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ヒーローなんていらないんだよ
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ホームに立ち、碧乃は電車が来るのを待っていた。
何をするでもなく、ただただぼんやりと。
すると、目線が自然と下を向く。
遥か下にある線路が、目に入る。
線路。
間もなく来る電車。
それらが頭の中で結び付き………………声が聞こえた。
“もし…今ここで………──”
「…っ……」
聞こえた。
聞こえてしまった。
†††
悪魔が声を…………取り戻した。
†††
聞こえない。聞こえない。
碧乃は奥歯を噛みしめ静かに立ち、やってきた電車を見やる。
扉が開き、何事もないと乗り込んだ。
学校に到着し、皆と挨拶を交わす。
『おはよう』と……笑顔で。
§
彼女は周囲に笑顔を見せる。穏やかで、当たり障りのない、完璧な笑顔。
あれは、ほんの少し前まで俺がしていた顔。
他を拒絶する、目に見えぬ壁。
……なんで。なんでなんでなんで。
なぜ、分からなかった。
一度は気付いたはずなのに。だから、嫌われようと思ったのに。
自分に仕返しをする事で、彼女の笑顔は楽しんでいるものだと思い込まされた。
巧みに目を、そらされた。
……しかし気付いた所でもう遅い。
自分が彼女にしてあげられる事は何もない。
もうこれ以上影響を及ぼさないよう、彼女から遠く離れるだけ。
「…………っ」
彼女の『笑顔』を見たくないと、光毅は廊下へ出た。重い息を吐き出し、窓の外を眺める。
とそこへ、目の前にいきなり小さな包みを持った手が差し出された。
「はい、チョコレート!」
「…え」
綺麗にネイルのされたその手の持ち主は、足立梨沙だった。
戸惑うままただ突っ立っていると、ぐっと手を掴まれた。
「ほーら!ちゃんと受け取って」
そのままチョコレートを握らされる。
「これ食べて元気出してね?」
「え……なんで…」
「だって…なんかすごく辛そうな顔してたから」
顔を上げると、優しく包み込むような微笑みが見えた。
「大丈夫?…斉川さんと、何かあったの?」
「あ…………」
一瞬打ち明けようとしたが、やはり言えないと開いた口を閉じた。
「いや…別に」
「そう。じゃあもし話したくなったら、いつでも言ってね。私、勉強はできないけど、話聞くくらいならできるから」
「足立……ありがとう」
「ふふっ、どういたしまして。あ、ほらほらチョコ食べて!」
光毅はチョコレートを見つめると、静かに包みを開け口に入れた。
ニタリと上がる口角には、気付かないまま。
重苦しい気持ちのまま、時間だけが過ぎていった。
帰りのホームルームが終わり、光毅は足立と共に教室を出た。
楽しげに話す足立の声を聞き流しながら階段を降り、一階に着いた所でふと、文化部の部室が並ぶ辺りを見やった。
「…………」
「どうしたの?」
足立の声に数秒遅れて反応した後、彼女に断りを入れた。
「…あー、悪い。ちょっと寄るとこあるから」
別れると、光毅はそちらへと歩いていった。
美術部の部室の前に立ち中を覗くと、まだ誰も来ていなかった。
しかしすぐに、目的の人物は現れた。
「来ると思っていましたよ」
振り返ると、田中先輩は優しく笑いかけてくれた。
「僕に、訊きたい事があるのでしょう?」
「…………」
「今は、時間は大丈夫なのですか?」
「…少しなら」
「そうですか」
先輩が部室の鍵を開けるのを待ち、一緒に中へと入る。
「どうぞ」
椅子を用意してくれたので、大人しくそこに座った。
§
「あの」
突然の呼びかけに、碧乃は後ろを振り返った。
立っていたのは、元舎弟3人組のうちの1人だった。
「その…えっと、昨日はごめん。昨日っていうか、今まで?」
「……」
「俺ら、なんかバカな事やってたなって思って…。昨日言われて目が覚めたんだ。ホント、ごめんなさい」
言いながら彼は頭を下げた。
「……そう」
「それで…実は聞いてほしい事があるんだ、姐さん、じゃない斉川さんに」
「なに?」
「ここじゃ話しにくい事なんだ…。ちょっと、一緒に来てくれる?」
「……いいよ」
碧乃は素直に承諾し、促されるまま彼の後に付いていった。
「ここなら誰も来ないよ」
そう言って扉を開けたのは、今は使われていない古い体育倉庫だった。
薄暗い中へ入ると、奥から元舎弟の2人が現れた。
「…え」
後ろでピシャリと扉が閉められる。
「どういう──う゛っ!」
振り向こうとした背中が、思い切り蹴り飛ばされた。
§
「『過剰同調』……という言葉を、知っていますか?」
田中先輩はいつも絵を描いている場所に座り、静かに語り出した。
「かじょうどうちょう…?」
「はい。自分と他者に境界がなく、相手の心情全てが、まるで自分の事のように感じられてしまう性質の事です。…彼女の鋭い目は、まさにそれです」
「…………」
「大抵の人は、知ったところで『他人の事だ』と遮断する事ができますが、彼女の場合、相手の心に寄り添うあまり、見えたもの全てを自分の内に取り込んでしまうんです。分け隔てなく、何もかもを。…だから強く優しくあり、弱く脆いのです」
そう言う田中の笑顔は、悲しさとも苦しさとも思えるものが混じっていた。
自分にはどうする事もできない、と言っているようだった。
「人と距離を置く事で平静を保っていますが、常に孤独でいる事は、やはり辛かったのでしょう。相手の心に寄り添ってしまう程に、本当は皆の事が大好きなのですから」
「え……」
大好き…?
「で、でも…あいつは『大嫌いだ』って…」
「『大嫌い』?……そうですか…。きっと、良くない感情ばかりを見せられたのでしょう。そのせいで、いつからか『好き』が『嫌い』へと転じてしまった」
「…………」
「彼女はいつも、心のどこかで助けを求めていました。『独りはいやだ』と。…そんな時、君が彼女を見つけてくれました」
言いながら、先輩は嬉しさを滲ませた。
「君と関わるようになってから、彼女はとても生き生きして、とても人間らしくなりました。彼女自身の心が、少しずつ表に出てくるようになったんです。小坂君の裏表のない素直な心が、彼女には心地よかったのです」
「!」
心地いい…?俺の…心が?
「ですから彼女は無意識のうちに君を受け入れ、ともに在ろうとした。あなたに勉強を教えるという関係を続けていたのは、そのためです。……しかし、彼女が望んでいたのはそこまで。それ以上踏み込んで来る事は、想定していなかった」
先輩は、真っ直ぐに光毅と目を合わせた。
「今彼女が君を拒絶しているのは、心の奥深くまで踏み込まれる事を怖れているためです。ですが救いを求めている事は変わっていない。……君なら、彼女を孤独から救い出す事ができるはずです。彼女に、『同じだ』と言わしめたあなたなら」
「……え…?」
『同じ』?…何の事だ?
「……以前斉川さんと話をした時に、彼女は僕の事を、自分と『似ている』と言っていました。ですが君の事は……『同じだ』と言ったんです。僕は、似てはいても結局、壁を隔てた向こう側の人間。同じにはなれませんでした。しかし君は、その壁の中に入り、同じ空間にいる事を許されたのです」
「っ!」
斉川が、俺を……受け入れていた…?
「そ、そんな馬鹿な──」
先輩は、ふっと笑みを深くした。
「彼女と『似ている』僕が言うのですから、間違いありません」
「!…」
「だから、どんなに拒絶されても自信を持って踏み込んでいってください。あなたは必ず、彼女の本当の心まで辿り着く事ができますから」
「………………」
光毅は静かに部室を後にした。先輩の言葉をゆっくりと反芻しながら、バスケ部の練習へと身を投じていった。
§
薄暗い旧体育倉庫の中。
膝を床に打ち付けたまま、両手首をそれぞれ2人の男に取られた。
「なぁーんだ、案外ちょろいなぁー」
碧乃を連れてきたもう1人が、言いながら髪を掴み上を向かせる。
「っ…」
「もしかしてぇー、愛の告白とでも思っちゃった?」
「…………」
無理矢理視界に入れられた気持ち悪い笑みを強く睨みつけるも、その笑みは深さを増すだけだった。
腕を掴む2人も、同じ顔を見せている。
「俺らさぁー、姐さんにお叱りを受けて改心したんだよねー、守られてばっかじゃダメだって。今度は俺らが上に立たないとって。だから……あんたを引きずり下ろす事にした」
目の前の男が、怒りを露わにした。
「…よくも馬鹿にしてくれたなぁ?一体誰がクズだって?この状況でもういっぺん言ってみろよ。二度と無駄口叩けねぇようにしてやるからよ」
そう言って、碧乃の服の襟元に手をかけた。
…………だめだ。もう限界。
「…ぷっ!ふふっ、ははははっ」
捕らわれた状況の中、碧乃は盛大に笑い出した。
予想外の反応に、3人の動きが怯みを見せた。
「なっ、なんだこいつ!」
「何笑ってんだよ?!」
「怖すぎて頭おかしくなったんじゃねぇか?」
「マジかよ」
「あはははは」
髪から男の手が離れたので、そのまま下を向き笑い続けた。
ひとしきり笑ったところで、碧乃はゆっくりと顔を上げた。
「──ははっ。はぁー………あーあ、全く」
「っ!」
口角を上げたまま、目の前の男と真っ直ぐに目を合わせる。
「予想通りの反応。予想通りの行動。予想通りの展開。何もかも全て予想通り。予想通り過ぎて……」
碧乃はふっと表情を消した。
「全然面白くない」
「!?」
怯む3人に、碧乃は反撃を開始した。
「君らは本当に、足元にすら及ばないね。私が何も考えずにあんな発言をしたと、本気で思ってるの?」
「な、なんだと?!」
「君らがこうする事を分かっていて、あえてあんな言い方をしたんだよ?」
「はぁ?!で、でたらめを言うなっ!」
「どうせこの場から逃げ出したいだけの嘘だろ?」
「ハハッ、残念でしたぁー!あんたはもう、俺らから永遠に逃げられませーん!」
そう言うと男はポケットからスマホを取り出した。
「今からあんたの恥ずかしーい写真いっぱい撮って──」
「あ、写真撮るの?奇遇だなぁー。私も実は君達の写真、持ってるんだよねー」
「…は?」
眉根を寄せる彼らに、碧乃は朗らかに先を続ける。
「今見せてあげる…って、そうだ、私今手使えないんだった。ちょっと悪いんだけど、私のポケットから写真出してくれない?」
首を傾げてお願いすると、腕を掴む1人が訝しみつつ碧乃のポケットを探り、写真とスマホを取り出した。
「っ!?……これ…!」
「ど、どうした?!」
「何が写ってんだよ?」
顔を青くした1人に驚き、あとの2人もその写真を覗き込んだ。
「なっ?!…」
「お、お前っ…!どこでこれを?!」
それは、どこかのクラブにて彼らが酒と煙草を嗜んでいる写真だった。
「さぁ?どこだろうねぇ?…それを出す所に出せば、君達終わっちゃうかもねー」
「…クソッ」
1人が破り捨てようとその写真をひっ掴む。
「ああ、それ破ってもムダだよ。あと私のスマホに入ってるデータを消してもムダ。元のデータは、とーっても安全な場所に保管されてるから」
「チッ…」
「おい、それはどこだ?!」
「教えないとどうなるか分かってんだろうな?」
「ふふっ。そんなに知りたいの?」
「分かってねーようだな」
「もういいから早くやっちまおーぜ。そしたら大人しくなんだろ──」
「やりたければやればいい!」
「「っ!!」」
3人を射抜く突然の気迫に、彼らはビクリと動きを止めた。
碧乃はそのままニタリと嗤いかける。
「好きなだけ傷を付ければいい。そうしたら私は、証拠が塗りたくられたその体で、警察に行ってあげるから」
「なに?!」
「んな事できる訳ねーだろ!」
「あんたの写真拡散されてもいいのか?はっ、嫌に決まってるよなぁ?」
「いいよ別に」
「なっ、なんだって?!」
「ってか、何その自信?そんなもので私を止められると思ってたの?」
「!?」
「はぁ…、低能な男ってなんで皆おんなじ事しかしないんだろ。女は組み敷けば何でも言う事きくと思ってる」
本当、面白くない。
「私は、自分がどうなろうとどうでもいいんだよ。だから傷を付けられようが、写真を拡散されようが、何の痛手にもならないね」
…ふと、そこで一つ思い至る。
「そういえば、このやり方随分手慣れてるねぇ?もしかして……前にもした事があるの?」
3人の頭の中を、一対の鋭い目が覗き込む。
「っ…!」
「だ、だったら何だって言うんだよ?!」
「ふーん、そっかぁー。…あるのか。じゃあもう君達のそのスマホの中には、良からぬ証拠がいっぱい入ってるわけだ」
「!?は、入ってねーよそんなもん!」
「えー嘘?なんで?君達の大事なコレクション、消しちゃったの?」
「消したんじゃねぇ!山内に消されたんだ!!」
「おいバカっ!」
「あっ…!」
口走ってしまった1人が慌てて口を押さえるも、もう遅い。
碧乃はそれで全てを悟った。
悪魔が再びニタリと嗤う。
「あー……なるほど。そうだったんだ」
山内君がねぇ。
「『ボコられた』って、そういう事だったんだ」
山内は前の被害者の事も救っていた。そして彼がいなければ、次の標的は三吉萌花だったというわけか。
「『悪い奴は懲らしめないと』…だっけ?その言葉、そっくりそのまま君達に返してあげるよ」
「くっ…」
「この……言わせておけば…!」
「さぁどうする?今ここで私を襲い、証拠だらけで解放する?それとも私を監禁する?もしくは殺す?いずれにしても、君達は重い罰を受ける事になる。私は一人で思い立ってここにいる訳じゃない。その写真はある人に頼んで入手してもらったの。だからもしも私が行方不明になったとしたら、その人がすぐに君達に辿り着いて警察につき出してくれるよ」
「っ!」
「あと選択肢があるとすれば……そうだなぁ、このまま何もせず逃げる事かな?」
首を傾げニコッと笑いかけると、男達は悔しそうに歯噛みした。
「ああちなみに、今こうやって腕を掴んでる所からも、君達のDNAが検出されちゃうかもよ?今は技術がだいぶ進歩してるみたいだからね」
「「!!」」
すると、両側の2人は慌てて碧乃の腕を離した。
あー、やっと解放された。
碧乃はゆっくりと立ち上がり膝辺りの埃をはらうと、自信に満ちた目で3人を射抜いた。
「さぁ……どうする?このまま逃げれば、罪に問われる事はないかもよ?」
「「っ……」」
一気に形勢逆転。碧乃の勝利は確実だった。
「~~~っっ!クソッ!!」
「そうだ、逃げるなら私のスマホ返してからにしてね。じゃないと盗難届出しちゃうから」
3人が走り出した所へ声をかけると、碧乃のスマホは苛立つままに倉庫の奥へと投げ捨てられた。
「あっ!」
スマホの行方を追っているうちに、男らはバタバタと姿を消した。
「あー……」
クズ共が。最後の最後に何してくれんのよ。
「うーん、やっぱダメか」
乱雑に置かれた物の中、スマホが落ちていった辺りを探ってみるも、暗くて何も分からなかった。
灯りを持ってきて出直そうと諦め、近くの畳まれたマットの上へと腰をおろした。
はぁ、疲れた。
袖をまくり自分の腕を見てみると、両方の手首の辺りに、くっきりと手の形のアザが出来ていた。膝もうっすらと青くなっていた。
あーあ。やっと谷崎に付けられたやつが消えたとこだったのになぁ。
これも一応、自傷行為になるんだろうか?
……なるんだろうな。
だって。
これを見ると心が安らぐのだから。
自分が痛めつけられている事が、傷がついているという事実が、どうしようもなく心地いい。
『人間失格』である自分が、あるべき姿になった。そう思えるのだ。
手首のアザを、うっそりと眺める。
これだよ。これが、本当の私。
「………………」
私。
わたし。
…………。
………『私』って…………なに…?
「…………ははっ。はははっ」
歪んだ笑いが、込み上げる。
笑うまま、碧乃は両手で顔を覆った。
……やっぱりこんな世界、大っ嫌い。
こうでもしないと、私は『私』でいられない。
この世界に『私』の居場所はない。
本当の私を望んでくれる人もいない。
いやだ、こんな世界。
もういたくないよ…。
†††
森の奥から……ずるり、ずるりと、悪魔が這い出る。
†††
頭の中で悪魔が囁く。
悪魔の息が、心を撫でる。
「…………っ」
いやだ。いやだ。
私はそんな事したくないのに!
この世界にいなきゃいけないのに!
家族を悲しませちゃいけないの。周りの皆を苦しめちゃいけないの。
どうして出てきちゃったの?
なんで声を取り戻したの?
「…………」
…………あいつが壁を壊したからだ。
碧乃の瞳に険が宿る。
あいつが私に近付いたから。
あいつが『普通』を壊したから。
あいつが私を引きずり出すから。
全部全部あいつのせい。あいつが全部悪いんだ。
あいつが。あいつが。あいつが。あいつが。
あいつあいつあいつあいつあいつあいつ…っ!
苦しみが、痛みが、恨みが、悲しみが、ごちゃ混ぜになって全身を襲う。
「…………………大っ嫌いだ…っ……バカ王子……っ…」
真っ暗になりゆく倉庫の中、助けを求める小さな心は、静かに闇に沈んでいった。
何をするでもなく、ただただぼんやりと。
すると、目線が自然と下を向く。
遥か下にある線路が、目に入る。
線路。
間もなく来る電車。
それらが頭の中で結び付き………………声が聞こえた。
“もし…今ここで………──”
「…っ……」
聞こえた。
聞こえてしまった。
†††
悪魔が声を…………取り戻した。
†††
聞こえない。聞こえない。
碧乃は奥歯を噛みしめ静かに立ち、やってきた電車を見やる。
扉が開き、何事もないと乗り込んだ。
学校に到着し、皆と挨拶を交わす。
『おはよう』と……笑顔で。
§
彼女は周囲に笑顔を見せる。穏やかで、当たり障りのない、完璧な笑顔。
あれは、ほんの少し前まで俺がしていた顔。
他を拒絶する、目に見えぬ壁。
……なんで。なんでなんでなんで。
なぜ、分からなかった。
一度は気付いたはずなのに。だから、嫌われようと思ったのに。
自分に仕返しをする事で、彼女の笑顔は楽しんでいるものだと思い込まされた。
巧みに目を、そらされた。
……しかし気付いた所でもう遅い。
自分が彼女にしてあげられる事は何もない。
もうこれ以上影響を及ぼさないよう、彼女から遠く離れるだけ。
「…………っ」
彼女の『笑顔』を見たくないと、光毅は廊下へ出た。重い息を吐き出し、窓の外を眺める。
とそこへ、目の前にいきなり小さな包みを持った手が差し出された。
「はい、チョコレート!」
「…え」
綺麗にネイルのされたその手の持ち主は、足立梨沙だった。
戸惑うままただ突っ立っていると、ぐっと手を掴まれた。
「ほーら!ちゃんと受け取って」
そのままチョコレートを握らされる。
「これ食べて元気出してね?」
「え……なんで…」
「だって…なんかすごく辛そうな顔してたから」
顔を上げると、優しく包み込むような微笑みが見えた。
「大丈夫?…斉川さんと、何かあったの?」
「あ…………」
一瞬打ち明けようとしたが、やはり言えないと開いた口を閉じた。
「いや…別に」
「そう。じゃあもし話したくなったら、いつでも言ってね。私、勉強はできないけど、話聞くくらいならできるから」
「足立……ありがとう」
「ふふっ、どういたしまして。あ、ほらほらチョコ食べて!」
光毅はチョコレートを見つめると、静かに包みを開け口に入れた。
ニタリと上がる口角には、気付かないまま。
重苦しい気持ちのまま、時間だけが過ぎていった。
帰りのホームルームが終わり、光毅は足立と共に教室を出た。
楽しげに話す足立の声を聞き流しながら階段を降り、一階に着いた所でふと、文化部の部室が並ぶ辺りを見やった。
「…………」
「どうしたの?」
足立の声に数秒遅れて反応した後、彼女に断りを入れた。
「…あー、悪い。ちょっと寄るとこあるから」
別れると、光毅はそちらへと歩いていった。
美術部の部室の前に立ち中を覗くと、まだ誰も来ていなかった。
しかしすぐに、目的の人物は現れた。
「来ると思っていましたよ」
振り返ると、田中先輩は優しく笑いかけてくれた。
「僕に、訊きたい事があるのでしょう?」
「…………」
「今は、時間は大丈夫なのですか?」
「…少しなら」
「そうですか」
先輩が部室の鍵を開けるのを待ち、一緒に中へと入る。
「どうぞ」
椅子を用意してくれたので、大人しくそこに座った。
§
「あの」
突然の呼びかけに、碧乃は後ろを振り返った。
立っていたのは、元舎弟3人組のうちの1人だった。
「その…えっと、昨日はごめん。昨日っていうか、今まで?」
「……」
「俺ら、なんかバカな事やってたなって思って…。昨日言われて目が覚めたんだ。ホント、ごめんなさい」
言いながら彼は頭を下げた。
「……そう」
「それで…実は聞いてほしい事があるんだ、姐さん、じゃない斉川さんに」
「なに?」
「ここじゃ話しにくい事なんだ…。ちょっと、一緒に来てくれる?」
「……いいよ」
碧乃は素直に承諾し、促されるまま彼の後に付いていった。
「ここなら誰も来ないよ」
そう言って扉を開けたのは、今は使われていない古い体育倉庫だった。
薄暗い中へ入ると、奥から元舎弟の2人が現れた。
「…え」
後ろでピシャリと扉が閉められる。
「どういう──う゛っ!」
振り向こうとした背中が、思い切り蹴り飛ばされた。
§
「『過剰同調』……という言葉を、知っていますか?」
田中先輩はいつも絵を描いている場所に座り、静かに語り出した。
「かじょうどうちょう…?」
「はい。自分と他者に境界がなく、相手の心情全てが、まるで自分の事のように感じられてしまう性質の事です。…彼女の鋭い目は、まさにそれです」
「…………」
「大抵の人は、知ったところで『他人の事だ』と遮断する事ができますが、彼女の場合、相手の心に寄り添うあまり、見えたもの全てを自分の内に取り込んでしまうんです。分け隔てなく、何もかもを。…だから強く優しくあり、弱く脆いのです」
そう言う田中の笑顔は、悲しさとも苦しさとも思えるものが混じっていた。
自分にはどうする事もできない、と言っているようだった。
「人と距離を置く事で平静を保っていますが、常に孤独でいる事は、やはり辛かったのでしょう。相手の心に寄り添ってしまう程に、本当は皆の事が大好きなのですから」
「え……」
大好き…?
「で、でも…あいつは『大嫌いだ』って…」
「『大嫌い』?……そうですか…。きっと、良くない感情ばかりを見せられたのでしょう。そのせいで、いつからか『好き』が『嫌い』へと転じてしまった」
「…………」
「彼女はいつも、心のどこかで助けを求めていました。『独りはいやだ』と。…そんな時、君が彼女を見つけてくれました」
言いながら、先輩は嬉しさを滲ませた。
「君と関わるようになってから、彼女はとても生き生きして、とても人間らしくなりました。彼女自身の心が、少しずつ表に出てくるようになったんです。小坂君の裏表のない素直な心が、彼女には心地よかったのです」
「!」
心地いい…?俺の…心が?
「ですから彼女は無意識のうちに君を受け入れ、ともに在ろうとした。あなたに勉強を教えるという関係を続けていたのは、そのためです。……しかし、彼女が望んでいたのはそこまで。それ以上踏み込んで来る事は、想定していなかった」
先輩は、真っ直ぐに光毅と目を合わせた。
「今彼女が君を拒絶しているのは、心の奥深くまで踏み込まれる事を怖れているためです。ですが救いを求めている事は変わっていない。……君なら、彼女を孤独から救い出す事ができるはずです。彼女に、『同じだ』と言わしめたあなたなら」
「……え…?」
『同じ』?…何の事だ?
「……以前斉川さんと話をした時に、彼女は僕の事を、自分と『似ている』と言っていました。ですが君の事は……『同じだ』と言ったんです。僕は、似てはいても結局、壁を隔てた向こう側の人間。同じにはなれませんでした。しかし君は、その壁の中に入り、同じ空間にいる事を許されたのです」
「っ!」
斉川が、俺を……受け入れていた…?
「そ、そんな馬鹿な──」
先輩は、ふっと笑みを深くした。
「彼女と『似ている』僕が言うのですから、間違いありません」
「!…」
「だから、どんなに拒絶されても自信を持って踏み込んでいってください。あなたは必ず、彼女の本当の心まで辿り着く事ができますから」
「………………」
光毅は静かに部室を後にした。先輩の言葉をゆっくりと反芻しながら、バスケ部の練習へと身を投じていった。
§
薄暗い旧体育倉庫の中。
膝を床に打ち付けたまま、両手首をそれぞれ2人の男に取られた。
「なぁーんだ、案外ちょろいなぁー」
碧乃を連れてきたもう1人が、言いながら髪を掴み上を向かせる。
「っ…」
「もしかしてぇー、愛の告白とでも思っちゃった?」
「…………」
無理矢理視界に入れられた気持ち悪い笑みを強く睨みつけるも、その笑みは深さを増すだけだった。
腕を掴む2人も、同じ顔を見せている。
「俺らさぁー、姐さんにお叱りを受けて改心したんだよねー、守られてばっかじゃダメだって。今度は俺らが上に立たないとって。だから……あんたを引きずり下ろす事にした」
目の前の男が、怒りを露わにした。
「…よくも馬鹿にしてくれたなぁ?一体誰がクズだって?この状況でもういっぺん言ってみろよ。二度と無駄口叩けねぇようにしてやるからよ」
そう言って、碧乃の服の襟元に手をかけた。
…………だめだ。もう限界。
「…ぷっ!ふふっ、ははははっ」
捕らわれた状況の中、碧乃は盛大に笑い出した。
予想外の反応に、3人の動きが怯みを見せた。
「なっ、なんだこいつ!」
「何笑ってんだよ?!」
「怖すぎて頭おかしくなったんじゃねぇか?」
「マジかよ」
「あはははは」
髪から男の手が離れたので、そのまま下を向き笑い続けた。
ひとしきり笑ったところで、碧乃はゆっくりと顔を上げた。
「──ははっ。はぁー………あーあ、全く」
「っ!」
口角を上げたまま、目の前の男と真っ直ぐに目を合わせる。
「予想通りの反応。予想通りの行動。予想通りの展開。何もかも全て予想通り。予想通り過ぎて……」
碧乃はふっと表情を消した。
「全然面白くない」
「!?」
怯む3人に、碧乃は反撃を開始した。
「君らは本当に、足元にすら及ばないね。私が何も考えずにあんな発言をしたと、本気で思ってるの?」
「な、なんだと?!」
「君らがこうする事を分かっていて、あえてあんな言い方をしたんだよ?」
「はぁ?!で、でたらめを言うなっ!」
「どうせこの場から逃げ出したいだけの嘘だろ?」
「ハハッ、残念でしたぁー!あんたはもう、俺らから永遠に逃げられませーん!」
そう言うと男はポケットからスマホを取り出した。
「今からあんたの恥ずかしーい写真いっぱい撮って──」
「あ、写真撮るの?奇遇だなぁー。私も実は君達の写真、持ってるんだよねー」
「…は?」
眉根を寄せる彼らに、碧乃は朗らかに先を続ける。
「今見せてあげる…って、そうだ、私今手使えないんだった。ちょっと悪いんだけど、私のポケットから写真出してくれない?」
首を傾げてお願いすると、腕を掴む1人が訝しみつつ碧乃のポケットを探り、写真とスマホを取り出した。
「っ!?……これ…!」
「ど、どうした?!」
「何が写ってんだよ?」
顔を青くした1人に驚き、あとの2人もその写真を覗き込んだ。
「なっ?!…」
「お、お前っ…!どこでこれを?!」
それは、どこかのクラブにて彼らが酒と煙草を嗜んでいる写真だった。
「さぁ?どこだろうねぇ?…それを出す所に出せば、君達終わっちゃうかもねー」
「…クソッ」
1人が破り捨てようとその写真をひっ掴む。
「ああ、それ破ってもムダだよ。あと私のスマホに入ってるデータを消してもムダ。元のデータは、とーっても安全な場所に保管されてるから」
「チッ…」
「おい、それはどこだ?!」
「教えないとどうなるか分かってんだろうな?」
「ふふっ。そんなに知りたいの?」
「分かってねーようだな」
「もういいから早くやっちまおーぜ。そしたら大人しくなんだろ──」
「やりたければやればいい!」
「「っ!!」」
3人を射抜く突然の気迫に、彼らはビクリと動きを止めた。
碧乃はそのままニタリと嗤いかける。
「好きなだけ傷を付ければいい。そうしたら私は、証拠が塗りたくられたその体で、警察に行ってあげるから」
「なに?!」
「んな事できる訳ねーだろ!」
「あんたの写真拡散されてもいいのか?はっ、嫌に決まってるよなぁ?」
「いいよ別に」
「なっ、なんだって?!」
「ってか、何その自信?そんなもので私を止められると思ってたの?」
「!?」
「はぁ…、低能な男ってなんで皆おんなじ事しかしないんだろ。女は組み敷けば何でも言う事きくと思ってる」
本当、面白くない。
「私は、自分がどうなろうとどうでもいいんだよ。だから傷を付けられようが、写真を拡散されようが、何の痛手にもならないね」
…ふと、そこで一つ思い至る。
「そういえば、このやり方随分手慣れてるねぇ?もしかして……前にもした事があるの?」
3人の頭の中を、一対の鋭い目が覗き込む。
「っ…!」
「だ、だったら何だって言うんだよ?!」
「ふーん、そっかぁー。…あるのか。じゃあもう君達のそのスマホの中には、良からぬ証拠がいっぱい入ってるわけだ」
「!?は、入ってねーよそんなもん!」
「えー嘘?なんで?君達の大事なコレクション、消しちゃったの?」
「消したんじゃねぇ!山内に消されたんだ!!」
「おいバカっ!」
「あっ…!」
口走ってしまった1人が慌てて口を押さえるも、もう遅い。
碧乃はそれで全てを悟った。
悪魔が再びニタリと嗤う。
「あー……なるほど。そうだったんだ」
山内君がねぇ。
「『ボコられた』って、そういう事だったんだ」
山内は前の被害者の事も救っていた。そして彼がいなければ、次の標的は三吉萌花だったというわけか。
「『悪い奴は懲らしめないと』…だっけ?その言葉、そっくりそのまま君達に返してあげるよ」
「くっ…」
「この……言わせておけば…!」
「さぁどうする?今ここで私を襲い、証拠だらけで解放する?それとも私を監禁する?もしくは殺す?いずれにしても、君達は重い罰を受ける事になる。私は一人で思い立ってここにいる訳じゃない。その写真はある人に頼んで入手してもらったの。だからもしも私が行方不明になったとしたら、その人がすぐに君達に辿り着いて警察につき出してくれるよ」
「っ!」
「あと選択肢があるとすれば……そうだなぁ、このまま何もせず逃げる事かな?」
首を傾げニコッと笑いかけると、男達は悔しそうに歯噛みした。
「ああちなみに、今こうやって腕を掴んでる所からも、君達のDNAが検出されちゃうかもよ?今は技術がだいぶ進歩してるみたいだからね」
「「!!」」
すると、両側の2人は慌てて碧乃の腕を離した。
あー、やっと解放された。
碧乃はゆっくりと立ち上がり膝辺りの埃をはらうと、自信に満ちた目で3人を射抜いた。
「さぁ……どうする?このまま逃げれば、罪に問われる事はないかもよ?」
「「っ……」」
一気に形勢逆転。碧乃の勝利は確実だった。
「~~~っっ!クソッ!!」
「そうだ、逃げるなら私のスマホ返してからにしてね。じゃないと盗難届出しちゃうから」
3人が走り出した所へ声をかけると、碧乃のスマホは苛立つままに倉庫の奥へと投げ捨てられた。
「あっ!」
スマホの行方を追っているうちに、男らはバタバタと姿を消した。
「あー……」
クズ共が。最後の最後に何してくれんのよ。
「うーん、やっぱダメか」
乱雑に置かれた物の中、スマホが落ちていった辺りを探ってみるも、暗くて何も分からなかった。
灯りを持ってきて出直そうと諦め、近くの畳まれたマットの上へと腰をおろした。
はぁ、疲れた。
袖をまくり自分の腕を見てみると、両方の手首の辺りに、くっきりと手の形のアザが出来ていた。膝もうっすらと青くなっていた。
あーあ。やっと谷崎に付けられたやつが消えたとこだったのになぁ。
これも一応、自傷行為になるんだろうか?
……なるんだろうな。
だって。
これを見ると心が安らぐのだから。
自分が痛めつけられている事が、傷がついているという事実が、どうしようもなく心地いい。
『人間失格』である自分が、あるべき姿になった。そう思えるのだ。
手首のアザを、うっそりと眺める。
これだよ。これが、本当の私。
「………………」
私。
わたし。
…………。
………『私』って…………なに…?
「…………ははっ。はははっ」
歪んだ笑いが、込み上げる。
笑うまま、碧乃は両手で顔を覆った。
……やっぱりこんな世界、大っ嫌い。
こうでもしないと、私は『私』でいられない。
この世界に『私』の居場所はない。
本当の私を望んでくれる人もいない。
いやだ、こんな世界。
もういたくないよ…。
†††
森の奥から……ずるり、ずるりと、悪魔が這い出る。
†††
頭の中で悪魔が囁く。
悪魔の息が、心を撫でる。
「…………っ」
いやだ。いやだ。
私はそんな事したくないのに!
この世界にいなきゃいけないのに!
家族を悲しませちゃいけないの。周りの皆を苦しめちゃいけないの。
どうして出てきちゃったの?
なんで声を取り戻したの?
「…………」
…………あいつが壁を壊したからだ。
碧乃の瞳に険が宿る。
あいつが私に近付いたから。
あいつが『普通』を壊したから。
あいつが私を引きずり出すから。
全部全部あいつのせい。あいつが全部悪いんだ。
あいつが。あいつが。あいつが。あいつが。
あいつあいつあいつあいつあいつあいつ…っ!
苦しみが、痛みが、恨みが、悲しみが、ごちゃ混ぜになって全身を襲う。
「…………………大っ嫌いだ…っ……バカ王子……っ…」
真っ暗になりゆく倉庫の中、助けを求める小さな心は、静かに闇に沈んでいった。
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