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OTERROUT「狂気と痛みと憎しみと」
後編
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──。
────。
────────。
「⋯⋯ぁ」
長い間、彼女は、ただ、その生気を感じさせない目で、光が一切ない瞳で、開いているか怪しい瞳孔で、虚空を眺めていた。
彼女は義姉を失った。彼女は旧友を失った。目の前で、神父に殺された。
無気力に、生きているのかどうかさえ怪しい状態だった。
何日間も飲食しなくても彼女は生きていられる。老化もほとんどしていないようなものだ。だから、彼女は実質的な不老不死である。
だがそれが、果たして、生きている、ということなのだろうか。
──分からない。知らない。どうでもいい。
「⋯⋯」
ただ彼女は、絶望していた。
生きる意味を見出すことができずに、虚無の如き心を持ち、一日一日を怠惰に過ごしていく。
「⋯⋯⋯⋯もう」
生きる意味ではなく、その逆、死にたい意味ならば、彼女は持っていた。
愛する人を、また喪った。それだけで、彼女を自殺に追い込むには、十分過ぎたのだ。
死にたい。消えたい。楽になってしまいたい。
こんな世界に、愛する人が居ないこの世界に、価値なんて、もう──ない。
壊したところで、喪った者が帰ってこないなら、壊す意味さえないのだ。
ならば、死ねば、死んでしまえば、それで終わり。死は恐怖であるが、また、救済でもあるのだから。
「⋯⋯」
魔女は、ほぼ不老不死の存在である。
そう、あくまで『ほぼ』なのだ。完全な不老不死の存在ではない。首や胴体が真っ二つに切断されるわけでもなければ、即死することはないにせよ、なんの処置もされなければそのうち死亡する。生命力が高いだけで、魔女は、ドラゴンの鱗のように硬い皮膚など持っていないのである。
だから、自殺をするならば、普通の人間と同じように自殺できる。
「⋯⋯っ」
無詠唱化された創造系魔法によって、彼女の手に短剣が創られた。勿論それには殺傷能力があり、人に刺せば殺せる。
その短剣を、彼女は両手でしっかりと握りしめてから、自身の喉に、刃の先端を向ける。そしてゆっくりと、刃を喉に触れさせるべく、刺し込んだ。
──痛い。
皮膚と一緒に血管が斬れて、体内を循環していた血液がその斬れ目から流れる。
熱くて、しかし、どこか冷たい。
涙が溢れる。それは哀しみによるものなのか。もしくは痛みによるものなのか。最早、彼女自身でさえ、分からなかった。あるいは、その両方なのかもしれない。
痛みに屈するほど、今の彼女は正気でない。だが苦しむのを嫌がるくらいの考える脳はあるようだ。ゆっくりと刺すのではなく、もういっそのこと、一気に突き刺して、即死しようと思い、彼女は短剣に込める力を強めようとした。
「エスト」
──その瞬間だった、声がしたのは。
声には、聞き覚えがあった。いや、声の主が誰であるかを断言できるほどだ。
綺麗で、美しくて、透き通っていて、穏やかで、優しくて、懐かしくて心温まる声。
そして、二度と聞けないはずの声。
あのとき、死んだはずの、お義母さんの声だ。
「え⋯⋯」
碧色の瞳は月明かりが反射して煌めいていた。
もう少しで地面に付きそうなくらい長いサラサラとした髪は銀色であり、女性にしては身長が高い。黒色の、鍔のついた大きな帽子を被っており、漆黒のローブは彼女の美しさを強調していた。
彼女は先代の白の魔女にして、
「お義母、さん⋯⋯?」
エストの義理の母。名をルトア。
「⋯⋯そんな。だって、お義母さんはあのとき⋯⋯」
死者蘇生の魔法は、体の七割がそこに存在しなくては行使できない。つまり、六百年前の死者の復活なんて、あり得るはずがない出来事なのだ。
魔法について非常に詳しいエストだからこそ、目の前の現実を受け入れることができなかった。
「⋯⋯エスト、ごめんね」
ルトアは両手を広げて、エストを抱擁する。
確かな温かさを──暖かさを、エストは感じる。
心地良い。とても、安心できる。されるがままに、エストはルトアに全身を委ねた。そうしたかった。
「ごめんね。キミを一人にして」
「かあ、さん⋯⋯」
首の傷はいつの間にか完治しており、既に血は流れていないし痛みもない。きっと、ルトアが治癒してくれたのだろう。
「うっ⋯⋯うう⋯⋯」
目頭が熱くなり、溢れ出る涙を堰きとめることができなかった。頬に涙を流して、エストは久しく、本当に久しく泣いた。二度と会えないと思っていたお義母さんと会えたことによる感動は、彼女を絶望の淵から救ったのだ。
──どれだけ、エストは泣き喚いたのだろうか。でも、それはとても長かったことは覚えている。
「──」
気づいたとき、エストはベッドに仰向けに寝転がっていた。窓に映る、少しばかり明るくなりつつある空を見て、あれからいくらか時間が経過したのだと分かる。
「⋯⋯夢⋯⋯?」
あれは夢だったのだろうか。それとも、現実の中の幻だったのか。
いずれにせよ、ルトアは今、この瞬間にも、世界には実在していないことは確実だろう。六百年前に死亡したルトアが、今生き返ったなんて、絶対にありえないのだから。それこそが、『世界の理』なのだから。
──しかし、例えあれが妄想だとしても、エストの壊れかけていた心を癒やしたことは、絶対普遍の事実である。
今ではあの自殺が、非常に馬鹿馬鹿しく思えてきた。ならば、そんな細かいことは考えなくて良いだろう。
「⋯⋯さてと」
生きる気力を取り戻したことで、同時に、自身の目的も思い出した。
エストの『欲望』は、あらゆる知識を収集すること。己が知識欲を満たすことである。そのためにも、世界の終焉を導くであろう危険因子である黒の魔女は、殺さなくてはならない。
エストは『欲望』のために決意する、が、
「いや、眠たいし、寝よ」
しかし、それは後日に回すべきだろう。
一瞬で泥のように眠ってしまうほどに、今の彼女には疲労が溜まっているのだから。魔女という種族において、それは危険とも言える状態だ。
彼女は再びベッドに身を投げる。反発することによって彼女の細くて軽い体は一度だけ少し跳ね上がった。
「あ⋯⋯お風呂入るの忘れてた」
意識が暗闇に落ちる寸前、彼女は大事なことを思い出してその体を起こすと、そのまま浴場へ向かっていった。
◆◆◆
殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい──。
彼女は、他者を殺すことを楽しむ狂人だった。人の儚い命が砕けて、消滅するとき、冷たくなるときこそが、最も美しくて、最も愉快だからだ。
だが、いつからか、その殺す対象を彼女は厳選するようになっていた。昔のようにただ殺すだけでは、彼女の枯れきった心を満たすことはできなくなっていったのだ。そうつまり、彼女は弱者を蹂躙することに何の価値も感じなくなったということだ。
彼女が求むのは強者。殺し合いをしていて心の底から楽しいとも思えるほどの強き者。戦っていると思わせるほどの実力者なのだが、彼女のその基準もまた、年を重ねるごとに高くなっていった。
等々、その基準は魔女クラス。それもその中でも最上位のレベルにまで上がっていった頃には、彼女の心は常に、砂漠のように枯れていた。水を求めるように、死の観察を求めていた。
「ああ⋯⋯私はあなたを」
──殺したい。
彼女はまるで欲情しているかのように頬が紅くなっていた。いやまさしくそうなのだろう。
人の三大欲求には食欲、睡眠欲、そして性欲がある。彼女には食欲も睡眠欲も性欲もないのだが、彼女に唯一ある殺害欲はその三つのうち、性欲に当てはまるだろう。
彼女にとって、殺害欲とは性欲に同等するほどの、原始的で本能的な『欲望』なのだ。性欲を感じたときに起こる生理的な現象が、殺害欲を感じたときに起こる。
「優しく。抱きしめて。可愛がるように。そして酷く──」
彼女のその精神構造は一体何なのだろうか。
あるいは狂人。あるいは人外。あるいは冒涜的。あるいは無理解。あるいは虚無。あるいは──唯一無二。
しかしこのうちのどれであっても、正常で健康で倫理観のある精神でないことは共通だ。
「⋯⋯ふふふ。これでもっとあなたの才は磨かれる」
嬉しそうに、狂気的に、慈愛に満ちたように、愉快に、彼女は笑った。
真に美しいものはいつも一瞬だけしかこの世界に現れない。時間を止めてしまっては、その美しさは失われる。動く時間の中で観測するからこそ死は美しいのであって、死ぬ瞬間に時間を止めたって、それはとても醜くい。
殺すことでようやく美しくなる。それが生命である。そして、元が強ければ強いほど、その死はより美しさを増す。
ああだから、生命は死ぬんだ。美しくなるために、生命は必ず死ぬんだ。そうとしか考えられない。
生への執着は死への恐怖ゆえにあるのだ。
どちらかが強まったとき、もう片方も強まる。
どちらかが弱まったとき、もう片方も弱まる。
生きることと死ぬことは真逆のように思えて、実は、それらには相互関係にある。
ならば、彼女はこう思うだろう。
──最も美しい死とは、最も強い生への渇望の先に生まれるのだと。
◆◆◆
ウェレール王国の王都を全て囲むのは、灼熱の炎の壁であった。炎は軽く10mを超えており、また、それを無理矢理にでも越えようとしたならば、人間如きは一瞬で真っ黒な消し炭に成り果ててしまう。
炎のおかげで、夜の冷たさは和らいだ。だが、今は、そんなこと気にしていられるような状況ではなかった。
「──」
老若男女の悲鳴、喉がはちきれんばかりの絶叫が、王都中で響いていた。
それもそのはずだ。突如として、王都には大量のアンデッドが発生したのだから。それも、普通の冒険者では到底太刀打ちできないほどの高位のアンデッドたちだ。何の戦闘能力も持たない一般人が、どうにかできるような相手ではない。
天に願おうにも、どうやら夜空に浮かぶ星々は、この惨状を目にしても、何の救いの手も出さないらしい。一時間ほどで、王都の人口のうち、およそ七割が死亡した。残り三割も、あと半時間ほど経過すれば、殆ど死亡するだろう。
「⋯⋯俺は、元には戻れない。たかが人間を同種だったとは思えないし、同情心は微塵も生まれないな」
肉体と精神は相互に関係し合う。つまり、肉体が変化すれば、精神も変化する。
吸血鬼へと変化を遂げたマサカズの精神は、既に人間のものからは大きく離れ、異形の者の精神となっていた。
劣等種たる人間への同族意識など疾うになく、勿論、人間の死を悼む心も持ち合わせていない。道端に転がる虫の死骸を見て、果たしてどれだけの人が涙を流すだろうか。それと同じな話だ。気持ち悪いだとは思っても、虫の死を哀れむような気持ちになるわけがない。今のマサカズにとって、その虫と同じ存在が、人間であるというだけなのだ。
寧ろ、アンデッド特有の生者を憎むという性質がないだけ、まだマサカズは人間の残滓に囚われているのかもしれない。
「⋯⋯そうですか。でも、あなたからはそれを悔やむ気持ちが感じられませんが」
マサカズの隣には、黒髪黒目の女性が居た。肩や胸元が露出した真っ黒なドレスを着ている、妖艶で豊満な体を持つ美女だ。
「⋯⋯ああ。俺は、人間であることへの執着心なんてない。俺のモットーは、生き残るためならば、目的のためならば、どんなことでもする、だからな」
欲望に忠実な男。それが、黒井正和である。彼が本来持つその性質は、あの日を境により強くなった。より、彼の、生への執着心を助長した。そして、残虐性を与えた。
「人間が一人や二人──別に、国一つ分の人口が死滅しようと、どうだっていい」
殺人に躊躇を無くしたとき、既に、そいつは正常とは言えない状態だ。だが、これは、あくまでも人間世界における倫理観から構成された見方である。
そもそも、何を持って正常だと言えるのだろうか。人間の正常とは、世界の正常なのだろうか。
「⋯⋯結局、俺が気にするのは、俺だけだ」
どこまでも自分勝手。どこまでも自分のみを考えて、行動する。それが彼、マサカズの行動理念である。
完全な他者主義のために自らを切り捨てるなど、愚弄されて当然の思想だと、彼は思う。
「ふふ⋯⋯あなたは本当に面白い。狂人を傍から見たら、こんなにも楽しめるなんて思いもしませんでした」
「⋯⋯お前ほどじゃないさ、黒の魔女」
「私の名前は教えたはずですがね。呼んでくれないのですか?」
「もう引っかかったろ? 二の舞を演じる気にはなれない」
黒の魔女の名前、『────』をマサカズは知っている。だが、マサカズはその名を口に出して言うことはできない。それが、何を意味するか。文字通り体験したのだから。
「⋯⋯で、これが本当に、俺の目的を達成できる手段なのか? この単なる虐殺に意味があるとは思えないんだが」
マサカズ・クロイの目的は、白の魔女、エストを殺すこと。だがそれとはまた違う目的が、彼にはあった。
「ええ、勿論。あなたはきっと、元の世界に帰れるでしょう。同時に、その加護も外れることになりますし、ついでに記憶も消しましょうか?」
「ああ、頼む」
彼の目的は──彼が元居た世界に帰ること。転移直後からずっと抱えていた最終目的であり、現状、彼が彼を取り戻すための唯一の手段。
「⋯⋯正直、お前のことは大嫌いだ。何者なのかもわからないし、俺の思い通りになる気がしないからな。俺が何度世界をやり直しても、おそらく俺個人の力だけだと、到底叶わない。それこそ、何万回試行錯誤しても、だ」
黒の魔女に対して、約5000回の『死に戻り』の末に辿り着いた結論は、どう足掻いても勝利するどころか、その身に傷一つ与えることができないという事実だけ。一度たりとも死ななくても、得られるであろう結論だ。結果論的には、あの体感時間にして丸々三日間は、とんでもなく無駄だったと言える。
「それに何より、アイツにも似ている」
「⋯⋯アイツ?」
「白の魔女、エスト。俺が殺すべき相手だ」
マサカズの脳内に、白髪の少女の姿が浮かぶ。今すぐにでもその真っ白なゴシックドレスを、真っ赤な液体で染め上げてしまいたい。
「⋯⋯どの辺りが?」
黒の彼女から、狂気以外の感情が、久しぶりに現れた気がした。それにマサカズは少し驚きながらも、言葉を紡ぐ。
「⋯⋯分からない。ただ、どこか似ている気がする。外見だとか、精神だとか、考え方だとかは何もかも違う。でもどこか⋯⋯そう何かが、一緒な気がする」
言葉では言い表せない何か。本質的な何か。感じるだけの何か。それ以外は全く違うのに、それだけは同類。似ている。分かる人にしか分からない同じ点だ。
「その似ている点が、俺の一番嫌いな点だ。本来そうあるべきものを、超える力。俺の加護が通用しない力。俺がどうしようもできない力。それが、一番嫌いなものだ」
『死に戻り』という、神の力でさえ、世界の寵愛でさえ、どうにもなる気がしないほどの力を持つものが、マサカズが嫌いなものだ。
「盲目的な褒め言葉も悪くありませんが、そのような褒め方の方が私は好きですね。あなたは本当に私を嫌っているようですが」
マサカズは本当に黒の彼女を褒める気なんてなかったが、捉えようによっては、その言葉は実力を認める言葉だった。
「⋯⋯そうですね。あなたが嫌う彼女を、同じく嫌う私は好きなんですよね」
「⋯⋯どうせ理解し難い理由だろ。別に言わなくていいぞ」
「分かりました。私が彼女を好む理由はですね」
「お前、俺の話聞いてた?」
もしかしたら、マサカズが彼女を嫌う理由は、他にあるのかもしれない。そんな気が一瞬したが、そうではないだろう。だが、好ましくはない。
「単純に、彼女には才能があるからです。私に本当の──」
言うからには、聞く。そう思って、マサカズは嫌々ながらも黒の魔女の話をちゃんと聞こうとしていた。だが彼女はそこまで言ったところで、話を辞める。
自分の思い通りにならないことは、やはり苛立たしい。
「⋯⋯話の途中だ、ろ⋯⋯?」
黒の魔女は、話を自らの意思で止めたのではなかった。口を閉じたのではなかった。彼女は、話すことができなかったのだ──頭を、潰されたのだから。
「──どうやら、私の公開告白は阻止されたようですね」
潰されて、グチャグチャの肉片に変貌して地面に落ちた頭蓋骨や肉片、脳髄液はそのまま、黒の彼女の頭部はいつのまにか再生していた。それを見たマサカズは、より、彼女を殺すことがどれだけ無謀で無理なことだったかを思い知ったが、今はそれどころではなかった。
「お前、は⋯⋯」
綺麗でサラサラな長髪は、さながら雪のようで、色素が抜けている。肌も同じように色素がなくて、アルビノというものだろう。幻想的で、創られたと言われても頷くしかないほどの美貌を彼女は持っていた。
真っ白なゴシックドレスの、十代後半くらいの少女。彼女の灰色の瞳にマサカズの姿が映っている。
「エスト⋯⋯っ!」
それぞれ六色のうち、白を司る存在、白の魔女。名を、エスト。
マサカズを今の彼にした張本人であり、復讐対象だ。
「キミが生きていたなんて驚きだね。死んだと思っていたよ」
「生憎だが、俺は死ねないからな」
マサカズはスティレットを取り出す。魔族であるエストには聖剣が有効打になるのだが、今のマサカズでは、あの剣を握ることはできない。
「あなたが彼女の相手をしてください。私は計画の実行のために、今はマトモに動けないので」
「言われなくても、コイツを殺すのは俺だ」
スティレットの先をエストに向け、構える。
「私を殺す、ね。⋯⋯どれくらい時間を稼げるのかな?」
「何時間でも稼げるさ」
マサカズの中に潜む殺意が溢れ、辺りに殺気が漂う。アンデッドの生者を憎むという性質は、彼の中で、エストを憎むという性質に変化していた。その憎悪は、殺意は、筆舌に尽くしがたいほど強大だ。
「今度は、確実に殺してあげる」
エストはマサカズに向かってそう言いながら、嗤った。
◆◆◆
マサカズの立っている地面に赤色の魔法陣が展開され、次の瞬間、無数の氷の棘が彼を突き刺そうとしたが、彼は吸血鬼としての身体能力を駆使して跳躍し、そのままエストに飛びかかる。
「〈重力操作〉」
だがマサカズの体は白く光って、地面に叩きつけられる。
なんとかマサカズはエストの魔法の抵抗にするも、一気に消耗した。
追撃の氷の棘を、マサカズはスティレットで弾き飛ばすが、弾幕のように張られたそれを全て弾くことはできず、何発か命中する。
「〈瞬歩〉」
無理矢理にも距離を詰め、スティレットで一突き。だがエストの腹部に刺さるはずだったスティレットは氷によって妨げられ、重力魔法がエストの体を持ち上げつつ、氷の槍がマサカズの足元から突き上がり、二者の距離を再び離した。
エストは前回とは異なり、最大限マサカズを警戒している。だからこそ、彼女本来の戦闘能力が発揮されていた。
このまま普通に戦えば、消耗戦になる。
アンデッドと言えど、負傷すればするほど体は動かしづらくなる。エストの魔力が尽きるより先に、マサカズの体は削がれて、動かなくなるだろう。
前回よりも遥かに戦いになっているとはいえ、力にはやはりまだまだ差がある。
つまり、マサカズは何か、エストに対して何か大きなダメージが与えられる策を考えなければならないということである。
「⋯⋯っ」
マサカズは愚直にもエストに走り出して、スティレットを構える。
勿論、エストがマサカズのその動きを見切れない訳がない。彼女は反応して、振りかぶられたスティレットを注視し、そのあとの動きを考え──
「〈血気鋭爪〉」
──マサカズは持っていたスティレットを手放し、それにエストの目は持って行かれた。
その一瞬の隙を付き、マサカズは紅く長く鋭利になった爪で、エストの肉を抉ろうとする。
しかし、エストもマサカズと同じように人の姿をしただけの化物だ。殆ど見てからの状態だというのに、致命傷になるはずだったそれを避けた。
「──」
エストは左腕に五本の切り傷が付く。傷はかなり深く、腕の感覚が鈍い。
重症だが、この程度では駄目だ。
「〈獄炎〉」
灼熱の炎がマサカズを包む。
「あぁぁぁぁぁっ!」
熱くて、苦しくて、痛い。皮膚が沸騰し、水分が蒸発し、ハッキリとした意識のまま焼かれる不快感は想像を絶する。
炎は一瞬マサカズを焼いたあと、消える。
「っ!」
アンデッドは負のエネルギーを生命エネルギーとして活用している。そのため、生者を殺す魔法が、アンデッドにとっての治癒魔法である。
「〈苦──!」
「させると思う? 〈獄炎〉」
勿論、回復行為を眺めておくほど、エストは間抜けじゃない。
またもう一度、マサカズを燃やす。
炎を吸い込んだことで声帯が焼かれ、声が出せなくなった。空気を含みすぎた掠れ声で叫び、苦痛に嘆く。
ローブが真っ黒な燃えカスになって、見るに耐えない火傷を負った上半身が曝け出される。
「キミが死ぬまで、何度でも燃やす。灰一つ残さず、燃やし尽くしてあげる」
業火が、烈火が、爆炎が、灼炎が、獄炎が、マサカズを何度も燃やす。皮膚は完全に焼き焦がされ、真っ黒に変色していた。一滴も血が流れないのは、血管が焼かれて止められているからだろう。
人の形をした真っ黒いナニカに変わり果てても尚、彼は活動を停止していなかった。
「──」
始原の吸血鬼。吸血鬼の始原にして、最強の吸血鬼。そして、今の彼の種族だ。
不死者、とはよく言ったものだ。本当に、物理的な殺害方法では、簡単には死なない。
彼の全身から蒸気が発生し、見ると火傷がゆっくりとだが治癒していっている。
「⋯⋯しぶとい」
赤色の、炎の魔法陣がいくつも展開される。多重化されたそれは、とんでもない熱量を持ってして対象を焼き尽くす。
「本当に⋯⋯」
しかしそれでも、殺すことはできなかった。
仕方ない。これではいつまで経っても埒が明かない。反動を受けることになるが、神聖魔法を使う必要があるとエストは判断し、それを行使しようとした時だった。
──血が、エストの口に流れ込んだ。
動けるはずがないその体を無理矢理に動かし、マサカズはエストの口に、手首辺りから伸ばした血管を入れこんだのだ。
「かはっ⋯⋯ゲホっ、ゲホッ⋯⋯」
それだけすると、力尽き地面に倒れる。だが死んだわけではない。動けなくなっただけだ。
──やってやった。
マサカズの狙いは、最初からこれだった。自身の血液をエストの体内に流し込み、内側から腐食し、殺す。
神聖属性の魔法や体をみじん切りでもされない限り死なない不死性を利用した、不意打ち。武力では負けていることを見越しての対策だ。
少しでも血液を取り込んだならば、そのうちエストは完全に死亡する。
勝った。殺した。やった。ようやく、俺はエストという悪夢から開放される。
勝利を噛み締める。エストの苦しむ姿を確認できないことに少し不満を覚えるも、しかし悲願が達成できた満足に比べれば大したことない。
「⋯⋯え?」
少女の声がした。困惑の声だ。しかし、苦しんでいる様子のない声でもあった。
何故だ。何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ。
どうして、苦しんでいない。どうして、痛がっていない。
どうして。どうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
あってはならない。苦痛に喘いでいるべきなのだ。
「──」
分からない。どうなってる? 今、エストはどんな状態だ? 腐食する血液から、どのようにして逃れた?
「──」
駄目だ。聴覚も死んだ。何も聞こえない。何もわからない。視界が真っ暗だ。現状を把握できる手段がない。
◆◆◆
ただ憎悪し、怨嗟し、自我を捨て、狂気に囚われる。
狂い、狂って、狂い藻掻いて、殺意に満ちた、殺意だけに満ちた心を飾って。
他に道があったのだろう。この過ちは、最もしてはならないものだったのだ。
炎の結末。
──無意味。
そう、無意味だった、彼が行った全ては。
復讐とは、結局、何も産まなかった。何も得られなかった。それどころか、後悔を孕んだ。意味がなかったんだ。
確かに、彼は間違っていたことを、知っている。
──だけど、何を間違っていたかは知らない。
確かに、彼は、結果がどうなるかなんて、知っていた。
──だけど、どうすれば良かったかなんて、知っていなかった。
肝心なことだけ、知らなかった。そしてそれは己の無知ゆえに引き起こされたことだった。
後悔するのが、遅すぎた。気づくのが、遅すぎた。
本当に、無意味だ。本当に、愚かだ。
どうしようもない、どうにもできない、手の施しようがないクズだ。
こんな簡単に思いつくような、簡単に想像できるような未来を見なかった、考えなかった彼は、本当に怠惰だった。
利己に走り、復讐と言って、自身の合理性に欠けた愚かな選択肢を正当化したいだけだった。
自分の身が、可愛かった。死にたくないと強く願ったのが、あの死の感覚を味わいたくないと欲望したのが、全ての間違いの始まりだった。
そして、黒の魔女と手を組んだ。これこそ、最も唾棄すべき過ちだっただろう。
彼は何度繰り返しても、間違う。何度繰り返しても、現実を見ない。その時その時を適当に生きて、しかしいつも最期には後悔する、どうすればよかった、と。そして思う、もう一度やり直したい、と。
何と傲慢。何と強欲。彼は、本当に、救えない。救われるべきではなかった。もう何度、同じことをしたと思っているのか。
でも、それはあまりにも、可愛そうだ。あまりにも、彼に相応しくない。
ああ、だから、きっと、世界は──。
~fin.~
────。
────────。
「⋯⋯ぁ」
長い間、彼女は、ただ、その生気を感じさせない目で、光が一切ない瞳で、開いているか怪しい瞳孔で、虚空を眺めていた。
彼女は義姉を失った。彼女は旧友を失った。目の前で、神父に殺された。
無気力に、生きているのかどうかさえ怪しい状態だった。
何日間も飲食しなくても彼女は生きていられる。老化もほとんどしていないようなものだ。だから、彼女は実質的な不老不死である。
だがそれが、果たして、生きている、ということなのだろうか。
──分からない。知らない。どうでもいい。
「⋯⋯」
ただ彼女は、絶望していた。
生きる意味を見出すことができずに、虚無の如き心を持ち、一日一日を怠惰に過ごしていく。
「⋯⋯⋯⋯もう」
生きる意味ではなく、その逆、死にたい意味ならば、彼女は持っていた。
愛する人を、また喪った。それだけで、彼女を自殺に追い込むには、十分過ぎたのだ。
死にたい。消えたい。楽になってしまいたい。
こんな世界に、愛する人が居ないこの世界に、価値なんて、もう──ない。
壊したところで、喪った者が帰ってこないなら、壊す意味さえないのだ。
ならば、死ねば、死んでしまえば、それで終わり。死は恐怖であるが、また、救済でもあるのだから。
「⋯⋯」
魔女は、ほぼ不老不死の存在である。
そう、あくまで『ほぼ』なのだ。完全な不老不死の存在ではない。首や胴体が真っ二つに切断されるわけでもなければ、即死することはないにせよ、なんの処置もされなければそのうち死亡する。生命力が高いだけで、魔女は、ドラゴンの鱗のように硬い皮膚など持っていないのである。
だから、自殺をするならば、普通の人間と同じように自殺できる。
「⋯⋯っ」
無詠唱化された創造系魔法によって、彼女の手に短剣が創られた。勿論それには殺傷能力があり、人に刺せば殺せる。
その短剣を、彼女は両手でしっかりと握りしめてから、自身の喉に、刃の先端を向ける。そしてゆっくりと、刃を喉に触れさせるべく、刺し込んだ。
──痛い。
皮膚と一緒に血管が斬れて、体内を循環していた血液がその斬れ目から流れる。
熱くて、しかし、どこか冷たい。
涙が溢れる。それは哀しみによるものなのか。もしくは痛みによるものなのか。最早、彼女自身でさえ、分からなかった。あるいは、その両方なのかもしれない。
痛みに屈するほど、今の彼女は正気でない。だが苦しむのを嫌がるくらいの考える脳はあるようだ。ゆっくりと刺すのではなく、もういっそのこと、一気に突き刺して、即死しようと思い、彼女は短剣に込める力を強めようとした。
「エスト」
──その瞬間だった、声がしたのは。
声には、聞き覚えがあった。いや、声の主が誰であるかを断言できるほどだ。
綺麗で、美しくて、透き通っていて、穏やかで、優しくて、懐かしくて心温まる声。
そして、二度と聞けないはずの声。
あのとき、死んだはずの、お義母さんの声だ。
「え⋯⋯」
碧色の瞳は月明かりが反射して煌めいていた。
もう少しで地面に付きそうなくらい長いサラサラとした髪は銀色であり、女性にしては身長が高い。黒色の、鍔のついた大きな帽子を被っており、漆黒のローブは彼女の美しさを強調していた。
彼女は先代の白の魔女にして、
「お義母、さん⋯⋯?」
エストの義理の母。名をルトア。
「⋯⋯そんな。だって、お義母さんはあのとき⋯⋯」
死者蘇生の魔法は、体の七割がそこに存在しなくては行使できない。つまり、六百年前の死者の復活なんて、あり得るはずがない出来事なのだ。
魔法について非常に詳しいエストだからこそ、目の前の現実を受け入れることができなかった。
「⋯⋯エスト、ごめんね」
ルトアは両手を広げて、エストを抱擁する。
確かな温かさを──暖かさを、エストは感じる。
心地良い。とても、安心できる。されるがままに、エストはルトアに全身を委ねた。そうしたかった。
「ごめんね。キミを一人にして」
「かあ、さん⋯⋯」
首の傷はいつの間にか完治しており、既に血は流れていないし痛みもない。きっと、ルトアが治癒してくれたのだろう。
「うっ⋯⋯うう⋯⋯」
目頭が熱くなり、溢れ出る涙を堰きとめることができなかった。頬に涙を流して、エストは久しく、本当に久しく泣いた。二度と会えないと思っていたお義母さんと会えたことによる感動は、彼女を絶望の淵から救ったのだ。
──どれだけ、エストは泣き喚いたのだろうか。でも、それはとても長かったことは覚えている。
「──」
気づいたとき、エストはベッドに仰向けに寝転がっていた。窓に映る、少しばかり明るくなりつつある空を見て、あれからいくらか時間が経過したのだと分かる。
「⋯⋯夢⋯⋯?」
あれは夢だったのだろうか。それとも、現実の中の幻だったのか。
いずれにせよ、ルトアは今、この瞬間にも、世界には実在していないことは確実だろう。六百年前に死亡したルトアが、今生き返ったなんて、絶対にありえないのだから。それこそが、『世界の理』なのだから。
──しかし、例えあれが妄想だとしても、エストの壊れかけていた心を癒やしたことは、絶対普遍の事実である。
今ではあの自殺が、非常に馬鹿馬鹿しく思えてきた。ならば、そんな細かいことは考えなくて良いだろう。
「⋯⋯さてと」
生きる気力を取り戻したことで、同時に、自身の目的も思い出した。
エストの『欲望』は、あらゆる知識を収集すること。己が知識欲を満たすことである。そのためにも、世界の終焉を導くであろう危険因子である黒の魔女は、殺さなくてはならない。
エストは『欲望』のために決意する、が、
「いや、眠たいし、寝よ」
しかし、それは後日に回すべきだろう。
一瞬で泥のように眠ってしまうほどに、今の彼女には疲労が溜まっているのだから。魔女という種族において、それは危険とも言える状態だ。
彼女は再びベッドに身を投げる。反発することによって彼女の細くて軽い体は一度だけ少し跳ね上がった。
「あ⋯⋯お風呂入るの忘れてた」
意識が暗闇に落ちる寸前、彼女は大事なことを思い出してその体を起こすと、そのまま浴場へ向かっていった。
◆◆◆
殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい──。
彼女は、他者を殺すことを楽しむ狂人だった。人の儚い命が砕けて、消滅するとき、冷たくなるときこそが、最も美しくて、最も愉快だからだ。
だが、いつからか、その殺す対象を彼女は厳選するようになっていた。昔のようにただ殺すだけでは、彼女の枯れきった心を満たすことはできなくなっていったのだ。そうつまり、彼女は弱者を蹂躙することに何の価値も感じなくなったということだ。
彼女が求むのは強者。殺し合いをしていて心の底から楽しいとも思えるほどの強き者。戦っていると思わせるほどの実力者なのだが、彼女のその基準もまた、年を重ねるごとに高くなっていった。
等々、その基準は魔女クラス。それもその中でも最上位のレベルにまで上がっていった頃には、彼女の心は常に、砂漠のように枯れていた。水を求めるように、死の観察を求めていた。
「ああ⋯⋯私はあなたを」
──殺したい。
彼女はまるで欲情しているかのように頬が紅くなっていた。いやまさしくそうなのだろう。
人の三大欲求には食欲、睡眠欲、そして性欲がある。彼女には食欲も睡眠欲も性欲もないのだが、彼女に唯一ある殺害欲はその三つのうち、性欲に当てはまるだろう。
彼女にとって、殺害欲とは性欲に同等するほどの、原始的で本能的な『欲望』なのだ。性欲を感じたときに起こる生理的な現象が、殺害欲を感じたときに起こる。
「優しく。抱きしめて。可愛がるように。そして酷く──」
彼女のその精神構造は一体何なのだろうか。
あるいは狂人。あるいは人外。あるいは冒涜的。あるいは無理解。あるいは虚無。あるいは──唯一無二。
しかしこのうちのどれであっても、正常で健康で倫理観のある精神でないことは共通だ。
「⋯⋯ふふふ。これでもっとあなたの才は磨かれる」
嬉しそうに、狂気的に、慈愛に満ちたように、愉快に、彼女は笑った。
真に美しいものはいつも一瞬だけしかこの世界に現れない。時間を止めてしまっては、その美しさは失われる。動く時間の中で観測するからこそ死は美しいのであって、死ぬ瞬間に時間を止めたって、それはとても醜くい。
殺すことでようやく美しくなる。それが生命である。そして、元が強ければ強いほど、その死はより美しさを増す。
ああだから、生命は死ぬんだ。美しくなるために、生命は必ず死ぬんだ。そうとしか考えられない。
生への執着は死への恐怖ゆえにあるのだ。
どちらかが強まったとき、もう片方も強まる。
どちらかが弱まったとき、もう片方も弱まる。
生きることと死ぬことは真逆のように思えて、実は、それらには相互関係にある。
ならば、彼女はこう思うだろう。
──最も美しい死とは、最も強い生への渇望の先に生まれるのだと。
◆◆◆
ウェレール王国の王都を全て囲むのは、灼熱の炎の壁であった。炎は軽く10mを超えており、また、それを無理矢理にでも越えようとしたならば、人間如きは一瞬で真っ黒な消し炭に成り果ててしまう。
炎のおかげで、夜の冷たさは和らいだ。だが、今は、そんなこと気にしていられるような状況ではなかった。
「──」
老若男女の悲鳴、喉がはちきれんばかりの絶叫が、王都中で響いていた。
それもそのはずだ。突如として、王都には大量のアンデッドが発生したのだから。それも、普通の冒険者では到底太刀打ちできないほどの高位のアンデッドたちだ。何の戦闘能力も持たない一般人が、どうにかできるような相手ではない。
天に願おうにも、どうやら夜空に浮かぶ星々は、この惨状を目にしても、何の救いの手も出さないらしい。一時間ほどで、王都の人口のうち、およそ七割が死亡した。残り三割も、あと半時間ほど経過すれば、殆ど死亡するだろう。
「⋯⋯俺は、元には戻れない。たかが人間を同種だったとは思えないし、同情心は微塵も生まれないな」
肉体と精神は相互に関係し合う。つまり、肉体が変化すれば、精神も変化する。
吸血鬼へと変化を遂げたマサカズの精神は、既に人間のものからは大きく離れ、異形の者の精神となっていた。
劣等種たる人間への同族意識など疾うになく、勿論、人間の死を悼む心も持ち合わせていない。道端に転がる虫の死骸を見て、果たしてどれだけの人が涙を流すだろうか。それと同じな話だ。気持ち悪いだとは思っても、虫の死を哀れむような気持ちになるわけがない。今のマサカズにとって、その虫と同じ存在が、人間であるというだけなのだ。
寧ろ、アンデッド特有の生者を憎むという性質がないだけ、まだマサカズは人間の残滓に囚われているのかもしれない。
「⋯⋯そうですか。でも、あなたからはそれを悔やむ気持ちが感じられませんが」
マサカズの隣には、黒髪黒目の女性が居た。肩や胸元が露出した真っ黒なドレスを着ている、妖艶で豊満な体を持つ美女だ。
「⋯⋯ああ。俺は、人間であることへの執着心なんてない。俺のモットーは、生き残るためならば、目的のためならば、どんなことでもする、だからな」
欲望に忠実な男。それが、黒井正和である。彼が本来持つその性質は、あの日を境により強くなった。より、彼の、生への執着心を助長した。そして、残虐性を与えた。
「人間が一人や二人──別に、国一つ分の人口が死滅しようと、どうだっていい」
殺人に躊躇を無くしたとき、既に、そいつは正常とは言えない状態だ。だが、これは、あくまでも人間世界における倫理観から構成された見方である。
そもそも、何を持って正常だと言えるのだろうか。人間の正常とは、世界の正常なのだろうか。
「⋯⋯結局、俺が気にするのは、俺だけだ」
どこまでも自分勝手。どこまでも自分のみを考えて、行動する。それが彼、マサカズの行動理念である。
完全な他者主義のために自らを切り捨てるなど、愚弄されて当然の思想だと、彼は思う。
「ふふ⋯⋯あなたは本当に面白い。狂人を傍から見たら、こんなにも楽しめるなんて思いもしませんでした」
「⋯⋯お前ほどじゃないさ、黒の魔女」
「私の名前は教えたはずですがね。呼んでくれないのですか?」
「もう引っかかったろ? 二の舞を演じる気にはなれない」
黒の魔女の名前、『────』をマサカズは知っている。だが、マサカズはその名を口に出して言うことはできない。それが、何を意味するか。文字通り体験したのだから。
「⋯⋯で、これが本当に、俺の目的を達成できる手段なのか? この単なる虐殺に意味があるとは思えないんだが」
マサカズ・クロイの目的は、白の魔女、エストを殺すこと。だがそれとはまた違う目的が、彼にはあった。
「ええ、勿論。あなたはきっと、元の世界に帰れるでしょう。同時に、その加護も外れることになりますし、ついでに記憶も消しましょうか?」
「ああ、頼む」
彼の目的は──彼が元居た世界に帰ること。転移直後からずっと抱えていた最終目的であり、現状、彼が彼を取り戻すための唯一の手段。
「⋯⋯正直、お前のことは大嫌いだ。何者なのかもわからないし、俺の思い通りになる気がしないからな。俺が何度世界をやり直しても、おそらく俺個人の力だけだと、到底叶わない。それこそ、何万回試行錯誤しても、だ」
黒の魔女に対して、約5000回の『死に戻り』の末に辿り着いた結論は、どう足掻いても勝利するどころか、その身に傷一つ与えることができないという事実だけ。一度たりとも死ななくても、得られるであろう結論だ。結果論的には、あの体感時間にして丸々三日間は、とんでもなく無駄だったと言える。
「それに何より、アイツにも似ている」
「⋯⋯アイツ?」
「白の魔女、エスト。俺が殺すべき相手だ」
マサカズの脳内に、白髪の少女の姿が浮かぶ。今すぐにでもその真っ白なゴシックドレスを、真っ赤な液体で染め上げてしまいたい。
「⋯⋯どの辺りが?」
黒の彼女から、狂気以外の感情が、久しぶりに現れた気がした。それにマサカズは少し驚きながらも、言葉を紡ぐ。
「⋯⋯分からない。ただ、どこか似ている気がする。外見だとか、精神だとか、考え方だとかは何もかも違う。でもどこか⋯⋯そう何かが、一緒な気がする」
言葉では言い表せない何か。本質的な何か。感じるだけの何か。それ以外は全く違うのに、それだけは同類。似ている。分かる人にしか分からない同じ点だ。
「その似ている点が、俺の一番嫌いな点だ。本来そうあるべきものを、超える力。俺の加護が通用しない力。俺がどうしようもできない力。それが、一番嫌いなものだ」
『死に戻り』という、神の力でさえ、世界の寵愛でさえ、どうにもなる気がしないほどの力を持つものが、マサカズが嫌いなものだ。
「盲目的な褒め言葉も悪くありませんが、そのような褒め方の方が私は好きですね。あなたは本当に私を嫌っているようですが」
マサカズは本当に黒の彼女を褒める気なんてなかったが、捉えようによっては、その言葉は実力を認める言葉だった。
「⋯⋯そうですね。あなたが嫌う彼女を、同じく嫌う私は好きなんですよね」
「⋯⋯どうせ理解し難い理由だろ。別に言わなくていいぞ」
「分かりました。私が彼女を好む理由はですね」
「お前、俺の話聞いてた?」
もしかしたら、マサカズが彼女を嫌う理由は、他にあるのかもしれない。そんな気が一瞬したが、そうではないだろう。だが、好ましくはない。
「単純に、彼女には才能があるからです。私に本当の──」
言うからには、聞く。そう思って、マサカズは嫌々ながらも黒の魔女の話をちゃんと聞こうとしていた。だが彼女はそこまで言ったところで、話を辞める。
自分の思い通りにならないことは、やはり苛立たしい。
「⋯⋯話の途中だ、ろ⋯⋯?」
黒の魔女は、話を自らの意思で止めたのではなかった。口を閉じたのではなかった。彼女は、話すことができなかったのだ──頭を、潰されたのだから。
「──どうやら、私の公開告白は阻止されたようですね」
潰されて、グチャグチャの肉片に変貌して地面に落ちた頭蓋骨や肉片、脳髄液はそのまま、黒の彼女の頭部はいつのまにか再生していた。それを見たマサカズは、より、彼女を殺すことがどれだけ無謀で無理なことだったかを思い知ったが、今はそれどころではなかった。
「お前、は⋯⋯」
綺麗でサラサラな長髪は、さながら雪のようで、色素が抜けている。肌も同じように色素がなくて、アルビノというものだろう。幻想的で、創られたと言われても頷くしかないほどの美貌を彼女は持っていた。
真っ白なゴシックドレスの、十代後半くらいの少女。彼女の灰色の瞳にマサカズの姿が映っている。
「エスト⋯⋯っ!」
それぞれ六色のうち、白を司る存在、白の魔女。名を、エスト。
マサカズを今の彼にした張本人であり、復讐対象だ。
「キミが生きていたなんて驚きだね。死んだと思っていたよ」
「生憎だが、俺は死ねないからな」
マサカズはスティレットを取り出す。魔族であるエストには聖剣が有効打になるのだが、今のマサカズでは、あの剣を握ることはできない。
「あなたが彼女の相手をしてください。私は計画の実行のために、今はマトモに動けないので」
「言われなくても、コイツを殺すのは俺だ」
スティレットの先をエストに向け、構える。
「私を殺す、ね。⋯⋯どれくらい時間を稼げるのかな?」
「何時間でも稼げるさ」
マサカズの中に潜む殺意が溢れ、辺りに殺気が漂う。アンデッドの生者を憎むという性質は、彼の中で、エストを憎むという性質に変化していた。その憎悪は、殺意は、筆舌に尽くしがたいほど強大だ。
「今度は、確実に殺してあげる」
エストはマサカズに向かってそう言いながら、嗤った。
◆◆◆
マサカズの立っている地面に赤色の魔法陣が展開され、次の瞬間、無数の氷の棘が彼を突き刺そうとしたが、彼は吸血鬼としての身体能力を駆使して跳躍し、そのままエストに飛びかかる。
「〈重力操作〉」
だがマサカズの体は白く光って、地面に叩きつけられる。
なんとかマサカズはエストの魔法の抵抗にするも、一気に消耗した。
追撃の氷の棘を、マサカズはスティレットで弾き飛ばすが、弾幕のように張られたそれを全て弾くことはできず、何発か命中する。
「〈瞬歩〉」
無理矢理にも距離を詰め、スティレットで一突き。だがエストの腹部に刺さるはずだったスティレットは氷によって妨げられ、重力魔法がエストの体を持ち上げつつ、氷の槍がマサカズの足元から突き上がり、二者の距離を再び離した。
エストは前回とは異なり、最大限マサカズを警戒している。だからこそ、彼女本来の戦闘能力が発揮されていた。
このまま普通に戦えば、消耗戦になる。
アンデッドと言えど、負傷すればするほど体は動かしづらくなる。エストの魔力が尽きるより先に、マサカズの体は削がれて、動かなくなるだろう。
前回よりも遥かに戦いになっているとはいえ、力にはやはりまだまだ差がある。
つまり、マサカズは何か、エストに対して何か大きなダメージが与えられる策を考えなければならないということである。
「⋯⋯っ」
マサカズは愚直にもエストに走り出して、スティレットを構える。
勿論、エストがマサカズのその動きを見切れない訳がない。彼女は反応して、振りかぶられたスティレットを注視し、そのあとの動きを考え──
「〈血気鋭爪〉」
──マサカズは持っていたスティレットを手放し、それにエストの目は持って行かれた。
その一瞬の隙を付き、マサカズは紅く長く鋭利になった爪で、エストの肉を抉ろうとする。
しかし、エストもマサカズと同じように人の姿をしただけの化物だ。殆ど見てからの状態だというのに、致命傷になるはずだったそれを避けた。
「──」
エストは左腕に五本の切り傷が付く。傷はかなり深く、腕の感覚が鈍い。
重症だが、この程度では駄目だ。
「〈獄炎〉」
灼熱の炎がマサカズを包む。
「あぁぁぁぁぁっ!」
熱くて、苦しくて、痛い。皮膚が沸騰し、水分が蒸発し、ハッキリとした意識のまま焼かれる不快感は想像を絶する。
炎は一瞬マサカズを焼いたあと、消える。
「っ!」
アンデッドは負のエネルギーを生命エネルギーとして活用している。そのため、生者を殺す魔法が、アンデッドにとっての治癒魔法である。
「〈苦──!」
「させると思う? 〈獄炎〉」
勿論、回復行為を眺めておくほど、エストは間抜けじゃない。
またもう一度、マサカズを燃やす。
炎を吸い込んだことで声帯が焼かれ、声が出せなくなった。空気を含みすぎた掠れ声で叫び、苦痛に嘆く。
ローブが真っ黒な燃えカスになって、見るに耐えない火傷を負った上半身が曝け出される。
「キミが死ぬまで、何度でも燃やす。灰一つ残さず、燃やし尽くしてあげる」
業火が、烈火が、爆炎が、灼炎が、獄炎が、マサカズを何度も燃やす。皮膚は完全に焼き焦がされ、真っ黒に変色していた。一滴も血が流れないのは、血管が焼かれて止められているからだろう。
人の形をした真っ黒いナニカに変わり果てても尚、彼は活動を停止していなかった。
「──」
始原の吸血鬼。吸血鬼の始原にして、最強の吸血鬼。そして、今の彼の種族だ。
不死者、とはよく言ったものだ。本当に、物理的な殺害方法では、簡単には死なない。
彼の全身から蒸気が発生し、見ると火傷がゆっくりとだが治癒していっている。
「⋯⋯しぶとい」
赤色の、炎の魔法陣がいくつも展開される。多重化されたそれは、とんでもない熱量を持ってして対象を焼き尽くす。
「本当に⋯⋯」
しかしそれでも、殺すことはできなかった。
仕方ない。これではいつまで経っても埒が明かない。反動を受けることになるが、神聖魔法を使う必要があるとエストは判断し、それを行使しようとした時だった。
──血が、エストの口に流れ込んだ。
動けるはずがないその体を無理矢理に動かし、マサカズはエストの口に、手首辺りから伸ばした血管を入れこんだのだ。
「かはっ⋯⋯ゲホっ、ゲホッ⋯⋯」
それだけすると、力尽き地面に倒れる。だが死んだわけではない。動けなくなっただけだ。
──やってやった。
マサカズの狙いは、最初からこれだった。自身の血液をエストの体内に流し込み、内側から腐食し、殺す。
神聖属性の魔法や体をみじん切りでもされない限り死なない不死性を利用した、不意打ち。武力では負けていることを見越しての対策だ。
少しでも血液を取り込んだならば、そのうちエストは完全に死亡する。
勝った。殺した。やった。ようやく、俺はエストという悪夢から開放される。
勝利を噛み締める。エストの苦しむ姿を確認できないことに少し不満を覚えるも、しかし悲願が達成できた満足に比べれば大したことない。
「⋯⋯え?」
少女の声がした。困惑の声だ。しかし、苦しんでいる様子のない声でもあった。
何故だ。何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ。
どうして、苦しんでいない。どうして、痛がっていない。
どうして。どうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
あってはならない。苦痛に喘いでいるべきなのだ。
「──」
分からない。どうなってる? 今、エストはどんな状態だ? 腐食する血液から、どのようにして逃れた?
「──」
駄目だ。聴覚も死んだ。何も聞こえない。何もわからない。視界が真っ暗だ。現状を把握できる手段がない。
◆◆◆
ただ憎悪し、怨嗟し、自我を捨て、狂気に囚われる。
狂い、狂って、狂い藻掻いて、殺意に満ちた、殺意だけに満ちた心を飾って。
他に道があったのだろう。この過ちは、最もしてはならないものだったのだ。
炎の結末。
──無意味。
そう、無意味だった、彼が行った全ては。
復讐とは、結局、何も産まなかった。何も得られなかった。それどころか、後悔を孕んだ。意味がなかったんだ。
確かに、彼は間違っていたことを、知っている。
──だけど、何を間違っていたかは知らない。
確かに、彼は、結果がどうなるかなんて、知っていた。
──だけど、どうすれば良かったかなんて、知っていなかった。
肝心なことだけ、知らなかった。そしてそれは己の無知ゆえに引き起こされたことだった。
後悔するのが、遅すぎた。気づくのが、遅すぎた。
本当に、無意味だ。本当に、愚かだ。
どうしようもない、どうにもできない、手の施しようがないクズだ。
こんな簡単に思いつくような、簡単に想像できるような未来を見なかった、考えなかった彼は、本当に怠惰だった。
利己に走り、復讐と言って、自身の合理性に欠けた愚かな選択肢を正当化したいだけだった。
自分の身が、可愛かった。死にたくないと強く願ったのが、あの死の感覚を味わいたくないと欲望したのが、全ての間違いの始まりだった。
そして、黒の魔女と手を組んだ。これこそ、最も唾棄すべき過ちだっただろう。
彼は何度繰り返しても、間違う。何度繰り返しても、現実を見ない。その時その時を適当に生きて、しかしいつも最期には後悔する、どうすればよかった、と。そして思う、もう一度やり直したい、と。
何と傲慢。何と強欲。彼は、本当に、救えない。救われるべきではなかった。もう何度、同じことをしたと思っているのか。
でも、それはあまりにも、可愛そうだ。あまりにも、彼に相応しくない。
ああ、だから、きっと、世界は──。
~fin.~
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