2人の秘密はにがくてあまい

羽衣野 由布

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協力者の登場

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 金曜日。電車に揺られていると、途中の駅で田中が乗り込んできた。

 「おはようございます」

 碧乃が話しかけると、田中は電車内を一瞥して挨拶を返した。

 「おはようございます。…来なかったようですね」

 「はい」

 笑顔を見せる碧乃に、田中は渋い顔でため息をついた。

 「今日は僕も来ないつもりだったんですがね」

 「う…すいません」

 鋭い視線に思わず目をそらした。

 今日の先輩は一段と怖かった。



 §



 「おはよー、斉川」

 圭佑は靴箱の前にいた斉川に話しかけた。

 「……おはよう」

 「どしたの?先輩と何かあった?」

 「え?」

 「あ、いや…さっき一緒にいるの見えてさ」

 今日も斉川は先輩と登校していた。しかし一昨日とは違い、先輩はなんとも渋い顔をしており、斉川はばつが悪そうにそれを受けていた。

 「…うん、まぁ…ちょっと」

 斉川は苦笑いを浮かべて歩き出した。

 圭佑もその横に付いていく。

 「何があったんだ?」

 もしやチャンス到来か?

 「怒らせた」

 「怒らせた?なんで?」

 「やり過ぎたから」

 「何を?」

 「……」

 斉川はこちらを見つめ、キュッと眉根を寄せた。

 「え?な、何?」

 「口が軽い人には教えない」

 「え…」

 その言葉に一瞬立ち止まってしまった。慌てて斉川の後を追う。

 「い、いや、俺別にそこまで軽くは…」

 「だってこの前危なかった」

 この前とは、勉強教えた仲だろとか言ってしまった日の事だろう。

 「う…あれは、そのー……あはは」

 笑ってごまかすと、深いため息をつかれてしまった。

 「こ、今度は大丈夫だからさ」

 そう言うと、無言で疑いの目を向けてきた。

 「あ…やっぱダメ?」

 「だめ」

 「…どうしても?」

 斉川はこくっと頷いた。

 「えー、でもすげー気になるんだけど」

 付け入る隙ができたかもだし。

 「……」

 「ちょっとくらいなら…」

 「やだ」

 「いいじゃん」

 「だめ」

 「えー?ほんのちょっと…」

 「しつこい!」

 鋭く睨まれ、圭佑は押し黙った。

 情報収集失敗。俺、この役向いてないかも…。



 §



 4限目が終了し、教室の後ろの方から良く通る声が聞こえてきた。

 「碧乃っちー、萌花ー、飲み物買いに行こー」

 藤野の呼びかけで、3人は財布を持って教室を出た。購買の近くまで来ると、昼食を求めてできた人だかりの横を抜けて自販機へと向かった。

 「相変わらずすごい人だねぇー」 

 「ねー。本当、よくやるよね」

 三吉と藤野の会話に、碧乃も自販機のボタンを押しつつ人だかりを見やった。

 毎週金曜は人気のメロンパンが出る日なので、皆それを目当てに並んでいるのだ。藤野も並んでみた事があるのだが、人が多過ぎて疲れるからと、それ以来行くのをやめていた。

 「今日はー…、じゃあミルクティーにしようっと」

 「私は何にしようかなぁー?」

 紙パックのお茶を手に2人が買い終えるのを待っていると、不意に視線を感じ、碧乃は後ろを振り返った。しかし、碧乃に視線を向けている人はどこにもいなかった。

 「……」

 無表情でしばし見ていると、2人が声をかけてきた。

 「どうしたの?碧乃ちゃん」

 「何かあった?」

 「え、ううん。何でもない」

 笑顔で答えると、2人と共に教室へ戻った。





 放課後。ホームルームを終え3人で教室を出た碧乃は、階段に差し掛かった辺りで藤野と三吉に話しかけた。

 「あ、今日は資料探してから行くから」

 「そっか、分かった。じゃあね碧乃っち!部活頑張ってねー!」

 「碧乃ちゃんバイバーイ」

 碧乃が手を振り返すと、2人は階段を降りていった。

 1人になった碧乃は、4階廊下の突き当たりにある美術室へと向かった。

 扉を開け中に入ると、近くの机にかばんを置き、美術関連の資料や本が並んでいる棚に近付いた。

 すると、扉の方に人の気配が生じた。

 「やっと1人になったねぇ…、碧乃ちゃん」

 谷崎涼也が、不敵な笑みをこちらに向けていた。

 碧乃は一瞬谷崎を見るも、すぐに棚の方に視線を戻した。

 「何しに来たんですか?」

 彼は碧乃から視線を外す事なく中に入り、後ろ手に扉を閉めた。

 「話の続きをしようと思って。昨日はとんだ邪魔が入っちゃったからねぇ」

 「続き?あれ以上話す事なんてないですよ?」

 谷崎の接近を背中で感じつつ、棚から資料を探し続ける。

 「碧乃ちゃんにはなくても、俺にはあるんだよねー…」

 と、突然腕を掴まれ振り向かせられると、背中を棚に強か打ち付けられた。

 「っっ!」

 肺にまで衝撃がくるほどに強く、一瞬息が詰まった。すぐ目の前には、怒りで不敵に笑う谷崎の顔があった。

 「昨日は随分好き勝手言ってくれたじゃない」

 碧乃は無言で谷崎を睨んでいる。

 「でもそれで勝った気にならないでよね。碧乃ちゃんは俺に勝てないんだから…だって、女が男に勝てる訳がない」

 谷崎は碧乃の腕を掴む力を強めた。

 「いたっ」

 痛さに思わず顔をしかめる。

 「こんな風にされたら、もう何もできないでしょ」

 「……」

 痛みに耐えつつ、男を睨み付けた。

 「あれぇー?憐みの目でしか見ないんじゃなかったの?どんな酷い仕打ちをしてもって言ってたけど、それって実は嘘だったりして。……昨日からずーっと気になってたんだよねー」

 彼の目が鋭さを帯びた。

 「……ねぇ…今からそれ、試してみようか」

 「っ……」

 碧乃の顔は嫌悪に歪んだ。

 「離して」

 「あれ、どうしたのー?もしかして怖くなっちゃった?」

 不敵な笑みが深みを増す。

 「離して!」

 語気を強めると、男の目に楽しさが宿った。

 「楽しませてっていったよね?だから、存分に楽しませてあげるよ……俺のやり方でね」

 谷崎の顔が更に近付き、碧乃は顔をそむけた。

 「やっ!…」

 その時、ガラッと勢いよく美術室の扉が開いた。

 「!?」

 谷崎が振り向くのと同時に、碧乃も扉の方を見た。

 「えっ?!」

 思わぬ人物の登場に、驚きの声を上げる。

 そこには、山内圭佑が立っていた。

 「…やっぱりな。こんな事だろうと思ったよ」

 彼は真っ直ぐに谷崎を見た。

 「お前、谷崎涼也だよな?」

 「……あ?なんだお前?」

 谷崎は再び邪魔が入った事に酷く苛立ち、山内を鋭く睨み付けた。

 山内はそれにニヤリと返す。

 「良いのか?サッカー部のエース候補がそんな事してて。ばれたら退部させられんじゃねぇの?」

 その問いを谷崎は鼻で笑った。

 「なーに勘違いしてんだか。俺はただこの子と仲良くお話ししてただけなんだけど?せっかく良い雰囲気に持ち込んだとこだったのに、あんたが邪魔したから台無しじゃん」

 片手で碧乃の腕を掴んだままもう一方の手を広げ、肩をすくめてみせた。

 「そうか、俺の勘違いかぁ…。そうなのか?斉川」

 「え…」

 突然話を振られ2人を交互に見やると、谷崎がニコッと笑いかけた。

 「そうだよねぇ?碧乃ちゃん」

 笑顔のまま、碧乃の腕を掴む力をギリギリと強めてきた。

 「っ…」

 どうやら逆らったら容赦しないという事らしい。しかし、こんな事で屈するつもりはなかった。

 痛みに耐えながら谷崎を睨むと、山内に視線を向け、首を横に振ってみせた。

 「…おい、谷崎。勘違いじゃないってよ」

 山内がゆっくりとこちらに近付いてきた。

 舌打ちが聞こえ谷崎を見ると、彼からは笑顔が消えていた。

 「…ああ、そうかよ。だったら…」

 「っ!?」

 「斉川っ!」

 怒りを露わにした谷崎は、碧乃を近くの机に向かって投げつけた。

 寸での所で滑り込んだ山内に抱き止められ、碧乃が机にぶつかる事はなかった。

 「……」

 び、びっくりした…。

 突然の事に、一瞬思考が追いつけなかった。

 「あー、なんだよ、受け止めちゃったの?つまんないの」

 「…んだと?」

 「碧乃ちゃんが悪いんだよ?大人しく言う事聞いてくれないから」

 無事を確認し碧乃を座らせると、山内はゆらりと立ち上がった。

 「………お前……今何したか分かってんのか?」

 今まで聞いた事のない、なんとも静かな声音だった。

 対する谷崎は、開き直ったように笑みを見せた。

 「ああ、分かってるよ?随分と強情な性格みたいだから、ちょっとしおらしくしてあげようと思ってさぁ。女の子は弱い方が可愛いだろ?」

 「…そうか。分かってんのか」

 「だったら何だって言うんだよ?」

 「俺はな…平気で女を痛めつけられる奴が大っ嫌いなんだよ。存在を消してやりたいくらいにな」

 怒りを宿した山内の目は、鋭く谷崎を見据えていた。

 「ハッ!お前なんかに消されてたまるかよっ!」

 谷崎は不意を突くように山内に殴りかかった。

 「……え…?」

 碧乃には、一瞬何が起きたのか分からなかった。

 気付くと谷崎は山内に腕を取られ、近くの机に押し付けられていた。

 「ぐっ!……このっ!…」

 「あー、動くな動くな。今動いたら、お前の腕折れちゃうぞ?」

 「っ!…」

 「ったく…、不意打ちとか卑怯じゃねぇか?もうちょっとましな攻め方しろよ。そんな奴に怒りを覚えたとか、俺バカみたいじゃん」

 「く、そっ…!」

 「あーあ。一発くらい殴ってやろうかと思ったけど、そんな気も失せたわ。今日はこのまま返してやるよ。…けどなぁ」

 山内の声が、ふっと低くなった。

 「次は本気でへし折ってやるからな?今度は腕じゃなく、その大事な足をだ。いいな?…分かったら、二度と斉川に近付くんじゃねぇ」

 そう言い放ち、山内は谷崎を解放しようとした。

 「あ…ま、待って!」

 唖然として2人を見ていた碧乃は我に返り、慌てて山内の動きを止めた。



 §



 「…え?」

 圭佑は、キョトンとした顔を斉川に向けた。

 なぜか困った顔をしている斉川は、立ち上がるとこちらとは違う方に向かって話しかけた。

 「…これは、どうしましょうか?」

 「え?」

 訳が分からず彼女の視線の先を見やると、美術準備室の扉が開いた所に、先輩が苦く微笑んで立っていた。

 「え!え?」

 な、なんで斉川の先輩が?!

 圭佑と同様に、机に押さえつけている谷崎も驚愕の表情を浮かべていた。

 「そうですねぇ…。とりあえず、状況の説明から始めましょうか。2人共、相当混乱してしまったようですし」

 「分かりました」

 「……」

 な…なんだよ、どうなってんだこれ…?

 「山内君、その人もう離してあげても大丈夫だよ」

 「あ、ああ…」

 斉川に言われるがまま、谷崎を解放した。

 腕をさすりながら立ち尽くしている谷崎に、斉川が話しかけた。

 「谷崎涼也さん、単刀直入に申します。私は、あなたを罠にかけました」

 「……は?」

 「私はこの場所でわざと1人になり、あなたが襲ってくるように仕向けました。そして、先程までの一部始終を撮影させてもらいました」

 「な、んだと…?」

 谷崎は驚くままに斉川を睨んだ。

 斉川の隣へ来た先輩が、手に持っていたビデオカメラを持ち上げ谷崎に見せた。

 「これが何を意味するか、あなたはもうお分かりですよね?」

 斉川の言葉に、谷崎はギリッと歯噛みした。

 ここで斉川は、ふっと彼に苦く微笑みかけた。

 「…それにしても、この場所に何の違和感も感じなかったとは。私はそれほどまでに、あなたを追い詰めてしまっていたんですね」

 「違和感?なんだよそれ…?」

 「ここは美術室です。私達美術部にとって、とても関係の深い場所」

 「!」

 「冷静な判断ができていれば、あなたはこの場所を警戒したはず。しかし怒りのあまり、あなたには私が1人になった場所としか見えていなかった」

 「くっ…」

 「完全なるあなたの負けです。……しかし…もうやめませんか、こんな事?」

 「……?」

 訝る谷崎に、斉川は言葉を続けた。

 「誰かを怖れ続けて生きるなんて、怖れられて生きるなんて…お互い虚しいだけです。私は、そんな生き方したくない」

 斉川は真っ直ぐに谷崎を見つめた。

 「だからあなたに交換条件を出します。自分の弱さを認め、本当の強さを手に入れて下さい。もしもそれができたなら、私は喜んでこの映像を破棄します」

 「…そんなの…」

 「嘘じゃありません。私は嘘がつけませんから」

 「……」

 「証拠が欲しいと言うのなら…、そうですねぇ……」

 斉川は口元に拳を当て、しばし考えた。

 「じゃあ…証拠と言えるかは分かりませんが、あなたが強くなれるよう、1つだけアドバイスをしておきます」

 そう言うと、おもむろに谷崎へと近付いた。

 「!な、なんだよっ?」

 「動かないで」

 警戒する谷崎の肩に手を添え少し背伸びをすると、斉川は彼にそっと耳打ちをした。

 「………え?」

 訳が分からないという顔の谷崎から離れると、再び彼に微笑みかけた。

 「きっと良い事がありますよ」

 「……」

 「さて、これで私の話は終わりです。速やかにここから立ち去って下さい。……私の気が変わらないうちに」

 斉川は顔から表情を消した。

 「っ!」

 彼女の気迫に圧され、谷崎は逃げるようにその場を去っていった。

 呆然とそれを見送っていた圭佑は、彼女のため息で我に返った。

 見ると、斉川はなんとも渋い表情でこちらを見ていた。

 「……まさか、ここでも協力者になるとはね」

 「…はい?」

 ここでも?

 さっぱり意味が分からず、圭佑の目は点になってしまった。

 「なんでここに来たの?」

 「あ、そ、それは…」

 下校しようと校門の辺りまで行った時、ふと見上げると4階の廊下に斉川の姿を見つけた。何しに行くのかと見ていると、谷崎がその後をつけているのに気が付いた。

 「…あの谷崎って奴、女の扱いが酷いって最近噂になってんだよ」

 だからあの男の行動に嫌な予感を覚え、急いで駆け付けた次第だった。

 「そうだったんだ。見られてたのか…」

 「詰めが甘かったという事ですね」

 「う…」

 隣にいる先輩に鋭い言葉で刺され、斉川は顔をしかめた。

 「……」

 圭佑は未だ状況を理解できずにいた。気になる事が多過ぎて、どこから訊いてよいものやら、もうよく分からなかった。

 その様子に気付いた先輩が、優しく話しかけてくれた。

 「全て説明しますよ。この後、何か予定はありますか?」

 「あ、い、いえ…今日は大丈夫、です…」

 「そうですか。では、とりあえず場所を移動しましょうか」





 部室に来た3人は、適当な椅子に向かい合って座った。

 「うーん、どこから話そうかなぁ?」

 考えている斉川に、とりあえず今一番気になっている事を訊いてみた。

 「あ、あの…さっき『ここでも』って言ってたけど、それってどういう意味だ?」

 「ああ、それね。…実は、今回の件で少しだけ山内君の事利用させてもらってたの」

 「へっ?」

 り、利用?!

 「ここ数日、何か違和感を感じなかった?」

 「え?…ど、どういう事?」

 全然違和感なんて何も…。

 「そっか。今日はさすがに感じるかと思ったんだけどな」

 「??」

 「…あのね?火曜日辺りから、私とよく玄関で鉢合わせてたでしょ?あれ、わざとなの」

 「は??」

 「わざと鉢合わせて、私に色々訊きたくなるような状況を作って、教室まで一緒に行ってもらってたの」

 「はぁ?!」

 圭佑は、身を乗り出す程に驚いた。

 「よく考えてみて。いつも山内君より先に教室に着いていたはずの私と、3日も鉢合わせたんだよ?おかしいでしょ?」

 「……あ」

 そういえば。

 「え、じ、じゃあ…先輩と歩いてる所を俺が見たのも…」

 「わざとだよ」

 「……」

 マジかよ…。

 圭佑は頭を抱えた。

 「でもそれ、私は半信半疑だったんだよね」

 「…?」

 「火曜日はよかったんだよ、訊きたいと思えるネタがあったから。けど水曜日はどうしようかって考えてて、そうしたら先輩が『2人で歩いている所を見せれば良い』って提案してきて…」

 斉川の言葉を先輩が引き継いだ。

 「君がどんな人物であるかを斉川さんから聞いた時、それが一番良いと思ったんです。きっと、2人の関係性を知りたくて訊いてくるだろうと」

 「……」

 確かに知りたくなった。光毅の事を考えると、訊かずにはいられなかった。

 斉川から話を聞いただけで推測できるなんて、この先輩はどんな頭脳をしているのだろうか。

 「……あくまで家庭教師だって言ったのに、全然聞いてくれてなかったんだね」

 斉川はキュッと眉根を寄せた。

 「あ、いや…それは…」

 圭佑は目をそらし、頭を掻いた。

 1つため息をつくと、斉川は苦く微笑んだ。

 「まぁいいけど。今回はそれのおかげで助かった事だし」

 「そ、そうですか…」

 彼女の視線が地味に痛いので、話を進める事にした。

 「けど…なんでそんな事したんだ?」

 「谷崎涼也に捕まらないためだよ。あの人私が1人になった時を狙って接触してきてたの。1人にさえならなければ大丈夫だったから、教室まで誰か一緒に行ってもらおうと思ったの」

 「先輩じゃだめだったのか?」

 「それじゃ違和感があり過ぎるでしょ?」

 「あー、まぁ…」

 「誰かに余計な詮索されて、策が失敗したら困る」

 「困るって……ってか、なんで自分で解決しようとしたんだよ?学校に相談すれば良かっただろ」

 そうすれば、あんな危ない目に遭わずに済んだのに。

 「そんな事したら、あの人永久追放されちゃうかもよ?」

 「…は?永久追放?」

 斉川はこくっと頷いた。

 「もし私の訴えが通じたとしたら、彼の今までの悪事も明るみに出るかも知れない。そうしたら、彼はきっと退部に追いやられる。……スポーツ推薦で入学した人が退部させられた場合、その行く末はどうなると思う?」

 「え、それは……あ」

 そうなったら彼はここでの居場所を失くし、実質的に学校からも追われる事になる。

 …だから永久追放か。

 「私はそこまでする気はなかった。だからあの人に情けをかけたの」

 「あ……そう。…でも、なんで利用するのが俺だったんだよ?」

 「だって他にいなかったんだもん」

 渋い顔で訊くと、平然とした答えが返ってきた。

 「那奈ちゃんはバレー部の朝練があるし、萌花ちゃんは私より先に来ちゃってるし。あと山内君、私より少しだけ後に来てたから、いつもの電車で来て、駅から先輩と話をしながらゆっくりめに歩くだけで良かったし。鬱陶しくて仕方なかったけど、谷崎に捕まるよりはましだからまぁいいかって思って」

 「ああ……そうですか」

 圭佑は、額を押さえて俯いた。

 俺はまんまと手の上で転がされてたって訳ね…。

 「勝手に利用させてもらってごめんなさい。でも、すごく助かった。ありがとう」

 斉川はふっと笑いかけた。

 「!お、おう…」

 不意の笑顔とか反則だろ…。

 そこでふと思い至った。

 光毅同様、彼女もいつの間にか人を魅了してしまうタイプなのではないだろうか。

 「意外に似た者同士かも…?」

 「は?」

 「あ、いや、こっちの話」

 斉川は首を傾げていたが、直接言うと、あんなのと一緒にするなとか言われそうな気がするのでやめておく。

 圭佑は話を元に戻した。

 「…そもそも、なんでこんな事になったんだ?」

 「私服姿だった私とたまたま鉢合わせた時に『随分大人っぽい格好してんだね。それなら俺アリかも』とか言い出して、そこからしつこく迫ってくるようになったの」

 「へぇー…そうだったのか」

 斉川の言葉に、一瞬先輩が驚いたように見えた。

 「うん。なんか私の私服姿は、ああいうモテるタイプの人達には新鮮みたいだよ」

 「あー、そういえば光毅言ってたな。『大人っぽくて格好良い』って」

 そう言うと、斉川は途端に顔をしかめた。

 「…山内君にも言ってたんだ、それ」

 「え?あ、ああ…」

 「ものすごく良い言い方をしてるけど、要は高校生らしくも女の子らしくもないって事でしょ?」

 「い、いや、そんな事は…」

 普段の彼女の言動を考えると、直接その姿を見ていなくとも容易に想像ができ、素直にないとは言えなかった。

 「まぁ自覚してるし、よく言われるからそこまで嫌な気は起きないけど…でもまさか、そこに食い付かれるとは思ってなかった。さすがにびっくりした」

 「そ、そうか…」

 でも…なるほどな。

 谷崎のような奴なら、珍しい女に興味を持ってもおかしくない。それで、手に入れようとしても全然うまくいかないもんだから、強攻手段を取るに至ったのだろう。

 …なんとも嫌な奴だ。

 「それにしても、山内君て強いんだね」

 「へ?」

 「さっき…速くて何したのかよく分かんなかった」

 「ああ、あれな」

 「なんか、習ってるの?」

 「ん?んー、まぁな。合気道とその他諸々」

 「?その他?」

 「言っても多分分かんねぇよ。その他はちょっとかじってるくらいのもんだし」

 「そうなんだ。……ああ、だからパソコン部か」

 「そういう事」

 圭佑はパソコン部に所属していた。ほとんど活動をしないので、幽霊部員希望者のためにあるような部だった。いくつもの格闘技に手を出している圭佑には、部活に勤しむ余裕はないのだ。

 「まぁ、格闘技マニアって感じ?」

 おどけてみせると、斉川はじーっとこちらを見つめてきた。気付くと先輩も同じ目をしていた。

 「……」

 「……」

 「な、なんだよ…?」

 全てを見透かされそうな2対の目に、圭佑は恐怖を覚えた。

 すると、先輩がおもむろに口を開いた。

 「なぜ、習っているのですか?」

 「え?そ、そりゃあ、興味があったってのはもちろんですけど…やっぱりモテるため?なんちゃって。あはは」

 「…モテるためだったら、今頃皆に言い触らしてるよね?」

 「え……」

 斉川の鋭い指摘に、圭佑の笑顔が引きつった。

 「質問の仕方を変えましょうか。誰のために、強くなろうと思ったのですか?」

 「……」

 どうやら、2人にごまかしは効かないようだ。

 苦笑いでため息をつくと、圭佑はその問いに答えた。

 「…光毅のため、ですよ」

 「やはりそうでしたか」

 「……」

 無言で聞いている斉川は、なぜか複雑な表情を浮かべた。

 「と言っても、今は本当に興味があってやってる感じだから、きっかけがそうだったってだけになってますがね」

 ニカッと笑いかけると、先輩も笑顔で返し先を促した。

 「あいつ、人に慕われやすい分妬みとかも受けやすくて、小学生の頃とかよくいじめの対象にされてたんですよ。でも自分じゃ原因が分かんないもんだから、『俺何したんだろう?』って落ち込んだりしてて…。あいつは何にも悪くないのに。だから、俺が代わりにいじめてる奴らを懲らしめに行こうとしたんだけど、相手は集団だったから全然敵わなくて」

 それで、自分は強さを欲した。

 「…敢えて合気道を選んだ理由を聞いても良いですか?」

 「相手をただ痛めつけるようなものだと、そいつらと同レベルになりそうな気がして嫌だったんですよ。あくまで懲らしめるのが目的だったんで」

 「そうですか」

 「まぁ今はあいつどんな奴とも打ち解けちゃうから、そこまで酷い事する奴はあまり現れなくなりましたね」

 「……」

 すると、先輩はふっと真顔になり斉川に視線を向けた。

 「……やはり、全てを話すべきではありませんか?」

 「……」

 斉川は無言で俯いている。

 「斉川さん」

 先輩の声には、かすかに怒りが混じっていた。

 ビクッと反応し、彼女は顔を上げた。

 「で、でも…もう終わった事ですし…」

 「もしまたこのような事があったら、彼に協力してもらうべきです。僕よりずっと頼りになります」

 「え、そんな事…」

 「ちょっと待った!」

 圭佑は手を上げて2人のやり取りを止めた。

 「一体何の話をしてるんだ?全てってどういう事ですか?」

 まだ話してない事があるのか?

 「実は…」

 「言わなくていいです!」

 話そうとしていた先輩を斉川が止めた。

 先輩は怒りの滲む目で鋭く斉川を見据えた。

 「う…だ、だってこの人、口が軽過ぎる!」

 「またそれかよ」

 だから俺、そこまで軽くねぇっつーの。

 深いため息をつき、先輩はこちらに視線を移した。

 「山内君、今から話す事は他言無用でお願いします」

 「だから言わないで下さいって!」

 「あなたが昨日やり過ぎなければ、こうはなっていなかったのですが」

 「うっ……」

 斉川は何も言い返せなくなった。

 「あ、あの、だから何の話を…?ってか、なんでそんなに怒ってんですか?」

 おずおずと訊くと、怒りを宿したままの目がこちらを向いた。

 「当然です。彼女が襲われている所を助けもせず撮影するという行為をして、平気でいられるはずがないでしょう?」

 「あー…なるほど」

 斉川を見ると、怒られた子供のように小さくなって俯いていた。彼女のこんな姿は初めて見た。

 「あんな事は…二度と御免です」

 そう話す先輩は、一瞬だけ痛みを堪えるような顔を見せた。

 その顔に圭佑はある疑念を抱いた。

 先輩ってもしかして…。

 「本当は、昨日で解決しているはずだったんですよ」

 「え?」

 「昨日、彼女に近付くべきではないと知らしめるために、彼を少し怖がらせようとしたんです。しかしあろう事か、斉川さんは彼を極限まで追い詰めてしまった」

 先輩は再び怒りの目を斉川に向けていた。

 対する彼女は、目を合わせられずにいる。

 「今日の事は、あくまで最終手段でした。…ですが彼女がやり過ぎたために、実行せざるを得なくなったんです。僕は君のように強くはないですから、彼を強制的に排除するにはこの方法しかなかったんですよ」

 「そう…だったんですか…。あ、もしかして朝言ってた『やり過ぎた』って、これの事だったのか?」

 訊くと、斉川はばつが悪そうに頷いた。そして恐る恐る先輩の方を見た。

 「あ、あの…そんなに嫌でした?」

 「当たり前です。あなたが僕の立場だったら、どう思いますか?」

 「え?うーん……常識的に見ると辛い光景ですが、その後の展開を考えると、ちょっと楽しそうだなぁなんて思ったりも…」

 「……」

 「お前な…」

 彼女の答えに、2人は唖然としてしまった。

 なんて性格してんだ、こいつは…。

 先輩は顔を手で覆い、さっきよりも深く息を吐き出した。

 「……分かりました。あなたは大人しく聞いていて下さい。僕が全て話します」

 「え、あの…」

 「いいですね?」

 「……はい」

 凄味を効かせて彼女を黙らせると、先輩は静かに話し出した。





 嘘…だろ…?

 先輩から一部始終を聞いた圭佑は、愕然としていた。

 まさか斉川が狙われた原因が、光毅への逆恨みだったなんて。そして先輩がいなかったら、今頃捕まって利用されていただなんて。

 彼女があまりにも普通に振る舞っていたから、これっぽっちも気付く事ができなかった。

 谷崎の存在は、気にはなっていたが何かをしてくるという事がなかったために、そこまで警戒をしていなかった。しかし、こんな事なら気になった時点であらかじめ牽制をしておくべきだった。自分が油断していたせいで、彼女に危険が及んでしまった。

 そこまで考えが至らなかった自分に、無性に腹が立った。

 「…なんで言ってくれなかったんだよ?」

 「だって言ったら…『俺のせいだ』って落ち込んで、また私に負い目を感じて面倒くさい事になるでしょ、あの人?」

 「だったら、せめて俺だけにでも」

 「そうしても結局筒抜けになる」

 「う…い、言わないって!それに言っちゃったとしても、谷崎に捕まるより何倍もましだろ」

 「ましじゃないよ」

 「なんでだよ?」

 「写真がきっかけになったのは事実だけど、谷崎が恨みを抱いた事に関しては、あの人は何も悪くない。けど、その事についても絶対落ち込む」

 「だけど…」

 「私自身が痛めつけられるのは、全然何とも思わない。でも、私のせいで誰かが傷付くのは嫌」

 斉川は目線を下に落とした。

 「……私なんかのために誰かが心を痛める姿は…見たくない」

 「……」

 圭佑は言葉を失った。

 自分が酷い目に遭うより、自分のせいで傷付いているのを見る方が辛いだなんて…。

 「…斉川さんは冷酷過ぎる一面もありますが、優し過ぎる一面も持ち合わせています。誰かが心を痛めると、それを見た自分の心が痛んでしまう。彼女にとっては、体の痛みよりも心の痛みの方が辛いんですよ」

 俯く斉川を見つめる先輩の目は、先程とうって変わって優しさを含んでいた。

 「……」

 やっぱり先輩は、斉川の事……。

 斉川がふっと顔を上げたため、圭佑の考えは中断された。

 「…だから、絶対言わないでね?」

 「!」

 彼女の目は鋭さを帯び、真っ直ぐに自分を射抜いた。

 え…?な、なんか怖いんだけど?

 たじろぐ圭佑に、斉川は言葉を続けた。

 「もし、言ってしまったら…そうだなぁ…」

 口元に拳を当てしばし考えると、圭佑を真っ直ぐに見つめニコリと笑いかけた。

 「じゃあ…私もばらしてあげるよ。あなたが一番言われたくない事を、一番言われたくない人に」

 「!?」

 その笑みには、無垢な黒さが宿っていた。

 圭佑の体に戦慄が走る。

 「え、お、俺が一番言われたくない事って…何だよ?」

 「さぁ?何だろうねぇー?…ふふっ」

 「っっ!」

 冷酷な一面怖すぎんだろ、おいっ!!

 助けを求めるように先輩を見ると、呆れて苦く笑っているだけだった。

 助けてくれないのかよっ?!

 「…ああ、そうだ」

 斉川が思い出したかのように声を発した。黒い笑みが深みを増す。

 「!!…な、なんだよ?」

 何を言う気だよ?!

 彼女は、ポツリととある言葉を投げかけた。

 それを理解した瞬間、圭佑の顔からは一気に血の気が引いていった。

 …絶対、光毅には言いません……。





 帰り道。3人は斉川を真ん中に、駅までの道を並んで歩いていた。

 「…にしても、俺の登場が無駄だったとはねぇー」

 「無駄じゃないですよ」

 「え?」

 先輩の言葉にキョトンとしてしまった。

 「君が来てくれたおかげで、斉川さんの戦意が喪失しましたから」

 「は??」

 どういう事?

 「もし君が登場せずあのまま斉川さんに任せていたら、きっとまたやり過ぎていたはずです」

 「なっ!き、今日はちゃんと抑えるつもりで…」

 「昨日もそう言っていたはずですが」

 「うっ…」

 斉川が反論するも、一瞬にして黙らせてしまった。やはりこの先輩はすごい。

 「谷崎涼也が君に押さえ付けられている所を見たから、彼女は虚しいと思えたんです。危険な場面もありましたが、結果的には来てくれて良かったと思いますよ」

 ふっと笑いかけられ、圭佑は思わず目をそらした。

 「そ…そう、ですか。なら良いけど…」

 この先輩に言われると、なんかすげー照れる…。

 すると、斉川がポツリと呟いた。

 「谷崎涼也は…きっとすごく辛かったんだろうね」

 「え…?」

 「もし、誰か1人でも彼の方が良いって言ってくれる人がいたら、ここまで酷い事はしなかったんじゃないかな」

 前を向いて歩く彼女には、憐みの表情が浮かんでいた。

 「どんなに頑張っても、誰も言ってくれなかった。皆が自分から離れていくのが怖かった。だから谷崎は、私の存在にすがったんだと思う。…それしか、もう方法がなかったんだよ」

 「……」

 敵視すべき人間にまで憐みを抱けるなんて、彼女はどれ程優し過ぎるのだろうか。

 そこでふと、彼女が谷崎にアドバイスをしていた事を思い出した。

 「そういえば、最後にあいつになんて言ったんだ?」

 「ん?…ああ。あれは、あの人がもう恨みを抱かなくなるおまじない」

 「は?おまじない?…って、何言ったんだよ?」

 斉川はクスッと笑って言った。

 「口が軽い人には教えない」

 「なっ!…」

 またかよ!!

 「彼がちゃんと実行してくれたら教えてあげる」

 「実行?何だよそれ?」

 斉川はクスクス笑うだけで何も教えてくれなかった。





 改札を通ると、1人だけ反対方向の斉川を見送り、圭佑は先輩と駅のホームに立った。

 静かに横に立つ先輩を横目に、先程中断していた考えを再開した。

 時折先輩が斉川に向けていた視線は、やはり特別な感情を抱いているが故のものだ。間違いない。

 そこである懸念が浮かぶ。

 今まではその思いを告げないまま気の許せる間柄として関係を保っていたが、谷崎との事で更に2人の仲が深まっていたとしたら、光毅の入り込む余地はもうないのかも知れない。

 先輩と斉川が恋人になる方が、やっぱり自然な流れなのかな……?

 すると突然、先輩がこちらを向いて口を開いた。

 「…君の懸念は、当たらずとも遠からず、といった所でしょうか」

 「えっ?!」

 う、嘘だろ?!まさか読まれた?!

 「なっ、な、何言ってんですか?先輩」

 動揺を隠せないまま訊いたのが可笑しかったのか、先輩はクスッと笑って答えた。

 「そんなにチラチラ見られていたら、嫌でも分かりますよ」

 「あ……え、でも…」

 それにしたって…。

 「そして君がそのように辛そうな表情をしていたという事は、やはり小坂光毅君は彼女に恋愛感情を抱いているのですね?」

 「え!!」

 お、俺そんな顔してた?!ってか、そんな事まで分かっちゃうなんてどんだけだよ、先輩!!

 絶句する姿に再びクスッと笑うと、先輩は話し出した。

 「確かに、僕もそういった感情を抱いていたのは事実です。しかしそれは、今回の事で変わりました」

 「え…?」

 変わった?

 「あの性格は、僕の手には負えないものでした」

 そう口にする先輩の顔には、完全なる呆れが浮かんでいた。

 「あー…、あれは…」

 斉川の冷酷過ぎる性格を思い出し、圭佑はなんとも言えない表情を浮かべた。

 「あれに対抗できるのは、おそらく小坂君だけでしょうね」

 「え?」

 「仕返しをされても、懲りずに意地悪しているのでしょう?」

 「……そんな事まで分かるんですか?」

 「いえ、斉川さんに聞いたんです」

 「あ、なんだ。そうなのか」

 びっくりした。

 「小坂君の話をしている時の彼女は、とても人間らしくて見ていて面白いと思いました。…それに」

 先輩は思い出したようにクスッと笑った。

 「僕より小坂君といる方が楽しそうです」

 「…まぁ、確かに」

 彼女が光毅にした仕返しが頭に浮かび、圭佑は思い出し笑いで返した。

 「なので今は、純粋にこの距離のままで見守っていたいという感情でいますね。2人の行く末も気になりますし」

 「そう、ですか」

 うーん…まぁ、これは良かったというべきなのかな。

 「それで…君と小坂君にお願いがあるんです」

 すっと真顔になり、先輩は真っ直ぐに圭佑を見た。

 「お願い?」

 「はい。斉川さんから、目を離さないでいてもらえますか?」

 「……」

 「もしまた何かが起こったら、彼女はきっと1人で解決しようとするでしょう。今回は僕が偶然居合わせる事ができたから良かったですが、次はそうはいきません。目を離している時に何かが起きて、彼女に表情を隠されたら、僕でも気付く事ができないかも知れない」

 「大丈夫です。そうなる前に俺が全部潰しておきますから」

 ニッと笑うと、先輩も笑い返してくれた。

 「そうですか」

 程なくして電車が到着し、2人は乗り込んだ。

 「…そういえば、本当にあれ破棄しちゃうんですか?」

 圭佑はふと今日撮影した映像の事が気になり、訊いてみた。

 「斉川さんはそう思っているでしょうが、僕はそのつもりはありませんよ」

 そう言うと、先輩はうっそりと微笑んだ。

 「彼女自身が許したとしても、僕は決して許しませんから」

 「!」

 その笑みに冷気を感じ、背筋がゾクリとした。

 こ、怖…。こんなとこも似てたのか…。

 圭佑は、この2人には逆らわないでおこうと心に決めた。
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