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第25話 聖女、風の噂で“婚約者!?”を知る
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朝。
王都の市場から帰ってきた修道女が、
私の部屋に飛び込んできた。
「せ、聖女さまっ! 聞きました!?」
「おはよう、うるさい。まだ寝起き五秒。」
「ゆ、ユウヒ様に……婚約者がいるって!!」
「………………え?」
頭が一瞬で冴えた。
「婚約者って……だれ?」
「なんでも、他国の神殿に仕える貴族の娘だとか……」
「へぇ~……そうなんだ~……」
笑顔を作ってみたけど、
声が裏返った。
(ちょっと待って、それ初耳なんだけど!?)
◇ ◇ ◇
午前中、聖堂の回廊でユウヒとすれ違った。
「おはようございます、真由さん。」
「……おはよ。」
「どうかされましたか? 顔がこわばっています。」
「な、なんでもないよー?」
(聞く? いや、聞ける? いやでも気になる!)
沈黙。
気まずい空気。
(ダメだ、耐えられない!)
「ねえ、ユウヒくん。」
「はい?」
「……婚約者、いる?」
「……え?」
ユウヒが目を瞬かせた。
空気が一瞬で止まる。
「婚約者……って、その、誰から聞いたんですか?」
「市場の修道女情報ネットワークから。」
「ネットワーク強いですね!?」
思わず笑いがこぼれたけど、
その笑顔はすぐに曇った。
「……本当はどうなの?」
彼は少しだけ黙り、
ゆっくり首を横に振った。
「いません。」
「……ほんとに?」
「ええ。昔、縁談の話があったことはあります。
でも、僕はすべて断りました。」
「なんで?」
その問いに、彼は真っ直ぐな瞳で言った。
「心に決めた人がいるからです。」
心臓が止まるかと思った。
「……そ、そっか。……そうなんだ……。」
「はい。」
(落ち着け、真由。ここで“誰?”とか聞いたら完全に地雷!)
(でも……でも……!)
「……その人って……どんな人?」
「少し不器用で、寝るのが得意な人です。」
「……!」
(それ、私じゃん。)
顔が一気に熱くなった。
頭が真っ白になって、
言葉が喉の奥で詰まる。
◇ ◇ ◇
「……どうしてそんな顔してるんですか?」
「し、してないっ!」
「してます。」
「してないってば!」
「赤いです。」
「黙れ!」
頬を両手で押さえて、私はそっぽを向いた。
(無理。もう顔合わせられない。羞恥で死ぬ。)
それでも、
ユウヒの声がそっと耳に届く。
「……真由さん。」
「……なに。」
「誰が何を言おうと、僕の隣はあなたです。」
「っ……!」
その一言で、
胸の奥のもやもやがすっと溶けた。
「……ずるいな、ほんとに。」
「またそれですか?」
「うん。ほんとにずるい。」
でもその“ずるさ”が、
どうしようもなく好きだった。
◇ ◇ ◇
夜。
一人になって、ベッドの上で考える。
“心に決めた人”って、
あの人にとってどんな意味なんだろう。
(私……もう完全に恋してるんだなぁ。)
布団の中で、
そっと笑ってみた。
雷よりも怖かった“嫉妬”が、
今は少しだけ甘く感じた。
次回予告
第26話 「聖女、恋と使命のはざまで(選ばれし者)」
――お楽しみに!
王都の市場から帰ってきた修道女が、
私の部屋に飛び込んできた。
「せ、聖女さまっ! 聞きました!?」
「おはよう、うるさい。まだ寝起き五秒。」
「ゆ、ユウヒ様に……婚約者がいるって!!」
「………………え?」
頭が一瞬で冴えた。
「婚約者って……だれ?」
「なんでも、他国の神殿に仕える貴族の娘だとか……」
「へぇ~……そうなんだ~……」
笑顔を作ってみたけど、
声が裏返った。
(ちょっと待って、それ初耳なんだけど!?)
◇ ◇ ◇
午前中、聖堂の回廊でユウヒとすれ違った。
「おはようございます、真由さん。」
「……おはよ。」
「どうかされましたか? 顔がこわばっています。」
「な、なんでもないよー?」
(聞く? いや、聞ける? いやでも気になる!)
沈黙。
気まずい空気。
(ダメだ、耐えられない!)
「ねえ、ユウヒくん。」
「はい?」
「……婚約者、いる?」
「……え?」
ユウヒが目を瞬かせた。
空気が一瞬で止まる。
「婚約者……って、その、誰から聞いたんですか?」
「市場の修道女情報ネットワークから。」
「ネットワーク強いですね!?」
思わず笑いがこぼれたけど、
その笑顔はすぐに曇った。
「……本当はどうなの?」
彼は少しだけ黙り、
ゆっくり首を横に振った。
「いません。」
「……ほんとに?」
「ええ。昔、縁談の話があったことはあります。
でも、僕はすべて断りました。」
「なんで?」
その問いに、彼は真っ直ぐな瞳で言った。
「心に決めた人がいるからです。」
心臓が止まるかと思った。
「……そ、そっか。……そうなんだ……。」
「はい。」
(落ち着け、真由。ここで“誰?”とか聞いたら完全に地雷!)
(でも……でも……!)
「……その人って……どんな人?」
「少し不器用で、寝るのが得意な人です。」
「……!」
(それ、私じゃん。)
顔が一気に熱くなった。
頭が真っ白になって、
言葉が喉の奥で詰まる。
◇ ◇ ◇
「……どうしてそんな顔してるんですか?」
「し、してないっ!」
「してます。」
「してないってば!」
「赤いです。」
「黙れ!」
頬を両手で押さえて、私はそっぽを向いた。
(無理。もう顔合わせられない。羞恥で死ぬ。)
それでも、
ユウヒの声がそっと耳に届く。
「……真由さん。」
「……なに。」
「誰が何を言おうと、僕の隣はあなたです。」
「っ……!」
その一言で、
胸の奥のもやもやがすっと溶けた。
「……ずるいな、ほんとに。」
「またそれですか?」
「うん。ほんとにずるい。」
でもその“ずるさ”が、
どうしようもなく好きだった。
◇ ◇ ◇
夜。
一人になって、ベッドの上で考える。
“心に決めた人”って、
あの人にとってどんな意味なんだろう。
(私……もう完全に恋してるんだなぁ。)
布団の中で、
そっと笑ってみた。
雷よりも怖かった“嫉妬”が、
今は少しだけ甘く感じた。
次回予告
第26話 「聖女、恋と使命のはざまで(選ばれし者)」
――お楽しみに!
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