追放されたけどFIREを目指して準備していたので問題はない

君山洋太朗

文字の大きさ
10 / 46

10話 別れ

しおりを挟む
冒険者ギルドの建物が朝日に照らされ始めた頃、俺は最後の手続きを済ませるため、受付に向かっていた。

「あら、レオンくん。今日はずいぶんと早いのね」

受付のマリアが、いつもの柔らかな笑顔で迎えてくれる。

「ああ、今日は少し用があってな」

「そう、どんなお願い事かしら?」

「冒険者登録の抹消手続きをお願いしたい」

マリアの表情が一瞬こわばる。

「抹消...なの?」

「ああ」

淡々と答えながら、俺は必要書類を差し出した。全て事前に記入済みだ。冒険者を辞める際の手続きについては、もちろん調べてある。

「理由は、個人都合で構わないだろう?」

「え、ええ...」

マリアは戸惑いながらも、手際よく書類を確認していく。さすが優秀な受付嬢だ。

「じゃあ、冒険者徽章をお預かりするわね」

徽章を差し出しながら、俺は少し考え込んだ。三年前、右も左も分からない状態でこのギルドに飛び込んできた日のことを思い出す。

商家の跡取りだった俺が、冒険者になると決めた時、周りの反応は散々だった。しかし、それは必要な選択だった。クラウゼン商会の没落後、新たな道を探す必要があったのだ。

「レオンくん?」

マリアの声で我に返る。

「ああ、すまない。少し考え事をしていた」

徽章を受付に置き、俺は一礼する。

「三年間、世話になった」

「こちらこそ、ありがとう」

マリアは深々と頭を下げる。彼女とは、クエストの受付で何度も顔を合わせた仲だ。

「それじゃあ」

「待って」

背を向けかけた俺を、マリアが呼び止める。

「最後に...一つだけ、聞いてもいいかしら?」

「なんだ?」

「レオンくんは、本当にこれでいいの?」

その質問に、俺は少し考えてから答えた。

「ああ、むしろ感謝している」

「でも!」

マリアが珍しく強い口調で言った。

「レオンくんほどの実力者が辞めてしまうなんて...もったいないわ」

「実力?」

「そうよ。レオンくんが立てた攻略プランは、いつも完璧だったわ。依頼の達成率も群を抜いていたし、なにより...」

マリアは少し言葉を選ぶように間を置いた。

「なにより、レオンくんのおかげで、多くのパーティーが無事に帰ってこられたの。あなたの戦略を真似た人たちが、みんな...」

「それは、単に効率的な方法を選んでいただけだよ」

「違うわ!」

マリアが机に手をつく。

「レオンくんは、みんなの命を大切にしていた。だから、無駄な戦いを避けるプランを立てていたんでしょう?」

俺は少し驚いた。そこまで見抜かれていたとは。

「まあ、確かにそういう考えはあったかもしれない」

「だったら...」

「でも、これが俺の選んだ道だ」

窓から差し込む朝日を見つめながら、俺は続ける。

「今回の件がなければ、俺はまだパーティーに所属して、中途半端な生活を続けていたかもしれない。これは、必要な一歩なんだ」

「レオンくん...」

「それに」

俺はマリアに向き直って微笑む。

「たまには顔を出すさ。今度は依頼者として、な」

マリアの目が潤んでいるような気がした。

「約束よ?」

「ああ」

徽章を受付に置き、俺は深々と一礼する。

「三年間、本当にありがとう」

「こちらこそ...ありがとう、レオンくん」

ギルドを出る時、俺は最後にもう一度振り返った。朝日に照らされた建物が、どこか懐かしく見える。

* * *

レオンが去って間もなく、ギルドマスターのロドリグがマリアの元を訪れた。

「行ってしまったのか」

「はい...」

マリアは目を拭いながら答えた。

「あの小僧、最後まで変わらんな」

ロドリグは窓の外を見つめる。

「自分の道を、迷いなく進んでいく」

「ギルドマスター、本当にあのままで...」

「止める理由はない」

ロドリグは静かに言った。

「奴の目は、確かな自信に満ちていた。これは単なる逃避ではない」

「でも、あんなに優秀な方を失うなんて」

「失う?」

ロドリグが楽しそうに笑う。

「いや、むしろこれは始まりだろう」

「どういう意味ですか?」

「考えてみろ。あの小僧の能力は、戦闘よりもっと別の場所で輝く可能性がある。そして奴は、その場所を見つけたんだ」

マリアは思わず目を見開いた。

「レオンくんが言っていた、効率的な人生設計って...」

「ああ。あの小僧なりの野望があるんだろう」

ロドリグは満足げに頷く。

「次に会う時は、もっと大きく成長しているはずだ」

「そうですね...私も、そう思います」

マリアの表情が明るくなる。

「きっと、素晴らしい依頼者になってくれるわ」

朝日が差し込むギルドの受付で、二人は遠くを見つめるように微笑んでいた。

* * *

街の中心部から少し離れた場所にある、とある宿。俺が部屋を借りているのは、その最上階の一室だった。

「これで、一通りの整理は終わったな」

机の上には、きちんと項目分けされた帳簿が並んでいる。

「現金で15万ゴールド。商人ギルドの投資信託に30万ゴールド。不動産投資に5万ゴールド」

計算を確認しながら、俺は満足げに頷く。

「総資産50万ゴールドか。パーティーでの稼ぎを投資に回してきた甲斐があったな」

普通の冒険者なら、この金額を見ただけで目を回すだろう。しかし、これはまだ始まりに過ぎない。

「価値転換の能力を最大限に活用すれば、年単位で見た時の収益率は倍以上に上げられる」

窓の外を眺めると、グランゼリア王国の街並みが一望できた。商人たちが行き交い、露店が並び、人々が忙しなく動き回っている。

「さて、本格的に動き出すとするか」

立ち上がると、机の上の帳簿を手に取る。これは父から学んだ数少ない有用な教訓の一つだ。どんな商売でも、正確な記録が重要になる。

この世界では、冒険者として名を上げることが、成功への近道だと考えられている。しかし、俺にはそれが最良の道だとは思えなかった。

効率的な資産運用と、能力の適切な活用。それこそが、真の成功への道筋だ。パーティーのメンバーには理解できなかったかもしれないが、俺にとってはそれが最も自然な選択だった。

「よし」

部屋を出る時、俺の表情には確かな自信が浮かんでいた。これは終わりではない。むしろ、本当の始まりだ。

FIREへの道のりは、ここが本番だ。


===============================================
連続投稿10話目です。
よろしくお願いいたします。
===============================================
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。 しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。 全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。 超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!? 万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。 一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。 「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」 ――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。 これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...