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9話
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音を立てないよう細心の注意を払いながら自室を出た。直樹はもう眠っているのだろうか。窓から降り注ぐ月の冷え冷えとした蒼白い明かりが一直線に続く2階の廊下を鈍く光らせていた。2階で寝泊まりしているのは俺と直樹だけで、親父も母さんは1階のそれぞれ別室で寝ている。俺の部屋より直樹にあてがわれた部屋の方が1.1畳ほど広いのはアイツの部屋が夏休み前まで物置部屋だったからだ。直樹がやってくる日が決まると、室内で積み上げられていた段ボール箱の山は持ち出され、俺の部屋に流れ着く。「夏休みの間だけなんだから我慢しなさい」と母さんは俺に言うが、日頃から両親が片付けを怠ってさえいなければ、俺が迷惑を被ることはなかったはずだ。
足を1歩踏み出す度に鏡みたいにつるつるした廊下が不快な音を奏でて軋む。俺は摺り足で直樹の部屋の前に立ち、ひどく緩慢な動作でドアノブに手を掛けた。内鍵は掛かっていない。
(不用心なヤツだ)
爪を引っ掻くような蝶番の音と共にゆっくりとドアが開く。部屋の奥にはベッドの上でまるで胎児のように背を丸め横になっている直樹の姿があった。俺はベッドに近づき、ベッドの上で野放図に広がる艶やかな直樹の黒い髪にそっと触れた。柔らかくて、良い匂いがする。同じシャンプーを使っているはずなのに……。
「おい」
小さな声で呼びかけてみたが直樹からの反応は無かった。
「起きてんだろ。狸寝入りはやめろよ」
レースのカーテンから微かに射し込む月明りが、全体的に丸みを帯びている直樹の身体のラインを浮かび上がらせている。こちらの情欲を掻き立ててくる煽情的な姿に俺はたまらず生唾を飲みこんだ。吸い込まれそうなほど、大きくつぶらな瞳は黒曜石の煌めきに似ている。形の整った鼻。肩までかかる男にしては長い黒髪。直樹の容姿は小学生の頃の由紀にとてもよく似ていた。泣いた時の顔なんて由紀の生き写しではないかと思わず疑ってしまうほどに。彼女の名をそっと口にするだけで俺の胸は張り裂けそうなほど苦しくなってしまう。由紀は俺の幼馴染で、初恋の相手だった。
足を1歩踏み出す度に鏡みたいにつるつるした廊下が不快な音を奏でて軋む。俺は摺り足で直樹の部屋の前に立ち、ひどく緩慢な動作でドアノブに手を掛けた。内鍵は掛かっていない。
(不用心なヤツだ)
爪を引っ掻くような蝶番の音と共にゆっくりとドアが開く。部屋の奥にはベッドの上でまるで胎児のように背を丸め横になっている直樹の姿があった。俺はベッドに近づき、ベッドの上で野放図に広がる艶やかな直樹の黒い髪にそっと触れた。柔らかくて、良い匂いがする。同じシャンプーを使っているはずなのに……。
「おい」
小さな声で呼びかけてみたが直樹からの反応は無かった。
「起きてんだろ。狸寝入りはやめろよ」
レースのカーテンから微かに射し込む月明りが、全体的に丸みを帯びている直樹の身体のラインを浮かび上がらせている。こちらの情欲を掻き立ててくる煽情的な姿に俺はたまらず生唾を飲みこんだ。吸い込まれそうなほど、大きくつぶらな瞳は黒曜石の煌めきに似ている。形の整った鼻。肩までかかる男にしては長い黒髪。直樹の容姿は小学生の頃の由紀にとてもよく似ていた。泣いた時の顔なんて由紀の生き写しではないかと思わず疑ってしまうほどに。彼女の名をそっと口にするだけで俺の胸は張り裂けそうなほど苦しくなってしまう。由紀は俺の幼馴染で、初恋の相手だった。
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