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第1章 PLAYER1
Prayer1 ②
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食堂がある校舎は時計塔を出てから公道を一つ横切った学院の西エリアにある。ユウキとダリオは並んで食堂を目指した。西エリアに入るとそれまでの古いバロック建築の景色が一変し、洗礼された流線型の建物が並ぶ。ここにある建物は近代的なものばかりだ。
食堂がある建物を生徒達は中央ドームと呼ぶ。その建物はその名のとおりドーム状の三回建ての建物だ。敷地の高低差のため二階に設置されたエントランスに近づくと扉は当然のように自動で開いた。ダリオがまず敷居をまたぎ、ユウキはそれに続く。ドームには昼時で学生が集まっていた。
自動ドアをくぐるとユウキは顔をしかめる。鼻をつく獣の様な独特の香りが微かに漂ってきたからだ。匂いの元を探ると視界の端で動く何かがユウキ目を引いた。それは汚いローブをまとった人型の生き物だ。
「ちっ、なんか匂うと思ったらデミか」
ユウキの視線に気づいたダリオが鼻をつまむ。デミとは半分ということ。ローブをまとうそれは、人のようであり獣のようでもある。深くローブを被り顔も目元をのぞきほとんどがスカーフによって覆われたそのシルエットは体格こそ小さいがユウキ達と同じ形をしている。だが布で覆われたその下には深い体毛が生えているはずだ。
デミはダリオの声に反応してこちらを見た。人にはない赤い目。その赤はダリオの声をなんと受け取ったのであろうか、ローブの上からでは表情はうかがい知れない。
「見てんじゃねえよ」
しかしダリオはそれを威嚇だと決め付けた様で、視線をよこしただけのデミに理不尽とも言える言葉を投げかける。ダリオのその言葉がデミと人間の力関係の全てだった。
「ダリオ何デミ相手に怒ってどうする」
ユウキはダリオを諌める。
「あいつがガン飛ばしてきやがったんだよ」
「馬鹿なこと言うなよ。喧嘩ふっかけるような気概があるデミは森にでも行かないと会えないぜ」
デミは卑屈な生き物だ。特に元々の住処であるはずの森など、自分たちのコミュニティーを追われてきた都市部のデミは自らの立場の弱さをわきまえている。安い賃金で雇われては清掃業などの肉体労働に従事しながら、人目につかないようにひっそりと生きる。荒事に巻き込まれたとしてもひたすらに頭を下げて嵐がすぎるのを待つ。それが彼らに許された唯一の在り方だ。そんな卑屈な生き物に、侮蔑に怒るだけのプライドが備わっているとは思えない。
「マジだって、見てみろよ」
ダリオの言葉を受けてユウキはデミの方に目を向けるが、デミは何事もなかったかの様に清掃業に戻っていた。声が飛んできたからそちらを見ただけ、私は決してあなた様に逆らったわけではありませんと態度で示す様だ。
「普通のデミだよ。空気みたいなもんだ。ダリオ、そんなことより昼飯だろ」
ユウキはそう言ってダリオの背中を押す。背中を押しながら視線をデミに向けた。すると驚いた事に再びデミはこちらに視線を向けている。それもこちらを伺う様な視線だ。気味が悪いとユウキは思った。ユウキはその視線から逃れる様にダリオをグイグイとおす。
「まあいいや。それより今日のS定食だ」
ダリオの方はもう今あったことを忘れたようで自力で歩き出す。ダリオはそういう性格だ。ユウキはダリオの背中を押すのをやめると隣に並らぶ。立ち去るユウキの背中を先ほどのデミのその赤い目が未だ見つめていることに気づくものはいなかった。
******
食堂に入るとかなりの人間があふれていた。座れる場所を確保できるかはわからないが、とりあえず入り口付近に行列の最後尾があって二人はそこに並ぶ。この長い行列の先には券売機があるはずだ。
「なげーな」
ダリオがうんざりとした声でいう。
「いつも通りだろ」
延々と続くように見える行列だが、流石にそこは学食だ、十分もすれば券売機にたどり着くだろうし、事実そうなった。
「今日の定食なんになってたっけ?」
券売機の前に陣取ってユウキは今更な質問をダリオにする。
「さあ? 見てねえ。でもどうせS定食にするんだろ?」
「まあね」
そう言うと券売機のA定食を押す。これをおばちゃんに「お姉さん、これお願いします」といって渡せばデザートが一品増えて出てくる。これぞ、学院の生徒なら誰でも知っている裏メニューS定食である。ただし、この裏技使う人間は意外といない。
券売機の液晶が支払い方法を選択するように指示を出す。
「えーと」
ユウキはそこで少し迷うが
「今日のレートなら、Lじゃね?」
ダリオがそういったのでリラを通貨として選択すると、自らの手を機械にかざした。ネットワーク上でユウキの生体情報と紐付けされた財布から引き落としが行われ、代わりに食券が降りてくる。
「おねーさん」に食券を渡して定食を受け取る頃に、ちょうどよく席があいて二人はそこに座った。
「次の授業何?」
一足早くデザートまで行きついたらダリオがユウキに尋ねる。
「午後は授業は入れてないよ。お前は?」
「俺もない。これからカリーナのとこに行こうと思ってる」
カリーナはダリオの妹である。
「お前も来いよ。あいつ一日病室で暇してるから、客がくると嬉しそうだしよ」
妹の話をするダリオはいつもの気の強い男前ではなくて、優しい兄の顔をした。
「悪い。今日、午後は行くとこがあってさ」
ユウキはすまなそうな顔をする。
「なんだ、女か?」
ダリオはニヤつきながら、小指をピンと立てた。
「お前みたいな色男だったらよかったんだがな」
ダリオの言葉をやんわりと否定する。
「まあいいさ、じゃあ今日は俺一人で言ってくるかな」
ダリオは仕方ないと言った仕草をする。
「カリーナによろしく言っといて。後、今度埋め合わせになんか美味しいもの買ってくってさ」
「ああ伝えとく、カリーナより女遊びを優先したってな」
「勘弁してくれ」
ダリオの軽口を流す。
「行くか」
見ればダリオもデザートを平らげていた。ユウキはそう言って席を立つ。次々と生徒が入れ替わり立ち替わり入ってくるから、食べ終わったら席を立つのが暗黙のルールだ。
案の定、ユウキたちがトレーを持って立ち上がると、それを見計らったかのように一人の少女が空いた席に腰を下ろした。サーの宗教学の授業で見たあの少女だ。
「うどんヌードルか」
そのトレーを横目にダリオがボソリといった。
「あの娘いつも一人だよね。あと、いつもうどん」
ユウキはなんとなく気になっていたことを聞いてみる。彼女が誰かと親しげに話しているのを見たことがなかった。
「いつもか? よく見てんな。なんだ気になんのか?」
ダリオはからかうように言った。
「あの暗くて無表情なところを除けば、整った顔立ちではあるかな。黒髪と黒い目が揃ってるのも珍しくてポイント高いしな」
色男らしい評価だ。
「違うって、そんなんじゃないよ。気にはなったけどね。あのサーの授業を熱心に聞いてるとか天然記念物だぜ。さっきなんて質問までしてたしさ」
「まあ変なやつであるとこは間違いないな。誰とも話さないし」
「頭いいのかな?」
ユウキは当然の疑問を口にする。
「逆、逆。この前デートした子がこっそり成績見たらしいんだけどさ、俺よりひどいって言ってたし」
ダリオが自分の成績を自虐しながら続ける。
「あれだけ熱心に聞いといて俺よりひどいなら、間違いなく裏口入学組だな」
ダリオの言う裏口入学とは裏でお金を払って入学をしてくることを指すのではなく、各地の教会から推薦で入ってくる人間を指している。彼らの大体は地方の出身で他の一般的な入学生に比べると成績が悪い傾向にある。
ダリオのような都市の中等学校をトップに近い成績で卒業したエリート層の人間にしてみれば面白い事ではない。なんたって、自分たちより楽に学院に入ってきているのだ。そんな奴らと一緒にして欲しくない、そんなことを思う一部の生徒たちは地方教会推薦の生徒を「裏口入学」と揶揄していた。
「そう言うことか」ダリオのはなしを聞いてユウキの中にあった彼女に対する何か親近感めいたものが解消される。
「ちなみに俺も地方出身の裏口入学だけどな」
ユウキはダリオにそう返す。
「あれ? そうだっけ?」
悪びれることもなくダリオは言う。あまり深く物事は考えない。それがダリオだった。
「姉さんが、教会推薦でここに入学が決まったときに一緒についてきたから、結構こっちにきて長いけどな」
「ああ、今日か・・・」
流石のダリオもその言葉には声のトーンを落とした。ユウキが姉の話を口に出したからだろう。今日ユウキが用事があると言った理由に思い当たった様だ。
「一年は長いようで早いな」
ダリオは気遣うような顔をする。
「なんだよその顔、久しぶりの面会。デートみたいなもんさ」
ユウキは必要以上に明るく言って重い空気を吹き飛ばす。
行く手を遮っていたドームの自動ドアが、来た時同じように開いた。
「そういえば、今日午後から雨だっけ。忘れてたよ」
空を見上げて呟く。外でユウキとダリオを待っていたのは今にも降り出しそうな曇り空だ。程なく、雨が降ることになっているのだろう。
「また持って来てないのか、傘?」
呆れたと言う顔をする。毎朝テレビで、天気予定を聞いていればすむ話なのに、ユウキが傘を忘れて来たのはもう何度目かわからない。
「ない。予定、何時から?」
「予定通りなら一時からだから後十分もないぞ」
「走っていけば、ギリギリ本降り前にはつくかな?」
ユウキは目的地までの時間を計算して独り言のように呟いた。
「じゃあダリオ、カリーナによろしく。俺は今から走る」
そう言うとダリオに背を向けた。
「OK、じゃあな。こけんなよ」
ダリオの声を背中で聞きながら、ユウキは湿度を帯びた空気の中を駆け出した。
食堂がある建物を生徒達は中央ドームと呼ぶ。その建物はその名のとおりドーム状の三回建ての建物だ。敷地の高低差のため二階に設置されたエントランスに近づくと扉は当然のように自動で開いた。ダリオがまず敷居をまたぎ、ユウキはそれに続く。ドームには昼時で学生が集まっていた。
自動ドアをくぐるとユウキは顔をしかめる。鼻をつく獣の様な独特の香りが微かに漂ってきたからだ。匂いの元を探ると視界の端で動く何かがユウキ目を引いた。それは汚いローブをまとった人型の生き物だ。
「ちっ、なんか匂うと思ったらデミか」
ユウキの視線に気づいたダリオが鼻をつまむ。デミとは半分ということ。ローブをまとうそれは、人のようであり獣のようでもある。深くローブを被り顔も目元をのぞきほとんどがスカーフによって覆われたそのシルエットは体格こそ小さいがユウキ達と同じ形をしている。だが布で覆われたその下には深い体毛が生えているはずだ。
デミはダリオの声に反応してこちらを見た。人にはない赤い目。その赤はダリオの声をなんと受け取ったのであろうか、ローブの上からでは表情はうかがい知れない。
「見てんじゃねえよ」
しかしダリオはそれを威嚇だと決め付けた様で、視線をよこしただけのデミに理不尽とも言える言葉を投げかける。ダリオのその言葉がデミと人間の力関係の全てだった。
「ダリオ何デミ相手に怒ってどうする」
ユウキはダリオを諌める。
「あいつがガン飛ばしてきやがったんだよ」
「馬鹿なこと言うなよ。喧嘩ふっかけるような気概があるデミは森にでも行かないと会えないぜ」
デミは卑屈な生き物だ。特に元々の住処であるはずの森など、自分たちのコミュニティーを追われてきた都市部のデミは自らの立場の弱さをわきまえている。安い賃金で雇われては清掃業などの肉体労働に従事しながら、人目につかないようにひっそりと生きる。荒事に巻き込まれたとしてもひたすらに頭を下げて嵐がすぎるのを待つ。それが彼らに許された唯一の在り方だ。そんな卑屈な生き物に、侮蔑に怒るだけのプライドが備わっているとは思えない。
「マジだって、見てみろよ」
ダリオの言葉を受けてユウキはデミの方に目を向けるが、デミは何事もなかったかの様に清掃業に戻っていた。声が飛んできたからそちらを見ただけ、私は決してあなた様に逆らったわけではありませんと態度で示す様だ。
「普通のデミだよ。空気みたいなもんだ。ダリオ、そんなことより昼飯だろ」
ユウキはそう言ってダリオの背中を押す。背中を押しながら視線をデミに向けた。すると驚いた事に再びデミはこちらに視線を向けている。それもこちらを伺う様な視線だ。気味が悪いとユウキは思った。ユウキはその視線から逃れる様にダリオをグイグイとおす。
「まあいいや。それより今日のS定食だ」
ダリオの方はもう今あったことを忘れたようで自力で歩き出す。ダリオはそういう性格だ。ユウキはダリオの背中を押すのをやめると隣に並らぶ。立ち去るユウキの背中を先ほどのデミのその赤い目が未だ見つめていることに気づくものはいなかった。
******
食堂に入るとかなりの人間があふれていた。座れる場所を確保できるかはわからないが、とりあえず入り口付近に行列の最後尾があって二人はそこに並ぶ。この長い行列の先には券売機があるはずだ。
「なげーな」
ダリオがうんざりとした声でいう。
「いつも通りだろ」
延々と続くように見える行列だが、流石にそこは学食だ、十分もすれば券売機にたどり着くだろうし、事実そうなった。
「今日の定食なんになってたっけ?」
券売機の前に陣取ってユウキは今更な質問をダリオにする。
「さあ? 見てねえ。でもどうせS定食にするんだろ?」
「まあね」
そう言うと券売機のA定食を押す。これをおばちゃんに「お姉さん、これお願いします」といって渡せばデザートが一品増えて出てくる。これぞ、学院の生徒なら誰でも知っている裏メニューS定食である。ただし、この裏技使う人間は意外といない。
券売機の液晶が支払い方法を選択するように指示を出す。
「えーと」
ユウキはそこで少し迷うが
「今日のレートなら、Lじゃね?」
ダリオがそういったのでリラを通貨として選択すると、自らの手を機械にかざした。ネットワーク上でユウキの生体情報と紐付けされた財布から引き落としが行われ、代わりに食券が降りてくる。
「おねーさん」に食券を渡して定食を受け取る頃に、ちょうどよく席があいて二人はそこに座った。
「次の授業何?」
一足早くデザートまで行きついたらダリオがユウキに尋ねる。
「午後は授業は入れてないよ。お前は?」
「俺もない。これからカリーナのとこに行こうと思ってる」
カリーナはダリオの妹である。
「お前も来いよ。あいつ一日病室で暇してるから、客がくると嬉しそうだしよ」
妹の話をするダリオはいつもの気の強い男前ではなくて、優しい兄の顔をした。
「悪い。今日、午後は行くとこがあってさ」
ユウキはすまなそうな顔をする。
「なんだ、女か?」
ダリオはニヤつきながら、小指をピンと立てた。
「お前みたいな色男だったらよかったんだがな」
ダリオの言葉をやんわりと否定する。
「まあいいさ、じゃあ今日は俺一人で言ってくるかな」
ダリオは仕方ないと言った仕草をする。
「カリーナによろしく言っといて。後、今度埋め合わせになんか美味しいもの買ってくってさ」
「ああ伝えとく、カリーナより女遊びを優先したってな」
「勘弁してくれ」
ダリオの軽口を流す。
「行くか」
見ればダリオもデザートを平らげていた。ユウキはそう言って席を立つ。次々と生徒が入れ替わり立ち替わり入ってくるから、食べ終わったら席を立つのが暗黙のルールだ。
案の定、ユウキたちがトレーを持って立ち上がると、それを見計らったかのように一人の少女が空いた席に腰を下ろした。サーの宗教学の授業で見たあの少女だ。
「うどんヌードルか」
そのトレーを横目にダリオがボソリといった。
「あの娘いつも一人だよね。あと、いつもうどん」
ユウキはなんとなく気になっていたことを聞いてみる。彼女が誰かと親しげに話しているのを見たことがなかった。
「いつもか? よく見てんな。なんだ気になんのか?」
ダリオはからかうように言った。
「あの暗くて無表情なところを除けば、整った顔立ちではあるかな。黒髪と黒い目が揃ってるのも珍しくてポイント高いしな」
色男らしい評価だ。
「違うって、そんなんじゃないよ。気にはなったけどね。あのサーの授業を熱心に聞いてるとか天然記念物だぜ。さっきなんて質問までしてたしさ」
「まあ変なやつであるとこは間違いないな。誰とも話さないし」
「頭いいのかな?」
ユウキは当然の疑問を口にする。
「逆、逆。この前デートした子がこっそり成績見たらしいんだけどさ、俺よりひどいって言ってたし」
ダリオが自分の成績を自虐しながら続ける。
「あれだけ熱心に聞いといて俺よりひどいなら、間違いなく裏口入学組だな」
ダリオの言う裏口入学とは裏でお金を払って入学をしてくることを指すのではなく、各地の教会から推薦で入ってくる人間を指している。彼らの大体は地方の出身で他の一般的な入学生に比べると成績が悪い傾向にある。
ダリオのような都市の中等学校をトップに近い成績で卒業したエリート層の人間にしてみれば面白い事ではない。なんたって、自分たちより楽に学院に入ってきているのだ。そんな奴らと一緒にして欲しくない、そんなことを思う一部の生徒たちは地方教会推薦の生徒を「裏口入学」と揶揄していた。
「そう言うことか」ダリオのはなしを聞いてユウキの中にあった彼女に対する何か親近感めいたものが解消される。
「ちなみに俺も地方出身の裏口入学だけどな」
ユウキはダリオにそう返す。
「あれ? そうだっけ?」
悪びれることもなくダリオは言う。あまり深く物事は考えない。それがダリオだった。
「姉さんが、教会推薦でここに入学が決まったときに一緒についてきたから、結構こっちにきて長いけどな」
「ああ、今日か・・・」
流石のダリオもその言葉には声のトーンを落とした。ユウキが姉の話を口に出したからだろう。今日ユウキが用事があると言った理由に思い当たった様だ。
「一年は長いようで早いな」
ダリオは気遣うような顔をする。
「なんだよその顔、久しぶりの面会。デートみたいなもんさ」
ユウキは必要以上に明るく言って重い空気を吹き飛ばす。
行く手を遮っていたドームの自動ドアが、来た時同じように開いた。
「そういえば、今日午後から雨だっけ。忘れてたよ」
空を見上げて呟く。外でユウキとダリオを待っていたのは今にも降り出しそうな曇り空だ。程なく、雨が降ることになっているのだろう。
「また持って来てないのか、傘?」
呆れたと言う顔をする。毎朝テレビで、天気予定を聞いていればすむ話なのに、ユウキが傘を忘れて来たのはもう何度目かわからない。
「ない。予定、何時から?」
「予定通りなら一時からだから後十分もないぞ」
「走っていけば、ギリギリ本降り前にはつくかな?」
ユウキは目的地までの時間を計算して独り言のように呟いた。
「じゃあダリオ、カリーナによろしく。俺は今から走る」
そう言うとダリオに背を向けた。
「OK、じゃあな。こけんなよ」
ダリオの声を背中で聞きながら、ユウキは湿度を帯びた空気の中を駆け出した。
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