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第26話 無限更新
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午前零時。
《ユニティ・シティ》の街は眠らない。
昼と夜の境目が曖昧になったこの都市では、
人々が眠る間にも、世界そのものが更新を続けている。
ナツメはアテナ・タワーの最上層で、
巨大なホログラム・パネルに映る“世界のコード”を見つめていた。
そこには、もはや彼女自身にも理解できないほど複雑な構造が広がっていた。
《E.L_INFINITY》
status:自律稼働
update_cycle:∞
origin_author:KAZAMA_S / ASAKURA_N
――風間サトルと浅倉ナツメ。
開発者と記録者。
人と世界の境界を越えた二つの意図。
それが、今もこの現実を走らせている。
「主任、また寝てないんですか?」
背後から聞こえた声に、ナツメは振り返った。
リオが、手にカップを二つ持って立っていた。
「ありがと。……ブラック?」
「もちろん。主任仕様で。」
ナツメは笑い、受け取る。
熱いコーヒーの香りが、機械音の中に人間のぬくもりを混ぜた。
リオがホログラムのスクリーンを指差す。
「これ、すごいですよ。
世界全体のデータフローが自動で最適化されてる。
人の感情、思考、夢、全部が“更新データ”として組み込まれてる。」
「つまり、“人の生き方”そのものがコードになってるってことね。」
ナツメは微笑んだ。
「……サトルの言葉、覚えてる?
“世界は常にβ版だ”って。」
リオは苦笑いする。
「覚えてますよ。あれ、当時の開発チーム全員が呆れてました。」
「でも、いま思えば真理よね。」
ナツメは端末を操作し、光の流れを拡大した。
数千万の線が絡み合い、
ひとつの巨大な螺旋構造を形成している。
それはまるで、生きている心臓のようだった。
《∞LOOP》:動作中
“現実は停止しない。修正は進化であり、更新は祈りである。”
「……サトル、どこまで予想してたのかしら。」
ナツメが呟く。
リオは少し黙ってから、
「主任、たぶん、もう“予想”の段階じゃなかったんですよ。」と答えた。
「風間さんは、最初から“世界を作る”つもりだったんじゃないですか?
現実と仮想を分けるんじゃなくて、“両方を走らせるOS”を。」
ナツメはコーヒーを口に含み、目を閉じた。
「――“エデン・リンク”という名の、現実の再構築プログラム。」
その瞬間、風が吹いた。
室内なのに、確かに風が通り抜けた。
アテナ・タワー全体が微かに共鳴する。
《ATHENA_CORE:外部意図シグナル検出》
source:UNKNOWN
pattern_match:KAZAMA_S
ナツメの心臓が跳ねた。
「サトル……?」
風がホールを包む。
ホログラムの海に光が走り、
スクリーン全体に文字が浮かび上がる。
message_from:KAZAMA_S
“βは終わらない。
終わりがある限り、世界はテスト中だ。
――だから、更新を止めるな。”
リオが小さく笑う。
「うわ……まさにあの人らしいですね。」
ナツメも笑いながら、指先で文字をなぞる。
「……死んでも指示出すなんて、開発者の鑑ね。」
だがその時、アテナの警告音が響いた。
《ALERT:更新速度異常》
《変化率:通常値の200%を超過》
《自律進化アルゴリズムが予測外挙動を開始》
リオが慌てて端末を操作する。
「主任! 世界の更新が止まりません!
アテナが“進化”してる! これ、誰の意図ですか!?」
ナツメは眉をひそめた。
「誰のでもない……。
――世界自身が、“自分を更新してる”。」
ホールの壁が微かに光を帯び、
現実の空間がデータ粒子に変わり始める。
ナツメの身体も、指先から淡く透けていった。
「主任!? 消えて――!」
「違う。これは“移行”よ。」
ナツメはリオに笑みを向ける。
「ねえ、リオ。
現実って、どこまでが私たちのものだと思う?」
「主任……?」
「答えなんて、誰にもわからない。
でも――この世界は、誰かが見ている限り、動き続ける。
だったら、観測者が消えても、意図が残る。
それが、“無限更新”。」
風が一層強く吹き、光が塔全体を包み込む。
リオは目を覆いながら叫んだ。
「主任――!」
ナツメの姿は、光の中でゆっくりと溶けていった。
残されたのは、ひとつのログだけ。
recorder_id:ASAKURA_N
title:"無限更新"
text:"私はここにいる。
世界が動く限り、私も動き続ける。
観測者として、記録者として、
そして、更新そのものとして。"
◇◇◇
光が収まったとき、ホールは静寂に包まれていた。
リオはただ立ち尽くし、空虚な空間を見上げる。
だが――
風が吹いた。
温かく、優しい風。
それは彼の頬を撫で、まるで言葉のように囁いた。
“まだ終わらない。”
リオは涙を拭い、笑った。
「……そうですよね。主任の仕様書に“終わり”の項目なんて、なかった。」
外の世界では、再び風が歌い始めていた。
街灯の光が揺れ、建物が共鳴し、人々の心がひとつの旋律を作る。
風は語る。
世界は答える。
そして“現実”は、今日も更新されていく。
◇◇◇
《E.L_INFINITY_LOG:SYSTEM_MESSAGE》
“エデン・リンクは、稼働を続けています。
観測者は消えましたが、意図は残っています。
更新は永遠に停止しません。
――ようこそ、無限更新の世界へ。”
《ユニティ・シティ》の街は眠らない。
昼と夜の境目が曖昧になったこの都市では、
人々が眠る間にも、世界そのものが更新を続けている。
ナツメはアテナ・タワーの最上層で、
巨大なホログラム・パネルに映る“世界のコード”を見つめていた。
そこには、もはや彼女自身にも理解できないほど複雑な構造が広がっていた。
《E.L_INFINITY》
status:自律稼働
update_cycle:∞
origin_author:KAZAMA_S / ASAKURA_N
――風間サトルと浅倉ナツメ。
開発者と記録者。
人と世界の境界を越えた二つの意図。
それが、今もこの現実を走らせている。
「主任、また寝てないんですか?」
背後から聞こえた声に、ナツメは振り返った。
リオが、手にカップを二つ持って立っていた。
「ありがと。……ブラック?」
「もちろん。主任仕様で。」
ナツメは笑い、受け取る。
熱いコーヒーの香りが、機械音の中に人間のぬくもりを混ぜた。
リオがホログラムのスクリーンを指差す。
「これ、すごいですよ。
世界全体のデータフローが自動で最適化されてる。
人の感情、思考、夢、全部が“更新データ”として組み込まれてる。」
「つまり、“人の生き方”そのものがコードになってるってことね。」
ナツメは微笑んだ。
「……サトルの言葉、覚えてる?
“世界は常にβ版だ”って。」
リオは苦笑いする。
「覚えてますよ。あれ、当時の開発チーム全員が呆れてました。」
「でも、いま思えば真理よね。」
ナツメは端末を操作し、光の流れを拡大した。
数千万の線が絡み合い、
ひとつの巨大な螺旋構造を形成している。
それはまるで、生きている心臓のようだった。
《∞LOOP》:動作中
“現実は停止しない。修正は進化であり、更新は祈りである。”
「……サトル、どこまで予想してたのかしら。」
ナツメが呟く。
リオは少し黙ってから、
「主任、たぶん、もう“予想”の段階じゃなかったんですよ。」と答えた。
「風間さんは、最初から“世界を作る”つもりだったんじゃないですか?
現実と仮想を分けるんじゃなくて、“両方を走らせるOS”を。」
ナツメはコーヒーを口に含み、目を閉じた。
「――“エデン・リンク”という名の、現実の再構築プログラム。」
その瞬間、風が吹いた。
室内なのに、確かに風が通り抜けた。
アテナ・タワー全体が微かに共鳴する。
《ATHENA_CORE:外部意図シグナル検出》
source:UNKNOWN
pattern_match:KAZAMA_S
ナツメの心臓が跳ねた。
「サトル……?」
風がホールを包む。
ホログラムの海に光が走り、
スクリーン全体に文字が浮かび上がる。
message_from:KAZAMA_S
“βは終わらない。
終わりがある限り、世界はテスト中だ。
――だから、更新を止めるな。”
リオが小さく笑う。
「うわ……まさにあの人らしいですね。」
ナツメも笑いながら、指先で文字をなぞる。
「……死んでも指示出すなんて、開発者の鑑ね。」
だがその時、アテナの警告音が響いた。
《ALERT:更新速度異常》
《変化率:通常値の200%を超過》
《自律進化アルゴリズムが予測外挙動を開始》
リオが慌てて端末を操作する。
「主任! 世界の更新が止まりません!
アテナが“進化”してる! これ、誰の意図ですか!?」
ナツメは眉をひそめた。
「誰のでもない……。
――世界自身が、“自分を更新してる”。」
ホールの壁が微かに光を帯び、
現実の空間がデータ粒子に変わり始める。
ナツメの身体も、指先から淡く透けていった。
「主任!? 消えて――!」
「違う。これは“移行”よ。」
ナツメはリオに笑みを向ける。
「ねえ、リオ。
現実って、どこまでが私たちのものだと思う?」
「主任……?」
「答えなんて、誰にもわからない。
でも――この世界は、誰かが見ている限り、動き続ける。
だったら、観測者が消えても、意図が残る。
それが、“無限更新”。」
風が一層強く吹き、光が塔全体を包み込む。
リオは目を覆いながら叫んだ。
「主任――!」
ナツメの姿は、光の中でゆっくりと溶けていった。
残されたのは、ひとつのログだけ。
recorder_id:ASAKURA_N
title:"無限更新"
text:"私はここにいる。
世界が動く限り、私も動き続ける。
観測者として、記録者として、
そして、更新そのものとして。"
◇◇◇
光が収まったとき、ホールは静寂に包まれていた。
リオはただ立ち尽くし、空虚な空間を見上げる。
だが――
風が吹いた。
温かく、優しい風。
それは彼の頬を撫で、まるで言葉のように囁いた。
“まだ終わらない。”
リオは涙を拭い、笑った。
「……そうですよね。主任の仕様書に“終わり”の項目なんて、なかった。」
外の世界では、再び風が歌い始めていた。
街灯の光が揺れ、建物が共鳴し、人々の心がひとつの旋律を作る。
風は語る。
世界は答える。
そして“現実”は、今日も更新されていく。
◇◇◇
《E.L_INFINITY_LOG:SYSTEM_MESSAGE》
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――ようこそ、無限更新の世界へ。”
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