モン娘ファームへようこそ!

MA2

文字の大きさ
上 下
12 / 27
鬼っ娘チャコちゃん

勤労に勤しむチャコちゃんと2匹の暇人

しおりを挟む
今から250年ほど昔。

人類が土地開発を進める過程で初めて魔物と邂逅した当初、それはもう色々とあった。

侵略者である人類と仲良くする魔物なんて極々一部であり、人類と魔物の関係は今とは正反対な殺伐とした関係だった。

もちろん血生臭い話もザラで、散発的にあった魔物の被害や土地開発への抵抗から、最終的に魔物の扱いは知的害獣って事にされ、鉄砲とか戦車とかミサイルでいっぱい駆除された。

そんな時代であれば俺の人外特攻能力も、これでもか!っつーぐらい役に立つ能力で、求人に関しても引く手数多だっただろう。

んが、無情にも俺が生を受けたこの時代は、そう言った荒事から解放された平和な時代。

開発で自然がなくなるに連れ動植物は少なくなり、魔物に対しては生息地を奪うだけでなく虐殺をも繰り返した結果、現在、彼等は絶滅の危機に瀕している。

そしてそんな段階になって、彼等の有用な使い道が判明し、魔法と科学の融合で急速に文明は発達した。

今となっては人類にとって、魔物はなくてはならない重要な存在だ。

そんな貴重な彼等を害するだけしか脳のないこの能力は、現代では役立たずどころか迷惑そのもので、完全にマイナスと言える能力だ。

固有のアビリティって奴は、後天的に新しい能力に覚醒する奴も極々少数いるが、ほとんどの場合、産まれついた時から持ってるものだけで終生変わらないし増えない。

魔物の不思議能力や行き過ぎた科学が定着した現代では、各人の固有アビリティを簡単に特定できるので、職業適性を早くに見出す為、10歳前後になると各種機関で適正検査が行われる。

その検査で弾き出された回答が「人外特攻」なんていう聞きなれない物だった時、子供の頃の俺は「すっげー!俺ってばレアアビリティ持ちぢゃん!勝ち組ぢゃん!!」

などとはしゃぎまくったもんだったが、中学生になった時、担任教師から「社会に出てたらなんの役にも立たない。どの職業適性も無い落ちこぼれ」と言われ、初めて極めてレアなハズレ能力だったのだと理解させられた。

それでも、アビリティ試験の点数が全てみたいな学生時代を誤魔化し誤魔化し生き抜き、社会の役に立とうと色々がんばってきたのだが、いざ就職となった時、同級生が様々な進路へ旅立つ中で、どうにもならない現実ってもんがある事を思い知らされた。

例えば工場作業員であれば器用さや集中力。クリエイティブな仕事なら発想力、スポーツ選手なら身体強化など、バフ系のアビリティが役に立つし、医療関係であればヒーリング能力、警察や探偵ならサーチ能力など、アビって奴は仕事に活かせる物を有していて初めて意味があるのだ。

仕事を有能にこなせるかどうかは個々の基本能力やスキルにもよるが、後天的に備える事が出来るそれらより、先天的に持った代えの効かないアビリティの方が重要視される現代では、態々、会社の役に立たないアビしか持たない事が分かっている奴を雇う企業もなく、長らく俺は無職だった。

転機が訪れたのは、そんなプー太郎な日々が3年程続いたある日の事だ、俺の所に・・・・

「長い!! 三行でよろ!!」

「いや全部聞けよ!! 俺の魂の叫びを!! これまでの苦労を!! まだ冒頭部分にも差し掛かってないんだぞ!!」

「古今東西! おじさんの苦労話なんて無駄で役に立たないって相場が決まってるのよ?知ってる??」

「な、なんだとぉ! 謝れ! 全国のおっさんに対して謝れ!! 俺に対してはものすごく謝れ!!」

せっかくこの俺がありがたい苦労話をしてやってるって言うのに、ミントの奴はものすごく失礼な態度で不満感を顕にしていた。

あの後、アヘ落ちしていたミントを叩き起こし、二人で慌ててチャコの行方を追った所、職場?らしき所まで突き止めた。

こうしてミントと二人、かれこれ3日間程、壁から覗く伝統的尾行スタイルで密かに観察を続けているが、どうやら竹左衛門なる人物の家で警備員として働いている様だ。

いや、正確には門番だろうか?

この3日、毎日どデカイ門の前でふんぞり返って周囲を威圧しているだけで、それ以外は特になにもしていない。

そんなつまらない状況を延々眺めているだけともなれば、なんとはなしに語りだしてしまうのもしかたがないってもんだろう?

「そもそも、その無駄に長い話、今のこの状況に関係あるの??ないの??ないよね??」

「大有りだろうが!! 俺がプー太郎からこの職に付くまでには、涙無しには語れないアレコレやすったもんだが色々あったって言うのに! あのちんちくりんは昨日の今日みたいな勢いで仕事見つけてきやがったんだぞ? なんか腹立つだろうが!!」

「なによそれ! 一言、直ぐに仕事見つかって羨ましいって言えば済む話ぢゃん!!」

「ばっ、ちょ、裏山とか、そーゆーんぢゃ、ね、ねぇし! ホラ、アイツが問題起こしたら、俺のせいになるしおすし・・・」

「あーもー、はいはい、もういいから静かにしてて、ね? お姉ちゃんに気付かれるから」

「あ、はい。すんまそん・・・」

ミントの奴は男を見かけたら未だに暴走しかねないので、出歩く時はこの間購入したモン娘用のリードと首輪が必須だ。

そんな奴に静かにしなさいと窘められる俺。状況的にはバカな飼い犬に説教される、より大バカな飼い主だ。

心底おーまいがーだぜぃ・・・。

にしてもチャコの奴、マジでふんぞり返って周囲を威圧してるだけで、あとはなんにもしてねーな・・・アレでいくら貰えるんだ??

そもそもあの家はなんなのだろう??

普通の家には門番とかいらねーだろ??

それなりに金持ちなお宅なら警備員ぐらい居てもおかしくはねーが、あれはなんつーか、中流家庭よりかは経済力があるけど、上流階級には及ばない。そんな地方の村長宅的なイメージの日本家屋だ。

門も家も庭も俺ん家と比べたら広くてでかいが、十分一般家庭に該当する大きさだ。

なので警備員を配置する程ではないし、ましてやなにをするでもない、ただの門番なんぞの必要性は微塵も感じない。

そもそも仮に門番が必要だとしても、チャコの様な小鬼より、オーガや大鬼を雇った方が遥かに威圧効果があるだろう。

謎は深まるばかりだ・・・。

そうこうしている間に休憩時間になったのか、チャコの奴は門の端に座り込み、ここまでの道中で寄ったコンビニで買ったおにぎりを袋から取り出し、むしゃむしゃ美味そうに食いだした。

そのむしゃむしゃむしゃむしゃ食ってる様を見ていたら、俺もなんだか腹が減ってきた。今日は朝からなんにも食ってねぇから当然と言えば当然だが。

しかたがない。どうせこのまま見ててもなにも起きないだろうし、コンビニで弁当でも買ってくるか。ここんトコ醤油ご飯しか食ってないし、節約中とは言えたまには人並みの物を食いたい。

「おいミント。腹が減ったから俺達もコンビニ行くぞ」

「賛成。つまりコンビニのトイレで私は長さんをいただくって事でいいのよね?」

「いや、お前の分はないから。単にここに放置すると問題起こしそうだから一緒に連れて行くだけだから」

「な、な、なんですとぉー!」

「俺のありがたい苦労話をディスった罰だ!! ご飯抜き!! ざまぁみろー!!」

「マジっすかー! マジっすかー!」

こうして、俺達は一旦この場を離れ、コンビニへと向かう事にした。

いや、話の件がなくてもコンビニのトイレでサキュバスに給餌とか無理だけどな。


~~~~~~~~


竹左衛門なる人物の家から、最寄のコンビニまで徒歩約10分程だ。
チンしてもらった弁当を近場の公園で食し、30分程で再びチャコの元へと戻った時には、なぜか現場はパトカー多数に破壊音が鳴り響く戦場と化していた。

え?あれ?俺、戻る場所間違えたか?? と一瞬思ったが、渦中のど真ん中でポリスメン相手に大立ち回りしているチャコを見て、現場は間違っていなかったと再認識。

いや、そうぢゃない!! そうぢゃないだろ!! これなんかヤバイ奴だ!! 絶対俺があかん事になる類の事件ぢゃねーか!!

「おらー! 何人たりとも親分の許しがない者はこの門を通すなって言われてるんじゃー! これがあたしの仕事なんじゃーぼけー!」

「うわー!やめなさーい!公務執行妨害で逮捕する事になるよ!! お嬢ちゃん!! お父さんやお母さんはどこにいるの!!」

パトカーを持ち上げて投げ飛ばすわ、5~6人を纏めて放り投げるわと、大暴れなチャコとそれに対して説得を続けるポリスメン。

「うん?父や母がどこにいるのかはわかんねーな。あえて言うならおっさんがあたしの親替わりだが??」

「そのおっさんはどこに居るんだい?」

「家に居ると思うけど??」

あ、マズ、これ不味い流れだ。あのバカ、バカだからバカ正直に全部答えてしまう。

「おいミント!! なんか顔隠す物もってないか!!マスク的な物!!」

「え、えー!!急に言われてもそんな物持って無いよ!!」

「いいから早く!!早く出せ!!」

「えーと、えーと、あ、じゃあ、はい!」

と、俺の無茶な要求に対しに咄嗟に差し出された物は黒いレースで装飾されている無駄にエロいミントのパンツだった。

「いつだって勝負下着。それが私のポリシー。脱ぎたてなので効果抜群よ!」

なんの効果が抜群なのかさっぱりわからんが、よりによってパンツかよ。こんなもん被ってあの中に突っ込んで行ったら、映画化するレベルの変態じゃねーか・・・だが背に腹は変えられん!!

「変・身!! ・・・・どうよ?」

掛け声と共に顔面へとパンツを装着し、ミントに感想を求める。

「あ、うん。渡しておいてなんだけど、通報もんですよ」

「だよなー。行ってくる(泣)」

そう言い残し、俺は泣きながら走った。



「ところで、その首から下げたプレートはなんなの?」

「あー、これなぁ、ゲームで課金したらおっさんがブチギレちゃってさあ、おティヌちゃんに押し付けられたんだよ、許可なく外すとぞうきん汁EXの刑なんだよ、そのせいで働く事になったんだよ」

ポリスメンとチャコの問答は続いている。刺激しなければ暴れないと言う事がわかったのか、彼等は屈んでチャコと目線を合わせつつ、子供に接する様にやさしく誘導し話を進める。

「ふむふむ、良くわからないけど大変なんだね」

「そーなんだよ、大変なんだよ、だからあたしはここの門番をしてるんだよ」

「そっかー、じゃあ、門番して居る所を邪魔しちゃって悪かったね。ところで、そのおっさんの名前はわかる?」

「あぁん? おっさんの名前・・・あー、なんだったっけかなぁ、名前でなんて呼んだ事なんてないしなぁ・・・え~と確か・・・」

「じゃあ職業は?」

「おっさんの職業? そらあれだよ、モン娘のブリーたわばぁああ!!!」

間一髪。俺の渾身のナックルがチャコの顔面にヒットして、その発言を遮り、俺の職業がバレる事態は回避できた。

モン娘のブリーダーなんて国内にそう多くはない。オマケに市内では俺だけだ。職業がバレたら一発で俺までたどり着いてしまう。名前バレするより遥かに不味い。

「うわー!!なんだ!なんだ!!パンツ被った変態が現れたぞー!!」
「変態がちっさいのをぶっ飛ばしたぞ!」
「なにこれ!逮捕?こいつ逮捕しちゃう系?」

パンツを被った男の突然な介入でポリスメンは軽いパニックだ。この隙に一気に畳み掛けるぜ!!

「私の名前はおパンツ仮面!!正義の使者だ!!」

「せ、性技の使者?? 罪人?? 逮捕が必要??」

まだ新人っぽい空気の若いポリスが聞き返して来た上に逮捕の確認。

「チガウ!!性技ではない!!正義!! 罪人ではないし逮捕の必要もない!! このちんちくりんは私が責任を持って預かろう! さぁ!ポリスメン達よ! これで障害は取り除かれた! 己が職務を全うする為、屋敷へと突入するがいい!!」

高らかに勢いのままそう宣言すると、ぽかーんとしていたポリス達は「あ、じゃあ突撃しまーす」と竹左衛門宅へと突撃を開始。

よし!奴等が正気に戻る前にトンズラだぜ!!

吹っ飛ばされて伸びてるチャコを小脇に抱えて回収すると、俺はダッシュでミントの元へと戻り、無言でミントももう片方の小脇に抱えると再び猛ダッシュ!

両脇に娘っこを抱えて数十メートル走った所で小脇のミントが、

「長さん。めっちゃやる気満々でポリスメン追いかけてきたよぉ?」

と報告。

尻を前にする形で小脇に抱えられているミントは、後方の様子がわかる。

「んな事ぁわかってるんだよ! いいから黙ってろ!! 舌噛むぞ!」

「はーい」

素直に返事を返し、お口にチャックしたミント。

こうして、チャコの仕事開始から3日目。俺達はポリスに追われつつ竹左衛門邸から逃げ帰る事となった。
しおりを挟む

処理中です...