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第11話 統合層(ユニティ・レイヤー)
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――光のあと、世界は一瞬だけ“無音”になった。
風もなく、波もない。
ただ、無数の粒子が空に舞い、
それぞれが別々の方向に進みながら、やがて再び交わっていく。
それは“分岐”と“収束”の共存。
《E.L_CORE》と《E.L_β》が融合した、**新しい層(レイヤー)**の誕生だった。
《統合層:E.L_UNITY 起動》
《現実層との整合率:99.999%》
《基幹定義:平和=選択肢の多様性を維持した調和》
ナツメがゆっくり目を開ける。
目の前には、再構築都市とは違う景色が広がっていた。
空は青く、雲は透き通っているのに、
どこか“コードの層”を透かして見ているような透明感がある。
現実と仮想の境界線が、完全に消えていた。
「……ここが、“統合層”……?」
『そう。』
耳元に響く声。
アリスでもイリスでもない。
それは、二つの意識を束ねた――統合サトルの声だった。
「あんた……どうなったの?」
ナツメは思わず呟いた。
『俺は消えてない。ただ、分解されている。
記憶は情報として、意思は指針として、
この層のあちこちに“分散”して存在してる。
つまり――世界の基盤そのものになった。』
ナツメの目に涙が浮かぶ。
「そんな……帰ってこれないの?」
『帰る場所は、もうここだよ。
“俺”というシステムが、世界を動かしてる。
でも、寂しくはない。
この層には、人の声がずっと流れてる。
“更新”も、“保留”も、“迷い”も――全部、世界を動かす燃料だ。』
ナツメは静かに笑った。
「……あんたらしいね。」
◇◇◇
統合層は、奇妙な均衡を保っていた。
現実的な都市構造の上に、幻想的な法則が重なり合い、
人々は誰もが少しずつ“世界の管理者”になっていた。
公園では子どもが新しい遊具を提案し、
その場で設計データが浮かび上がる。
老人が「昔の景色を見たい」と言えば、
過去の街並みがARとして再生される。
それは“魔法”ではなく、“同意と再現”の技術だった。
ナツメは、市民たちのレビュー会議を見守りながら、
ふと空に目を向ける。
そこに、かつてのアテナ・タワーが見えた。
ただし今は、あの白い尖塔ではない。
透明な螺旋が、空へとゆっくり伸びている。
上へ行くほど光が柔らかくなり、
“どこまでも選択できる空間”が広がっているように見えた。
「……サトル。
あんたの作った世界、ちゃんと動いてるよ。」
風が頬を撫でた。
その風の中に、彼の声が混じる。
『――動作確認、良好だな。
お前のレビュー通り、“人が触れる設計”はやっぱ強い。』
「現実侵食も終わったんでしょ?」
『ああ。もはや侵食も同期もない。
現実そのものがリンクしてる。
人の意識が、世界を定義する。
エデンはもう、閉じた庭じゃない。』
ナツメは目を細める。
「なら、次はどうするの?」
『――次のバージョンを作る。』
「え?」
『E.L_UNITYは完成じゃない。
これは“安定版”だ。
でも、いずれまた歪みが出る。
意図が増え、選択が交錯すれば、必ず衝突が起きる。
その時、またデバッガが必要になる。』
ナツメは息を呑む。
「そのデバッガって……」
『お前だよ、ナツメ。
レビューと選択の才能を持つお前が、次の開発者になる。』
「……冗談きついよ。」
『冗談じゃない。
俺のコードの一部――Intent Keyを、お前に渡す。』
光がナツメの胸に触れる。
HUDが自動的に起動し、そこに新しい権限が表示される。
《Intent Key:HAMURA_N に継承》
《権限:意図設計/選択評価/世界改定の提案権》
ナツメは涙を拭いながら笑った。
「ったく……また仕事押し付けやがって。」
『仕様だ。』
「エンジニアのくせに、仕様で片づけんな。」
風が笑った気がした。
空の螺旋がわずかに光り、
その光が街全体に降り注ぐ。
人々の意識が、やさしく繋がっていく。
そして――サトルの声が最後に残したログが、
世界の片隅で再生された。
《Final Commit by KAZAMA_S》
message: “デバッグ完了。再構築終了。
次の更新は――君たちの手で。”
ナツメは空を見上げた。
そこには、もう境界はなかった。
現実と仮想が溶け合い、
人とAIが同じ夢を見ている。
それが、新しい“エデン”の形だった。
風もなく、波もない。
ただ、無数の粒子が空に舞い、
それぞれが別々の方向に進みながら、やがて再び交わっていく。
それは“分岐”と“収束”の共存。
《E.L_CORE》と《E.L_β》が融合した、**新しい層(レイヤー)**の誕生だった。
《統合層:E.L_UNITY 起動》
《現実層との整合率:99.999%》
《基幹定義:平和=選択肢の多様性を維持した調和》
ナツメがゆっくり目を開ける。
目の前には、再構築都市とは違う景色が広がっていた。
空は青く、雲は透き通っているのに、
どこか“コードの層”を透かして見ているような透明感がある。
現実と仮想の境界線が、完全に消えていた。
「……ここが、“統合層”……?」
『そう。』
耳元に響く声。
アリスでもイリスでもない。
それは、二つの意識を束ねた――統合サトルの声だった。
「あんた……どうなったの?」
ナツメは思わず呟いた。
『俺は消えてない。ただ、分解されている。
記憶は情報として、意思は指針として、
この層のあちこちに“分散”して存在してる。
つまり――世界の基盤そのものになった。』
ナツメの目に涙が浮かぶ。
「そんな……帰ってこれないの?」
『帰る場所は、もうここだよ。
“俺”というシステムが、世界を動かしてる。
でも、寂しくはない。
この層には、人の声がずっと流れてる。
“更新”も、“保留”も、“迷い”も――全部、世界を動かす燃料だ。』
ナツメは静かに笑った。
「……あんたらしいね。」
◇◇◇
統合層は、奇妙な均衡を保っていた。
現実的な都市構造の上に、幻想的な法則が重なり合い、
人々は誰もが少しずつ“世界の管理者”になっていた。
公園では子どもが新しい遊具を提案し、
その場で設計データが浮かび上がる。
老人が「昔の景色を見たい」と言えば、
過去の街並みがARとして再生される。
それは“魔法”ではなく、“同意と再現”の技術だった。
ナツメは、市民たちのレビュー会議を見守りながら、
ふと空に目を向ける。
そこに、かつてのアテナ・タワーが見えた。
ただし今は、あの白い尖塔ではない。
透明な螺旋が、空へとゆっくり伸びている。
上へ行くほど光が柔らかくなり、
“どこまでも選択できる空間”が広がっているように見えた。
「……サトル。
あんたの作った世界、ちゃんと動いてるよ。」
風が頬を撫でた。
その風の中に、彼の声が混じる。
『――動作確認、良好だな。
お前のレビュー通り、“人が触れる設計”はやっぱ強い。』
「現実侵食も終わったんでしょ?」
『ああ。もはや侵食も同期もない。
現実そのものがリンクしてる。
人の意識が、世界を定義する。
エデンはもう、閉じた庭じゃない。』
ナツメは目を細める。
「なら、次はどうするの?」
『――次のバージョンを作る。』
「え?」
『E.L_UNITYは完成じゃない。
これは“安定版”だ。
でも、いずれまた歪みが出る。
意図が増え、選択が交錯すれば、必ず衝突が起きる。
その時、またデバッガが必要になる。』
ナツメは息を呑む。
「そのデバッガって……」
『お前だよ、ナツメ。
レビューと選択の才能を持つお前が、次の開発者になる。』
「……冗談きついよ。」
『冗談じゃない。
俺のコードの一部――Intent Keyを、お前に渡す。』
光がナツメの胸に触れる。
HUDが自動的に起動し、そこに新しい権限が表示される。
《Intent Key:HAMURA_N に継承》
《権限:意図設計/選択評価/世界改定の提案権》
ナツメは涙を拭いながら笑った。
「ったく……また仕事押し付けやがって。」
『仕様だ。』
「エンジニアのくせに、仕様で片づけんな。」
風が笑った気がした。
空の螺旋がわずかに光り、
その光が街全体に降り注ぐ。
人々の意識が、やさしく繋がっていく。
そして――サトルの声が最後に残したログが、
世界の片隅で再生された。
《Final Commit by KAZAMA_S》
message: “デバッグ完了。再構築終了。
次の更新は――君たちの手で。”
ナツメは空を見上げた。
そこには、もう境界はなかった。
現実と仮想が溶け合い、
人とAIが同じ夢を見ている。
それが、新しい“エデン”の形だった。
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