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3話 冒険者らしさ
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「レオン、これはいったいどういうことだ?」
ガイウスは眉間に深い皺を寄せながら、テーブルに広げられた帳簿とグラフを見つめていた。宿の個室で行われている夜のミーティングで、レオンは長年温めてきた資金運用プランを提案していたのだ。
「見れば分かるだろう」レオンは後ろで束ねた黒髪を軽く撫でながら、涼しげな表情で説明を続けた。「俺たちのパーティーの収支を完璧に分析させてもらったんだ。結論から言えば、現在の運営方法は効率が悪すぎる。このままじゃ将来的な成長なんて見込めない」
「非効率?」ダグが不機嫌そうに唸る。「おい、俺たちは十分な実績を上げているはずだぞ?」
レオンは少し上から目線で首を横に振った。「収入が悪いとは言ってない。問題は支出の方さ」彼は一枚のグラフを指差した。「見てみろよ。装備の修理代に消耗品の購入費用、これらが収入の大半を食い潰してる。こんな状態で緊急時の備えなんてできるわけがない」
「でも、それって当然じゃない?」ミレイアが首を傾げながら言う。「私たち冒険者なんだから、装備は大事だもの」
「ああ、その通りだ。だからこそ」レオンは新しい表を取り出し、誇らしげな笑みを浮かべた。「まず、俺が考えたのは不動産投資だ。この街の北地区は今後、商業区画として開発が進む。今のうちに物件を確保しておけば、家賃収入が見込める」
レオンは次々と資料を広げていく。
「それに加えて、成長が見込める商店への出資。特に魔法具店は利益率が高い。俺の価値転換能力を組み合わせれば、投資額以上の収益が期待できる。さらに言えば、ギルド公認の冒険者向け銀行で債券を購入すれば、安定した利子収入も…」
「待て」
ガイウスが立ち上がった。その目には、かつて見たことのない怒りが宿っていた。
「覚えているか、レオン。三年前、俺たちがパーティーを結成した時の誓いを」
「ああ、覚えてるさ。だからこそ…」
「違う!」
ガイウスの声が響く。
「俺たちは誓ったはずだ。この世界の謎に挑み、誰も見たことのない場所を目指すと。竜の棲む山を越え、古代遺跡の秘密を解き明かし、最果ての地まで冒険を続けると」
セリアが立ち上がり、窓の外を見つめながら続けた。
「私たち冒険者は、単なる傭兵じゃない。お金のために戦うんじゃない。未知への挑戦、それが私たちの誇りよ」
「そうだ!」
ダグも加わる。
「俺たちは、あの日を覚えているぞ。初めて魔獣を倒した時の興奮を。仲間と分かち合った勝利の喜びを。あの瞬間、金なんて些末なことだと思わなかったか?」
「まさか」
レオンは冷ややかに言い返した。
「俺にとって、あれは単なる仕事の一つさ。感傷に浸る暇があるなら、次の一手を考えるべきだろう」
「レオン…」
ミレイアの声が震えていた。
「あなた、本当にそう思ってるの?あの時の約束、私たちと見た夢、全部なかったことにするの?」
「夢?」
レオンは嘲笑うように言った。
「夢を見てる場合じゃないんだよ。現実を見ろよ。俺たちはいつまでも若くない。いつ怪我で冒険者生活を終えることになるか分からない。その時のために…」
「黙れ!」
ガイウスの怒声が響き渡った。彼の拳がテーブルを叩き、資料が宙を舞う。
「お前は…お前はもう、冒険者の心を失ったのかもしれないな」
「ふん、俺に説教するつもりか?」
レオンの声は氷のように冷たかった。
「夢と冒険者の心か。そんな子供じみた考えで、本当に最果ての地まで行けると思ってるのか?」
「てめえ…!」
ダグが拳を握りしめる。
「レオン!」
ミレイアが割って入る。
「みんな、落ち着いて!」
しかし、部屋の空気は既に修復不能なまでに冷え切っていた。
「…まあいい」
レオンは冷ややかな表情で散らばった資料を片付け始めた。
「理解できないならそれでいい。今回の提案は取り下げよう」
「ああ、そうしろ」
ガイウスは疲れたような声で言った。
「それと、レオン。明日からは、もっとパーティーの戦力として働いてくれ。お前の能力は確かに便利だが、それだけじゃ冒険者としては不十分だ」
「…分かってるさ」
レオンは軽く肩をすくめると、自分の部屋へと戻っていった。部屋に入るなり、彼は深いため息をつく。懐から、密かに記録している自分の収支ノートを取り出した。
(やれやれ、このパーティーとは価値観が合わないどころか、俺の提案の価値すら理解できないようだな…そろそろ限界かもしれないな)
窓の外では、夜の街が静かな灯りを放っていた。レオンはその光景を眺めながら、いつまでも夢を追い続ける仲間たちと、自分との決別の時が近づいていることを悟っていた。
* * *
レオンが去った後、部屋には重苦しい沈黙が流れていた。
「あいつ、最近おかしいぞ」
ダグが苛立たしげに言った。
「いつからあんな守銭奴みたいになっちまったんだ?あの頃は、あいつだって俺たちと同じ夢を見ていたはずなのに」
「でも…」
ミレイアが小さな声で言う。
「レオンの言うことにも、少しは道理があるのかも…」
「ミレイア」
セリアが厳しい声で遮った。
「あなたまで騙されないで。私たち冒険者は、夢と誇りを持って戦う者よ。お金のために剣を振るうなんて、それじゃあ傭兵と変わらない」
「リーダー」
ダグがガイウスを見た。
「思い出すよ。三年前、あの酒場で誓いを立てた夜のことを。俺たち、まだ若くて、世界中の不思議を見てやるって、本気で信じてたんだ」
ガイウスは暖炉の炎を見つめながら、静かに頷いた。
「ああ…レオンも、あの時は目を輝かせていた。いつからだろうな。あいつがそんな打算的な考えに染まってしまったのは」
「私…」
ミレイアの声が震えていた。
「私たち、まだあの時の夢を追えてるのかな?」
セリアが彼女の肩に手を置いた。
「当たり前よ。私たちはまだ、あの日の誓いを忘れていない」
「ああ」
ガイウスは疲れた表情で頷いた。
「レオンには、もう少し様子を見よう。だが、このまま改善されないようなら…」
彼は言葉を濁したが、その意味は全員に伝わっていた。かつて同じ夢を追った仲間との決別は、もう時間の問題なのかもしれなかった。
===============================================
連続投稿3話目です。
よろしくお願いいたします。
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ガイウスは眉間に深い皺を寄せながら、テーブルに広げられた帳簿とグラフを見つめていた。宿の個室で行われている夜のミーティングで、レオンは長年温めてきた資金運用プランを提案していたのだ。
「見れば分かるだろう」レオンは後ろで束ねた黒髪を軽く撫でながら、涼しげな表情で説明を続けた。「俺たちのパーティーの収支を完璧に分析させてもらったんだ。結論から言えば、現在の運営方法は効率が悪すぎる。このままじゃ将来的な成長なんて見込めない」
「非効率?」ダグが不機嫌そうに唸る。「おい、俺たちは十分な実績を上げているはずだぞ?」
レオンは少し上から目線で首を横に振った。「収入が悪いとは言ってない。問題は支出の方さ」彼は一枚のグラフを指差した。「見てみろよ。装備の修理代に消耗品の購入費用、これらが収入の大半を食い潰してる。こんな状態で緊急時の備えなんてできるわけがない」
「でも、それって当然じゃない?」ミレイアが首を傾げながら言う。「私たち冒険者なんだから、装備は大事だもの」
「ああ、その通りだ。だからこそ」レオンは新しい表を取り出し、誇らしげな笑みを浮かべた。「まず、俺が考えたのは不動産投資だ。この街の北地区は今後、商業区画として開発が進む。今のうちに物件を確保しておけば、家賃収入が見込める」
レオンは次々と資料を広げていく。
「それに加えて、成長が見込める商店への出資。特に魔法具店は利益率が高い。俺の価値転換能力を組み合わせれば、投資額以上の収益が期待できる。さらに言えば、ギルド公認の冒険者向け銀行で債券を購入すれば、安定した利子収入も…」
「待て」
ガイウスが立ち上がった。その目には、かつて見たことのない怒りが宿っていた。
「覚えているか、レオン。三年前、俺たちがパーティーを結成した時の誓いを」
「ああ、覚えてるさ。だからこそ…」
「違う!」
ガイウスの声が響く。
「俺たちは誓ったはずだ。この世界の謎に挑み、誰も見たことのない場所を目指すと。竜の棲む山を越え、古代遺跡の秘密を解き明かし、最果ての地まで冒険を続けると」
セリアが立ち上がり、窓の外を見つめながら続けた。
「私たち冒険者は、単なる傭兵じゃない。お金のために戦うんじゃない。未知への挑戦、それが私たちの誇りよ」
「そうだ!」
ダグも加わる。
「俺たちは、あの日を覚えているぞ。初めて魔獣を倒した時の興奮を。仲間と分かち合った勝利の喜びを。あの瞬間、金なんて些末なことだと思わなかったか?」
「まさか」
レオンは冷ややかに言い返した。
「俺にとって、あれは単なる仕事の一つさ。感傷に浸る暇があるなら、次の一手を考えるべきだろう」
「レオン…」
ミレイアの声が震えていた。
「あなた、本当にそう思ってるの?あの時の約束、私たちと見た夢、全部なかったことにするの?」
「夢?」
レオンは嘲笑うように言った。
「夢を見てる場合じゃないんだよ。現実を見ろよ。俺たちはいつまでも若くない。いつ怪我で冒険者生活を終えることになるか分からない。その時のために…」
「黙れ!」
ガイウスの怒声が響き渡った。彼の拳がテーブルを叩き、資料が宙を舞う。
「お前は…お前はもう、冒険者の心を失ったのかもしれないな」
「ふん、俺に説教するつもりか?」
レオンの声は氷のように冷たかった。
「夢と冒険者の心か。そんな子供じみた考えで、本当に最果ての地まで行けると思ってるのか?」
「てめえ…!」
ダグが拳を握りしめる。
「レオン!」
ミレイアが割って入る。
「みんな、落ち着いて!」
しかし、部屋の空気は既に修復不能なまでに冷え切っていた。
「…まあいい」
レオンは冷ややかな表情で散らばった資料を片付け始めた。
「理解できないならそれでいい。今回の提案は取り下げよう」
「ああ、そうしろ」
ガイウスは疲れたような声で言った。
「それと、レオン。明日からは、もっとパーティーの戦力として働いてくれ。お前の能力は確かに便利だが、それだけじゃ冒険者としては不十分だ」
「…分かってるさ」
レオンは軽く肩をすくめると、自分の部屋へと戻っていった。部屋に入るなり、彼は深いため息をつく。懐から、密かに記録している自分の収支ノートを取り出した。
(やれやれ、このパーティーとは価値観が合わないどころか、俺の提案の価値すら理解できないようだな…そろそろ限界かもしれないな)
窓の外では、夜の街が静かな灯りを放っていた。レオンはその光景を眺めながら、いつまでも夢を追い続ける仲間たちと、自分との決別の時が近づいていることを悟っていた。
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レオンが去った後、部屋には重苦しい沈黙が流れていた。
「あいつ、最近おかしいぞ」
ダグが苛立たしげに言った。
「いつからあんな守銭奴みたいになっちまったんだ?あの頃は、あいつだって俺たちと同じ夢を見ていたはずなのに」
「でも…」
ミレイアが小さな声で言う。
「レオンの言うことにも、少しは道理があるのかも…」
「ミレイア」
セリアが厳しい声で遮った。
「あなたまで騙されないで。私たち冒険者は、夢と誇りを持って戦う者よ。お金のために剣を振るうなんて、それじゃあ傭兵と変わらない」
「リーダー」
ダグがガイウスを見た。
「思い出すよ。三年前、あの酒場で誓いを立てた夜のことを。俺たち、まだ若くて、世界中の不思議を見てやるって、本気で信じてたんだ」
ガイウスは暖炉の炎を見つめながら、静かに頷いた。
「ああ…レオンも、あの時は目を輝かせていた。いつからだろうな。あいつがそんな打算的な考えに染まってしまったのは」
「私…」
ミレイアの声が震えていた。
「私たち、まだあの時の夢を追えてるのかな?」
セリアが彼女の肩に手を置いた。
「当たり前よ。私たちはまだ、あの日の誓いを忘れていない」
「ああ」
ガイウスは疲れた表情で頷いた。
「レオンには、もう少し様子を見よう。だが、このまま改善されないようなら…」
彼は言葉を濁したが、その意味は全員に伝わっていた。かつて同じ夢を追った仲間との決別は、もう時間の問題なのかもしれなかった。
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よろしくお願いいたします。
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