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第34話 友だちの頼み事
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Vell襲撃から数日が経過したが、財団からも、学園都市からも、メディエイトに通告があったわけではない。
しかし、いつ、口止めに来るのか分からない。メディエイトは活動頻度を抑え、告発の準備を整えていた。
そんなこともあり、ミナがメディエイトに出勤することも少なくなっていた。放課後になれば、リエサと一緒にすぐに寮に帰ることが多くなっていた。
けれど、今日は違った。
ミナとリエサが学校の門を出たところで、見知った顔を見かけた。彼女は二人を見るとすぐに走り寄ってきた。
「バルバラ? どうしたの?」
「えっと⋯⋯メディエイトに依頼がしたくて。昨日行ったんですけど開いてなくて⋯⋯だから、直接来たんです」
メディエイトは元々、学生たちのための慈善団体のようなもの。本来、バルバラのような学生が依頼主である。ただ、最近の仕事は犯罪者の確保が多かったため、珍しく思った。
「あー⋯⋯えー、っと、リエサ? これ引き受けていいのかな?」
だが今は少し間が悪い。Vellの件でアレンは忙しく、そして活動自体を自粛せざるを得ない。
ミナはその辺りが詳しくないため、リエサに聞いた。
「話聞いてからね、判断できるのは。こっちも忙しくて」
「あ、はい。分かりました。じゃあ、そこの喫茶店でお話しましょう」
ミナ、リエサ、バルバラの三人は、すぐ近くのチェーンタイプの某喫茶店に入った。
中にはそこそこの人が居たが、満員というわけでもなかった。
「わたしキャラメルフラペチーノで。あとチョコドーナツ一つ」
「珈琲を一つ」
「抹茶ラテ一つお願いします」
三人は注文する。やがて品が届いてから、話は始まった。
「⋯⋯まず、これは他言無用のお話です」
バルバラは声を小さくして伝えた。
普通の仕事ではやはりなかったようだ。彼女は冗談をつくような人ではない。本当に他言無用の話なのだろう。
というか、そんな話ならば、こんな喫茶店で話すべきではないとリエサは思ったが、考えないことにした。
「⋯⋯まあ、いいわ。話して」
「はい。⋯⋯要点だけを言えば、RDC財団本部に侵入したいんです」
一瞬、場が凍る。
何を言っているのだろうか、この子は。バルバラが反社会的な組織に属しているなんて聞いたことも思ったこともない。
「な、何を言っているの⋯⋯?」
「すみません。突拍子が過ぎました。⋯⋯でも、冗談ではないんです」
バルバラは、先日の夜の出来事を話した。
財団がそんな非人道的な実験をしているなんて、信じてもらえないかもしれない。しかし、バルバラが頼ることができるのは、ミナやリエサたちだけだ。
彼女はできるだけ、誠心誠意を込めて二人に伝えた。
「⋯⋯そう、ね。⋯⋯わかった。アレンさんに伝えておく。私個人としては、協力したいところだけど。一応、ね」
「え? 本当ですか?」
バルバラは何とか信じてもらうために、証拠をいくつも用意していた。しかし、その全てが必要なく、リエサはバルバラを信じた。
「頼んできたのはあんたでしょ。友だちが困ってるのに、信じないで断ると思ったの?」
何でもないようにリエサは答え、ブラックの珈琲を飲む。
「え、いや⋯⋯なんで、そんな簡単に信じるんだろう、って思いまして」
「あんたが嘘つくとは思えないし⋯⋯私たちも、財団に不信感があるからね」
「そうそう。わたしたち『能力覚醒剤』の件調べてたんだけどね、そこで財団が関わっているかもしれないって分かったんだよ。だから、そのO.L.S.計画なるものをやっていてもおかしくないな、って」
「『能力覚醒剤』も⋯⋯」
いよいよきな臭くなってきた。『能力覚醒剤』の事件と、O.L.S.計画。そしてその両方に財団が関わっている。
「それにしても、二つの件が全くの無関係だとは思えないよね」
「そうね。O.L.S.計画の内容から察するに、薬はアンノウンの能力のレベルアップを目的としたもの。計画に必要なものってところ」
リエサは現状分かることから、情報の整理をした。
そのために彼女はメモ帳を取り出し、簡単に勢力図や目的を記入した。無論、周りの目や耳には気を配っている。
「財団はアンノウンをオーバーレベル超能力者にすることが目的。『能力覚醒剤』はそのために必要なものの一つ、だとすれば、どうしてそれの開発をVellに委託し、なんなら学園都市にばら撒いたの?」
ミナの疑問は尤もだ。財団ほどの科学技術であれば、Vellにできるような『能力覚醒剤』の開発ができないとは思えない。また、学園都市に薬を流通させるメリットがない。寧ろ、事態の発見を促すことになるだろう。
「まず、薬の開発を委託したのは、その原材料はVellのみが持っていたから。原材料は私たちが保護したメアリーという少女だからね。大麻みたいに生産はできない」
バルバラからすれば全部初耳のことだ。Vellというよく分からない組織が財団と絡んでいるなんて、あの夜のことがなければ信じられなかっただろう。
「で、二つ目。学園都市に流通させた理由。多分二つはある。一つは実験のため。ミナ、私たちが高校に入学する前、元人間らしい化物に襲われたでしょ? あれ薬による変貌の末路だったらしいの」
「え、そうなの」
ミナが気絶させたあの化物と形容すべき元人間を調査した結果、能力因子の異常とも言える進化である、と判明した。
能力因子によって肉体変化が誘発される。もしこれが異常発達した場合、あのように体が異形化する。
「財団も、自我を失った化物をオーバーレベルにしたいわけがない。人体実験のためのもの」
「あの、それだと、わざわざ一般人を巻き込む理由がなくないですか? 寧ろ、リスクしかないような気が⋯⋯」
「いや、財団は最大限リスクを軽減していた。Vellを挟んで能力覚醒剤をばら撒くことでね。それに、一般人を実験対象とする理由にも凡そ検討はつく」
財団は人造人間という、モルモットとしては最適とも言えるモノを製造可能だ。しかし、ホムンクルスを作るための費用、手間を考えると、果たして量産可能なものなのだろうか。
ただでさえ、O.L.S.計画で二万人ものホムンクルスが必要であるはずなのに、更に、人体実験用のモルモットまで用意できる余裕があるのだろうか。
「ホムンクルスに何か欠陥があるのかもしれない。ただ単純に数を用意することができないのかもしれない。何であれ、それを使わない理由はあるし、一般人を巻き込むことでO.L.S.計画を、『能力覚醒剤』の事件でカバーできる」
Vellへの襲撃が成功し、財団との関係性が浮かばなければ。『能力覚醒剤』の件だけを追っていれば、財団が黒幕であるという確証は取れなかったし、O.L.S.計画も有耶無耶、隠蔽できていただろう。アンノウンの身代わりを用意し、ホムンクルスは哀れな事件に巻き込まれた人として処理すれば良いのだから。
「⋯⋯ま、ここまでが現状ってところね」
状況としてはかなり厳しいだろう。ただでさえ財団が敵に回るだけで厄介極まりないというのに、そこにアンノウンが関わっていると来た。
レベル6の第一位。文字通り、学園都市最強の超能力者。
「アンノウンってどれぐらい強いんだろう? 財団本部に侵入するよりマシだったりしないのかな?」
「分からない。けど、やめておくのが無難ね。不明なものを相手にするほど怖いものはない」
「うーん。そうだよねー」
「万が一会っても、逃げるべきだと思うよ。特にミナ、あんたそういうのにすぐ頭突っ込むから、注意しなさい」
「はーい」
その時、リエサのスマートフォンの着信音が鳴った。見ると、アレンからの返信だった。
「⋯⋯うん。バルバラ、アレンさんから返信あったんだけど、とりあえず話を聞きたいそうよ。これからこっち来るって」
それからしばらくしてアレンが喫茶店に入店した。ある程度の事情は既に伝えられていたため、アレンの質問に答える形でバルバラは情報を共有する。
「ふむ⋯⋯そうか。アンノウン、か」
アレンは顎に手を付けながら、考え込む。少しの思慮の後、答える。
「危険な仕事になるだろう。が、こちらとしても、やらなければいけなかったことだ。寧ろそちらの協力が得られるのなら、願ったり叶ったりといったところだな」
「⋯⋯! ありがとうございます!」
アレンはその仕事を引き受けた。
「アレンさん、やらなければいけなかった、とは?」
リエサは彼の発言に、気になった部分があった。凡そ察しはつくが。
「財団とVellの関係性は判明していただろ? 若頭、補佐、組長の話を聞く限りだと、Vellは財団の目的とかは分からなかった。つまり手掛かりを失った。そうなると、あとやることは一つだけってわけだ」
「なるほど。もう、埋める外堀はない。だから本命を叩くしかない⋯⋯ですか」
「まあな。⋯⋯ああ、そうだ。アンノウンは放置して、財団を叩くって話だが、俺はそれに反対だ」
アレンの提案は、その場にいた三人を驚かせた。どう足掻いても対処不可能な最強の超能力者を、放置せずしてなにをするのか。
「とは言ってもまだ決まったわけじゃない。コリン先生の能力でアンノウンの能力を無効化し、無力化する。財団にとってアンノウンは計画の要だろうし、試す価値はあると思うが」
「先生の超能力がアンノウンに効くんでしょうか? たしかに、レベル6相当の超能力者であるルイズ・レーニー・ヴァンネルには通用していましたが、第一位にも通用するんでしょうか」
リエサの指摘は尤もだ。アンノウンという実力、性質が不確かな相手に、味方側の重要な戦力を当てるリスクを冒したくない。
それはアレンも重々承知である。
「⋯⋯わたしも、アレンさんの意見に賛成かな」
意外や意外。アレンの言葉に賛同を示したのはミナだった。
勿論、彼女にも根拠というものはある。彼女はそれを説明し始めた。
「Vell襲撃時、コリン先生の超能力を無効化した超能力者が居たんだ。能力の影響を離散させるとか、そんな方法で」
しかしそれは、むしろ反対するための理由だ。矛盾していると思われるが、ミナが話したいのはここから。
「ただ逆に言えば、そうしないと超能力が封じられるという証拠になるんじゃないかな。あの人のレベル、多分6後半くらいだったから、アンノウンにも通用しないってことはないと思うんだけど」
「それは⋯⋯まあ、そうね。⋯⋯というか、なんでレベル6後半だって、分かるの?」
「見たら分かるよ。能力の出力、性能だけを基準としているから、学園都市のレベル定義とは少し違うけどね」
ミナのそういう感覚は非常に優れている。その的中率は限りなく百パーセントに近いだろう。
アンノウンのレベルがどれくらいであるか、なんて分からないが、O.L.S.計画を実行している以上、レベル6後半ではあるはずだ。
レベルだけなら6後半と思われる件の人物──宵本メイリを参考に考えることは、別段外れた予想というわけでもないだろう。
「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯うん。そこまで言われたら、私も反対するわけにはいかない。アンノウンを無力化することは、あるいは決定打になるかもしれない。でもそれはそうとして、財団本体も叩かないといけない」
「ああ。その辺りは俺が決めておく。⋯⋯というわけだ、ええっと?」
「あ、バルバラ・コーエンです」
「そうか。コーエンちゃん、君の依頼は俺たちが引き受ける。後は任せてくれ」
「はい! ありがとうございます! 私も、精一杯がんばります!」
「よろしくたの⋯⋯え? 今なんて言った?」
「え? 私も、頑張りますって⋯⋯」
「⋯⋯いや、その、心意気は良いと思うし、俺が言えたことじゃないが、危険だからもう関わらないほうがいいぞ」
はっきり言えば、邪魔で足手まといでしかない。しかし、アレンは現場の指揮に必要だし、実際は安全な後衛にいる。
バルバラはこの件に、これ以上関わらないほうが良いのは明白だ。
「それが、どうやらO.L.S.計画は場所を特定できないんですよ、本当は。でも私はなぜか、探そうと思えば見つけることができるんですよね」
アンノウンの悪行を阻止するべく、ジェイクたちは夜な夜な計画の実行場所を特定しようと奔放しているが、毎回見つかるわけではない。
それがどうしてか、バルバラはあれ以降、探そうと思えば毎回、毎日のように実験場所を見つけることができた。
「⋯⋯?」
「多分、私の能力によるものだと思います。レベル1ですけど、そういう偶然が起きやすい体質なのかもしれないんです」
昔から、バルバラは、幸運な偶然が起きやすい体質だった。不幸な偶然も起きるから、幸運体質というわけではないが、ただ確実に言えるのは、不幸であろうと幸運であろうと、必ず自分やまわりにとって都合の良い偶然であったということ
「⋯⋯⋯⋯???」
「確率操作とか、その類なのかな?」
「そうです。現実強度が低いから、そんなに強力な影響はありませんけど」
何はともあれ、バルバラの有用性はこれで証明された。
その後、少し後日の話をしてから、四人は喫茶店を去った。
そして後日──最初のアンノウンとの遭遇が発生する。
しかし、いつ、口止めに来るのか分からない。メディエイトは活動頻度を抑え、告発の準備を整えていた。
そんなこともあり、ミナがメディエイトに出勤することも少なくなっていた。放課後になれば、リエサと一緒にすぐに寮に帰ることが多くなっていた。
けれど、今日は違った。
ミナとリエサが学校の門を出たところで、見知った顔を見かけた。彼女は二人を見るとすぐに走り寄ってきた。
「バルバラ? どうしたの?」
「えっと⋯⋯メディエイトに依頼がしたくて。昨日行ったんですけど開いてなくて⋯⋯だから、直接来たんです」
メディエイトは元々、学生たちのための慈善団体のようなもの。本来、バルバラのような学生が依頼主である。ただ、最近の仕事は犯罪者の確保が多かったため、珍しく思った。
「あー⋯⋯えー、っと、リエサ? これ引き受けていいのかな?」
だが今は少し間が悪い。Vellの件でアレンは忙しく、そして活動自体を自粛せざるを得ない。
ミナはその辺りが詳しくないため、リエサに聞いた。
「話聞いてからね、判断できるのは。こっちも忙しくて」
「あ、はい。分かりました。じゃあ、そこの喫茶店でお話しましょう」
ミナ、リエサ、バルバラの三人は、すぐ近くのチェーンタイプの某喫茶店に入った。
中にはそこそこの人が居たが、満員というわけでもなかった。
「わたしキャラメルフラペチーノで。あとチョコドーナツ一つ」
「珈琲を一つ」
「抹茶ラテ一つお願いします」
三人は注文する。やがて品が届いてから、話は始まった。
「⋯⋯まず、これは他言無用のお話です」
バルバラは声を小さくして伝えた。
普通の仕事ではやはりなかったようだ。彼女は冗談をつくような人ではない。本当に他言無用の話なのだろう。
というか、そんな話ならば、こんな喫茶店で話すべきではないとリエサは思ったが、考えないことにした。
「⋯⋯まあ、いいわ。話して」
「はい。⋯⋯要点だけを言えば、RDC財団本部に侵入したいんです」
一瞬、場が凍る。
何を言っているのだろうか、この子は。バルバラが反社会的な組織に属しているなんて聞いたことも思ったこともない。
「な、何を言っているの⋯⋯?」
「すみません。突拍子が過ぎました。⋯⋯でも、冗談ではないんです」
バルバラは、先日の夜の出来事を話した。
財団がそんな非人道的な実験をしているなんて、信じてもらえないかもしれない。しかし、バルバラが頼ることができるのは、ミナやリエサたちだけだ。
彼女はできるだけ、誠心誠意を込めて二人に伝えた。
「⋯⋯そう、ね。⋯⋯わかった。アレンさんに伝えておく。私個人としては、協力したいところだけど。一応、ね」
「え? 本当ですか?」
バルバラは何とか信じてもらうために、証拠をいくつも用意していた。しかし、その全てが必要なく、リエサはバルバラを信じた。
「頼んできたのはあんたでしょ。友だちが困ってるのに、信じないで断ると思ったの?」
何でもないようにリエサは答え、ブラックの珈琲を飲む。
「え、いや⋯⋯なんで、そんな簡単に信じるんだろう、って思いまして」
「あんたが嘘つくとは思えないし⋯⋯私たちも、財団に不信感があるからね」
「そうそう。わたしたち『能力覚醒剤』の件調べてたんだけどね、そこで財団が関わっているかもしれないって分かったんだよ。だから、そのO.L.S.計画なるものをやっていてもおかしくないな、って」
「『能力覚醒剤』も⋯⋯」
いよいよきな臭くなってきた。『能力覚醒剤』の事件と、O.L.S.計画。そしてその両方に財団が関わっている。
「それにしても、二つの件が全くの無関係だとは思えないよね」
「そうね。O.L.S.計画の内容から察するに、薬はアンノウンの能力のレベルアップを目的としたもの。計画に必要なものってところ」
リエサは現状分かることから、情報の整理をした。
そのために彼女はメモ帳を取り出し、簡単に勢力図や目的を記入した。無論、周りの目や耳には気を配っている。
「財団はアンノウンをオーバーレベル超能力者にすることが目的。『能力覚醒剤』はそのために必要なものの一つ、だとすれば、どうしてそれの開発をVellに委託し、なんなら学園都市にばら撒いたの?」
ミナの疑問は尤もだ。財団ほどの科学技術であれば、Vellにできるような『能力覚醒剤』の開発ができないとは思えない。また、学園都市に薬を流通させるメリットがない。寧ろ、事態の発見を促すことになるだろう。
「まず、薬の開発を委託したのは、その原材料はVellのみが持っていたから。原材料は私たちが保護したメアリーという少女だからね。大麻みたいに生産はできない」
バルバラからすれば全部初耳のことだ。Vellというよく分からない組織が財団と絡んでいるなんて、あの夜のことがなければ信じられなかっただろう。
「で、二つ目。学園都市に流通させた理由。多分二つはある。一つは実験のため。ミナ、私たちが高校に入学する前、元人間らしい化物に襲われたでしょ? あれ薬による変貌の末路だったらしいの」
「え、そうなの」
ミナが気絶させたあの化物と形容すべき元人間を調査した結果、能力因子の異常とも言える進化である、と判明した。
能力因子によって肉体変化が誘発される。もしこれが異常発達した場合、あのように体が異形化する。
「財団も、自我を失った化物をオーバーレベルにしたいわけがない。人体実験のためのもの」
「あの、それだと、わざわざ一般人を巻き込む理由がなくないですか? 寧ろ、リスクしかないような気が⋯⋯」
「いや、財団は最大限リスクを軽減していた。Vellを挟んで能力覚醒剤をばら撒くことでね。それに、一般人を実験対象とする理由にも凡そ検討はつく」
財団は人造人間という、モルモットとしては最適とも言えるモノを製造可能だ。しかし、ホムンクルスを作るための費用、手間を考えると、果たして量産可能なものなのだろうか。
ただでさえ、O.L.S.計画で二万人ものホムンクルスが必要であるはずなのに、更に、人体実験用のモルモットまで用意できる余裕があるのだろうか。
「ホムンクルスに何か欠陥があるのかもしれない。ただ単純に数を用意することができないのかもしれない。何であれ、それを使わない理由はあるし、一般人を巻き込むことでO.L.S.計画を、『能力覚醒剤』の事件でカバーできる」
Vellへの襲撃が成功し、財団との関係性が浮かばなければ。『能力覚醒剤』の件だけを追っていれば、財団が黒幕であるという確証は取れなかったし、O.L.S.計画も有耶無耶、隠蔽できていただろう。アンノウンの身代わりを用意し、ホムンクルスは哀れな事件に巻き込まれた人として処理すれば良いのだから。
「⋯⋯ま、ここまでが現状ってところね」
状況としてはかなり厳しいだろう。ただでさえ財団が敵に回るだけで厄介極まりないというのに、そこにアンノウンが関わっていると来た。
レベル6の第一位。文字通り、学園都市最強の超能力者。
「アンノウンってどれぐらい強いんだろう? 財団本部に侵入するよりマシだったりしないのかな?」
「分からない。けど、やめておくのが無難ね。不明なものを相手にするほど怖いものはない」
「うーん。そうだよねー」
「万が一会っても、逃げるべきだと思うよ。特にミナ、あんたそういうのにすぐ頭突っ込むから、注意しなさい」
「はーい」
その時、リエサのスマートフォンの着信音が鳴った。見ると、アレンからの返信だった。
「⋯⋯うん。バルバラ、アレンさんから返信あったんだけど、とりあえず話を聞きたいそうよ。これからこっち来るって」
それからしばらくしてアレンが喫茶店に入店した。ある程度の事情は既に伝えられていたため、アレンの質問に答える形でバルバラは情報を共有する。
「ふむ⋯⋯そうか。アンノウン、か」
アレンは顎に手を付けながら、考え込む。少しの思慮の後、答える。
「危険な仕事になるだろう。が、こちらとしても、やらなければいけなかったことだ。寧ろそちらの協力が得られるのなら、願ったり叶ったりといったところだな」
「⋯⋯! ありがとうございます!」
アレンはその仕事を引き受けた。
「アレンさん、やらなければいけなかった、とは?」
リエサは彼の発言に、気になった部分があった。凡そ察しはつくが。
「財団とVellの関係性は判明していただろ? 若頭、補佐、組長の話を聞く限りだと、Vellは財団の目的とかは分からなかった。つまり手掛かりを失った。そうなると、あとやることは一つだけってわけだ」
「なるほど。もう、埋める外堀はない。だから本命を叩くしかない⋯⋯ですか」
「まあな。⋯⋯ああ、そうだ。アンノウンは放置して、財団を叩くって話だが、俺はそれに反対だ」
アレンの提案は、その場にいた三人を驚かせた。どう足掻いても対処不可能な最強の超能力者を、放置せずしてなにをするのか。
「とは言ってもまだ決まったわけじゃない。コリン先生の能力でアンノウンの能力を無効化し、無力化する。財団にとってアンノウンは計画の要だろうし、試す価値はあると思うが」
「先生の超能力がアンノウンに効くんでしょうか? たしかに、レベル6相当の超能力者であるルイズ・レーニー・ヴァンネルには通用していましたが、第一位にも通用するんでしょうか」
リエサの指摘は尤もだ。アンノウンという実力、性質が不確かな相手に、味方側の重要な戦力を当てるリスクを冒したくない。
それはアレンも重々承知である。
「⋯⋯わたしも、アレンさんの意見に賛成かな」
意外や意外。アレンの言葉に賛同を示したのはミナだった。
勿論、彼女にも根拠というものはある。彼女はそれを説明し始めた。
「Vell襲撃時、コリン先生の超能力を無効化した超能力者が居たんだ。能力の影響を離散させるとか、そんな方法で」
しかしそれは、むしろ反対するための理由だ。矛盾していると思われるが、ミナが話したいのはここから。
「ただ逆に言えば、そうしないと超能力が封じられるという証拠になるんじゃないかな。あの人のレベル、多分6後半くらいだったから、アンノウンにも通用しないってことはないと思うんだけど」
「それは⋯⋯まあ、そうね。⋯⋯というか、なんでレベル6後半だって、分かるの?」
「見たら分かるよ。能力の出力、性能だけを基準としているから、学園都市のレベル定義とは少し違うけどね」
ミナのそういう感覚は非常に優れている。その的中率は限りなく百パーセントに近いだろう。
アンノウンのレベルがどれくらいであるか、なんて分からないが、O.L.S.計画を実行している以上、レベル6後半ではあるはずだ。
レベルだけなら6後半と思われる件の人物──宵本メイリを参考に考えることは、別段外れた予想というわけでもないだろう。
「⋯⋯⋯⋯。⋯⋯うん。そこまで言われたら、私も反対するわけにはいかない。アンノウンを無力化することは、あるいは決定打になるかもしれない。でもそれはそうとして、財団本体も叩かないといけない」
「ああ。その辺りは俺が決めておく。⋯⋯というわけだ、ええっと?」
「あ、バルバラ・コーエンです」
「そうか。コーエンちゃん、君の依頼は俺たちが引き受ける。後は任せてくれ」
「はい! ありがとうございます! 私も、精一杯がんばります!」
「よろしくたの⋯⋯え? 今なんて言った?」
「え? 私も、頑張りますって⋯⋯」
「⋯⋯いや、その、心意気は良いと思うし、俺が言えたことじゃないが、危険だからもう関わらないほうがいいぞ」
はっきり言えば、邪魔で足手まといでしかない。しかし、アレンは現場の指揮に必要だし、実際は安全な後衛にいる。
バルバラはこの件に、これ以上関わらないほうが良いのは明白だ。
「それが、どうやらO.L.S.計画は場所を特定できないんですよ、本当は。でも私はなぜか、探そうと思えば見つけることができるんですよね」
アンノウンの悪行を阻止するべく、ジェイクたちは夜な夜な計画の実行場所を特定しようと奔放しているが、毎回見つかるわけではない。
それがどうしてか、バルバラはあれ以降、探そうと思えば毎回、毎日のように実験場所を見つけることができた。
「⋯⋯?」
「多分、私の能力によるものだと思います。レベル1ですけど、そういう偶然が起きやすい体質なのかもしれないんです」
昔から、バルバラは、幸運な偶然が起きやすい体質だった。不幸な偶然も起きるから、幸運体質というわけではないが、ただ確実に言えるのは、不幸であろうと幸運であろうと、必ず自分やまわりにとって都合の良い偶然であったということ
「⋯⋯⋯⋯???」
「確率操作とか、その類なのかな?」
「そうです。現実強度が低いから、そんなに強力な影響はありませんけど」
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