追放されたけどFIREを目指して準備していたので問題はない

君山洋太朗

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1話 効率的なクエスト選び

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FIRE(Financial Independence, Retire Early)とは、「経済的自立と早期退職」を目指すライフスタイルや思想のこと。この考え方は、若い頃に集中的に資産を築き、その運用益や貯蓄を活用して、通常の定年よりも早く仕事を引退し、自由な生活を送ることを目的としている。
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朝日が昇り始めた頃、グランゼリア王国の中堅都市メルサリアの冒険者ギルドは、すでに活気に満ちていた。木製の床を踏む足音、依頼の相談をする声、装備を確認する音が入り混じり、一日の始まりを告げている。

レオン・クラウゼンは、パーティーのリーダーであるガイウスが選んだクエスト依頼書を眺めながら、冷静に意見を述べた。

「これは効率が良くないと思うんだ」

長めの黒髪を後ろで一つに束ねた青年は、机に広げられた複数の依頼書を丁寧に並べ直す。十九歳になったばかりの彼は、パーティーの中では最年少だったが、その眼差しには同年代には珍しい慎重さが宿っていた。

「この依頼なら、確かに報酬は高いけれど、移動時間と準備に必要なコストを考えると、実質的な収益は低くなる。その時間で、街の近郊にある複数の小規模な依頼をこなした方が、純利益は1.5倍になるはずだ」

レオンは手元の帳簿を取り出し、計算結果を示した。几帳面な字で書かれた収支計算には、移動費用、装備の減耗率、報酬に対する期待値まで細かく記されている。彼が提案していた依頼は、街の近郊に出没し始めた魔獣の討伐や、商人の護衛など、短時間で確実に成果が見込める案件だった。

「はぁ...また始まった」

赤い長髪を揺らし、魔法剣士のセリアが大きなため息をつく。二十四歳の彼女は、魔法学院で学んだ技術と剣術を組み合わせた独特の戦闘スタイルで、パーティーの主力として活躍していた。その美しい容姿の裏には、幾度もの死線を潜り抜けてきた強さが隠されている。

「レオン、あなたいつもそうよね。効率がどうとか、コストがどうとか。冒険者なのに、まるで商人みたいな考え方ばかり」

「そりゃそうだろ。俺たちはこれで生計を立てているんだ。収支を度外視した判断は、将来の破綻に繋がる」

レオンは淡々と返す。彼の瞳には感情の揺らぎは見られず、純粋に理詰めで物事を捉えている様子が伺えた。

「でもよぉ」

槍術師のダグが、がっしりとした腕を組みながら口を挟む。三十歳を過ぎた彼は、かつて王国軍に所属していた経歴を持つ。その圧倒的な腕力と戦闘経験は、パーティーの大きな強みとなっている。

「俺たちゃ冒険者だぜ? たまには強敵に挑戦して、限界を超えるようなスリルを味わうのも大事じゃねぇのか? 今回の依頼だって、あの『霧の谷』の奥に潜む古代の魔物を討伐するんだぜ? これぞ冒険者の仕事って奴じゃねぇか!」

「そうよ!」

回復魔法を担当するミレイアが、小さな体で前のめりになって同意する。二十三歳の彼女は、聖女の異名を持つほどの優れた回復魔法の使い手だ。その天真爛漫な性格は、時としてパーティーの重圧を和らげる潤滑油となっていた。

「冒険者って、夢とロマンがなきゃダメだと思うの! お金のことばかり考えてたら、心が乾いちゃうわ。それに、今回の依頼を達成できれば、私たちの評価も上がるはずよ!」

レオンは表情を変えることなく、むしろ予想通りの反応が返ってきたかのように小さく頷いた。

「夢とロマンか...」

静かに呟きながら、レオンは自分の幼少期を思い出していた。裕福な商家の跡取りとして育った彼は、父の事業失敗による没落を目の当たりにしている。感情に流されて誤った判断を下した結果が、どれほどの代償を伴うものなのか——。その教訓は、彼の骨の髄まで刻み込まれていた。

三年前、彼らは偶然にも同じ依頼に参加したことがきっかけで出会った。当時は全員が駆け出しの冒険者で、互いの長所を補い合いながら、徐々にパーティーとしての実力を高めていった。ガイウスの的確な判断力、セリアの華麗な剣術、ダグの豊富な戦闘経験、ミレイアの優れた回復魔法、そしてレオンの「価値転換」能力——。それぞれが持つ特技が見事に調和し、彼らは短期間で中堅パーティーへと成長を遂げた。

しかし最近、レオンは違和感を覚えていた。パーティーの方向性が、少しずつ自分の考えと異なってきているのだ。今回のクエストもその一つだった。「霧の谷」は街から三日行程の場所にあり、伝説級の魔物が潜むと言われている。報酬は確かに破格だが、それは並々ならぬリスクの裏返しでもあった。

「まぁいいや、レオン」

ガイウスが話を打ち切るように手を振る。三十二歳の彼は、筋肉質な体格と、傷跡の残る顔が、戦士としての豊富な経験を物語っている。パーティーのリーダーとして、彼は常にメンバーの意見に耳を傾けてきた。しかし、時として大胆な決断を下すことも恐れない。

「お前の言うことは分かるけどさ、たまには「つまらない」選択は避けたいんだよ。このパーティーでやっていくなら、もう少し柔軟になった方がいいぞ」

「...承知した」

レオンは短く答え、帳簿を片付ける。パーティーメンバーたちが安堵の表情を見せる中、彼の脳裏では早くも次の収支計画が組み立てられ始めていた。霧の谷への遠征に必要な装備、予備の魔法具、そして万が一の場合の撤退費用まで——。

「よーし、じゃあ決まりだな!」

ガイウスが拳を突き上げる。その仕草には、かつて彼が王国軍の上級騎士として活躍していた頃の威厳が垣間見える。

「明日の夜明けに出発する。今日は装備の準備と整備をしっかりやっておけよ。特に魔法具の状態は入念にチェックしろ。霧の谷じゃ、普段の倍は消耗するらしいからな」

「おう!」
「了解!」
「がんばりましょう!」

歓声が上がる中、レオンだけが黙々と必要な備品のリストを作成していた。彼の「価値転換」の能力は、戦闘では活躍できない。魔物の素材や鉱物の価値を高める程度の力だが、それでもパーティーの収入を下支えする重要な役割を果たしていた。

その能力は、彼が幼い頃から持っていたものだ。没落した商家で育った彼は、この力を活かして家計を支えてきた。価値の低い物を高価な物に変えることで、何とか生活を維持してきたのだ。その経験が、彼を極度に慎重な性格に作り上げたのかもしれない。

しかし、その能力を最大限に活用するための彼の提案は、いつも「つまらない」の一言で片付けられる。レオンは、そんな状況にも慣れていた。それでも彼は、自分なりのやり方を貫き通すことにした。

「今回の依頼で予想される装備の損耗率は...」

誰にも聞こえないような声で、彼は計算を続ける。感情に流されず、常に理詰めで判断を下す。それが、レオン・クラウゼンの生き方だった。

ギルドの窓から差し込む朝日が、彼の表情を淡く照らしていた。その光の中で、レオンは今日もまた、効率的な人生設計を考え続けていた。しかし彼は気付いていなかった——この遠征が、パーティーとの関係に大きな転機をもたらすことになるとは。


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初めまして 相藤洋(あいとうよう)と申します。
初めての投稿です。
稚拙な文章ですがこの先もお読みいただければ幸いです。
1/1 12時から1時間ごと12話まで連続投稿させていただきます。
よろしくお願いいたします。
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