NLP ーNecromancy Laid Programmingー

七里田発泡

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坂上秀一の場合6

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 旧約聖書によると神は自分の姿に似せて人間をつくり、7日間かけて世界を創造したといわれている。どうして神が自分と同じ姿をした生き物をつくったのか。叡智を授け、そして必ず死という結末を迎えるよう設計したのか。友人を階段から突き落としたことのある秀一には、何となくその理由が分かるような気がした。

 秀一にとって永遠とは停滞を意味し、忌むべき退屈の象徴でもあった。終わりのないものに存在する意味や価値があるとは彼には到底思えなかった。永遠という言葉にはどこか空虚な響きがあった。全ての物事には始まりがあって終わりがある。死という概念が存在するからこそ生があり、そこには意味が宿るのだ。

 秀一は絶対的かつ超越的な存在である神について想いを巡らせてみることにした。父親が苦しそうな寝息を立てているのを横で聞きながら薄暗い部屋の天井のある一点にひたすら視線を注ぎ続ける。大空を埋め尽くしている鉛色をした雲の切れ間から溢れ出た光が地上に向かって放射状に降り注ぐ美しい情景が脳裏に浮かびあがってきた。人々の頭上に降り注いでくる光はまるで天からの梯子のように見え、街に住む人々は全員、興奮しきった面持ちで光に吸い寄せられていく蛾のように梯子の下に殺到した。

 祈りの言葉を口にする者。地面に額をこすりつける者。呆然とその場に立ち尽くす者。静かにただ涙を流す者。反応は人それぞれ違ったが、腹の底で思っていることは大抵、みんな同じだった。

 ――神さま、どうか私たちをお救いください。

 神は暖かな日差し以外、人に何も与えなかった。群衆の中の1人が雲の切れ間から見える青空を指差しながら「神などいない」と響き渡るような声で叫んだ。

 小石が投げ込まれた水面に波紋が広がっていくように暴力の連鎖が始まる。些細なキッカケから始まった小競り合いは、やがて血で血を洗う壮絶な殺し合いにまで発展し、数えきれないほどの数の死体が辺り一面に転がった。この世から争いがなくならないのは血に飢えた神がこの世界をいつまでも牛耳っているからに違いなかった。光を目の当たりにすると、人は正気ではいられなくなる。ひとたび狂気に取り憑かれてしまうと他人を傷つけ、血を流さずにはいられなくなる。光は呪いで、希望は罪であった。

 こういった倒錯的とも言える妄想に秀一が囚われるようになったのは稲佐村に越してきて数か月が経とうとしていたある日の出来事からであった。錆び付いたアパートの階段をのぼり、203号室のドアノブに手を掛けようとした時、扉の向こう側から聞き覚えのない女の声が聞こえてきた。秀一は、ドアに耳を押しあて部屋の中の様子を探った。

 微かに聞こえる女の嬌声と衣擦れの音の中に父の荒い息遣いが入り混じっているのが分かった。

 秀一が部屋の中で何が行われているのか瞬時に理解することができたのは酒に酔った父からこれまで嫌というほど男女間の情事や、彼の母親が犯した不貞や裏切りについてえんえんと聞かされ続けてきたからに他ならなかった。

 新しい家は2人だけの居場所になるはずだった。
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