃の体は凍りついた。

 もう……逃げられない………。

 谷崎が碧乃に手を伸ばしたその時だった。

 「理由ならありますよ」

 突如、谷崎の後ろから声がかかった。

 「…あ?」

 谷崎が振り向くと同時に、碧乃も声のした方に目を向けた。

 「あ…」

 姿が見えた瞬間、碧乃はひどく安堵した。

 先輩…。

 その人は、自分が今一番求めていた存在だった。

 メガネをかけたいかにも好青年な出で立ちのその男子生徒は、谷崎の少し後ろに佇んでいた。

 「あんた誰?」

 谷崎は鋭い視線を彼に向けた。

 「2年の田中聡一たなかそういちです。斉川さんと同じ美術部で、部長をしています。と言っても先日就任したばかりですが」

 谷崎の睨みをものともせず、田中は平然と答えた。

 谷崎は、フッと鼻で笑った。

 「部長さんが部員の私情立ち聞き?趣味悪いよ?」

 「ここを通過しようとしたら聞こえてきたんですよ」

 「あっそ。じゃあ口挟まないでくんない?あんたに関係ないだろ」

 「関係があるから口を挟んだのですが」

 「は?何言ってんの?」

 「彼女は僕との先約があります。それが、君が知りたかった理由です」

 「!…」

 え、先約?そんなもの何も…。

 碧乃は驚いて田中を凝視した。

 谷崎が再び鼻で笑う。

 「何分かりやすい嘘ついちゃってんの?」

 「嘘じゃないですよ。彼女に、僕の絵のモデルをしてもらっていたんです」

 も、モデル?!

 平然と言い放つ田中に、碧乃は更に驚いた。

 「そうですよね?斉川さん」

 「!」

 真っ直ぐ碧乃に向けられた目は、話を合わせるようにと伝えていた。

 「……は、はい」

 ぎこちなく返す様子に、谷崎はニヤリと笑った。

 「じゃあ、なーんで俺が訊いた時にそう答えなかったのかなぁ?」

 「え…あ、あの…」

 「それは、端的に言えば『恥ずかしかったから』ですよ」

 谷崎の問いに、田中が代わりに答えた。

 「はぁ?」

 谷崎が再び田中を睨む。

 「彼女は自分が被写体となる事にとても強い苦手意識を持っています。長々と注目される絵のモデルなど、尚更苦手としていました。そこを何とかお願いして、先日やっと承諾してもらう事ができたんです。君にその話をしたら、食いついて色々訊いてくるのではと懸念したのでしょう。だから彼女は言わなかった。苦手な事をあれこれ詮索されるのは、誰だって嫌なものです」

 すごい…。なんだか本当の事のように思えてきた。

 碧乃は田中の言葉に感心し、冷静さを取り戻した。

 もう大丈夫。これなら、この場をかわすことができる。

 「へぇー。本当なの?碧乃ちゃん」

 谷崎はまだ疑いの目を向けている。

 碧乃は1つため息をつき、真っ直ぐに谷崎を見た。

 「本当です。質問攻めはもう嫌だったんです」

 「ふーん。でもまだ信じられないなぁー」

 「どうしてですか?」

 「だって証拠がないじゃない。それじゃあ納得できないねぇ」

 「え…」

 証拠…?そんなものない。

 碧乃は思わず田中の方を見た。

 ここはどう出るのだろう?

 「証拠を出せと言われても、残念ながらお見せできるものはありません」

 谷崎の相手が田中に変わる。

 「絵もまだ途中の段階で、モデルが斉川さんであると分かる程はっきりとは描けていませんから」

 「そんな事言って、本当は何もないんじゃないのー?」

 不敵な笑みが向けられるが、田中の表情が変わる事はなかった。

 「信じられないのなら、そう思ってもらって結構です」

 「あっそ。じゃあ連れていっても文句は言えないね」

 「文句はないですが、疑問はあります」

 「あ?疑問?」

 「今日サッカー部は活動日のはずですが、練習はどうしたんですか?」

 「んなこと、あんたには関係ないだろ」

 「…サッカー部である事は否定しないんですね」

 「なっ!?」

 谷崎は初めて動揺を見せた。

 「あー、くそっ!だったら何だよ?」

 「彼女を連れていくというのなら、今日なぜ君が練習に参加しないのか顧問に確認しても良いですか?作業を中断される訳ですから、僕に知る権利はありますよね?」

 「……あんた俺を脅すのか?」

 「脅す?…という事は、正当な理由での欠席ではないのですか?」

 「くっ……」

 もう勝敗は明らかだった。

 「あーあー分かったよ。今日の所は降参。連れてくのは諦めた」

 谷崎は両手を広げ、おどけたように肩をすくめた。

 「けど、約束の日だけは別だからね。碧乃ちゃんも承諾してくれてるんだから」

 「……」

 ニコッと笑う谷崎に、碧乃は無言で返した。

 否定をしない碧乃を見て、田中はその意を酌んでくれた。

 「そうですか。それなら仕方ないですね。ではそれまで、こちらの邪魔はしないで下さい」

 「はーい了解です、部長さま。んじゃ、金曜日にね。碧乃ちゃん」

 それぞれに嫌味なハートマークを飛ばし、ヒラヒラと手を振って谷崎は去っていった。

 田中のおかげで、見事危険は回避された。

 谷崎の姿が見えなくなると、田中は碧乃に話しかけた。

 「…行きますか」

 「あ…はい…」





 部室の扉を閉めると、田中は静かに口を開いた。

 「先週から様子がおかしいと思ったら…原因はこれだったんですね」

 「はい…」

 碧乃は、ばつの悪さに俯いて返した。

 「さしずめ、あの騒ぎで目を付けられたという所でしょうか」

 「……はい」

 さすが、鋭い…。

 彼の頭脳は、碧乃のそれを遥かに上回っていた。

 「ご迷惑おかけして、すみませんでした」

 「迷惑とは思っていませんよ。ただ…」

 田中は真っ直ぐに碧乃を見つめた。

 「これは、『どうにもならない時』だったのではありませんか?」

 「っ!……」

 彼の目には、かすかに怒りと呆れが宿っていた。

 以前から彼には、1人ではどうにもならなくなった時は必ず相談するようにと言われていたのだ。碧乃の性格を理解した上での言葉だった。

 「そ、その…」

 「『部内に留まらず』という意味も込めていたつもりですが」

 「……」

 言おうとした事を先読みされてしまった。彼の前で言い訳は通用しない。

 碧乃は、自分の身が小さくなっていくのを感じた。初めてまともに怒られた。

 シュンとした碧乃を見て、田中はふっと苦く微笑んだ。

 「あなたは、もう少し人に頼る事を覚えた方が良い」

 「………すみません」

 田中に促され、2人は近くにあった椅子に腰かけた。

 部室には碧乃と田中の2人しかいなかった。ここへ来れば1人じゃなくなると思えたのは、田中がいると分かっていたからだった。彼はとても絵が好きな人で、課題がなくとも毎日絵を描きに来ていた。

 碧乃はおずおずと彼に話しかけた。

 「あ、あの…」

 「どうしました?」

 田中は優しい笑みで首を傾げ、先を促した。

 「1つだけ…訊きたい事が…」

 「……苦手意識の話ですか?」

 「あ…は、はい…」

 やっぱり鋭い。

 「直接話した事はありませんが、ある程度の確信は持っていました。間違ってはいないですよね?」

 「はい…当たってます」

 やはりそうだったのか。でなければ、あんなに説得力を持たせる事なんてできなかっただろう。

 「あなたの意識の持ち方は、なんとなく分かります。…あなたは僕と似ていますから」

 田中は優しく微笑みかけた。

 「…そうでしたね」

 碧乃もクスッと笑って返した。

 その言葉は前にも言われた事があった。そして自分もその通りだと思っていた。ここまで感覚の似ている人は他にはいない。そのため、碧乃は彼に全幅の信頼を置いていた。彼はいつも、こちらの意を正確に読み取ってくれる。様子がおかしいと気付きながらも声をかけずにいてくれたのは、碧乃がそれを望んでいないと分かっていたからだ。だから碧乃も安心して部室を逃げ場所に選んだのだった。

 2人の間には、他とは違う信頼関係が築かれていた。

 「…しかし、これまた厄介な類に興味を持たれてしまいましたね」

 腕を組んだ田中は、苦笑いでため息をついた。

 「はい…」

 碧乃も同じく苦笑いを浮かべた。

 「約束の日とは、今週ですか?」

 「そうです」

 「猶予は今日を入れて4日ですか。その様子だと、解決策は何も見出せていませんね?」

 「う……はい」

 ばつが悪そうに目をそらす碧乃に、田中は苦い微笑みを見せた。

 「相当追い詰められたのですね」

 「……」

 「僕の読みが甘かったようです」

 「え?」

 読み…?

 「時間を気にしていたので、誰かとの鉢合わせを避けているのではと思っていました。しかしそれが、どのような人であるかまでは分からなかった。…まさかここまでだったとは。あなたは、こういった時に表情を隠すのがとても上手いのですね。恐怖心が全く見えませんでした。だから、面倒に感じているだけなのだろうと思ってしまいました」

 「……」

 表情を隠す行為はもうほぼ癖と化しており、無意識のうちにそうしていた。しかし、意識的に行っていたのも事実だった。

 だって…隠さなければ、先輩はきっと気付いてしまう。

 直接言わずとも伝わっているので、碧乃は無言で俯くだけだった。

 田中もそれを、苦く笑うだけで受けた。

 「……とりあえず、まずは嘘を本当にしておきましょうか」

 「…え?」

 意味を量りかね顔を上げると、田中は真っ直ぐこちらを見て言った。

 「本当に、僕の絵のモデルになってもらえますか?」

 「えぇ?!」

 碧乃は目を剥いた。

 「苦手な事は重々承知していますが、次また証拠を出せと言われたら見せない訳にはいきません。いつまでもないでは通用しませんよ」

 「いや、だ、だからって!」

 「それに、あなたは嘘がとても苦手だ。彼の質問攻めに耐えられるとは思えません」

 「うっ…で、でもそんな…」

 「実は、前々から思っていたんです。いつか人の絵を描くのなら、あなたが良いなと」

 「え…」

 真っ直ぐ見つめる彼の目は、それが嘘ではないと伝えていた。

 「真剣にキャンバスに向かっている姿勢が、とても共感できました。本当に絵が好きなんだと嬉しくなりました。だから、あなたを描いてみたかった。…ですが嫌な思いをさせるのは忍びなく、胸の内に留めているだけにしていました」

 「……」

 そうだったんだ…。

 自分も彼に同じ想いを抱いていた。彼の真剣な姿を絵に描きたいとまでは恐れ多くて思えなかったが、ずっと見ていたいとは思っていた。2人の感覚は一体どこまで似ているのだろうか。

 彼の言葉は素直に嬉しいと思った。

 ……けど。

 「…私なんかで良いんですか?」

 彼の絵はとても繊細で美しく、観る者全てを魅了していた。その絵の中に、自分のような地味な人間が入ってしまっても良いのだろうか。

 田中はふっと優しく笑いかけた。

 「あなたが良いと言ったでしょう?あなたが絵を描く姿はとても美しいですよ」

 「!!」

 一気に顔が熱くなるのを感じ、慌てて彼から目をそらした。

 は、初めて言われたそんな事…!

 こちらの気持ちを読んだ上での言葉とはいえ、本当にそう思っている事が分かってしまうだけに、尚更恥ずかしさが込み上げる。

 赤くなる顔を、手で隠すように覆った。

 「あなたの窮地を利用する形になってしまい、申し訳ありません」

 「……」

 「引き受けて頂けますか?」

 「………はい」

 見事に、拒否する思考は止められた。





 袖をまくったブラウスにエプロンといういつもの作業スタイルになった碧乃は、作り物のりんごが盛られたかごを小さめの木机に置いた。これは先週の、時間潰しのためのデッサンにモチーフとして使っていたものだった。部室の棚には、こういった小道具などがいくつか置いてあった。

 このりんごの絵を描いている姿を田中が写し取るという形になったので、碧乃の作業スペースは彼の側に設けられた。いつもは部室の端と端でそれぞれ作業をしているせいか、少し離れているこの距離がものすごく近く感じた。

 うぅ…緊張する……。

 自分の事をこんなに間近で見られるなんて、しかも絵にされるだなんて思ってもみなかった。

 谷崎に翌日早々に絵を見せろと言われても大丈夫なようにと、ある程度まで描き進める事になった。つい数刻前にモデルに決まったばかりなので、未だ心の準備ができていない。

 顔が強張るままに自分の椅子に座り、絵に描けるようにという指示のもと耳の下辺りで髪を括った。

 「それは、自分で選んだものですか?」

 田中は、碧乃の髪に付けられたシュシュを見て言った。

 「え?ああ、これは友達が選んでくれたんです」

 作業中などはやはり髪が邪魔になると藤野に抗議したら、普段は下ろしている事を条件に髪を括る許可が下りた。しかしそれで喜んだのも束の間、どうせなら可愛くしろと、三吉と3人でシュシュを買いに行く事になった。そして2人とも部活が休みだった先週の水曜日に、中央駅前まで行ってこれを買った。正確にはお金を出したのは自分で、デザインは2人が勝手に盛り上がって決めた。口を挟むと面倒になりそうなので、大人しく従う事にしたのだった。派手なものを買わされたら使わないでおこうと思っていたのだが、意外にも2人はクリーム色に金の縁取りがされただけのシンプルなデザインを選んだ。

 「そうですか。その友達は、斉川さんの事をよく分かってくれているんですね」

 ふわっとした笑顔を向けられ、碧乃は苦めの笑顔で返した。

 2人の間に、余計な言葉は必要ない。

 「では、いつものように作業を始めて下さい。僕の存在を忘れられるよう、こちらは決して見ないでもらえますか?」

 「は、はい……努力します…」

 ぎこちない動作で、碧乃は目の前の白いキャンバスに下書きを始めた。しかしやはり彼の存在を忘れる事はできず、時たま思わず視線を向けてしまった。

 何度目かに目が合った時、田中はクスッと苦く笑った。

 「だめですよ。それではいつまでも緊張したままで、斉川さんが辛くなってしまいますよ?それに、そんなに見られては僕も困ります」

 「す、すいません…!」

 ああ、もう!ちゃんと集中しないと……!

 「あなたの目には…………………があるから……」

 「え?」

 今なんて?

 全然聞いてなかった。というより、声が小さくて聞き取れなかった。

 「いえ、ただの独り言です。そろそろ頑張って集中してみて下さい」

 「は、はい」

 キャンバスに向き直った碧乃は、彼の目が切なげに自分を見た事に気付かなかった。
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