Reセカイ

月乃彰

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第93話 幕間

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 2019.12.5、14:00。学園都市統括理事会本部にて。
 RDC財団総責任者、ミリア・アインドラは理事会に出席し、今回の騒動についての報告を行っていた。

「──以上が、今回のシャフォン教及び色彩が起こしたクラスA神格実体の召喚と、これの討伐に関する全容。⋯⋯何か、質問は?」

 仮にも相手は学園都市を統括する理事会のメンバー。そんな相手であるが、ミリアはいつもの態度を崩さない。
 そしてこれを咎める者は誰も居ない。

「⋯⋯ご苦労。まずはその偉業を成したこと、そして学園都市を救ったことに賞賛を」

 理事会のリーダーである男が答える。

「お世辞はいい。こっからが本題だ」

 ミリアは空席となった理事会の席を一瞬だけ見た。

「今回の騒動は、私たちにとって最悪なタイミングで発生し、かつ、その動向が直前まで掴めなかった。はっきり言う。私の、私たち財団の能力不足であるとは認めない。そこについて何か言うことは?」

「⋯⋯⋯⋯。単刀直入に述べよう。内通者が居た。我々のメンバーの一人だ」

「ああ。そうだ。そしてそいつの名は?」

「──マリオ・ロンバルディ。元S.S.R.F.所属の若い男だった」

 やはり、とミリアは顔を顰めた。
 マリオ・ロンバルディ⋯⋯その正体はギーレだ。彼は理事会に所属しており、誰もその正体を認知できていなかった。
 いや、そもそも彼の名前を知っていても、分からなかったはずだ。

「内通者なんてものじゃない。そいつは事件の主犯格だ。そして今も行方が掴めないでいる。我々よりずっと魔族に詳しいGMCが、だ」

 GMCと財団は今回の件をきっかけに、過去の溜飲を互いに下げ、完全な協力体制を敷いた。
 両陣営の力を結集させ、ギーレの捜索を行っているが、足取り一つ掴めないでいる。

「⋯⋯ミース学園自治区に住まう住人の七割が死亡した。生き残ったのは、偶々その日、ミース学園から離れていた人々と残り僅かな幸運だった人々だけだ。全員死んでいてもおかしくなかった。いや、下手をすれば学園都市が、世界が滅んでいてもおかしくなかった。⋯⋯その責任をどう取るつもりで?」

「⋯⋯⋯⋯それは」

 言葉に言い淀む。否、答えは一つしかない。それを口にするのを躊躇っているだけだ。
 辞任なんてものはない。それは責任から逃れるだけだ。

「⋯⋯分かった。S.S.R.F.を動かそう」

 財団とGMCだけではない。理事会も、この連合に加入しなくてはならない。
 権力闘争などやっている暇はないのだ。

「⋯⋯ええ。我々は協力するべきだ」

 ◆◆◆

 同日、ファインド・スクール自治区にて。
 ミース学園の壊滅的被害により、ミース学園自治区内の生存者の受け入れ先としてファインド・スクール自治区が指定された。
 ミース学園の生徒もファインド・スクールに受け入れられることとなり、今日はその説明会だ。

「⋯⋯ここ、だね」

 学園都市の三大学園が一つ、ファインド・スクール。
 RDC財団が直接関わり設立されたこの学校は、超能力研究が盛んだ。また、エヴォ総合学園ほどとは言わずとも現代科学にも優れており、設備という面においては最先端を行っている。
 実際、ミース学園並の広大さを持つキャンパス内での移動手段は小型リニアモータートレインが使われているほどだ。
 ミナとリエサは、今日からファインド・スクールに移籍する。ミース学園が復興するまでの間、つまり一年程度はここに通うことになるし、寮もそうだ。
 二人は高等部に向かい、そこで受付を済ませる。会議室に案内されて学長に色々と説明を受け、時刻は11:30。
 昼から学校の案内があり、今日はそれで終了の予定だ。
 一先ず、そろそろ昼食の時間。ミナとリエサは食堂に向かった。

「それにしても凄いね。学校っていうより研究施設みたいだよ」

 全面真っ白な校内。場所によっては強化硝子がふんだんに使われていたり、明らかに超テクノロジー的なオブジェクトがあったり、学園都市でも一際近未来的な様子が伺える。

「そうね。ファインド・スクールは超能力の研究施設という側面が強い。それに伴う発明もね。以前の科学大会ではとんでも発明ばっか出てたし」

 現実改変現象を利用した超現実的科学製品の研究、発明において、ファインド・スクールを超える機関はないとされる。
 科学大会なるものが学園都市では開かれているが、ファインド・スクールのとある部活がレールガンを発表したこともあった。ただのレールガンではなく、超能力現象を介した現実改変によるものだとかなんとか。あとレールガンではなく、どちらかと言えば電気を利用した超エネルギー砲みたいなものだったはずだ。

「専門的過ぎて何言ってるか当時はわからなかったけど、今思い返すと、やってることが普通に学会に発表できるレベルだったのよね⋯⋯そりゃ、審査員が全員唖然とするわけよ」

「いや多分、あのときの審査員さんの唖然は校舎が半分消滅したことに対するものだと思うけど⋯⋯」

 それもパフォーマンスの一環だと知った時はもう一度唖然としたっけな、とミナは思い出した。
 そうこう雑談を交えつつ、二人は食堂につく。
 食券を買って呼び出されたら取りに行く、という方式だった。
 てっきり食べ物が転送でもされてくるものだと思っていたが、案外普通だ。
 ミナはオムライス(大盛)、リエサは蕎麦を頼んだ。

「大盛頼んだのは知ってたけど、なんか、多くない?」

「え? そうかな」

 米三合はありそうなオムライスだった。おそらく、リエサでは食べきれない量だ。

(本当にこの子のほっそい体のどこにその量が入るのか⋯⋯)

 パクパクと目に見えてオムライスの量が減っていっている。大食い選手権に出せば一位が狙えそうな勢いだ。
 食事をしていると、次第に食堂内に生徒が増え始めた。どうやら昼前の授業が終わったらしい。その頃になるもミナは食べ終わっていた。ちなみにリエサはまだ半分くらい残っている。勿論時間は五分も経っていない。

「⋯⋯ん? あ、もしかして、星華ちゃん?」

 不意に、ミナに話しかける人物がいた。
 紫のショートヘア。普遍的なミース学園の学生服を着ている。
 その人物は、確か学園大体育祭の選手宣誓をしていたはずだ。

「よかった。生きていたんだね」

「⋯⋯どなた?」

 ミナとその人物は知り合いであるようだが、リエサは当然知らなかった。

「前にも話したと思うけど、わたしがミース学園に入るきっかけになった人」

「なんかそう言われたら恥ずかしいな⋯⋯。初めまして。自分は剣野未来けんのみらい。よろしくね」

「ああ、あなたが。こちらこそ。月宮リエサと言います」

 剣野ミライ──ミナと同じレベル5の超能力者であり、ミース学園の二年生。ミナたちの一つ上の先輩だ。
 ミライは手に持っていた唐揚げ定食をミナたちと同じテーブルに起き、対面に座る。
 食事をとりつつ、ミライは二人に話しかけた。

「⋯⋯答えにくかったら良いんだけど⋯⋯あの夜、何があったの? 自分は、用事でファインド・スクールこっちに来てたから何も知らなくて⋯⋯」

「⋯⋯それは」

 ミナはミライに、あの夜の出来事を伝えた。

「⋯⋯それは。⋯⋯うん。ごめんね、嫌なことを話させてしまって」

「いえ。そんなことは⋯⋯」

 空気が少し重くなったし、会話を続けるような雰囲気でもない。
 かなり気まずい状態だ。そこでリエサは話題を変える。

「ところでさっき、先輩は用事で先にこっちに来てた、って言ってましたけど、どういう要件なんですか?」

「ああ、ええと、自分の超能力の調整だよ。多分疑問に思ってると思うんだけど、自分が目を隠していること」

 ミライは常に黒色のバンダナで両目を隠している。センシティブだからリエサは触れなかったが、どうやら超能力に関係するものらしい。

「自分の超能力はちょっと特殊でね。見ることで能力が発動する。今でこそコントロールできるようなったけど、暴発したら怖いからこうして目を隠しているんだ。それにその影響か、人より目が良く見えて、こうして隠していないと情報過多で疲れるんだよね」

 付け加えるように、目を隠している状態でも外の状況は把握できているとミライは言った。
 色はわからずとも、輪郭や気配などが視えるらしい。

「ミース学園での能力訓練でコントロールはできても、能力そのものの抑制はここじゃないとできない。ついでに検査もここでやってもらってるんだ」

「そうなんですね」

 他にも雑談を交えていると、いつの間にか昼休憩も終了間際になっていた。急いで片付けて、三人は別れることになった。

「またね」

 ミライは午後からの検査のために、検査室へ向かった。
 ミナとリエサは、それから学校設備についての案内、説明を受けて、その日を終えた。

 ◆◆◆

 ──ミース学園跡地にて。

「⋯⋯⋯⋯ふうん。やはり生きていたのね」

 そこに、一人の女が立っていた。
 今、ミース学園は立入禁止だ。関係者であればともかく、その女は部外者である。それを示すように、内部を警備していた一級含む魔術師は皆殺しにされている。

「ギーレ。この間死んだと聞いたのだけれど、ね」

 女は──いや、その魔族は、そこに残る魔力の残滓を感じ取っていた。
 そして彼女にしては珍しく、機嫌を悪くしていた。何事も楽しむ彼女が、不快感を示すことは滅多にない。

「ねえ。そこの魔術師さん、何か、知らないかしら?」

 魔族は振り返り、手を伸ばす。その先の物陰に隠れていた一級魔術師は、突然身動きが取れなくなった。
 魔族はその姿を影より表す。
 水色の長髪。額から生える角により、センター分けの髪型となっている。
 白色のワンピースのような格好をした十代後半の非常に美しい顔立ちの少女。だが、隠す気もない圧倒的な魔力を感じる。

「う⋯⋯っ⋯⋯」

 声が出なかった。何も考えられないほどの魔力に当てられているからだ。

「そう」

 そして、魔術師は何もできずに首が吹き飛んだ。その際に、風船が割れるような音が響いた。

「最近の魔術師は、ちょっとはマシになったけど、会話できないわ。⋯⋯少し、人間さんとの対話の仕方も考え直さないといけないわね」

 魔族は、その場を去った。
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