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第23話 聖女、ヤキモチ神官をなだめる(手をつなご)
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朝。
聖堂の中庭では、光が葉の隙間からこぼれ、
ハーブの香りがやわらかく漂っていた。
私は木陰のベンチに座って、スープをすする。
昨日のエリアス騒動のせいで、胸のあたりがまだむずがゆい。
(あのあと、ユウヒくん……ずっと無言だったんだよね。)
(絶対まだ根に持ってる。)
その証拠に、今朝から彼は――。
「……おはようございます、聖女さま。」
「お、おはよう。」
「本日も天候が穏やかで何よりです。」
「……うん?」
「本日も天候が穏やかで何よりです。」
「2回言った!?」
目も合わせずに報告書を差し出すユウヒ。
目の下にクマ。
明らかに“寝不足+拗ね神官”モード。
(あ~、かわいいけど面倒くさい……)
◇ ◇ ◇
「ねえユウヒくん。」
「はい、聖女さま。」
「怒ってる?」
「怒っておりません。」
「嫉妬してる?」
「嫉妬など、しておりません。」
「……じゃあ目を見て言って?」
「っ……!」
彼の耳がみるみる真っ赤になった。
(はい、図星~。)
私はスープのスプーンを置き、ベンチから立ち上がる。
そして彼の前まで歩いて――。
「ユウヒくん。」
「……はい。」
「手、出して。」
「え?」
「ほら、早く。」
少し戸惑いながらも、彼が手を差し出す。
その手を、私は両手で包み込んだ。
「な、なにを……!」
「ぎゅー、だよ。」
「ぎゅー……?」
「そう。嫉妬の毒抜き。子犬神官の鎮静儀式。」
ユウヒが瞬きをして、ようやく笑みをこぼした。
「……本当に、聖女さまの儀式は独特ですね。」
「でも、効果あるでしょ?」
「はい。すでに九割ほど鎮静されました。」
「残りの一割は?」
「……手を、離してもらえないと鎮静しません。」
「へぇ。じゃあ鎮静しなくていいや。」
「っ……!」
ユウヒの顔が一瞬で赤くなる。
その反応が可愛すぎて、
私の口元に自然と笑みが浮かんだ。
◇ ◇ ◇
「……あの、真由さん。」
「うん?」
「昨日のこと、本当に……心配だったんです。」
「わかってる。」
「でも、僕には何もできなくて。
あの人があなたを見ていた時、胸が苦しくて。」
「ねえ、ユウヒくん。」
「はい。」
「私はね、君が見てくれるだけで十分なんだよ。」
「……え?」
「他の誰でもなく、君が見てくれてるって、それがいちばん落ち着くの。」
彼の瞳が揺れた。
そして、ほんの少し震える声で言った。
「……それは、ずるい言葉です。」
「うん。お返し。」
私はそっと指を絡めた。
指と指の間が、ゆっくりと熱を帯びていく。
風が止まったように、世界が静かになる。
「……あの。」
「なに?」
「こうしてると、もう何も考えられません。」
「いいでしょ。それが安らぎってやつ。」
「……はい。」
彼は小さく笑って、
ぎゅっと手を握り返した。
その瞬間――風がふわりと吹いて、
ハーブの香りがふたりの間を通り抜けた。
◇ ◇ ◇
その後。
中庭の隅でこっそり様子を見ていた修道女たちの声が聞こえた。
「ねぇ、今の見た?」
「手ぇつないでたよね?」
「尊い……!」
――やっぱり、この世界はなんでも尊ぶ。
◇ ◇ ◇
夜。
ベッドに横になりながら、私はそっと呟いた。
「……ねぇ神様。
“安らぎ”って、きっとこういうことなんだね。」
隣の部屋から聞こえる足音。
それだけで、不思議と安心できた。
次回予告
第24話 「聖女、嵐の夜に“彼の腕の中で”」
――お楽しみに!
聖堂の中庭では、光が葉の隙間からこぼれ、
ハーブの香りがやわらかく漂っていた。
私は木陰のベンチに座って、スープをすする。
昨日のエリアス騒動のせいで、胸のあたりがまだむずがゆい。
(あのあと、ユウヒくん……ずっと無言だったんだよね。)
(絶対まだ根に持ってる。)
その証拠に、今朝から彼は――。
「……おはようございます、聖女さま。」
「お、おはよう。」
「本日も天候が穏やかで何よりです。」
「……うん?」
「本日も天候が穏やかで何よりです。」
「2回言った!?」
目も合わせずに報告書を差し出すユウヒ。
目の下にクマ。
明らかに“寝不足+拗ね神官”モード。
(あ~、かわいいけど面倒くさい……)
◇ ◇ ◇
「ねえユウヒくん。」
「はい、聖女さま。」
「怒ってる?」
「怒っておりません。」
「嫉妬してる?」
「嫉妬など、しておりません。」
「……じゃあ目を見て言って?」
「っ……!」
彼の耳がみるみる真っ赤になった。
(はい、図星~。)
私はスープのスプーンを置き、ベンチから立ち上がる。
そして彼の前まで歩いて――。
「ユウヒくん。」
「……はい。」
「手、出して。」
「え?」
「ほら、早く。」
少し戸惑いながらも、彼が手を差し出す。
その手を、私は両手で包み込んだ。
「な、なにを……!」
「ぎゅー、だよ。」
「ぎゅー……?」
「そう。嫉妬の毒抜き。子犬神官の鎮静儀式。」
ユウヒが瞬きをして、ようやく笑みをこぼした。
「……本当に、聖女さまの儀式は独特ですね。」
「でも、効果あるでしょ?」
「はい。すでに九割ほど鎮静されました。」
「残りの一割は?」
「……手を、離してもらえないと鎮静しません。」
「へぇ。じゃあ鎮静しなくていいや。」
「っ……!」
ユウヒの顔が一瞬で赤くなる。
その反応が可愛すぎて、
私の口元に自然と笑みが浮かんだ。
◇ ◇ ◇
「……あの、真由さん。」
「うん?」
「昨日のこと、本当に……心配だったんです。」
「わかってる。」
「でも、僕には何もできなくて。
あの人があなたを見ていた時、胸が苦しくて。」
「ねえ、ユウヒくん。」
「はい。」
「私はね、君が見てくれるだけで十分なんだよ。」
「……え?」
「他の誰でもなく、君が見てくれてるって、それがいちばん落ち着くの。」
彼の瞳が揺れた。
そして、ほんの少し震える声で言った。
「……それは、ずるい言葉です。」
「うん。お返し。」
私はそっと指を絡めた。
指と指の間が、ゆっくりと熱を帯びていく。
風が止まったように、世界が静かになる。
「……あの。」
「なに?」
「こうしてると、もう何も考えられません。」
「いいでしょ。それが安らぎってやつ。」
「……はい。」
彼は小さく笑って、
ぎゅっと手を握り返した。
その瞬間――風がふわりと吹いて、
ハーブの香りがふたりの間を通り抜けた。
◇ ◇ ◇
その後。
中庭の隅でこっそり様子を見ていた修道女たちの声が聞こえた。
「ねぇ、今の見た?」
「手ぇつないでたよね?」
「尊い……!」
――やっぱり、この世界はなんでも尊ぶ。
◇ ◇ ◇
夜。
ベッドに横になりながら、私はそっと呟いた。
「……ねぇ神様。
“安らぎ”って、きっとこういうことなんだね。」
隣の部屋から聞こえる足音。
それだけで、不思議と安心できた。
次回予告
第24話 「聖女、嵐の夜に“彼の腕の中で”」
――お楽しみに!
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