追放されたけどFIREを目指して準備していたので問題はない

君山洋太朗

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2話 戦闘中の価値転換

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「グオォォォッ!」

巨大な猪型魔獣が轟音と共に突進してきた。全長4メートルを優に超える巨体は、通常の猪の倍以上の大きさだ。漆黒の体毛は鋼のように硬く、その一本一本が槍のように尖っている。額から背中にかけて生えた赤い棘は、血に濡れたように不吉な輝きを放っていた。最も特徴的なのは、その牙だ。上下から生えた四本の牙は、それぞれが腕ほどの太さを持ち、先端は青白く光っている。魔力を帯びた証だった。

地響きを立てながら疾走する姿は、まさに暴走する凶器そのものだ。その蹄が地面を踏みしめるたびに、土煙が巻き上がり、小石が弾け飛ぶ。赤く輝く瞳からは狂気的な殺意が放たれ、鼻から吐き出される熱い息は白い蒸気となって周囲に広がっていた。

「任せろ!」

ダグが槍を構え、魔獣の進路を塞ぐ。彼の得意技である「重槍式・岩壁」の構えだ。その姿勢は、まるで大地に根を張った巨木のように揺るぎない。

重槍式・岩壁——それは、槍を地面と平行に構え、全身の重心を極限まで低く保つことで、突進してくる敵の力を受け流しながら、同時に急所を狙う高度な技術だった。槍の柄を脇に強く固定し、片足を大きく後ろに引く。背筋を真っ直ぐに伸ばし、まるで岩壁のように不動の体勢を作り上げる。相手の突進力が強ければ強いほど、その力を利用して致命傷を与えることができる、まさにダグの真骨頂とも言える技だった。

「セリア、後ろから頼む!」

「了解!」

魔法剣士のセリアが、魔力を纏った剣を携えて魔獣の側面に回り込む。彼女の剣は淡い青色の光を放ち、その刃には風の魔力が集中している。一撃で魔獣の装甲のような硬い体毛を切り裂くための準備だ。

戦闘が始まって数分。パーティーメンバーたちは息の合った連携を見せていた。ダグが正面から魔獣の注意を引き付け、セリアが側面から急所を狙う。その間、後方ではミレイアが常に回復魔法の準備を整えている。その中で、レオンはやや離れた位置から魔獣の動きを観察している。

「レオン! 何してるの!?」

ミレイアが回復魔法の詠唱の合間に叫ぶ。彼女の声には焦りが混じっていた。

「今は魔獣の素材の質を観察してる。価値転換の準備だ」

レオンは冷静に返答する。彼の視線は魔獣の特定の部位に集中していた。特に、青く輝く牙と、背中の赤い棘には強い関心を示している。

「は? 今それ?」

セリアが不信感を露わにする声を上げる。魔力を纏った剣を振るいながら、彼女の表情には怒りが浮かんでいた。

「私たちが命懸けで戦ってるのに、あなたときたら...!」

「セリア、後ろ!」

ガイウスの警告が響く。魔獣の尻尾が、彼女の死角から迫っていた。その尻尾は蛇のように自在に動き、先端には鎌のような形状の棘が生えている。

「きゃっ!」

間一髪で身を翻したものの、セリアの腕に浅い傷が付く。鎌状の棘が彼女の防具を貫いていた。

「セリア! 今、治療するわ!」

ミレイアの回復魔法が光る。緑色の優しい光が傷を包み込み、傷は瞬く間に塞がっていく。

「これだからレオンは...! 戦闘に集中してよ!」

セリアの声には明らかな怒りが含まれていた。汗で髪を貼り付かせながら、彼女は再び戦闘態勢を取る。

レオンは表情を変えることなく、魔獣の観察を続ける。彼の目には、魔獣の体の各部位が持つ潜在的な価値が見えていた。普通なら雑貨程度の価値しかない猪の牙も、適切な価値転換を施せば、上質な武具の素材として扱える。特に、魔力を帯びた青い牙は、魔法武器の素材として高値で取引できる可能性が高い。それは、パーティー全体の収益に大きく関わる重要な仕事だった。

魔獣が再び突進を開始する。今度は、より狂暴さを増していた。赤い瞳が炎のように燃え上がり、体の棘が一斉に逆立つ。地面を蹴る力が増し、その速度は先ほどの倍以上だ。

ダグは再び重槍式・岩壁の構えを取る。しかし今度は、魔獣の突進力があまりに強すぎた。彼の足が地面を削りながら後ろに押し戻されていく。

「くっ...!」

歯を食いしばりながら、ダグは踏ん張る。槍の先端が魔獣の装甲のような体毛を抉りながら、少しずつ肉に食い込んでいく。
その時、魔獣の側面から一閃の光が走った。ガイウスの剣だ。彼は片手で重剣を軽々と振るい、魔獣の後脚を狙う。剣には淡い赤い光が宿っており、炎属性の魔力を帯びていることが分かる。

「はぁッ!」

鋭い咆哮と共に、ガイウスの剣が魔獣の後脚を切り裂く。装甲のような体毛も、彼の魔力を帯びた一撃の前では紙のように裂けていく。切断面から血が噴き出すが、剣に宿った炎の魔力によって傷口は焼かれ、すぐに出血は止まった。

「チッ、まだか!」

ガイウスは即座に体勢を立て直し、今度は魔獣の腹を狙う。しかし魔獣は痛みに狂ったように暴れ、その巨体を激しく揺さぶってきた。

「危ない!」

セリアが警告の声を上げる。魔獣の体が大きく跳ね、ダグの槍が外れかける。その瞬間、ガイウスが動いた。
彼は地面を蹴り、まるで風のように魔獣の下腹に滑り込む。重剣が風を切る音が響き、続いて肉を裂く鈍い音が聞こえた。魔獣の腹から大量の血が噴き出す。

「ガイウス、上!」

ダグの声に反応し、ガイウスは即座に跳躍。丁度その時、魔獣が激しく地面に転がり、さっきまでガイウスがいた場所を潰していた。

「今だ...!」

空中でガイウスは剣を逆手に持ち替える。剣身全体が今度は深い赤色に染まり、まるで溶けた鉄のような輝きを放つ。彼の必殺技、《紅蓮剣》の構えだ。

「うおおおッ!」

落下しながら放たれた一撃が、魔獣の首筋深くに突き刺さる。剣に込められた炎の魔力が爆発的に解放され、魔獣の体内から赤い光が漏れ出す。
断末魔の咆哮が響き渡る。巨大な体が痙攣のように震え、やがて地面に崩れ落ちた。最期の断末魔を上げながら、魔獣の体から赤い光が消えていく。ガイウスは魔獣の体から剣を引き抜きながら、大きく息を吐いた。

「ふぅ、なんとか倒したな」

ガイウスが額の汗を拭う。彼の剣には、魔獣との激しい戦いの跡が残っていた。刃こぼれした箇所もあり、魔獣の体の硬さを物語っている。

「みんな、怪我は...レオン! お前、何してる!」

レオンは既に魔獣の元に駆け寄り、その体の各部位に手を当てていた。青白い光を放つ手のひらが、魔獣の体を這うように移動している。

「価値転換だ。死後、時間が経つほど素材の質が落ちる。今がベストのタイミングだ」

「いや、そうじゃなくて...」

ガイウスは言葉を詰まらせる。疲れた表情で、レオンを見つめている。

「お前さ、本当に私たちのパーティーの一員なのか?」

「もちろんだ」

レオンは手を止めることなく答える。魔力を込めた手が、魔獣の牙をなぞっていく。

「俺の役割は、パーティーの収益性を最大化すること。そのために、戦闘中も素材の価値を見極め、最適なタイミングで価値転換を行う。これが最も効率の良い...」

「もういい」

ガイウスは深いため息をつく。夕暮れの光が、彼の疲れた表情を照らしていた。

「お前の言うことは正しいのかもしれない。でも、パーティーってのは、もっと別の価値も大事なんだ」

レオンは黙って価値転換の作業を続ける。魔獣の体の各部位に触れるたびに、微かな光が浮かび上がる。

「...完了した」

彼が手を離すと、魔獣の素材が微かに輝きを帯びる。上質な素材へと生まれ変わった証だ。特に牙は鮮やかな青色の輝きを増し、その価値は明らかに上がっていた。

「これなら、通常の3倍程度の価格で取引できるはずだ」

「...帰るぞ」

ガイウスの声は、いつになく冷たかった。

帰り道、誰も口を開こうとしない。レオンは淡々と歩を進めながら、心の中で収支計算を続けていた。今回の価値転換で得られる追加収入、それに対する自身の消費したMP(魔力)とスタミナのコスト比...。

夕暮れの空が、パーティーの長い影を地面に落としていた。その影は、まるでお互いに背を向けているかのように、少しずつ離れていっているように見えた。風が吹き、魔獣との戦いで荒れた地面から土埃が舞い上がる。それは、パーティーの間に落ちた静寂を、より深いものにしているようだった。


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連続投稿2話目です。
よろしくお願いいたします。
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