淡色に揺れる

かなめ

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後章

学園祭準備(機会)

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どのくらい時間が経っただろうか。

彩里は隣の詩弦にちらりと目線を向ける。
呼吸は随分とおとなしくなっていて、気分もいくらかはよくなった様。
目をつぶって、静かに座っていた。

そのきれいな横顔に、彩里は思わず見とれた。
小さいころから見てきたその顔は、彫刻のようにきれいに見えた。

心臓が、だんだん早く脈打つ。

「詩弦……」

彩里は指先をそっと外し、詩弦の顎に触れた。

「ちょっと、こっち向いて」

その声音は、ふざけ半分のいつもの彩里ではなく、真剣な響きを帯びていた。

「なに、っ?!――」

抗議しかけた詩弦の唇へ、彩里の顔が近づいてくる。

そのとき。

ふっと、かすかな香りが鼻をかすめた。

甘い、フローラルな香水のにおい。
かいだことのある、知っている匂いだ。

彩里は瞬時に気づいた。

(ひいな――)

途端に、彩里は息を詰めて目を細め、詩弦を見つめ直す。

「詩弦、ひいなに何されたの」

「……っ!」

詩弦の表情が一瞬揺れる。
その沈黙が、答えだった。

「なんで言わねぇんだよ!」

彩里は詩弦の肩をつかみ、低く抑えた声で詰め寄る。

「別に、言う必要ない」

詩弦はそっぽを向いてやけくそに答えた。

「必要ある!」

「ないから。くだらない」

「くだらなくない!!」

言葉がぶつかり合い、互いに引く気配はなかった。

頑なに口を閉ざす詩弦を相手に、勢い余って彩里は身を乗り出した。

その瞬間、両社ともバランスが崩れる。

「っわ!」

バランスを崩したふたりは、ソファの上に倒れ込む。

彩里の腕の中に詩弦が押し込められ、まるで彩里が詩弦を押し倒したような形になってしまった。
至近距離で互いの瞳がぶつかる。

沈黙。

部屋の空気が、濃密に変わった。

(――これ、いけるかも、しれない――)

彩里は胸の奥で思った。

詩弦の抵抗は弱い。いや、もう抗っていない。

「……詩弦――」

囁くように呼びかけ、再び顔を近づける。

唇が触れるまで、あとほんの数センチ――

ガチャ。

「詩弦先輩いますか?―― あ、ここにいたんですね!」

明るい声とともに休憩室の扉が開き、蓮が顔を覗かせた。

「「あ――」」

蓮と彩里の声が同時に発される。

一瞬で固まる空気。

時間すら止まってしまったのではと錯覚するくらい、彩里は何も考えられなくなってしまった。

しかし、腕の下で詩弦の鼓動が強く脈打っているのことは、妙にしっかり感じ取ってしまっていた。
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