TEST SCENE

みかん星人

文字の大きさ
41 / 41

【最終話】いま、どこにいますか?

しおりを挟む
 いま、どこにいますか?
 この手紙が届く頃、僕は空港にいるでしょう。
 今はもう大学2年生。
 希望が通って、今日からアメリカに留学します。
 施設の方々はみんな優しくて、本当に良くしてもらいました。
 感謝の気持ちでいっぱいです。
 
 今でも、あの日々を鮮明に覚えています。
 お二人が語らずして教えてくれたこと。
 それが僕の人生を変えてくれた。

 怖かったけど、楽しかったんです。
 本当はずっと一緒にいたかった。

 いつかまた、お会いしたいです。
 まだ、お二人に何もお返しできていませんから。

 縁が再び結んでくれるなら──。
 お二人を食事に招待させてください。

 僕が、御馳走しますから。








 人工衛星『はばたき』の爆散事件から、1年と半年という月日が流れた。
 
 39委員会の野望を阻止したGroup Emma。組織のボスとして暗躍したエマはその功績を認められ、国際連合で極秘に開かれた会議によって組織の存在を認めさせた。
 誰に知られることもなく、世界的な秘密警察として公の立場へと浮上することになったのだ。この議決により、Group Emmaと同義の組織が世界中に分布することとなる。

「忙しくなるわよ。ベル」

「はい。それにしても、ほとんど強引に認めさせましたね。先輩」

「ふふ、そうかしら?」


 ・・・。


「ベル。あなたも組織の大黒柱になった。日本という国を、あなたに任せる時が来たのよ」

「はい・・・」

「会える機会も少なくなるわね・・・」

「・・・先輩は、これからどうするんですか?」

「私のことを面白く思わない人たちは山ほどいる。数年はあちこち動き回るつもりでいるわ」

「・・・また、会えなくなるんですね」

「またすぐに会えるわよ」

 そう言うと、エマは満面の笑みを浮かべた。

「次会った時は、美味しい焼肉に連れてってあげるわ!」

 僅かに俯くベルの肩に、エマはポンと手を置いた。ベルの口元が微かに緩む。エマはベルの目をまっすぐに見ると、不敵な笑みを浮かべた。

「いい? ベル。この世の“正義”はいつもあやふや。けど“悪”は違う。悪は必ず存在する。明確な形を持ってね。悪を叩けるのは悪だけよ。容赦はいらないわ」

「・・・はい」

 のちのベルにとって、エマのこの言葉は一生忘れられないものとなる。

「ふふ。頑張ってね、ベル。肩の力を抜きなさい。変な型や枠に囚われないようにね」

「・・・はい。ありがとうございます」

「じゃあね」



 そして、エマは姿を消した。
 現在、彼女の行方を知る者は世界に10人といない。
 世界に浸透していくGroup Emma。
 ・・・すべては、エマの描いた筋書き通りに進んでいるのかもしれない。









 東京 成田国際空港 第1ターミナル3階 国際線出発ゲートエリア──

 大勢の観光客で賑わうフロアに、スーツ姿の大人たちが群がっていた。

「あの『Group Bellグループ ベル』と聞いて頼んでみれば・・・。何だね、君たちのその態度は!」

「あーハイハイ、すんません」

「それが人に謝る態度か! え?!」

「次から気をつけまーす!」

「まったく・・・! 最近の若い奴らは! 遅刻したクセにジュースを奢れだと? 護衛の分際で・・・! 挙げ句の果てには居眠りなんぞしよって! 話にならん!」

「早くしないと、飛行機出ちゃいますよ~」

「言われんでも分かっとるわ! もう二度とGroup Bell君のところには頼まんからな! 覚悟しておけ!」

 そう吐き捨てると、頭のてっぺんだけ禿げ上がった小太りの男は、数人の側近を連れて出発ゲートを潜って行った。
 その背中を見届けたプラムとアロー。プラムは大きなあくびをする隣で、アローはうんと背伸びをしながら、展望デッキへと向かった。

「あーあ、ヤな奴だったな」

「そりゃあ、汚職がバレて海外逃亡なんか企む政治家クソヤロウだもの。むしろあの性格で安心したわ」

 ゆっくりと階段を登りながら、アローはにっこり笑った。

「ま、Group Samグループ サムがニューヨークからローガン空港までわざわざ出てって、待ち伏せてるんだけどね~」

「らしいな。あのハゲ、人生最後の海外旅行になるんじゃね?」

「そうね~・・・少なくとも、生きて日本には帰れないでしょうね~」

「うへー、こわ」

「今までが甘すぎたのよ」

 やがて、ふたりは展望デッキにたどり着いた。開ける視界。広大な滑走路が見える。焦茶色の板張りの地面。広々とした空間に優しい風が吹き込む。辺りには、キャリーケースを持つ人々や、立派なカメラを構える人、デッキに設置された椅子でひと休みする人など、さまざまな人がゆったりとしたひと時を楽しんでいる。

 いい景色だ。

 こういう所に来ると、不思議と気分が晴れる。

 空はどこまでも青い。
 広い滑走路。
 今まさに飛びあがろうとする飛行機。
 






「会わなくてよかったの?」

「ん?」

「翔斗くんよ。たまたま政治家クソヤロウと同じ便みたいだけど」

「カケト? ・・・あぁ、そういえばいたな。そんな奴」

「またまた~」

「いいだろ別に。もう二度と会わないんだし」

「そんなこと言って、あんた結構読み込んでたんじゃない? お手紙」

「うるせえ」

 プラムは相変わらず眠たそうで、ぼんやりと滑走路の上を進む飛行機を眺めている。その美しい横顔に、アローはそれ以上何も言わなかった。







 飛行機が滑走路を走り出した。
 
 加速する。

 ふわりと浮き上がる機体。

 小さくなっていく。

 少しずつ、消えていく。

 空へ向かって、消えていく。































「行っちゃったね」

「あぁ」

「悲し?」

「別に」

「なーんだ、つまんないの~」

「なんだそりゃ」

「別れを惜しむトコくらい見せなさいよね~」

「めんどいからヤダ。それより飯食おうぜ。腹減った」

「そうね! うどんにしましょ! うどんに!」


 空に背を向けて、ふたりはフロアに戻っていく。いつもの歩調で。









 ふたりは、今日もどこかで──。
 もしかしたら、あなたの街で。
 ランエボと共に疾走しているのかもしれない。






しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...