NLP ーNecromancy Laid Programmingー

七里田発泡

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坂上秀一の場合5

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 秀一の家の近所のスーパーでは夜8時を過ぎると売れ残っている弁当に半額シールが貼られはじめる。秀一たちは毎晩のように半額シールが貼られた弁当を食べ続けた。父は依然として定職に就けていなかった。先の見えない分からない不安のなかで日々をやり過ごす。

 朝はシリアルや食パンを食べ、昼はレトルトカレーやカップ麵などのインスタント食品。栄養不足を補うために野菜ジュースとビタミン剤は毎日飲んだ。2人にとって食事は生命維持のためだけに行われる作業でしかなかった。腹が満たせることができれば何だって良かった。

 その日の夕飯も半額シールが貼られた唐揚げ弁当だった。口いっぱいに唐揚げを頬張る和明を秀一は真正面から見据える。血の気のない唇はキツネ色にカラッと揚げられた衣の油で瑞々しい光沢を放っていた。やや知性に欠けていそうな浅黒い顔立ちは教科書に出てくる類人猿の図とどこか似ている。

「あのな秀一。話があるんだ」

 食事を続けながら和明は秀一に尋ねた。膨らんだりへこんだりを繰り返している頬のせいなのか秀一の目には和明の顔の輪郭やパーツが奇妙に歪んでいるように映った。

「実は近々、引っ越そうかと考えているんだ』

 話をしながら食事を続けているため口の中の様子がよく見えた。粘ついた唾液と混ざり合ってペースト状になった鶏肉や白米が血のように赤い舌の上で踊り狂っているのが分かる。見てはいけないものを目にしてしまったような気がして、視線を横に逸らしたながら秀一は尋ねた。

「仕事、見つかったの?」

 和明は箸を置き、真剣な眼差しをこちらに向けてきた。2人の間に奇妙な沈黙の時間が流れる。音の無い世界にしばらく2人はいた。

「兄貴の知り合いが経営している会社が人不足で困っているらしくてな。そこで世話になろうかと思っているんだが……」

 奥歯に物の挟まったような言い方に秀一は思わず首を傾げた。和明の表情には喜びの色はなかった。それどころかどんどんと表情は険しくなっていき戸惑いや躊躇いの色の方が濃くなっているようであった。

 喉を鳴らしながら発泡酒を一気に飲み干していく和明の太い喉が蛆虫のようにうごめき大きくうねる。秀一は芋虫に似た生き物が喉元の肉を食い破り、体の中から飛び出すホラー映画のワンシーンをふと思い出した。

「お前寂しくならないか?」

 酒で濡れた唇に親指を這わせ拭いながら和明は言う。

「クラスの友達と離れ離れになるんだぞ」

 秀一は思わず吹き出してしまいそうになった。悟志を階段から突き落とした時の、あの時の記憶が鮮明に蘇ってくる。悲痛な叫び声をあげながら床を転げまわる悟志の姿を目にしたとき、胸がすくような思いがした。自分の身体の中を流れる血が湧きたつようなあの感覚。あの日、あの時、あの瞬間。悟志の命は確かに自分の手の中にあった。

 秀一が彼の背中を押すという突発的、凶行に及んだその理由は命の天秤が生と死、どちらに傾くのか知りたいという至極、純粋な知的好奇心からきていた。言ってしまえばそれは彼の今後の自分の将来を占うためのある種のゲームのようなものであるといえるかもしれない。秀一にとっての悟志という存在はゲームを遊ぶために必要な道具の1つでしかなかった。道具はいくらでも替えが効くのだからこそ道具たり得るのだ。この世に替えの効かないものなんてそう多くはない。友達も、ゲームも退彼にとっては退屈な日常をほんの少しの間だけ忘れさせてくれるただの道具でしかなかったのである。

「そんなこと気にしなくていいよ」

 全く手をつけてない自分の弁当に視線を落としながら秀一は言った。

「友達なんてまた向こうで新しく作ればいいんだから」


 
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