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第一章 レイフの森
第38話 魔王城への招待
しおりを挟む「あの、陛下、それは自分達に、配下になれという事でしょうか?」
「まあ、建前上はそうなる。俺のとしては協力関係っつうか、仲間になって欲しいだけなんだがな。コイツが言うには、それだと色々と都合が悪いらしくてよ」
魔王はソウガを指さしながら、めんどくさそうに言う。
しかし、実際の所ソウガの判断は間違っていないだろう。
いくら協力関係にあっても、派閥や国が違えば戦力は二分化される。
そうなってくると力関係等のバランスに偏りが出てくるし、綺麗ごとだけでは済まない問題が発生し得るからだ。
「……陛下、我々は陛下の領土、その領民です。徴用すると言うのであれば、それに従う以外の道は無いと思うのですが?」
それまで黙っていたザルアが、発言をお許しくださいと断りを入れつつ尋ねる。
「ザルア殿、それは私から回答させて頂きます。まず、亜人領についてですが、この領は数百年前の決め事により、魔王、キバ様の自治が認められております。しかし、ご覧の通りこの方は自治などまるでされておりません。本来であれば、我々獣人の都市、荒神が国家を名乗るべきなのでしょうが、それすらもされておりません。この地に流民が集まっているのも、ひとえに魔王様の怠慢のツケという事になります。ですが、キバ様は幸い悪人でも性悪でも無いので、現状にある程度責任を感じているのですよ。ですので、自分のような腐れ領主がどの面下げて徴用などと抜かすか、くらいの引け目は感じているわけです」
……なんと言うか、身も蓋もないな。
言葉の節々のトゲを、隠す様子が全く無い。
余程ストレスが溜まっていたんだろうな……
しかし、この発言には流石の魔王も怒るんじゃと思って見てみると、魔王は項垂れで小さくなっていた。
どうやら凹んでいるらしい。
「す、すまん……。いや、俺も悪いとは思ってたんだよ……。だからもう、そんなに責めないでくれよ……」
ソウガはそれを見ながらヤレヤレといった感じで首を振る。
「実の所、我々がこうして各地の自治を意識するようになったのは、ここ数年の事なのです。きっかけは10年前、各地を旅して周っていたキバ様の第一子である、タイガ様が帰国された事でした。タイガ様も以前はキバ様と似たり寄ったりな性格だったのですが、旅の過程でこの亜人領の惨状を目の当たりにしたのでしょう。それはもう素晴らしく成長なされていました。そのタイガ様に散々お説教を食らったキバ様は、ようやくまともな自治をするよう動き出したのです。皆様にはご迷惑をおかけしましたが、この騒動もその一環と思って頂ければ幸いです」
自治をしない領主か……、聞いているだけで胃が痛くなる話だ。
腰を上げたのがここ数年って事は、亜人領って本当にヤバイのかもしれないな……
「本来であれば我々としても、キバ様にこのような仕事を任せたくはないのです。ですが人手が足りず、仕方なくキバ様自身が各地へ赴き、交渉を行っている状態でして……。そんな事情もありまして、我々は常々優秀な人材を募集しているのです。トーヤ殿、ライ殿、ザルア殿、他の皆様方も、どうか我々にお力を貸して頂けないでしょうか」
正直に言ってしまえば、嫌ですと答えたい所だ。
だって、胃が大変な事になりそうだし……
しかし、このまま何もしなければ、レイフの森には今後も流民が増え続けるだろう。
そうなれば、第二、第三のゴウが現れる可能性も否定できない。
それだけは何としても避けたい所である。
ただ、俺もライも、厳密には集落の一員では無い。
この集落の代表がザルアである以上、ソウガへの回答はザルアに委ねられることになるだろう。
果たしてザルアは、どのように考えているのだろうか。
「……陛下、ソウガ様。我々の集落は平和を望んでいます。それ故に、この亜人領の平和が維持され、この森に平穏がもたらされるのであれば、是非協力したいと思っています」
「マジか!? ありがてぇ!」
「……ですが、一つ条件があります」
「……それはなんでしょうか?」
「この地、レイフの森の管理者を、トーヤ殿にして頂きたいのです」
………………はいぃぃぃぃぃっっ!?
◇
管理者の件、俺はもちろん断ったのだが、多数決により満場一致で決まってしまった。
多数決は時に残酷な結果をもたらすものだが、今回のは正にそれだろう。
……まあ、レイフの森の平和は俺の願う所でもあるので、やぶさかでない気持ちはあるのだが。
――そんなこんなで、俺達は魔王城へとやってきていた。
「こ、これが城か……。なんだか想像してたのよりも和洋折衷な感じだなぁ……」
城下町と言うより、城壁都市と言った方が良いほどの広大で堅牢な都市。
印象としては、日本の城郭構造である総構えに、海外の城壁を加えたような作りに思える。
そしてその中心、複数の門を抜けた先に、魔王城らしき建造物が君臨していた。
「わよう……? どういう意味ですか? トーヤ殿」
俺が漏らした言葉にソクが反応してくる。
「あぁ、そうか……、和とか洋とか言っても、そもそも存在しないから変換されないのか……」
考えてみれば当然の事である。
精霊による翻訳機能が優秀過ぎるせいで、すっかり油断していた。
「え~っと、この城に使われてる素材って、石とか木とか土とか、結構色々使われているだろ? ちょっと変わっているなって思ってな」
「ああ、言われてみればそうですね」
家屋の素材は、地方により結構偏りが存在するものだ。
理由は気候だったり、素材の入手し易さだったりとマチマチではあるが、基本的には地方によって特色が出やすい。
まあ、俺は魔界の土地事情についてはあまり詳しく無いので、全部ソク達からの受け売りなのだが……
「それに、こうも木材が使用されている城は珍しいですね。普通は頑強さが重視されるので、石造りが多いのですが……」
改めて魔王の城を観察してみる。
城の全体像は、日本の城の様な縦に高い建造ではなく、中国などの横に広い建造である。
石垣の上に建てられているので決して高さが無いわけではないのだが、少なくとも日本の城のような見栄えを目的とはしていないと思われる。
城郭自体に城壁が築かれていることからも、設計思想は外国の城に近いようだ。
その割には燃えやすそうだし、若干違和感があるが……
「陛下は寒いのがお嫌いなので、この様な作りになっております。ですが、火に対する対策は練っていますので、火事の心配はありませんよ」
そう補足してくれたのは魔王こと、獣王グラントゥースの側近であるソウガである。
顔に出したつもりは無かったのだが、中々に鋭い男だ……
「さてさて、それでは皆様お入りください。魔王城へようこそ」
………………………………
………………………
………………
魔王城には俺の他に、ライ、ザルア、ソク、ガウが招かれていた。
選出理由は各種族の代表であることと、先の戦いである程度戦果を得た者、だそうだ。
そういう意味ではイオも選出されたのだが、彼女はここに来ることを頑なに拒否した。
獣人に恨みが~、とゴウが言っていたので、何か理由があるのかもしれない。
「こちらが玉座の間になります」
ソウガに導かれるまま、俺達は王座の間へと足を踏み入れる。
玉座の間には、十数名の獣人が玉座への道を挟むように立っており、その視線が一気に俺達に注がれた。
一瞬の沈黙。
しかし次の瞬間、何故か俺達は、彼らから大喝采を浴びることになった。
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