NLP ーNecromancy Laid Programmingー

七里田発泡

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検査

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 稲田脳神経外科は隣町で1番の賑いをみせる商店街の一角にあった。こんな辺鄙な場所にあるクリニックに母が言うような評判の医者が本当にいるんだろうか。僕にはどうしてもそうは思えなかった。そんな僕の不安が母に通じてしまったのかエレベーターが降りてくるのを待っている間だけ、母は僕の手を壊れ物を扱うみたいにそっと握ってくれた。母の手はおよそ人の体温を感じさせないほど冷たく、まるで死人のもののように感じられた。

 必然的に祖母の葬儀の日のことを思い出した。あの日、僕は棺の中で眠るように横たわる冷たくなってしまった祖母の額を撫でながら肩を震わせ、しくしくと泣いていた。泣いている僕を見て、母は目を丸くしていた。物珍しいものを目にするように母はじっと僕の顔を検分してきた。その行為が僕の心にさらなる追い打ちをかけているとも知らずに。母は僕のことを感情を持たない動物か何かだと思っているに違いなかった。

 祖母は最後まで僕に優しく接してくれた。惜しみない愛情を注いでくれた祖母との最期の別れ。こみ上げてくる涙を抑えることなど不可能だった。一生、引き返すことのできない暗闇の中にするすると引きずり込まれていくような思いに打ちのめされるしかなかった。

 手のひらから伝わってくる祖母の身体の冷たさは、まるで自分が今触れているものが単なるモノに過ぎないことを強くこちらに訴えかけているようであった。魂を失くしてしまった肉体は最早、ただの抜け殻でしかない。人は死ぬとモノに成り下がってしまうんだということをこの時、僕は初めて知ることにった。

 自分の背負っている十字架がどれほど重いものなのか改めて気づかされる。決して贖うことのできない罪を背負う者には罰が必要だ。

 母が僕を憎むのも、原因不明の発作も、自分の犯した罪に対する当然の報いだった。病院は病から助かりたいと思っている人間が行くべき場所である。僕はその条件に当てはまらない。僕は別に助かりたいとか救われたいとかこれっぽっちも思っていなかった。神様が与えてくださった罰をどうして取り除く必要がある?それは大いなる意思に背くことになるのではないか。

「大丈夫だからね。何にも怖がることはないのよ」

 オレンジ色に光るエレベーターの乗場表示灯の数字に視線を注いだまま母は僕の手を握り続けてくれた。ひんやりとした手の感触が少しだけ心地良かった。

 ◆◆◆◆

 「直樹くんの失神や過呼吸は不安発作によるものかもしれませんね」

 鼻の横の大きなイボが目立つ神経質そうな目をした医師が診察机の上の液晶モニターを見ながら独り言のように呟いた。モニターには僕の頭部の断面図が出力されている。

 「つまり先生はうちの子の失神は過度なストレスが原因だと。そうおっしゃりたいんですか?」

 「あくまで可能性の話です。動悸や息苦しさの原因が不整脈であることも考えられますし、現段階ではまだ何とも……」

 母が医師と激しい言い合いを繰り広げている横で僕はモニターに映し出されている自分の脳みそをじっと見つめた。本当にこんなものが僕の中に詰まっているのだろうかとか、人の脳みそって萎んだ蜜柑みたいな形をしているんだなとか、どうでもいいことを考えているとあっという間に時間は過ぎていった。

 脳神経外科を後にし、その足で循環器内科に行った。突然の動悸の原因が不整脈かどうか検査するため心電図をとってもらったが結果は異常なしとのことだった。先ほどの脳神経外科の医師とほとんど同じ診断結果を聞かされている母の表情を見るのが怖かった。診察が終わるまでの間、僕は真っ白な床に視線を落とし続けることで息の詰まりそうな気まずい雰囲気から何とか逃れることができた。

「お大事に」と背後から声を掛けられながら診察室を後にする。

「ヤブ医者が」

 母は、ぽつりとそう呟き、僕の手を引いて待合室へと向かった。病院の中はどこもかしこも消毒液の強い匂いが立ち込めており暖かな午後の日差しがリノリウムの床の上に小さな陽だまりをつくっていた。春はすぐそこまで来ている。
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