追放されたけどFIREを目指して準備していたので問題はない

君山洋太朗

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40話 王立魔法研究所

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「価値転換の理論的解明、ですか」

王立魔法研究所の応接室で、俺は興味深そうに首を傾げた。机の向こう側では、白髪混じりの髭面の老研究員――アルバート・ヴィッシュと、赤毛の若手主任研究員――マリアベル・ヴォートンが、期待に満ちた表情で俺を見つめている。

「ええ。価値転換は魔法理論の観点からも非常に興味深い現象なんです」

マリアベルが熱心に説明を続ける。その目は研究者特有の好奇心に輝いていた。

「物質の本質的な価値を変容させる――それは既存の魔法理論では説明できない現象です。もし解明できれば、魔法理論の新たな地平が開けるかもしれない」

アルバートが穏やかに付け加える。

「レオン君、君の能力は魔法研究の歴史に新しい1ページを加えるかもしれないんだよ」

この研究の話を持ちかけられたとき、俺は正直戸惑った。FIREを達成し、金銭的な心配はなくなった。研究に時間を割く必要性は、実はそれほどない。
だが――。

「面白そうですね」

俺は軽く微笑んだ。金銭的な成功を収めた今、純粋な知的好奇心に従う余裕がある。それに、この研究所との関係は、将来的に新たなビジネスチャンスを生むかもしれない。

「ただし、いくつか条件があります」

「第一に、この研究から生まれる成果の知的財産権の一部を共有させていただきたい。第二に、研究所の株式取得権を希望します」

アルバートとマリアベルは顔を見合わせた。だが、意外なことに二人とも驚いた様子はない。

「実は、そのような要望があるだろうと予測していました」

アルバートが落ち着いた声で答える。

「私どもとしても、レオン君の経営手腕には大いに期待しています。研究所の経営にも参画していただけるなら、それは歓迎すべきことです」

「株式の取得については、理事会との調整が必要ですが...基本的な方向性としては、異論はないでしょう」

交渉は予想以上にスムーズに進んだ。両者の思惑が一致していたということだろう。
契約書にサインを交わし、俺は研究所の廊下を案内されていく。純白の壁、整然と並んだ実験室。ところどころで響く不思議な音や、漂う薬品の香り。

「こちらが価値転換研究専用の実験室です」

マリアベルが扉を開く。最新の魔法測定装置が並び、壁には複雑な魔法陣の図解が貼られている。小さな貴金属や鉱石のサンプルも用意されているようだ。

「早速実験を始めましょう!」

マリアベルの声が弾む。その横でアルバートが苦笑する。

「マリアベル君、まずは基礎データの収集から始めよう。レオン君も疲れているだろう」

「あ、すみません。つい興奮してしまって」

マリアベルは少し恥ずかしそうに頭を下げた。その研究への情熱は、かつての俺を思い出させる。

「いいえ、私も興味があります」

俺は実験台に近づき、サンプルの石を手に取る。集中を解き、能力を発動させる。石の価値が徐々に上昇していく。

「おお!」

マリアベルが測定機器に駆け寄る。

「これは凄い数値です! 通常の魔法反応とは全く異なる波形を……」

彼女は興奮した様子でメモを取り始めた。アルバートも目を輝かせている。

そうか、と俺は思う。これが研究というものか。純粋な探究心。知的好奇心。かつての俺には、その余裕がなかった。

だが今は違う。十分な資産がある。焦る必要はない。

「では、基礎データの収集から始めましょうか」

俺の言葉に、二人の研究者が嬉しそうに頷いた。

* * *

実験が始まり、次々と新しい発見が記録される。価値転換の能力は、既存の魔法理論では説明できない特異な現象を引き起こしていた。それを解明していく過程は、予想以上に面白い。

「ここまでの仮説を整理すると……」

アルバートが黒板に図を描きながら説明を始める。理論的な考察は、俺の経営手法にも活かせそうだ。

ふと窓の外を見ると、夕暮れが近づいていた。一日があっという間に過ぎている。
これも、FIREを達成した者の特権か。好きなことを、好きなだけ追求できる自由。
俺は満足げに微笑んだ。この研究は、予想以上に良い暇つぶしになりそうだ。
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