追放されたけどFIREを目指して準備していたので問題はない

君山洋太朗

文字の大きさ
18 / 46

17話 ヴァイス商店

しおりを挟む
グレンフォードの商店街は、昼下がりの陽射しに照らされて活気に満ちていた。行き交う人々の間を縫うように、俺は目的地へと足を進める。

「ヴァイス商店...」

看板を見上げながら、懐かしい記憶が蘇ってきた。六年前、まだクラウゼン家が没落する前。煌びやかなパーティで屈託のない笑顔を見せる少女。あの頃の俺たちは二人の未来が交わると思っていた。しかし、その未来は来なかった...

店の入り口に立つと、澄んだ鈴の音が響いた。棚には雑貨や日用品が整然と並び、清潔感のある店内には、かすかな花の香りが漂っている。

「いらっしゃいま...」

カウンター越しに顔を上げた女性は、俺を見て言葉を途切れさせた。

刹那の沈黙。

「レオン...様?」

凛とした面立ちに、かつての少女の面影を重ねる。整った黒髪は背中まで伸び、深い碧色の瞳には大人の艶が宿っていた。ソフィア・ヴァイスは、六年の時を経て、一層の気品を纏っていた。

「久しぶりだな、ソフィア」

「本当に...レオン様なのですね」

彼女の声には、驚きと共に何か複雑な感情が混ざっているように聞こえた。

「レオンでいい。もう昔のような関係じゃないしな」

「...そうですね」

ソフィアは一瞬俯いたが、すぐに顔を上げると微笑んだ。

「お客様としてお迎えするのは初めてですね。何かお探しでしょうか?」

完璧な接客の態度。その仕事ぶりは、令嬢時代から想像もできないほど板についている。

「ああ、実は人材を探している」

「人材、ですか?」

「廃鉱の管理をしてくれる人間が必要でな」

俺は簡単に状況を説明した。マーカスとの武具製造の話、安定した鉱石の供給のため、現地で采配を振るえる人材が必要なことを。

「なるほど」

ソフィアは腕を組んで考え込む。

「確かにそれは重要なポジションですね。でも、どうして当店に?」

「信頼できる人間が必要だからだ」

率直に答えると、ソフィアの瞳が僅かに揺れた。

「昔から、ヴァイス家の人たちは商才があった。それに...」

言葉を選びながら続ける。

「俺たちの家族は、昔から信頼関係があったからな」

空気が重くなる。かつての両家の関係、そしてその没落。触れてはいけない過去が、二人の間に影を落とす。

「...私が行きましょう」

「え?」

予想外の申し出に、思わず声が上ずった。

「ソフィアが、直接?」

「はい」

彼女は真っ直ぐな瞳で俺を見据えた。

「私なら商才もありますし、何より...」

一瞬の躊躇い。

「レオン様の...いいえ、レオンの仕事を、この目で見てみたいんです」

その言葉に、胸の奥が熱くなる。

「でも、ここの店は...」

「母がいますから大丈夫です。それに」ソフィアは少し含み笑いを浮かべた。「このところの商売の調子を見ていると、私がいなくても十分に...」

「効率的な経営ができる、と?」

「ええ、まさにそう」

俺の言葉を借りた彼女の返答に、思わず笑みがこぼれる。

「随分と商売人らしくなったじゃないか」

「レオンこそ、すっかり実業家ですね」

互いの変化を指摘し合って、二人で笑う。六年の時を超えて、かつての親しさが少しずつ戻ってくるのを感じた。

「でも」

俺は真剣な表情に戻る。

「現場は楽じゃないぞ。廃鉱だし、設備も最低限しかない。それに...」

「私を侮っているんですか?」

ソフィアが一歩前に出る。その姿勢には、令嬢時代には見られなかった芯の強さがあった。

「父の死後、母と二人で店を切り盛りしてきました。在庫管理も、帳簿付けも、配達の手配も、全て私がやってきたんです」

「ソフィア...」

「確かに、大規模な鉱山管理は初めての経験です。でも」

彼女は誇らしげに胸を張った。

「私には商人の血が流れているんです。この機会に、それを証明させてください」

その決意に満ちた表情に、かつて父から聞いた言葉を思い出した。

「ヴァイス家の人間は皆、商才の中に冒険心を秘めている」

今、目の前でソフィアが見せる姿は、まさにそれだった。

「...分かった」

俺は小さく頷く。

「ただし、条件がある」

「なんでしょう?」

「効率性を重視してもらう。感情で判断はしない」

厳しく言い切ると、ソフィアは少し考え込んだ後、不思議そうな表情を浮かべた。

「レオンは、本当に変わってしまったのですね」

「ああ」

俺は素直に認める。

「感情で判断して失敗するところを、何度も見てきたからな」

自分の家の没落。そして、冒険者パーティーでの出来事。全ては非効率的な感情判断の結果だった。

「でも」

ソフィアが静かな声で言う。

「たまには感情も大切にしてもいいのでは?」

「どういう意味だ?」

「だって」

彼女は柔らかな笑みを浮かべた。

「レオンは今、私を選んでくれた。それは純粋に効率だけの判断だったのかしら?」

「それは...」

返す言葉に詰まる。確かに、単純な効率性だけなら、もっと経験豊富な人材を探すべきだった。

「ふふ」

ソフィアは勝ち誇ったように笑う。

「これが私の商才です。相手の本質を見抜く目も、立派な商人の才能なんですよ」

「...負けたよ」

思わず吹き出してしまう。こんな風に言い負かされるのは、久しぶりだった。

「では、仕事の詳細を詰めましょうか」

ソフィアが話題を切り替える。さすがに無駄話で時間を浪費するつもりはないらしい。

「ああ、そうだな」

カウンターの向こうから、彼女が一冊の帳面を取り出す。

「具体的な業務内容と、必要な準備、そして...報酬の件について、お話しいただけますか?」

仕事モードに切り替わった彼女の瞳には、鋭い光が宿っていた。

「まさか」

俺は悪戯っぽく笑う。

「もう報酬の話まで考えているとは」

「当然です」

彼女も負けじと返す。

「私も効率的に物事を進めたいので」

午後の陽射しが差し込む店内で、俺たちは具体的な話し合いを始めた。時折、昔の思い出話に花を咲かせながら。

効率を追求する俺と、感情も大切にするソフィア。

正反対のようで、どこか通じ合える二人の新たな物語が、ここから始まろうとしていた。

* * *

その日の夕暮れ時、母屋に戻ったソフィアを、マリアンヌが温かな笑顔で迎えた。

「お帰りなさい、ソフィア」

「ただいま戻りました、お母さま」

「今日は、珍しいお客様がいらしたようね」

さりげない問いかけに、ソフィアは一瞬言葉を詰まらせる。

「はい...レオンが」

「レオン君が、ね」

マリアンヌは懐かしむように微笑んだ。

「随分と立派になられたそうじゃない」

「ええ。でも...」

ソフィアは窓の外に広がる夕焼けを見つめる。

「なんだか、少し寂しそうでした」

「そう...」

母の声には、深い思いが込められていた。

「お母さま」

「なんですか?」

「レオンから、仕事の話をいただいたんです」

マリアンヌは黙って娘の言葉に耳を傾ける。ソフィアは、廃鉱の管理という仕事の内容を説明した。

「私...行きたいんです」

告白するような口調で言うと、マリアンヌは優しく微笑んだ。

「行きなさい」

「えっ?」

「あなたの目を見れば分かるわ」

マリアンヌは娘の手を取る。

「きっと、素晴らしい機会になるはずよ」

「でも、店の方は...」

「大丈夫」

マリアンヌは頷いた。

「この店は、もう十分にあなたが育ててくれたもの。私たちで何とかできるわ」

「お母さま...」

感極まったように母を抱きしめる。

「ありがとうございます」

「ただし」

マリアンヌは少し意地悪そうな笑みを浮かべた。

「時々は様子を見に来てね。特に、レオン君と一緒に」

「お母さま!」

頬を染めるソフィアを見て、マリアンヌは昔を思い出していた。

かつて、アルフレッドとロバートが夢見た未来。それは叶わなかったかもしれない。

でも、また新しい形で、二つの家族の絆が紡がれようとしている。

「ロバート...」

マリアンヌは心の中で呟く。

「あなたの娘が、新しい道を歩み始めますよ」

夕暮れの空が、優しく二人を包み込んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。 しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。 全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。 超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!? 万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。 一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。 「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」 ――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。 これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...