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冒険者と冒険者
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(ムサカ視点)
いつかこんな日が来ると思っていた。俺はそこまでのことをしたし、彼女にはその権利があった。
「…ごめん…」
目下には彼女と同じピンクの髪、左手で頭を撫でる。右手は血にまみれている。
「なんで、ここに…」
怒りに声が震えているのがわかった。
まいったな。場所まで同じだ。
俺達がこの『サワサャリ村』に着いたのはほんの30分前のこと。アガータまであと5キロほどだが、ヤマトの提案で休憩がてら寄ることにした。この村は以前も訪れたことがあって…。
ヤマトは商店をのぞきたいといい、俺は村の端にある大木を目印に待っていた。
この木は、とても苦い思い出がある。いや、まだ思い出にすらなっていないのかもしれない。
その時だった。わずかに感じた殺意。避けられるし、避けるべきだったのかもしれないが俺の身体はそれを拒否した。
ドンという衝撃と腹部から背中まで貫通した刺突武器。武器の形状は違うが、傷口も場所もあの日と同じだ。痛みより、ただ心が重かった。
「…ごめん…」
出てくる言葉にまで、同じか。彼女にも、その妹にも伝えられる言葉はそれしかない。
「なんで、ここに…」
怒りと動揺が身体を伝わってくるようだった。殺すつもりはおそらくないのだろう。ただ、感情の置場がわからなくなってしまったのか。
「…それ、どういうこと?」
ヤマトの刺すような視線が彼女を捉えていた。彼女もヤマトがただ者ではないことを感じ、身を固める。
「…待て、これは…」
自分で、武器を抜き彼女をヤマトから遠ざけるために後ろにまわす。
「…逃げろ」
彼女に耳打ちすると、そのまま振り返ることなく走り去った。
「なんで、刺された相手逃がすの?ワケわかんない」
敵意を解いて、近付いて来る。
「悪い…」
「それ、悪いって思ってない人の台詞」
「…たしかに…」
止血用の布を当て、
「医術できる人さがしてくるから、これで押さえて待ってて」
ヤマトの背中を見送り座り込む。
「…何も、変わってない…」
あの日から。
気が付くと馬車の荷台だった。
「起きた?」
身体はさすがに起き上がれない。
「あぁ、今はどんなだ?」
「あと少しでアガータに着くって。村に医術出来る人いなかったから、たいした手当てはしてないから、大人しくしててね」
冒険者なら、魔法やアイテムなど回復手段はあるが、回復量は加護に依存しているために人から与えられた傷は極端に治りにくい性質を持っている。
「あの人、誰?」
率直な質問に正直に答える。
「モニカ」
「どういう関係?」
「同じ孤児院で育った仲間だよ」
仲間…物は言い様だな。
「なんでそれに刺されるの?」
もっともな意見。
「…」
なにか、納得させられる言葉を探すが、頭がうまく回っていないのかかえせない。
「言いたくない?」
「…俺が、悪い…」
血の味がする。
「ごめん、無理しなくていいよ」
この時きちんと話していれば、ごめんの意味とこのあと起きることもなかったのだと…。
自分の判断とはいえ、結果的に足止めになってしまった。アガータにはたどり着いたが、この状態では依頼を受けることもままならない。
「オレ、ギルド行ってくるから。ちゃんと寝ててよ」
「俺も…」
「なにいってんの、いいから寝てて」
ぼーっとした頭で、ふと今の財布状態を考えてみた。
「やばい…のか?」
田舎で回復薬を買ったら、高くつくし突然の馬車の手配は足元を見られるから、都市部に近くなるほど注意して選ばないと…。
「…いっ…」
身体を起こして、服を着替える。ここは…観光客相手の地区だから、宿代金は割高だな。受付まで行き、街の案内図をもらい宿は引き払う。
荷物を持って入口のベンチに座り、ヤマトが戻ってくるのを待つことにした。
ここから一番近くのギルドまで往復15分ってところか。
アガータは町全体が大きく三分割されていて、海側の観光兼商業区と上町と下町に分かれている。下町には生活圏とギルド関連か集まっていて、上町には城と官公庁が集中している。
「うわっ、なにしてんの?」
戻って来たヤマトが、おどろいていた。
「宿、もっとギルドに近い方がいいだろ?」
「それはそうだけど、そんな急に…」
「昼飯まだだろ?宿探しながら食べよう」
とりあえず、下町方面にむかう。
ヤマトはちゃんと食事を用意しないと、自分では途端に無頓着になってしまう。これはきっと育った環境なんだと思う。一緒に旅するようになってから気付いたんだが、食べることは好きだが、一人で食べることはあまり好きでないということ。
「ここいらで、いいか?」
下町区に入り、雰囲気ががらりと変わる。生活感が漂い、冒険者やそれに付随するものや、明らかに治安の悪さを絵に書いたような、無法者や物乞いまで目につくようになってきた。
俺達はカウンターだけの小さな料理屋に入った。厨房には初老の女性と、給仕には若い女性でおそらく、二人は家族だろう。顔が似ている。
「いらっしゃいませ」
にこやかに迎えて、席に通される。メニューは家庭料理といった感じか。ヤマトはまだ、大陸語の読み方に苦労している。
「肉と魚のメインとサラダください」
適当に頼んで、飲み物をもらう。
「お客さん達冒険者のかたですか?」
給仕の女性が聞いてくる。典型的ではないとはいえ、格好を見ればそうだとわかるし、何よりヤマトの刀は何処でも目立つ。
「そうですね」
質問の意図はわからないが、当たり障りなく答える。
「貴方、日極国人よね?」
ヤマトに興味があるのか、隣に座る。
「そうだよ」
「どうして大陸に来たの?」
「何で?」
質問を質問で返すのは、不快だと感じている兆候。
「いいじゃない、教えてくれても」
言いたくないから答えないとは考えないのだろうか。
「ヨナ、無駄口叩いてないで料理運びな」
厨房の女性から言われ、ヨナと呼ばれた女性は席を立った。
「気分悪くしたらごめんね、これサービス」
そういうと彼女は果物の皿を置いた。
「別にいいよ。お腹すいてイライラしただけだから」
大陸に来た理由は俺も知らない。聞くべきタイミングがなかったと言えばそれまでだが、何だか簡単に聞いていいものだとは思えなかった。
「ほら、折角の料理が冷めるぞ」
「ごゆっくり」
そういうと彼女は他の客の相手をしに行った。
食事としては値段通りと言った印象で、可もなく不可もなくというか…。ヤマトもあまり気に入っている様子ではなかった。
「大丈夫?」
店を出てすぐにヤマトが言う。言われて気が付く。服に血が滲んでいた。
「ああ…」
「ああじゃなくて、顔色悪い。医術師いるかちょっと…」
走りだそうとするヤマトの腕を掴む。
「先に宿」
「何で、早くちゃんと治療して…」
先に宿を決めておかないと、俺が動けなくなってからではヤマトにかかる負担が計り知れない。
「いいから、宿探そう」
…なんだこの表情。何か言いたげではあるが、それを言葉にすることはなかった。
宿を決め、主人から医術師を案内してもらい、とりあえずは一息つくことができた。俺はベッドに腰掛け、ヤマトは立ったまま始まった。
「それで、医術師の話だとあと3日は大人しくしてろってことだけど?」
3日はさすがにまずい。所持金の事情も考えると明日にでも仕事を受けないと、宿代もままならない。
「明日からになるが、近場でできる依頼を探そう。この規模の街なら通常依頼だけでもそれなりにあるはず…」
「話、聞いてた?3日は寝てろって言われたでしょ」
「明日には動ける」
「動けるのと、働けるのでは大違いだよ」
図星をついてくるな。こういうところが大人びているというか、子供らしくない 物言いだなと。
「問題ないよ。ちゃんと働く」
ヤマトがコップを渡してくる。しっかり受け取ったと思った。しかし床には水がこぼれた。ヤマトの両手が俺の顔を挟みのぞきこむ。
「やっぱり、幻視系の呪かなあ…」
「お前何言って…」
「あの女は、攻撃時自動で発動する呪かけてたのはわかってた。視界を少しずらす程度のものだから大した能力じゃないし、効力もそこまで長いわけでもないからムサカが大人しくしててくれるなら何も言わないつもりだったけど、刺されてあげたよね、それ」
刺されてあげた…そんなことは…。
「考えすぎだ。そんなことは…」
「ないってはっきり言える?それとも、オレ見てなかったと思ってるから誤魔化そうとか?」
この言い方だと、おそらくすべて見ていたんだろう。
「これは、俺の問題だ」
ヤマトの手が外れ、一瞬の間。
「それが答えでいいんだね」
なんだ、表情がよく見えない。
「お前を巻き込むのは…」
「オレみたいな得体の知れない奴、信じられないよね」
噛み合ってない。
「そんなこと言ってない」
「オレが勝手に信じたいと思ったんだ。オレがここにいてもいいかなって」
「ヤマト、話を…」
離れようとするヤマトの手首を掴む。
「オレ、ヒトゴロシだから」
頭の中で言われたことが理解出来ず、手が離れる。
どうして、こんなことになった?必死に考えをまとめようとするが何一つまともな答えが出ない。俺はヤマトになんて言った?
俺の問題だと、裏を返せばお前には関係ないと。突き放されたととられても仕方がない、酷い言い草だ。俺が一方的に傷つけた。触れた手首が微かに震えていたのに、俺は手を離してしまった。
ふと外を見ると、陽が暮れ始めていた。どれほど考え込んでいたのか、床の水は乾いていて自分の愚鈍さにうんざりする。
「俺が、選んだんだろ…」
呟いて立ち上がり、部屋を出る。
この街についてからまだ日は浅く、特に行き着けのところがあるとは思えなかった。あの容姿だ。面倒に巻き込まれていないとも言い切れなかった。刀も宿に置いたまま、何も持たずに出ていった。いろいろな人に聞いてみたが、たいした情報は得られず、時間と体力ばかりが無駄に消費した。
ずっとではないが、何分かに一度ヤマトの言っていた視界のずれが起きる。
どうやら俺は呪に対する抵抗力があまり高くないようで、以前も2ヶ月ほど、自力では動けなくなったこともあった。
完全に陽も落ちて、夜の賑わいがあった。ここは下町だ、女性の一人歩きも安全とは言えない治安状態はただ、焦りだけを生んだ。
「…ヤマト、何処に…」
今の状態ではスキルも満足に使えない。地図があれば最低限のスキルだけでも…。
「危ない…!」
壁に手をついたつもりだった。声に気付き、気が付くとローブを着た人物が俺の身体を支えていた。
「あ…すいません」
その人は俺を近くにあるベンチに座らせると、フードを外した。
「そんな状態で、出歩くのはよくないよね」
まるで、今の俺の状態をわかっているかのようだ。この人、大陸原住民だ。
「大丈夫です。ありがとうございました。」
大陸原住民はこんな街中には殆んどいない。彼らは自分達のコミュニティの中で血を護りながら生活している。非常に短命で脆弱だが、魔法の扱いに長けていると聞く。一番の特徴が力が宿るといわれる髪と、額に描かれた目のような紋様だ。
「僕は、ウリト。見ての通りの大陸原住民だよ」
穏やかな物言いに、柔らかい物腰。年は俺より少し上かな。
「ムサカです。手を貸していただいてありがとうございます」
「そんなに畏まらないで。話、いいかな?」
話…今はヤマトを探さないといけない。
「すいません、今は…」
「彼なら、何処にいるか教えてあげるよ」
まさか、人質…。
「ヤマトに何かしたのか?」
「待って、僕は居場所を知ってるだけで、彼に危害は加えてないよ」
「じゃあ、今何処にいる?」
「安全なところ。心配はいらない。それより話を聞いてはくれないかな」
安全なところってなんだ。俺はいつから見られていたんだ。
「話を聞けば、教えてくれるんだな」
「ちゃんと案内するよ。だからいいかな?」
大陸原住民が、俺になんの話があるっていうんだ。とにかく、焦って大事な手掛かりを失うわけにはいかない。
「話してくれ」
何を言われるんだろうか。
「僕と僕の相棒を君達の仲間にしてくれないかな?」
…?なんだ急に。俺の理解力が足りてないのか、仲間にしてくれって言われたか、今。
「ちょっと、待ってくれ。なんで俺達なんだ?」
このウリトという人物と俺は面識がない。そもそも大陸原住民の知り合いなんていないからな。
「君の話は僕の相棒から聞いてる。とても優秀で、器用な信頼できる人物だと」
随分な過大評価だが、彼の相棒が誰なのか全く検討もつかなかった。
「貴方の相棒とやらは今どこに?」
見ればわかるのだろうか。相手は俺を知っているようだが。
「彼を見失わないように、追っているはずだよ」
ヤマトに気付かれず、尾行することはかなり難しいはずだ。
「仲間になりたいという話ならば、俺の一存では返答できない。仲間が欲しいならギルドで紹介してもらうなり募集なりをすればいい」
頭痛がしてきた。傷の痛みで考えもまとまらないし、とても失礼な対応をしているのではないか。
このウリトという人物は、何を思って俺達の仲間になりたいと言い、それを行動に移しているのか。ヤマトはともかく、俺にはそんな価値はない。
「君が、どうしてまた冒険者に戻ったのか。それを聞かせてくれないか?」
俺が冒険者に戻った理由…なぜそんなことを知りたがる?何か他に意図があるんじゃないか。またと言ったか。俺が以前冒険者だったことも知っているのか。
「俺が、戻ったのは…」
言葉がうまく出てこない。これは、汗…じゃない。視界がひどく歪む。
「君がここまで、呪に弱いとは驚きだよ。普通なら解けているはずなのに、君の場合は悪化しているようにも見えるね」
悪化しているわけじゃない。体力が落ちているせいで身体がうまく動かせないだけだ。
「…ヤマトは…」
「その様子じゃ、これ以上の会話は無理だね。一旦宿に戻ろうか」
俺が選んだんだ。
自分で決められることなんて、なかった。俺が自分を主張していいことなどない。ただ言われるがまま大人の好む都合のいい子供であれば、嫌われることはない。誰かの望む、形であればそれが、本心ではなくても他人が認める『俺』という存在になるのだと。
ヤマトは…故郷を離れ、一人大陸に投げ出された。心細くないはずがない。もっと話を聞けば、その余裕が俺にあればヤマトにあんな顔をさせることはなかったはずだ。もっとちゃんと向き合っていれば…。
「…ヤマ…ト」
額に手が触れる感覚で、意識が引き戻される。
「なに?」
目の前に…いや、膝枕で寝ている。
「お前、いつから…」
「彼の方から君の気配を感じてここまで来たんだよ」
ウリト、がいるということは場所はさっきのベンチのままか。
「そんな身体で出歩かないでよ」
「…悪い」
「それ、やめて。悪いと思ってないからここにいるんでしょ?」
また…口癖になっているのか。不快にさせてしまう言葉しか出ないのか。
「俺は…」
「オレが勝手に思い込んでただけだから。オレが信じてるように信じてくれてるって…でもそうじゃなかったってことだけで、それはオレがヒト…」
「ヤマト!」
これ以上は言わせてはいけない。何度も口にさせることじゃない。
「な…なに?」
「お前が過去にどんなことをしたとしても、俺が自分でお前となら、旅に出たいと思ったんだ」
そうだ、ヤマトなら俺を変えてくれると思ったんだ。何者でどんなことをしてきたかなんて関係ない。俺自身、自分が何者かすらわかっていないのに。
「ムサカはオレのこと、知らないからそんなことが言えるんだよ!」
こんな感情的なヤマトは見たことない。
「知りたいと思っちゃ悪いか?」
「…え?」
ぽかんとした顔をしてる。
「俺はお前のことを知りたい」
当たり前の感情を口にしただけだった。すると、ウリトが一つ咳払いをした。
「話してるところ悪いけど、いいかな?」
「あーうん、なに?」
ヤマトが、答える。
「君達、なんていうか今の状況で、その会話はこ…」
「バカ!余計なこと言わない!」
…まさか、いつからいたのか。建物の影から見覚えのある姿。
「モニカ…」
身体を起こし、何とか頭を整理しようとする。彼女は少しばつの悪い顔をしたが、ウリトに促され近付いてくる。
「謝らないから」
気付いてないのか、そう言ってることが。
「いいよ。俺は」
謝って彼女の気がすむわけではないだろうし。俺がしたことが許される訳でもない。
ということは、ウリトの相棒というのがモニカのことなのだろう。
「だめだよ。ちゃんと言わないと先に進めないだろ?」
まるで、子供を諭すかのようだ。彼女がまだ人らしくいられるのはきっと、ウリトのおかげなとのだろう。冒険者は少しのことで道を踏み外すことが多い中で、相棒が彼ならば正しい道を示してくれそうだ。
「許して欲しいとは思ってない」
「旅、続けないの?」
「…わかったから」
彼女は俺の前に立ち、一本の薬瓶を差し出した。
「これは?」
「自作の回復薬、減呪の効果もあるから」
昔から、謝るのが下手だったなあ。
「ありがとう」
すると、ヤマトの隣側にどすんと座る。ウリトは俺の隣に座り、
「で?どうかな、さっきの話」
「なに?話って」
ヤマトに話を伝え、珍しく何かを考えていた。俺はその姿が少し意外だった。ヤマトなら即答すると思っていたから。
「ヤマト?」
「…ん?なに?」
あまり乗り気ではないのか。ならば、この話は断ったほうがいいのではないか。
「嫌なら、この話は…」
「違うよ、オレじゃなくてムサカはどうなの?」
ここで、俺に問うのか。ヤマトも二人が悪人ではないことは理解したようだが、やはり俺のせいで、不安に感じてるのかもしれない。
「俺はいいよ。お前がいいなら」
また、この顔は…。何か言いたいことがあるのか?
「わかった。なら、いいよ。仲間」
ウリトがほっとした顔をした。その表情で、彼がどれほど本気だったのかを理解した。俺はそんな彼をあしらうような態度をしてしまったことを後悔した。
「ありがとう、それじゃこれからの話をしたいところだけど、一度宿に戻ろうか」
ウリトの提案で、宿に戻った。
ヤマトは疲れていたのか、部屋に戻るとそのままベッドに寝転がった。
「これは、話どころじゃないね。明日また」
ウリトはそういって出て行った。
モニカが、俺達と冒険者…俺の中のモニカは2年前の姿で止まっていた。
この2年の間に彼女にもいろいろあったのは、雰囲気から伝わってきた。きっと、彼女も何かを掴んだのかもしれない。欲しかった情報かなにかを。探していた人を。それを俺に聞く権利はない。
ただ、ヤマトが感じる不安は失くさなければならない。仲間に刺されるということは、安心して背中は預けられない。闘うものにとってそれは即、死に繋がる。
俺は、ヤマトが寝ているベッドの端に腰かける。ヤマトは壁の方を向いて丸くなっている。
「寝てるか?」
返事がなければ、今日のところはやめておこうと思うが、性格を考えれば…。
「寝てない」
やっぱり。眠るには不安が多すぎるのだろう。
「モニカは少し意地っ張りで、思ったことをすぐ口に出してしまう感情的なところがあるんだ。だから、俺に対してのことも一時的な感情でこうなっただけで、俺のほうが悪いところがあるというか…」
もっとわかりやすく言えばいいのだろうか。
「オレ、モニカと少し話した」
背中を向けたまま言うヤマト。
「そうか」
彼女から、聞く言葉は俺に対する疑念をかかえるものだったのだろうか。
「あんなことするつもりじゃなかったって。オレに謝ったの。だから、悪いヒトじゃないのはわかってるつもり。でも…」
「でも?」
「ムサカはどうなの?刺された相手と一緒に旅なんて出来るの?」
全く知らない人間よりは、同じ孤児院で暮らしていた仲間…同じ境遇ではなかったが、頼れる両親がそばにいない寂しさは彼女達も持っていたはずだ。それに…
「俺はお前がいれば、他にどれだけ増えても大丈夫だ」
「どういう意味?」
はっきり、わかりやすく言おう。
「お前の背中は俺が守る」
すると、起き上がって背中合わせに座り、
「ムサカの背中はオレが守る」
決して広くはない華奢な背中だ。俺にどれだけの力があるかわからないが、この背中だけは命懸けで守り抜くと誓う。
それが、俺が選んで決めたことだから。
いつかこんな日が来ると思っていた。俺はそこまでのことをしたし、彼女にはその権利があった。
「…ごめん…」
目下には彼女と同じピンクの髪、左手で頭を撫でる。右手は血にまみれている。
「なんで、ここに…」
怒りに声が震えているのがわかった。
まいったな。場所まで同じだ。
俺達がこの『サワサャリ村』に着いたのはほんの30分前のこと。アガータまであと5キロほどだが、ヤマトの提案で休憩がてら寄ることにした。この村は以前も訪れたことがあって…。
ヤマトは商店をのぞきたいといい、俺は村の端にある大木を目印に待っていた。
この木は、とても苦い思い出がある。いや、まだ思い出にすらなっていないのかもしれない。
その時だった。わずかに感じた殺意。避けられるし、避けるべきだったのかもしれないが俺の身体はそれを拒否した。
ドンという衝撃と腹部から背中まで貫通した刺突武器。武器の形状は違うが、傷口も場所もあの日と同じだ。痛みより、ただ心が重かった。
「…ごめん…」
出てくる言葉にまで、同じか。彼女にも、その妹にも伝えられる言葉はそれしかない。
「なんで、ここに…」
怒りと動揺が身体を伝わってくるようだった。殺すつもりはおそらくないのだろう。ただ、感情の置場がわからなくなってしまったのか。
「…それ、どういうこと?」
ヤマトの刺すような視線が彼女を捉えていた。彼女もヤマトがただ者ではないことを感じ、身を固める。
「…待て、これは…」
自分で、武器を抜き彼女をヤマトから遠ざけるために後ろにまわす。
「…逃げろ」
彼女に耳打ちすると、そのまま振り返ることなく走り去った。
「なんで、刺された相手逃がすの?ワケわかんない」
敵意を解いて、近付いて来る。
「悪い…」
「それ、悪いって思ってない人の台詞」
「…たしかに…」
止血用の布を当て、
「医術できる人さがしてくるから、これで押さえて待ってて」
ヤマトの背中を見送り座り込む。
「…何も、変わってない…」
あの日から。
気が付くと馬車の荷台だった。
「起きた?」
身体はさすがに起き上がれない。
「あぁ、今はどんなだ?」
「あと少しでアガータに着くって。村に医術出来る人いなかったから、たいした手当てはしてないから、大人しくしててね」
冒険者なら、魔法やアイテムなど回復手段はあるが、回復量は加護に依存しているために人から与えられた傷は極端に治りにくい性質を持っている。
「あの人、誰?」
率直な質問に正直に答える。
「モニカ」
「どういう関係?」
「同じ孤児院で育った仲間だよ」
仲間…物は言い様だな。
「なんでそれに刺されるの?」
もっともな意見。
「…」
なにか、納得させられる言葉を探すが、頭がうまく回っていないのかかえせない。
「言いたくない?」
「…俺が、悪い…」
血の味がする。
「ごめん、無理しなくていいよ」
この時きちんと話していれば、ごめんの意味とこのあと起きることもなかったのだと…。
自分の判断とはいえ、結果的に足止めになってしまった。アガータにはたどり着いたが、この状態では依頼を受けることもままならない。
「オレ、ギルド行ってくるから。ちゃんと寝ててよ」
「俺も…」
「なにいってんの、いいから寝てて」
ぼーっとした頭で、ふと今の財布状態を考えてみた。
「やばい…のか?」
田舎で回復薬を買ったら、高くつくし突然の馬車の手配は足元を見られるから、都市部に近くなるほど注意して選ばないと…。
「…いっ…」
身体を起こして、服を着替える。ここは…観光客相手の地区だから、宿代金は割高だな。受付まで行き、街の案内図をもらい宿は引き払う。
荷物を持って入口のベンチに座り、ヤマトが戻ってくるのを待つことにした。
ここから一番近くのギルドまで往復15分ってところか。
アガータは町全体が大きく三分割されていて、海側の観光兼商業区と上町と下町に分かれている。下町には生活圏とギルド関連か集まっていて、上町には城と官公庁が集中している。
「うわっ、なにしてんの?」
戻って来たヤマトが、おどろいていた。
「宿、もっとギルドに近い方がいいだろ?」
「それはそうだけど、そんな急に…」
「昼飯まだだろ?宿探しながら食べよう」
とりあえず、下町方面にむかう。
ヤマトはちゃんと食事を用意しないと、自分では途端に無頓着になってしまう。これはきっと育った環境なんだと思う。一緒に旅するようになってから気付いたんだが、食べることは好きだが、一人で食べることはあまり好きでないということ。
「ここいらで、いいか?」
下町区に入り、雰囲気ががらりと変わる。生活感が漂い、冒険者やそれに付随するものや、明らかに治安の悪さを絵に書いたような、無法者や物乞いまで目につくようになってきた。
俺達はカウンターだけの小さな料理屋に入った。厨房には初老の女性と、給仕には若い女性でおそらく、二人は家族だろう。顔が似ている。
「いらっしゃいませ」
にこやかに迎えて、席に通される。メニューは家庭料理といった感じか。ヤマトはまだ、大陸語の読み方に苦労している。
「肉と魚のメインとサラダください」
適当に頼んで、飲み物をもらう。
「お客さん達冒険者のかたですか?」
給仕の女性が聞いてくる。典型的ではないとはいえ、格好を見ればそうだとわかるし、何よりヤマトの刀は何処でも目立つ。
「そうですね」
質問の意図はわからないが、当たり障りなく答える。
「貴方、日極国人よね?」
ヤマトに興味があるのか、隣に座る。
「そうだよ」
「どうして大陸に来たの?」
「何で?」
質問を質問で返すのは、不快だと感じている兆候。
「いいじゃない、教えてくれても」
言いたくないから答えないとは考えないのだろうか。
「ヨナ、無駄口叩いてないで料理運びな」
厨房の女性から言われ、ヨナと呼ばれた女性は席を立った。
「気分悪くしたらごめんね、これサービス」
そういうと彼女は果物の皿を置いた。
「別にいいよ。お腹すいてイライラしただけだから」
大陸に来た理由は俺も知らない。聞くべきタイミングがなかったと言えばそれまでだが、何だか簡単に聞いていいものだとは思えなかった。
「ほら、折角の料理が冷めるぞ」
「ごゆっくり」
そういうと彼女は他の客の相手をしに行った。
食事としては値段通りと言った印象で、可もなく不可もなくというか…。ヤマトもあまり気に入っている様子ではなかった。
「大丈夫?」
店を出てすぐにヤマトが言う。言われて気が付く。服に血が滲んでいた。
「ああ…」
「ああじゃなくて、顔色悪い。医術師いるかちょっと…」
走りだそうとするヤマトの腕を掴む。
「先に宿」
「何で、早くちゃんと治療して…」
先に宿を決めておかないと、俺が動けなくなってからではヤマトにかかる負担が計り知れない。
「いいから、宿探そう」
…なんだこの表情。何か言いたげではあるが、それを言葉にすることはなかった。
宿を決め、主人から医術師を案内してもらい、とりあえずは一息つくことができた。俺はベッドに腰掛け、ヤマトは立ったまま始まった。
「それで、医術師の話だとあと3日は大人しくしてろってことだけど?」
3日はさすがにまずい。所持金の事情も考えると明日にでも仕事を受けないと、宿代もままならない。
「明日からになるが、近場でできる依頼を探そう。この規模の街なら通常依頼だけでもそれなりにあるはず…」
「話、聞いてた?3日は寝てろって言われたでしょ」
「明日には動ける」
「動けるのと、働けるのでは大違いだよ」
図星をついてくるな。こういうところが大人びているというか、子供らしくない 物言いだなと。
「問題ないよ。ちゃんと働く」
ヤマトがコップを渡してくる。しっかり受け取ったと思った。しかし床には水がこぼれた。ヤマトの両手が俺の顔を挟みのぞきこむ。
「やっぱり、幻視系の呪かなあ…」
「お前何言って…」
「あの女は、攻撃時自動で発動する呪かけてたのはわかってた。視界を少しずらす程度のものだから大した能力じゃないし、効力もそこまで長いわけでもないからムサカが大人しくしててくれるなら何も言わないつもりだったけど、刺されてあげたよね、それ」
刺されてあげた…そんなことは…。
「考えすぎだ。そんなことは…」
「ないってはっきり言える?それとも、オレ見てなかったと思ってるから誤魔化そうとか?」
この言い方だと、おそらくすべて見ていたんだろう。
「これは、俺の問題だ」
ヤマトの手が外れ、一瞬の間。
「それが答えでいいんだね」
なんだ、表情がよく見えない。
「お前を巻き込むのは…」
「オレみたいな得体の知れない奴、信じられないよね」
噛み合ってない。
「そんなこと言ってない」
「オレが勝手に信じたいと思ったんだ。オレがここにいてもいいかなって」
「ヤマト、話を…」
離れようとするヤマトの手首を掴む。
「オレ、ヒトゴロシだから」
頭の中で言われたことが理解出来ず、手が離れる。
どうして、こんなことになった?必死に考えをまとめようとするが何一つまともな答えが出ない。俺はヤマトになんて言った?
俺の問題だと、裏を返せばお前には関係ないと。突き放されたととられても仕方がない、酷い言い草だ。俺が一方的に傷つけた。触れた手首が微かに震えていたのに、俺は手を離してしまった。
ふと外を見ると、陽が暮れ始めていた。どれほど考え込んでいたのか、床の水は乾いていて自分の愚鈍さにうんざりする。
「俺が、選んだんだろ…」
呟いて立ち上がり、部屋を出る。
この街についてからまだ日は浅く、特に行き着けのところがあるとは思えなかった。あの容姿だ。面倒に巻き込まれていないとも言い切れなかった。刀も宿に置いたまま、何も持たずに出ていった。いろいろな人に聞いてみたが、たいした情報は得られず、時間と体力ばかりが無駄に消費した。
ずっとではないが、何分かに一度ヤマトの言っていた視界のずれが起きる。
どうやら俺は呪に対する抵抗力があまり高くないようで、以前も2ヶ月ほど、自力では動けなくなったこともあった。
完全に陽も落ちて、夜の賑わいがあった。ここは下町だ、女性の一人歩きも安全とは言えない治安状態はただ、焦りだけを生んだ。
「…ヤマト、何処に…」
今の状態ではスキルも満足に使えない。地図があれば最低限のスキルだけでも…。
「危ない…!」
壁に手をついたつもりだった。声に気付き、気が付くとローブを着た人物が俺の身体を支えていた。
「あ…すいません」
その人は俺を近くにあるベンチに座らせると、フードを外した。
「そんな状態で、出歩くのはよくないよね」
まるで、今の俺の状態をわかっているかのようだ。この人、大陸原住民だ。
「大丈夫です。ありがとうございました。」
大陸原住民はこんな街中には殆んどいない。彼らは自分達のコミュニティの中で血を護りながら生活している。非常に短命で脆弱だが、魔法の扱いに長けていると聞く。一番の特徴が力が宿るといわれる髪と、額に描かれた目のような紋様だ。
「僕は、ウリト。見ての通りの大陸原住民だよ」
穏やかな物言いに、柔らかい物腰。年は俺より少し上かな。
「ムサカです。手を貸していただいてありがとうございます」
「そんなに畏まらないで。話、いいかな?」
話…今はヤマトを探さないといけない。
「すいません、今は…」
「彼なら、何処にいるか教えてあげるよ」
まさか、人質…。
「ヤマトに何かしたのか?」
「待って、僕は居場所を知ってるだけで、彼に危害は加えてないよ」
「じゃあ、今何処にいる?」
「安全なところ。心配はいらない。それより話を聞いてはくれないかな」
安全なところってなんだ。俺はいつから見られていたんだ。
「話を聞けば、教えてくれるんだな」
「ちゃんと案内するよ。だからいいかな?」
大陸原住民が、俺になんの話があるっていうんだ。とにかく、焦って大事な手掛かりを失うわけにはいかない。
「話してくれ」
何を言われるんだろうか。
「僕と僕の相棒を君達の仲間にしてくれないかな?」
…?なんだ急に。俺の理解力が足りてないのか、仲間にしてくれって言われたか、今。
「ちょっと、待ってくれ。なんで俺達なんだ?」
このウリトという人物と俺は面識がない。そもそも大陸原住民の知り合いなんていないからな。
「君の話は僕の相棒から聞いてる。とても優秀で、器用な信頼できる人物だと」
随分な過大評価だが、彼の相棒が誰なのか全く検討もつかなかった。
「貴方の相棒とやらは今どこに?」
見ればわかるのだろうか。相手は俺を知っているようだが。
「彼を見失わないように、追っているはずだよ」
ヤマトに気付かれず、尾行することはかなり難しいはずだ。
「仲間になりたいという話ならば、俺の一存では返答できない。仲間が欲しいならギルドで紹介してもらうなり募集なりをすればいい」
頭痛がしてきた。傷の痛みで考えもまとまらないし、とても失礼な対応をしているのではないか。
このウリトという人物は、何を思って俺達の仲間になりたいと言い、それを行動に移しているのか。ヤマトはともかく、俺にはそんな価値はない。
「君が、どうしてまた冒険者に戻ったのか。それを聞かせてくれないか?」
俺が冒険者に戻った理由…なぜそんなことを知りたがる?何か他に意図があるんじゃないか。またと言ったか。俺が以前冒険者だったことも知っているのか。
「俺が、戻ったのは…」
言葉がうまく出てこない。これは、汗…じゃない。視界がひどく歪む。
「君がここまで、呪に弱いとは驚きだよ。普通なら解けているはずなのに、君の場合は悪化しているようにも見えるね」
悪化しているわけじゃない。体力が落ちているせいで身体がうまく動かせないだけだ。
「…ヤマトは…」
「その様子じゃ、これ以上の会話は無理だね。一旦宿に戻ろうか」
俺が選んだんだ。
自分で決められることなんて、なかった。俺が自分を主張していいことなどない。ただ言われるがまま大人の好む都合のいい子供であれば、嫌われることはない。誰かの望む、形であればそれが、本心ではなくても他人が認める『俺』という存在になるのだと。
ヤマトは…故郷を離れ、一人大陸に投げ出された。心細くないはずがない。もっと話を聞けば、その余裕が俺にあればヤマトにあんな顔をさせることはなかったはずだ。もっとちゃんと向き合っていれば…。
「…ヤマ…ト」
額に手が触れる感覚で、意識が引き戻される。
「なに?」
目の前に…いや、膝枕で寝ている。
「お前、いつから…」
「彼の方から君の気配を感じてここまで来たんだよ」
ウリト、がいるということは場所はさっきのベンチのままか。
「そんな身体で出歩かないでよ」
「…悪い」
「それ、やめて。悪いと思ってないからここにいるんでしょ?」
また…口癖になっているのか。不快にさせてしまう言葉しか出ないのか。
「俺は…」
「オレが勝手に思い込んでただけだから。オレが信じてるように信じてくれてるって…でもそうじゃなかったってことだけで、それはオレがヒト…」
「ヤマト!」
これ以上は言わせてはいけない。何度も口にさせることじゃない。
「な…なに?」
「お前が過去にどんなことをしたとしても、俺が自分でお前となら、旅に出たいと思ったんだ」
そうだ、ヤマトなら俺を変えてくれると思ったんだ。何者でどんなことをしてきたかなんて関係ない。俺自身、自分が何者かすらわかっていないのに。
「ムサカはオレのこと、知らないからそんなことが言えるんだよ!」
こんな感情的なヤマトは見たことない。
「知りたいと思っちゃ悪いか?」
「…え?」
ぽかんとした顔をしてる。
「俺はお前のことを知りたい」
当たり前の感情を口にしただけだった。すると、ウリトが一つ咳払いをした。
「話してるところ悪いけど、いいかな?」
「あーうん、なに?」
ヤマトが、答える。
「君達、なんていうか今の状況で、その会話はこ…」
「バカ!余計なこと言わない!」
…まさか、いつからいたのか。建物の影から見覚えのある姿。
「モニカ…」
身体を起こし、何とか頭を整理しようとする。彼女は少しばつの悪い顔をしたが、ウリトに促され近付いてくる。
「謝らないから」
気付いてないのか、そう言ってることが。
「いいよ。俺は」
謝って彼女の気がすむわけではないだろうし。俺がしたことが許される訳でもない。
ということは、ウリトの相棒というのがモニカのことなのだろう。
「だめだよ。ちゃんと言わないと先に進めないだろ?」
まるで、子供を諭すかのようだ。彼女がまだ人らしくいられるのはきっと、ウリトのおかげなとのだろう。冒険者は少しのことで道を踏み外すことが多い中で、相棒が彼ならば正しい道を示してくれそうだ。
「許して欲しいとは思ってない」
「旅、続けないの?」
「…わかったから」
彼女は俺の前に立ち、一本の薬瓶を差し出した。
「これは?」
「自作の回復薬、減呪の効果もあるから」
昔から、謝るのが下手だったなあ。
「ありがとう」
すると、ヤマトの隣側にどすんと座る。ウリトは俺の隣に座り、
「で?どうかな、さっきの話」
「なに?話って」
ヤマトに話を伝え、珍しく何かを考えていた。俺はその姿が少し意外だった。ヤマトなら即答すると思っていたから。
「ヤマト?」
「…ん?なに?」
あまり乗り気ではないのか。ならば、この話は断ったほうがいいのではないか。
「嫌なら、この話は…」
「違うよ、オレじゃなくてムサカはどうなの?」
ここで、俺に問うのか。ヤマトも二人が悪人ではないことは理解したようだが、やはり俺のせいで、不安に感じてるのかもしれない。
「俺はいいよ。お前がいいなら」
また、この顔は…。何か言いたいことがあるのか?
「わかった。なら、いいよ。仲間」
ウリトがほっとした顔をした。その表情で、彼がどれほど本気だったのかを理解した。俺はそんな彼をあしらうような態度をしてしまったことを後悔した。
「ありがとう、それじゃこれからの話をしたいところだけど、一度宿に戻ろうか」
ウリトの提案で、宿に戻った。
ヤマトは疲れていたのか、部屋に戻るとそのままベッドに寝転がった。
「これは、話どころじゃないね。明日また」
ウリトはそういって出て行った。
モニカが、俺達と冒険者…俺の中のモニカは2年前の姿で止まっていた。
この2年の間に彼女にもいろいろあったのは、雰囲気から伝わってきた。きっと、彼女も何かを掴んだのかもしれない。欲しかった情報かなにかを。探していた人を。それを俺に聞く権利はない。
ただ、ヤマトが感じる不安は失くさなければならない。仲間に刺されるということは、安心して背中は預けられない。闘うものにとってそれは即、死に繋がる。
俺は、ヤマトが寝ているベッドの端に腰かける。ヤマトは壁の方を向いて丸くなっている。
「寝てるか?」
返事がなければ、今日のところはやめておこうと思うが、性格を考えれば…。
「寝てない」
やっぱり。眠るには不安が多すぎるのだろう。
「モニカは少し意地っ張りで、思ったことをすぐ口に出してしまう感情的なところがあるんだ。だから、俺に対してのことも一時的な感情でこうなっただけで、俺のほうが悪いところがあるというか…」
もっとわかりやすく言えばいいのだろうか。
「オレ、モニカと少し話した」
背中を向けたまま言うヤマト。
「そうか」
彼女から、聞く言葉は俺に対する疑念をかかえるものだったのだろうか。
「あんなことするつもりじゃなかったって。オレに謝ったの。だから、悪いヒトじゃないのはわかってるつもり。でも…」
「でも?」
「ムサカはどうなの?刺された相手と一緒に旅なんて出来るの?」
全く知らない人間よりは、同じ孤児院で暮らしていた仲間…同じ境遇ではなかったが、頼れる両親がそばにいない寂しさは彼女達も持っていたはずだ。それに…
「俺はお前がいれば、他にどれだけ増えても大丈夫だ」
「どういう意味?」
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