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モン娘ファームの日常

牧場長とリリィさんの出会い その1

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今回は少し、昔の話をしよう。


子供ってのは産まれながらに1つだけ、絶対的な権利を1つだけ持ってる。

幸せになる権利? いいや、それは親が子供に与えなくてはならない義務であり責任だ。

生きる権利? 残念ながらそれは権利ではなく、この世界に産まれ落ちてしまった者の宿命だ。
死ぬまで生き続けなくてはならない。

ではその1つの権利はなんだろうか? 俺は、親を呪う権利だと思っている。
この世で生きるって事は、辛くて痛い。それを死ぬまで繰り返さなくてはならない。

そしてその最後瞬間が一番恐ろしいのだ。

親と言う生物は人に限らず、須らく繁殖本能に従い、勝手な都合で勝手に子供をひり出す。
どんなに間違っても、子供の側から産んでくれなんて頼むことは無い。

産んであげたのだから感謝しろとか言い出したら、そいつの頭はどうかしてる。
産まれてきてやったのだから感謝しろと、子供から言うのなら筋も通るだろうが。

まぁなんだ、産まれ落ちたって事は、生きると言う苦痛苦悩を強制される事なのだ。

呪うなって方が無理がある。

だが、それも親が義務を怠らなかったら、あるいはそうであろうとした努力を子供が感じ取れたのなら、誕生は祝福へと変わる。苦難苦行もまた、次の世代の祝福へと繋がる道しるべとなるだろう。

もちろん義務は仮初の物でもかまわない。実際は親の私利私欲で子がそう思う様にコントロールしたに過ぎなくとも、気づかなければそれは祝福であり幸福なのだから。


大して長生きしているわけではないが、少なくとも俺は、己の経験からそう結論づけた。



その結論から言えば、残念な事に、俺とチャコ。そしてリリィはその義務を怠られた側の存在だった。



俺の親、特に母親は子供の事を自分を彩る装飾品としか思っていないどうしょうもない奴だった。

全てにおいて優秀だった歳の離れた兄貴とは違い、能力検定を受ける前から既に俺の事を大した宝石ではないと切り捨てていた母親だったが、小学生になった頃には、完全に邪魔物として扱っていた。

ある時、学校で初めて習字の授業が行われるので、習字セットを子供に持たせるようにとのプリントが配られた事があった。

当然、俺にもそのプリントは渡されたわけだが、俺が母親にそのプリントを渡した所、奴は「大丈夫、お兄ちゃんが使ってたのがあるから」とのそっけない態度で新しい物を買うことはなく、そのまま月日は流れ、当日を迎える事になった。

んが、その兄貴が持ってた習字セットはとっくに誰かにあげてしまったらしく、俺はクラスで一人、忘れた事になり、その日を終えた。

問題はここからだ。

俺は奴に食ってかかった、兄貴の習字セットがあるって、言っただろうと。
そうしたらあろうことか、奴はそんなプリントは知らない。そんな事も言ってない。プリントを見せなかった俺が悪いと、全ての責任を俺に擦り付けた。

単純に自分の落ち度を認められない。自分の子供が恥をかいたら自分も恥をかくという連鎖が我慢ならない。

そういう類の親だって事は知っていたが、流石にそんな力技でねじ伏せる事が許されるのか? と、子供心に怒りを覚えたものだ。

逆切れした奴はとうとう、俺を水をめいいっぱい張った湯船に押し込め蓋をした。
簡単には出られない様に蓋に重りを乗せ、息苦しさから助けを求める俺の声を近くで聞いてた奴は、ケタケタと大声で笑っていた。あの声は今でも鮮明に思い出せる。

この時、窒息すると思った俺はとっさに栓を抜き水位を下げて生き延びた。

これは俺が小学2年生だった時の話だ。

もちろん幼少時からこういった事は、1度や2度ではなかった。むしろ温い方の話である。

でもまぁ、そう。最初はこんな、どこにでもある些細な事だったのだ。
問題の結果が起こるのは、ソレが何度も何度も積み重なっての事だったのだろう。

同じ幼稚園に通っていた男児が階段で足をすべらし落ちた時、なぜかそいつは俺に押されたと嘘をついた。

当然、俺はそんな事はしていないと訴えたが、話は聞き入れられず、親からフルボッコにされた。

機嫌を損ねただけで、熊や野犬が徘徊する夜の山に捨てられた事もあった。

そん時ゃ暗闇の中、目を光らせて襲ってくる野犬を棒きれで叩きのめしながら木の上に逃げ、朝が来るのを待って生き延びた。

良くわからない理由で蹴られ続け、血の小便が止まらなくなった夜もある。

どれもこれも幼児にする躾としては度を越した物だったと思う。

んが、一応まだ、この時までは親だった。少なくとも俺の認識では。
トドメとなったのは、小3の時。俺の能力が人外特攻というものであると検査結果が出た時だ。

名ばかりのレア能力くそアビで、自分の役に立たない存在だと判明した時、奴は完璧に親の責任を放棄した。

今までよりエスカレートしたハイレベルな虐待を繰り返した挙句にネグレクト。

因みに親父は浪費ばかりするあの女に嫌気がさしたのか、俺が小1の時に家を出て行ったきり連絡も取れていない。

まぁ、親父に恨みはない。なぜなら同じ状況に立たされた場合、俺でもそうするだろうから。

兄貴もずいぶんと俺を庇ってくれたが、俺のアビ判明と同時期に結婚したので家を出てしまい、以降、疎遠になってしまった。
結婚の挨拶時に義姉さんを連れてきた時以来、家に来る事はなかったので、兄貴もあの女・・・と俺には極力関わりたくなかったのだと思う。

それからは畑泥棒やゴミ漁り、山中での獣狩りや釣りで日々の糧を得て生き抜いた。

風呂なんて上等な物には入れないから、川での水浴びしかできず級友からは臭いと罵られ、担任からも無能と言われた、長い長い中学までの学生生活が終わった後、俺には進学のアテも就職のアテも見つからなかった。

そんな駄目過ぎる装飾品だったから、あの母親は「あなたの能力は希少で研究の価値がある」なんて体の良い理由をつけて、最後には俺を非合法な人体実験組織へと、はした金で売り飛ばした。

ただでさえロクな能力を持たない不名誉な装飾品なのに、金すら持ってこない存在となりゃ、あの母親なら当然の行動だったので、不思議と怒りも悲しみも湧かなかった記憶がある。


収監された所はまぁ、月並みな表現で申し訳ないが、文字通り地獄だった。


俺達は牛とか豚、いわゆる家畜以下の存在だった。
殺される事が確定している存在である事は共通しているが、彼らは死ぬ事で人間の栄養になると言う結果がほぼ約束されている。そういう意味でなくてはならない存在だ。

んが、俺達は実験動物。それも人間サイズの大きなモルモットだ。しかも実験動物とは名ばかりで本質は殺処分される犬猫と変わらない物だ。

ここに居る奴等は、人間社会に疎まれているのに、犬猫ほど簡単に処分できないからとの理由で、非合法に送り込まれた奴等ばかりなのだから。

戦う機会さえ与えられず、一方的に実験と言う名の拷問を繰り返された挙句、最後には命を落とすのがおめぇらの仕事だと言われて、はいそーですかと納得できる生き物がいたら、ソイツはもう生き物ではないだろう。

そして、ここに連れてこられた奴等は遠からずその運命を受け入れる。だから俺達は人ではなく、それどころか生き物ですらなかったんだ。

山間の寂れた村を隠れ蓑にして存在したその施設には、様々な子供が集められていたが、人間の子供は俺一人だけで、あとは全て、亜人かモン娘だった。

その事が幸運であり災いだった。

貴重な実験動物として、俺への行為はいきなり命を奪う解剖みたいな方法ではなく、少しづつ生命力を失わせる、緩やかな、でも確実に死に至る方法じっけんが採用された。

俺は能力が完全な戦闘型だったので、亜人や魔物との戦闘実験に使われる事も多かった。

まぁ、戦闘とは名ばかりで、実際は廃棄処分になった連中の処理を俺に押し付けるのと同時に、連中が楽しむ為の余興みたいなもんだったが。

そのせいでパンチ1発で相手をひき肉にしてしまうと、連中は極めて不機嫌になった。

俺からしたら同じ存在である仲間を殺すのだ。
せめて1撃でトドメを刺すのが最後の良心だったのだが、それすら許されず、痛ぶりながら殺す事、極めて残酷に無残に、オーディエンスを楽しませる殺しを強要された。

最初の頃は1対1だったが、俺の圧倒的戦力が証明されて処分品も増え始めた頃から、1対多数になった。

そこから先は、殺した奴等の数も顔も、もう覚えていない。

俺に殺された連中は、研究所の奴等から、俺を倒す事ができたら生かしてやると言われていたらしく、皆、必死で向かってきた。

ここに来て日が経った連中は生きる事に疲れてしまい、生への執着がなくなるから面白くない。

そう言って連中は新しく連れてこられた個体を優先的にこの余興へと採用した。

モルモットとして使うだけなら、生きる気力があろうとなかろうと、体が生命活動をしてさえいればいつでも実験に使える。反抗の恐れもないので安心安全。

でも反抗の恐れが高い新個体は面倒な上に危険。

そんな理由から毎日の様に戦闘実験と言う名の廃棄処理は行われた。

全国から集められていたのか、日に日に増えていく亜人や魔物をもてあまし気味だったのかもしれない。

彼女と出合ったのは、そんな日々が数年過ぎた頃の事だ。
色違いのレアモノとして、俺と同じ部屋へと押し込まれたのが、あの困ったさん。

リリィ・ティヌスだった。

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