追放されたけどFIREを目指して準備していたので問題はない

君山洋太朗

文字の大きさ
15 / 46

14話 廃鉱での実験

しおりを挟む
早朝の街外れ、まだ太陽が顔を出す前の薄暗い時間帯。俺は北門を抜けて、廃鉱区画へと向かっていた。背中には、実験用の道具を詰めた革袋。腰には、増幅水晶を収めた特製のポーチ。

「よし、誰もいないな」

慎重に周囲を確認しながら、廃鉱区画の入り口に立つ。ここは数年前まで銀鉱脈で栄えた場所だが、今は見る影もない。朽ちかけた柵と、錆びついた看板だけが、かつての繁栄を物語っている。

「まずは、採掘権の確認から」

胸ポケットから、昨日取得した採掘権証書を取り出す。管理人から受け取った時の会話を思い出す。

「こんな廃鉱なんて、誰も見向きもしませんよ。でも、あんたが望むなら...」

軽く笑みを浮かべながら、証書に目を通す。採掘区画A-7。ちょうど、古い坑道の入り口がある場所だ。他の区画と比べて地盤が安定しており、作業もしやすい。何より、人目につきにくい場所というのが決め手だった。

「さて、実験を始めるか」

革袋から道具を取り出していく。ハンマー、ノミ、シャベル。そして最も重要な、データを記録するための帳簿。全て、昨日の市場で新調したものだ。

「まずは、対照実験からだな」

普通の石ころを集め始める。実験には、できるだけ均質なサンプルが必要だ。大きさも、重さも、できる限り同じものを。

「これくらいあれば十分か」

30個ほどの石を集め終わると、それらを整然と並べていく。一つ一つに番号を振り、特徴を帳簿に記録する。

「では、第一段階」

最初の石を手に取る。目を閉じ、深く息を吸う。「価値転換」を発動させる瞬間だ。

能力が発動すると、手の中の石が微かに温かくなる。それは、物質の構造が変化している証拠。しかし、ここで満足してはいけない。

「もっと、深く」

さらに集中を深める。石の中の分子構造まで意識を向ける。そこに、銀の成分を見出す。微量だが、確かにある。それを核として...

「変化開始」

じわじわと、石の色が変わっていく。灰色から、わずかに銀色を帯びた色へ。これが「価値転換」の本質だ。既にある価値の「可能性」を最大限に引き出す能力。

「よし、第一段階完了」

汗を拭いながら、結果を記録する。予想通りの出来だ。しかし、これはまだ序章に過ぎない。

「次は、増幅水晶を使用した実験だな」

ポーチから、昨日まで実験に使っていた水晶を取り出す。これを使えば、能力の効率は格段に上がるはずだ。

「いくぞ」

水晶を左手に、石を右手に持つ。両者の間に、エネルギーの経路を作り出す。

「ッ!」

予想以上の反応が起きた。石の変化が、明らかに加速する。銀色の輝きが増し、質感まで変わっていく。

「これは...予想以上の効果だな」

慎重に記録を取る。増幅率は予想の1.5倍。消費エネルギーは、むしろ通常時より少ない。これは重要な発見だ。

「しかし、まだ改善の余地はある」

実験は、正午過ぎまで続いた。太陽が頭上に来る頃には、30個の実験サンプルが出揃っていた。その結果は...

「上々、と言っていいだろう」

帳簿を見返しながら、データを整理する。成功率は85%。品質のばらつきはあるものの、最低でもD級鉱石相当。上位20%は、なんとC級の基準を満たしている。

「これなら、十分に商品価値がある」

材料費はほぼゼロだから、利益率は驚異的な水準になるだろう。

「ただし、課題もあるな」

一日に処理できる量には、明確な限界がある。能力の使用には大きな精神的負荷がかかる。増幅水晶を使っても、一日30個が限界だろう。

「それに、品質のコントロールもまだ甘い」

結果にばらつきが出るのは、技術的な問題なのか、それとも能力の本質的な制限なのか。それを見極める必要がある。

「まあ、それは次回の課題だな」

道具を片付けながら、次の実験計画を考える。水晶の大きさを変えた場合の影響。複数の水晶を使用した時の相互作用。検証すべき項目は山ほどある。

「しかし、基本的な方向性は間違っていない」

実験データが示す通り、この方法で安定した収入は得られる。あとは、効率を上げていくだけ。

「さて、次は商人との交渉か」

実験サンプルの中から、最も品質の良いものを選び出す。これを使って、価格交渉をする。

「マーカスなら、適正な評価をしてくれるだろう」

武具商として、彼は素材の目利きには定評がある。しかも、俺のことをよく知っている。変な詮索をする心配も少ない。

「明日にでも、店を訪ねてみるか」

サンプルを革袋に収めながら、交渉の段取りを考える。最初から高値を付けるのは避けたほうがいい。むしろ、若干安めの価格で取引を始め、徐々に信頼関係を築いていく。

「長期的な取引を見据えれば、それが得策だな」

陽が傾き始めた頃、俺は廃鉱を後にした。今日の実験で、計画の実現可能性はほぼ証明された。あとは実行あるのみ。

「これで、一歩前進だ」

街の方角を見やる。夕暮れの空に、かすかに月が顔を出している。

「そういえば」

ふと、昨夜の満月を思い出す。計画を清書した時の、あの清々しい気分。今も、その感覚は変わっていない。

「感情に流されず、理論的に」

それが、俺のモットーだ。

街の入り口に近づくと、丁度、冒険者たちが帰還する時間帯と重なった。装備に身を固めた彼らは、今日の収穫に満足げな表情を浮かべている。

「...」

かつての仲間たちの姿はない。彼らなら、この時間はまだ依頼の途中だろう。効率を重視しない彼らは、夜遅くまで活動することも多かった。

「まあ、それも彼らの選択だ」

俺には俺の道がある。それは、このFIRE計画に他ならない。

「今のところ、全て順調だ」

実験データの入った帳簿に、軽く手を当てる。この中に、未来への確かな道筋が記されている。

街の中に入ると、市場はちょうど閉店時間を迎えようとしていた。明日は、ここで新しい取引が始まる。今日の実験結果を、確かな収入に変える第一歩が。

「楽しみだな」

静かに笑みを浮かべながら、俺は宿の方へと足を向けた。日が暮れる前に、今日の実験データをもう一度整理しておく必要がある。それに、明日の商談に向けた準備も。

やることは山ほどあるが、焦る必要はない。一つ一つ、確実に。それが、最も効率の良い方法なのだから。

夕暮れの街を歩きながら、俺は明日への期待を胸に抱いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。 しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。 全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。 超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!? 万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。 一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。 「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」 ――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。 これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...