24 / 51
第24話 聖女、嵐の夜に“彼の腕の中で”
しおりを挟む
夜。
昼間まであんなに穏やかだった空が、
今は怒っているみたいに雷鳴を轟かせていた。
「ひ、ひいぃ……っ」
私はベッドの上で布団を抱きしめていた。
子どもみたいに、全身を丸めて。
(この世界、雷の音でかすぎない!?)
(音圧が現代よりハイレベルなんだけど!)
窓がガタガタと震え、
稲光が部屋の中を一瞬真っ白に染めた。
「……ぅひゃっ!」
反射的に悲鳴が出る。
そしてその直後――。
コン、コン。
「真由さん、大丈夫ですか!?」
ユウヒの声だ。
まるで合図したようなタイミング。
「……だ、大丈夫。
たぶん……心臓は生きてる……」
扉が開いて、彼が飛び込んできた。
手には灯り、顔は真剣。
「怖いなら、無理に一人でいないでください。」
「怖いとかじゃなくて……びっくりしただけで……」
「その震え方はびっくりのレベルを超えています。」
「……見ないで。」
「見ます。」
(なにこの会話。羞恥心が限界。)
◇ ◇ ◇
稲光がまた走った。
その一瞬で、私は反射的に彼の服の袖を掴んでしまう。
「っ、ごめん!」
「いいんです。……ほら。」
彼がベッドの端に腰を下ろした。
そして、静かに腕を伸ばしてきて――。
「怖い時は、人に頼ってください。」
そのまま、肩を包むように抱き寄せられた。
◇ ◇ ◇
一瞬、世界が止まった。
鼓動の音だけが、やけに鮮明に響いてくる。
(え……近い、近い……!)
(ていうか今、普通に抱きしめられてるんですけど!?)
ユウヒの胸の中は、驚くほどあたたかかった。
彼の心臓の音が、私の胸の奥にまで伝わってくる。
「……あのね。」
「はい。」
「雷、昔から苦手なの。
だから、こうしてくれるとちょっと安心する。」
「よかった。」
短く、でもやさしい返事。
それが心に沁みた。
◇ ◇ ◇
外では雷が鳴っているのに、
不思議と怖くなかった。
「ねえ、ユウヒくん。」
「はい。」
「こうやって誰かに包まれてるの、すごく安心するね。」
「僕も、です。」
「え?」
「僕も、こうしてると……守られてる気がします。」
「……え、それは逆じゃない?」
「いいえ。あなたのぬくもりが、僕を落ち着かせるんです。」
ユウヒの声が少し震えていた。
その震えが、私の胸の奥で小さく共鳴する。
(ああ、この人、本当に優しいんだな。)
◇ ◇ ◇
しばらく沈黙。
けれど、心地よい沈黙だった。
雷の音が遠くで響いても、
彼の腕の中は別世界みたいに穏やかで。
「……ユウヒくん。」
「はい。」
「ありがと。」
「こちらこそ。」
彼が微笑む。
その笑顔が近すぎて、呼吸を忘れた。
(ダメだ、距離ゼロ。
これはもう……恋とかそういう次元じゃない。)
「……もう少しだけ、このままでいいですか?」
「……うん。」
彼の胸に顔を埋めた。
そこから聞こえる鼓動が、まるで子守唄のようで――
いつの間にか、眠っていた。
◇ ◇ ◇
翌朝。
目を開けたら、ユウヒが隣で座っていた。
寝癖のまま、微笑んでいる。
「おはようございます、真由さん。」
「……おはよう。寝てたの?」
「ずっと起きてました。
あなたが安心して眠れるように、見ていましたから。」
「……もう、ほんとにずるい人。」
「またそれですか?」
「うん。でも、そういう“ずるさ”なら、好きだよ。」
その言葉に、彼は一瞬動きを止めて――
顔を真っ赤にした。
「そ、それは反則です……!」
「お互いさま、でしょ?」
ふたりの笑い声が、朝の光の中で溶けていった。
次回予告
第25話 「聖女、風の噂で“婚約者!?”を知る」
――お楽しみに!
昼間まであんなに穏やかだった空が、
今は怒っているみたいに雷鳴を轟かせていた。
「ひ、ひいぃ……っ」
私はベッドの上で布団を抱きしめていた。
子どもみたいに、全身を丸めて。
(この世界、雷の音でかすぎない!?)
(音圧が現代よりハイレベルなんだけど!)
窓がガタガタと震え、
稲光が部屋の中を一瞬真っ白に染めた。
「……ぅひゃっ!」
反射的に悲鳴が出る。
そしてその直後――。
コン、コン。
「真由さん、大丈夫ですか!?」
ユウヒの声だ。
まるで合図したようなタイミング。
「……だ、大丈夫。
たぶん……心臓は生きてる……」
扉が開いて、彼が飛び込んできた。
手には灯り、顔は真剣。
「怖いなら、無理に一人でいないでください。」
「怖いとかじゃなくて……びっくりしただけで……」
「その震え方はびっくりのレベルを超えています。」
「……見ないで。」
「見ます。」
(なにこの会話。羞恥心が限界。)
◇ ◇ ◇
稲光がまた走った。
その一瞬で、私は反射的に彼の服の袖を掴んでしまう。
「っ、ごめん!」
「いいんです。……ほら。」
彼がベッドの端に腰を下ろした。
そして、静かに腕を伸ばしてきて――。
「怖い時は、人に頼ってください。」
そのまま、肩を包むように抱き寄せられた。
◇ ◇ ◇
一瞬、世界が止まった。
鼓動の音だけが、やけに鮮明に響いてくる。
(え……近い、近い……!)
(ていうか今、普通に抱きしめられてるんですけど!?)
ユウヒの胸の中は、驚くほどあたたかかった。
彼の心臓の音が、私の胸の奥にまで伝わってくる。
「……あのね。」
「はい。」
「雷、昔から苦手なの。
だから、こうしてくれるとちょっと安心する。」
「よかった。」
短く、でもやさしい返事。
それが心に沁みた。
◇ ◇ ◇
外では雷が鳴っているのに、
不思議と怖くなかった。
「ねえ、ユウヒくん。」
「はい。」
「こうやって誰かに包まれてるの、すごく安心するね。」
「僕も、です。」
「え?」
「僕も、こうしてると……守られてる気がします。」
「……え、それは逆じゃない?」
「いいえ。あなたのぬくもりが、僕を落ち着かせるんです。」
ユウヒの声が少し震えていた。
その震えが、私の胸の奥で小さく共鳴する。
(ああ、この人、本当に優しいんだな。)
◇ ◇ ◇
しばらく沈黙。
けれど、心地よい沈黙だった。
雷の音が遠くで響いても、
彼の腕の中は別世界みたいに穏やかで。
「……ユウヒくん。」
「はい。」
「ありがと。」
「こちらこそ。」
彼が微笑む。
その笑顔が近すぎて、呼吸を忘れた。
(ダメだ、距離ゼロ。
これはもう……恋とかそういう次元じゃない。)
「……もう少しだけ、このままでいいですか?」
「……うん。」
彼の胸に顔を埋めた。
そこから聞こえる鼓動が、まるで子守唄のようで――
いつの間にか、眠っていた。
◇ ◇ ◇
翌朝。
目を開けたら、ユウヒが隣で座っていた。
寝癖のまま、微笑んでいる。
「おはようございます、真由さん。」
「……おはよう。寝てたの?」
「ずっと起きてました。
あなたが安心して眠れるように、見ていましたから。」
「……もう、ほんとにずるい人。」
「またそれですか?」
「うん。でも、そういう“ずるさ”なら、好きだよ。」
その言葉に、彼は一瞬動きを止めて――
顔を真っ赤にした。
「そ、それは反則です……!」
「お互いさま、でしょ?」
ふたりの笑い声が、朝の光の中で溶けていった。
次回予告
第25話 「聖女、風の噂で“婚約者!?”を知る」
――お楽しみに!
0
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
乙女ゲームっぽい世界に転生したけど何もかもうろ覚え!~たぶん悪役令嬢だと思うけど自信が無い~
天木奏音
恋愛
雨の日に滑って転んで頭を打った私は、気付いたら公爵令嬢ヴィオレッタに転生していた。
どうやらここは前世親しんだ乙女ゲームかラノベの世界っぽいけど、疲れ切ったアラフォーのうろんな記憶力では何の作品の世界か特定できない。
鑑で見た感じ、どう見ても悪役令嬢顔なヴィオレッタ。このままだと破滅一直線!?ヒロインっぽい子を探して仲良くなって、この世界では平穏無事に長生きしてみせます!
※他サイトにも掲載しています
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!
水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。
ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。
しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。
★ファンタジー小説大賞エントリー中です。
※完結しました!
婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される
ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。
婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。しかしその虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。
虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!?
【この作品は、別名義で投稿していたものを加筆修正したものになります。ご了承ください】
【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる