淡色に揺れる2

かなめ

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放課後(攻めタッグの相談会)

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「えぇ~?!彩里先輩!まだ詩弦先輩とセックスしてないんですか?!?!」

夏休みを目前に控えるとある日の放課後、彩里に誘われたひいなは、行きつけのハンバーガーチェーン店で2人作戦会議という項目の相談会をおこなっていた。

「シッ!ばか!声がでかい!!」

とんでもない規制用語を悪びれもなく落とすひいなに、彩里は慌てて人差し指を立てて言った。

周りにあまり人がいなくて助かった。
ほっと胸を撫で下ろす。

「いや~意外でしたよ。だって部活の付き合いで何回も裸見合ってるし、付き合う前からディープなチューするくらいだから、もう既に一線超えてるもんだと思ってました」

「ボリューム下げろってだから」

「なんならバンバンイカせてるもんだと」

「ほんと頼む勘弁してくれ」

赤らめた頬を俯かせか細い声で懇願する彩里に構わず、紙コップのストローを咥えながらひいなは楽しそうにからかった。
2歳年上とはいえ恋愛にはまだまだ慣れていない彩里に対して、遠慮なしに踏み込まないとかえって失礼だと判断した故の行動だろう。

「まったく、付き合う前あんなにグイグイだったのに、付き合ってからはなかなかに奥手ですねぇ」

そう言って吸ったコップの底から、ズズッと音が鳴る。ジュースはもうなくなってしまったようだ。

「で、彩里先輩はどうしたいんです?手出すの?」

ひいなはストローを手に持ちコップの底にたまる氷を混ぜながら、目線は彩里に向けて言った。
突きつけられた視線に彩里はややたじろぎながらも、深呼吸を1回挟んで口を開いた。

「1回だけね、雰囲気になったんだよ」

「ほほう?」

彩里の言葉に、ひいなは興味津々に身を乗り出す。

「放課後、誰もいない教室で2人っきりになった時、いつも通り抱き合って、キスして、ゼロ距離になって」

教室で?と疑念を抱きながらも、ひいなは彩里の言葉を静かに聞き続ける。

「だから私、すっごく自然な感じで左手をこう、詩弦の下腹部辺りに滑らして優しく撫でたんよ。一瞬詩弦の体が強張ったけど、すぐに受け入れてくれて。だから、そのまま手を下の方に滑らせて、スカートの上からさ、その、えっと__触ったというか、撫でたというか……」

流石に恥ずかしくなってきて、彩里は思わず言葉に詰まった。
じんわり漂うやや濃厚な恋沙汰に、ひいなは無意識に口角を上げた。

「そしたら、詩弦が急に私の手を掴んできたんだ。びっくりして固まってたら、『そろそろ帰ろう』って言われて」

「続きは帰ってから♡ってやつですね」

「違う」

お門違いな答えを出してきたひいなを即否定した。

「大体わかりましたよ。彩里先輩は手を出したいのに詩弦先輩に避けられてぴえんって話でしょう?」

「…まあそういうこと」

ひいなに端的に正確に言いまとめられ、先ほどあんなに長々と詳細まで話した自分が死ぬほど恥ずかしくなった。ひいなが自分より2つも年が下なのがなおさらだ。

「でも、詩弦先輩がハナから否定しなかった時点で、別に嫌われてるわけじゃないと思います。だけどほら、あの人の性格上、照れちゃって素直になれないだけじゃないですか?」

プライド高いし、と付け加えるひいなに、彩里はうーんと曖昧に返事をした。

「まあ、詩弦先輩がそんな感じなら、あなたがペースとか合わせてあげればいいんですよ。別に急ぐ必要とかないんですし」

「そうだけどさぁ…」

そう返して机に突っ伏した彩里を、ひいなは不思議そうに見つめた。

「詩弦を傷つけたくないし、私を嫌ってほしくもないから、あんたが言ったことは本当にその通りって自分でもわかってんだけど___」

突っ伏したまま、彩里は言葉を紡ぐ。

「顔真っ赤にして逃げてる詩弦、すんごい可愛いくってさ。見てたら、私が我慢できなくなりそうで」

最後の方はもう、消えてしまいそうな弱々しい声だった。

加虐心。
人をいじめたり、苦しめたりしたいという感情のこと。

愛する人が恥ずかしがる姿を見ると逆に、もっと恥ずかしめたい、と思ってしまうのだ。

そして、そうしてしまわないように、彩里は理性を保って行動にブレーキをかけている。だが、そのブレーキがいつか壊れてしまうのではないかと恐れているのだ。

「…なかなかに拗らせてますねぇ。好きですよそーいうの」

「…私は本気でびびってんだよ?」

「はいはいわかってますって」

突っ伏したまま顔だけ上げて上目遣いにこちらを見る彩里が愛おしくて、ひいなは思わず笑ってしまった。

「でも、こうして今留まれている時点で、彩里先輩はすごく優しい人だなって思いますね」

彩里は特に何も言わないので、ひいなはそのまま言葉を続ける。

「好きな人をメチャクチャにしてやりたいって思うことは別に悪いことじゃないですし、むしろ人間として当然の心理だと思いますよ。私かって蓮の照れてる姿とかすごい好きだし、もっと照れさせたいって思うし」

あ、呼び捨てなってる、なんて思いながら、彩里は黙ってひいなの言葉に耳を傾けた。

「それに、詩弦先輩を壊してしまうかもって思って、今日私に相談してくださったわけでしょう?ならもうなんの心配もいらないじゃないですか」

彩里は黙ったまま、ゆっくり顔を上げた。

「やばいって思った時に、また私に相談してくれたらいいわけですし」

ひいなは腕を組んで背もたれにもたれながら、ゆっくり言った。

「彩里先輩は詩弦先輩も彩里先輩自身もちゃんと守っていける強い人ですし、人付き合いかって恵まれた環境にいるんです。ベタな言葉ですけど、あなたは1人じゃないんですよ」

恋愛マスターの私がいますしね、と両手を広げて余裕そうに言うひいなに、彩里は思わず笑みを溢した。

「なんか、ほんとにひいなってすごいよね、私より年下なのにさ。マジで尊敬する」

「まあまあいつでも頼ってくださって」

「大人すぎて腹立つ」

「腹立つ?!?!」

まさかのストレートな悪口に驚くひいなに、彩里は「冗談だよ」と笑って言った。

ふぅ、と、彩里は小さくも濃い息を漏らした。
自分にはこんなにも心強い味方がいる。その事実がどんなにありがたいことか。

(そっか、私って大丈夫なんだ)

浮かんだ言葉は声には出ず、心の中で消えた。
相談する前の心持ちとは打って変わって、彩里の心は充分に軽くなった。

そして、目の前の友人にこれでもかと言うほど感謝の念を抱いた。
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