魔界戦記譚-Demi's Saga-

九傷

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第三章 羅刹の鬼達

第108話 『黒死』と呼ばれし者

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 ――――レイフの城・軍議の間



 軍議の間――そこに設置された円卓には、各部隊長、そして俺と近衛が座していた。
 今回は、正式に俺の近衛になったイオも参加している。

 ちなみにイオの転属に関して、案の定だがガウは全く反対しなかった。
 むしろ、今までも勝手気ままに振舞うイオは手に余っていたらしく、どうぞどうぞと言わんばかりの態度だった。
 ついでに……、と何か言いたそうな雰囲気を出していたが、結局その言葉は飲み込まれ、何を言いたかったかは定かでない。


「トーヤ殿、もう全員集まったと思いますが……?」


「いや、一応もう一人来る予定なんだよ……」


 リンカの問いに、俺は自信無さげに返す。
 何故なら、正直本当に来るか自信がなかったためだ。シュウは上手くやると言っていたが……


 ガチャリ


 そう不安に思っていると扉が開かれ、エステル、コルト、それに手を引かれるようにルーベルトが姿を現す。
 明らかに不機嫌そうだ。


「……わざわざ子供を使って俺を呼び出すから何かと思えば、幹部が全員雁首揃えて何を企んでいる? 言っておくが、俺はお前達の事情に付き合う気は……」


「まあまあ、そう言わずに、話を聞いて下さい。……侵入者殿?」


「っ!?」


 入ってきて早々、不満げな顔で文句を言い出すルーベルト。
 しかしその文句は、その背後にいつ間にか立っていたソウガによって遮られる。
 不満げな表情から一転し、ルーベルトの表情は驚愕に塗り替えられている。
 無理もない。見ていた俺達ですら驚くほどに、ソウガの隠形は完璧であった。


「貴様は……」


「お久しぶりです。まさか、このような場所で再会するとは思いませんでしたよ」


 意外なことに、この二人は面識があるようだ。
 反応からすると、あまり良い関係ではないようだが……


「す、凄い……、全然気づかなかった……。今も見えてるのに、気配が……。まるでアンナみたいだ……」


「おや、君の身近に隠形の使い手がいるのですか? まあ、それはあとで確認するとして……。案内、ご苦労様でした。エステルさんと、コルトさん」


「あ、いえ! じゃ、じゃあ自分達は修行に戻りますんで! 失礼します!」


 驚きの余り、暫し呆然と固まっていたコルト兄妹だったが、ソウガに声をかけられたことで魔法が解けたかのよう硬直が解かれ、慌てて去っていく。
 にこやかな笑顔でそれを見送るソウガだが、それとは対照的に、ルーベルトの表情は険しいものに変わっている。


「……何故貴様がここにいる。魔王は西に遠征に出ているのだろう? お前は魔王の近衛兵だったハズだ」


「ええ、私はキバ様の近衛ですよ? ただ、兼任する役職も多いため、いつでもキバ様の傍にいるというワケではありません。……というか、下らない演技はいりませんよ。私が荒神に残っていることは、最初からご存じだったのでしょう? 監視している方は私の脚に付いて来れなかったようなので、ここに来ることまでは伝わっていなかったみたいですがね……。まあ、私もまさか、アナタがここにいるだなんで思ってもみませんでしたけど」


 その答えに隠そうともせず舌打ちするルーベルト。

 ……んーと、今の話を整理すると、

 ・ルーベルトはソウガに監視をつけており、その動向を探っていた
 ・ソウガはその監視については気づいていたが、あえて泳がせていた
 ・しかし、今回の件で最高速でここに来たソウガに、監視が付いて来れず、情報が伝わっていなかった
 ・ソウガも、ルーベルトがここにいることは知らなかった

 当然だが、ルーベルトの件については報告書に記載していた。
 にも関わらず、ソウガはルーベルトがここにいることに驚いていた。
 それはつまり、ソウガはルーベルトの存在を前々から認識していたが、俺の報告書に記載した人物像と結びついていなかったということになる。
 しかし今回、不幸(幸運?)にもここで鉢合わせたことで、それが結びついてしまった。

 ……あれ、このケースってひょっとしてルーベルト的には不味いんじゃ?


「ソウガ! 貴様、このルーベルトという男を知っていたのか?」


「ええ、リンカ様。ただ、リンカ様が知らないのも無理はありません。なにせ、実際目にしたのは私と、キバ様のみなのですから」


「それはどういう………………っ!? まさか!?」


「思い当たりましたか? まあ、彼の存在自体は有名ですからね。……彼が、あの『黒死』ですよ」


「なっ……!? ルーベルトが、『黒死』だと!?」


 声を上げたのはシュウだ。そうやらシュウも存在自体は知っていたらしい。
 俺は隣に座るスイセンに小声で尋ねる。


「スイセン、『黒死』ってのは?」


「……荒神では有名な賞金首です。バラクルと同様に目撃例の無い賞金首ですが、その知名度と狙ってる賞金稼ぎの数は、荒神でも間違いなく1番です」


 根絶のバラクル。以前戦った魔獣使いだ。
 奴は自分の手は汚さず、魔獣を使って悪事を働いていたため、賞金首でありながら目撃例がほとんどなく、その正体は不明とされていた。
 そのバラクルと同じ、正体不明の賞金首でありながら、荒神で最も有名とは……


「バラクルって正体不明で難易度が高いのに、賞金が割に合わないからって賞金稼ぎからも人気無かったんだろ? 確かに、正体不明の相手にいくら賞金つけるんだって話だから仕方ないとは思うが……。それと同じ条件なら、そんなことになるとは到底思えないんだがな……」


「理由としては、かけられた賞金が過去最高額なのももちろんですが、その条件がまた特殊で……」


 過去最高額!? 正体不明の相手に? 何やらやらかしたんだよ……
 ……いや待て、さっきソウガは目にしたのは私とキバ様のみって言ってたが、まさか?


「なんとなくお気づきかもしれませんが、罪状はキバ様の暗殺未遂です。非常に危険な存在であるため、発見の際は、まず軍に報告することが条件となっています。そのうえで確認を行い、間違いなく対象であると判明すれば、賞金が支払われます」


 それって、最早賞金首ですらないんじゃ……?
 まあでも、自分が手を出さないでも賞金貰えるなら、みんな狙うよな。


「スイセンさんが言ってる内容で概ね間違っていませんが、一つ補足があります。彼に手を出さないよう条件が付いているのは、実は危険だからという以外にもあるのです」


「……待て。それも私は知らないぞ?」


「ええ、リンカ様。これも機密ですので、私とキバ様、タイガ様以外には知られていません。とはいえ、最早意味を成さない条件なので開示しても構わないですかねぇ……」


 ソウガは顎に手をやり、勿体ぶるように一拍置く。


「暗殺未遂の件は有名な話ですが、実はその際、彼はキバ様と対峙しているのです。……皆さまご存知かもしれませんが、彼は難敵です。キバ様はその戦いで、少し本気を出したそうなのですよ。つまり彼……、ルーベルト殿は賞金首であると同時に、左大将候補でもあったのです」


 投下された爆弾発言に、一同は静まり返る。
 が、それも一瞬のことであり、次の瞬間その爆弾は見事に破裂する。



「「「「な、なんだってーーーーーー!!!!???」」」」




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