魔界戦記譚-Demi's Saga-

九傷

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第一章 レイフの森

第37話 反省会と勧誘②

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「え~、一応簡単に説明させて頂きます。まずですが、先日戻ってきた魔王様が我々に放った第一声は「ハッハー! 宣戦布告してきたぜ!」でした。正直、聞きたくなかった台詞です。これを聞いた時の、我々家臣一同の顔をお見せできないのが残念でなりません……」


 まあ、そうだろうな……
 俺が同じ立場だったら、立ち眩みくらいしたと思われる。


「当然、私達はすぐに撤回させようとしましたが、見ての通り魔王様は止まりません。というか止められません……。しかし、ここで何とかしなければ、優秀な人材を失うことになりかねませんので、家臣一同で必死の説得を行いました。そこでなんとか譲歩させた条件がこちらになります」


 そう言って、ソウガは和紙のような物を広げる。
 そこには、俺にも読める言語でこう書かれていた。


 1.死者を出さないこと
 2.逃げる者を追わないこと
 3.武器は使用しないこと
 4.獣化はしないこと
 5.獣神流を使用しないこと
 6.本気を出さないこと

 以上を破った場合、敗北を認める。
 ……とあり、血判が押されていた。


「魔王様はこの内、5と6を破りました。私の見立てでは4も少し怪しいと思われます。……といった事情で、魔王様は敗北と判定されたのです。いやいや、個人的なことですが、皆さま本当にありがとうございました。約十数年ぶりくらいに、胸がスーッとしましたよ。本当に感謝いたします。今頃、我々の居城でもこの報を聞いて、さぞ盛り上がっていることでしょうね……」


 ソウガの目じりには、ほんのり涙が浮かんでいた。
 本当、苦労しているんだろうなぁ……


「トーヤ、これが俺の配下だ。偉そうだろう」


「ええ、ソウガさん、大変苦労してるようで……」


 偉そう……?
 はっきり言って、同情しか感じないんですが……


「わかってくれますか。トーヤ殿……」


「あぁ!? お前ら何意気投合してやがる!」


 わかる、わかるよ……、ソウガさん!
 初めて魔王と話した時に感じた心労、あれは紛れもなく真実であったようだ。


「……さて、少し話は逸れましたが。これからが本題となります。話の流れから、もうお気づきとは思いますが……」


「待てソウガ! それは俺から言う。……だが、その前に少し言わせてもらうぞ!」


 ビシ! と音が聞こえそうな腕の振りから、ガウが指さされる。


「まず、ガウ! いや、イオ以外のトロール全員に言えることだが、防御がまるでなってねぇぞ! 剛体の上に胡坐かいてるからそうなるんだよ! 今日は天気が悪いから調子でないなんて言い訳は、戦場じゃ通じねぇからな!」


「グヌ……」


 ガウ達が苦い顔をしている。
 確かに、トロールはどうにも防御を軽視する傾向がある。
 今まではそれでも何とかなってきたからこその悪癖だろうが、今回の戦いでそれを嫌という程思い知ったのだろう。
 何せ、今回魔王相手に用いた『剛体』破りの数々は、同時に自分達にも通用することを意味するのだから。


「それからイオ、お前は中々良かったぞ! 現状でも、俺の娘と同等かそれ以上かもしれねぇな。……ただ、ウチの大老やソウガ辺りなら、同じ一撃で俺の腕を落としていたハズだ。損は無ぇんだから、腕はどんどん磨けよ!」


 続いてライを指さす。


「ライ! さっきの一撃はイイ線いってたが、まだまだ練度が足らねぇ! 本来のあの技なら、吹っ飛ぶだけじゃ済まなかったハズだぞ!」


「……え!? 陛下はあの技を知っているのですか!?」


「知っているも何も、お前の親父の技じゃねぇか。アレはオルドの奴から教わったんだろ?」


「いえ、あれは僕が思い付きで作った技に、トーヤが工夫を加えたものでして……。今朝、急ごしらえで実用化したんです……」


「……マジか?」


 余程意外だったのか、魔王が放っていた威圧感が急にしぼむ。
 オンオフ効くんだな、コレ……


「はい……」


 ライの技は、対魔王戦での大本命であった。
 それ故に、最大の課題である威力について、俺達は一晩かけて工夫を加えたのである。
 体重のかけ方、捻り、魔力操法、あらゆる面を調整し、なんとか実用段階になった頃には陽が昇っていた。


「……そりゃあ大したもんだぜ。何せお前の親父は、アレを数十年かけて完成させたらしいからな……」


「父さんが……」


「まあ、機会がありゃ俺の城の書庫を覗くといいぜ。オルドは自分流に調整して、ほとんど別の流派にしていたみたいだが、基礎にした流派の伝書は残ってたはずだ。……だよな、ソウガ?」


「ええ、兵士達の指導にも使用していますので、写しも貸し出せますよ」


「本当ですか!? 是非お願いします!」


 ライは、親父さんから基礎しか習っていないと言っていた。
 ライから教わる俺も、それは同様である。
 できれば、俺も見せて貰いたいなぁ……


「そして、一番言いたいことがあるのは手前ぇだトーヤ!」


「え……、俺ですか?」


「たりめぇだ! 手前ぇ、最後手加減しやがったろ!? 俺相手に手加減とか、いい度胸してるじゃねぇか!」


 げ……、バレてたのか……


「目ぇ逸らすんじゃねぇよ! わざわざ自分から声をかけておいて、バレてないとでも思ったのか!? この野郎!」


 そりゃそうか……
 いやでも、俺自身どれ程の威力が出るかは未知数だったからな……
 できれば防いで欲しかったのは間違いない。


「で? あれは何だったんだよ? なんなら今ここで実演してもいいぞ!」


「いや、アレはですね……、ライの技で倒しきれなかった場合の奥の手のつもりではあったんですが、正直未完成でして……。できれば実演とかそういうのも、勘弁して欲しいのですが……」


 出し惜しみしているワケでは無いが、こんな大勢の前でやるのはちょっとな……
 それに、魔力だって完全には回復していないし……


「……まあ、今は許してやるか。技を秘匿するのは当たり前のことだからな。ここじゃ流石に目が多すぎる。……その代わり、今度俺だけにこっそり見せろよ?」


 魔王は粗野ではあるが、気遣いは出来るらしい。
 それでも、好奇心には勝てないようだが……


「さて……」


 一度言葉を切り、魔王はここにいる全員を見渡す。


「お前達! 最高に面白かったぜ! こんなに心躍ったのは数十年振りだ! 全力解放なんて三頭とやりあった時以来だったしな! 改めて礼を言わせて貰うぜ! そして、これが本題なんだが、お前達の力を俺の下で使ってくれねぇか? この亜人領をまとめ上げるには、お前達の力が必要だ! 頼む!」


 魔王が、この亜人領を統べる者が、俺達に向かって頭を下げている。
 その光景に対し、ここにいる誰もが信じられないといった表情を浮かべていた。

 俺だって、正直かなり驚いている。
 何せ、魔王から直々には配下に加わるよう願われたのだ。
 驚くなという方が、無理な話であった……


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