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第1章 第1話:転生と迷宮の視覚
しおりを挟む目を覚ました瞬間、空(やまざき そら)は感じた。自分が今いる場所が、どこか現実から遠く離れた異世界のようだということを。
「ここは…?」
周囲は濃い霧に包まれて、目の前の景色がぼんやりとしか見えない。自分の体の感覚ははっきりしているのに、頭の中がまだ覚醒しきれていないような、ふわふわとした不安定な状態だった。
「とりあえず、落ち着け、俺。」
空は自分にそう言い聞かせ、足元を確認した。周囲には、どう見ても異世界の雰囲気を醸し出す、見たこともないような建物や道が続いている。霧の向こうに浮かぶ巨大な建物の姿が、まるで迷宮のように不気味に感じられた。
空「…まさか、異世界転生とか?」
何気なく呟くが、それにしてはあまりにも不自然すぎる。空は、自分が死んだのか、あるいは何かの夢を見ているのか、それすら確信できないまま立ち尽くしていた。
突然、背後から声がした。振り向くと、そこには異様に輝く存在が立っていた。衣服は純白で、顔立ちは整っているが、その雰囲気は圧倒的で、まるで神々しい存在のように思えた。
神様「あなたは、異世界に転生しました。」
空はその声に驚き、しばらくその場に立ち尽くす。
空「え…?」
神様「あなたの命は、もうこの世界では終わっています。そして、新たな人生がここから始まるのです。」
空は自分が今、どこにいるのか、何が起きているのかを理解するために必死に頭を働かせる。だが、どうしてもその全貌が見えてこない。完全に茫然としていると、神様はさらに続けた。
神様「あなたに与えられる力、それは『迷宮の視覚』という能力です。」
空「…迷宮の視覚?」
神様「はい。この力は、迷宮の隠された道を見抜く力です。迷宮の中では、目には見えない場所が存在することがありますが、その道をあなたは視覚で捉えることができます。ただし、無理に使い続けると、体力を大きく消耗しますので、使う時は注意しなさい。」
空「いや、ちょっと待て。俺、何も知らないし。転生してきたばかりで、いきなりそんな能力もらっても…」
空は動揺し、周囲を再び見渡した。その空間は、明らかに異常だった。霧に包まれ、どこをどう進めば良いのかすらわからない。それどころか、この迷宮のような場所が一体どんな世界で、何が待ち受けているのか、まるで想像がつかない。
空「…どうしろって言うんだよ、こんなところで。」
神様は微笑みながら、ゆっくりと空に向かって手を差し伸べた。
神様「これから、この世界で生き抜くために、この力を活かしてください。そして、あなたの使命を果たすために、迷宮の中を探索し続けなさい。」
その言葉を最後に、神様は消えた。空は再び一人になった。
空「いきなり転生して迷宮に閉じ込められて、能力まで与えられるって…どういうことだよ。」
再度、周囲を見渡しながら空は呟く。霧は深く、視界は狭い。しかし、目の前には大きな扉が一つ、霧の中にぽっかりと浮かんでいた。そこを通るのか、それとも別の道を探すべきなのか。選択肢は限られていた。
空「とりあえず、扉に行ってみるか。」
歩き出した空は、足音が霧に吸い込まれるような音に包まれながら、次第にその扉に近づいていった。何か引っかかる感じがする。迷宮の中には、普通では考えられないような空気が漂っている。それが、空の体を重くさせるような、そんな不安感を呼び起こしていた。
扉の前に立つと、ふと、何かが違うと感じた。扉は、まるで何かを試すようにじっと見つめてくるように感じる。手をかけると、わずかに振動を感じたが、扉はゆっくりと開いた。
その先には、さらに広がる迷宮が待ち受けていた。霧に包まれた空間の中で、足音が反響する。足を踏み入れた瞬間、異常なほどの寒気が空を襲った。背筋を伸ばして一歩踏み出すと、空の目の前に不自然な動きを見せるものが現れた。
空「な、なんだこれ…?」
それは、巨大な魔物のようだった。鋭い爪と牙を持ち、まるで空を捕まえようとするかのように動き出す。空は一瞬、どう動けばいいのかわからなくなった。
空「ちょっと、マジで勘弁してくれよ…!」
その瞬間、空の目の前に一筋の閃光が走った。魔物の動きが、まるでスローモーションのように遅くなり、空の脳内に一つの映像が浮かんだ。そこには、魔物の弱点がはっきりと映し出されていた。
空「これが…迷宮の視覚!」
空は無意識のうちに、その弱点に向かって駆け出していた。まるで体が勝手に動いているかのように、空は魔物の隙間を突いて、見事に一撃を決めた。倒れた魔物は、しばらく動かなくなり、その場に横たわる。
空「うぉ…倒せたのか、俺。」
その瞬間、背後から軽やかな足音が近づいてきた。空は振り返ると、そこに立っていたのは一人の少女だった。白髪で冷静な雰囲気を漂わせているその少女は、迷宮の中で生き抜く者にふさわしい、鋭い目を持っていた。
リリィ「お疲れさま。見事に倒したわね。」
空「え、あなたは…?」
リリィは微笑みながら答える。
リリィ「あの魔物を倒せるなんて、素晴らしいわね。私はリリィ、迷宮を長く歩いている者よ。」
空「リリィ? どうしてここに?」
リリィ「あの魔物が出てきた時から、あなたの動きを見ていたの。助けるのも簡単だったけど、あなたの力を見たかったから。」
空「あ、ありがとう、だけど…いきなり現れて助けられると逆に怖いんだけど。」
リリィは少し笑ってから、再び冷静に言った。
リリィ「私はしばらくここでやることがあるから、あなたの力を貸してもらえる?」
空は少し考え込み、そしてゆっくりと答える。
空「…よし、一緒に行こうか。」
こうして、リリィと空の冒険は始まることになった。
リリィと空は、魔物を倒した後、再び迷宮の奥へと足を進めることになった。リリィはまるで迷宮を熟知しているかのように先導し、空はその後ろを追って歩いた。
空は心の中で、なぜ自分がこんな状況に巻き込まれてしまったのかを考え続けていた。しかし、どれだけ考えても答えは出なかった。リリィが突然現れたこと、そしてその強さがどこから来ているのかも分からない。だが、彼女の冷静な態度に、少しずつ信頼を寄せるようになっていた。
空「リリィ、どうしてそんなに迷宮を知ってるんだ?」
リリィは前を見据えたまま、軽く答える。
リリィ「私はこの迷宮に住んでいる者だから、長いこと探索しているのよ。」
その言葉に空は驚く。
空「住んでいる? ここで生活してるのか?」
リリィは軽く頷き、その視線はどこか遠くを見ているようだった。
リリィ「ええ。迷宮の中には様々な生物が住んでいる。魔物だけでなく、人間や他の種族もね。」
空はその言葉に少し戸惑うが、彼女の表情には迷いがないことに気づく。迷宮内での生活が当たり前のように見える彼女に、空は少しだけ心の中で敬意を抱くようになった。
その時、前方から一陣の風が吹き、霧の中に何かが動く気配を感じた。空は立ち止まり、目を凝らしてその方向を見つめる。
空「あれ、何か動いてる…」
リリィは一瞬立ち止まり、空の肩に手を置いた。
リリィ「気をつけて。迷宮の中には、魔物以外にも強力な存在がいることがあるから。」
その言葉を聞いた瞬間、空は身を引き締めた。霧の中から現れたのは、巨大な岩のようなものだった。だが、それは単なる岩ではない。岩の表面に目が無数に浮かび上がり、空をじっと見つめていた。
空「こ、これは…?」
リリィは空を見て、ゆっくりと答える。
リリィ「これは『石像の守護者』よ。迷宮内で非常に強力な魔物の一種だ。倒すのは簡単じゃない。」
空はその巨大な守護者を見て、どう戦うべきかを瞬時に判断しようとした。だが、すぐにリリィが前に出て、守護者に向かって何かを呟いた。
リリィ「古の魔法、出でよ!」
リリィが呪文を唱えた瞬間、周囲の空気が一変し、守護者の動きが鈍くなった。空はその隙に、彼女が示す方向へ駆け出す。
空「よし!」
リリィが魔法で守護者の動きを封じ込めた隙に、空は自分の能力「迷宮の視覚」を発動させ、守護者の弱点を見つけ出す。その一瞬の判断で、空は全力でその隙間を突いた。
守護者は大きく揺れ、次第にその動きを止め、崩れ落ちるように倒れ込んだ。空はその場に立ち尽くし、呼吸を整える。
空「…なんとか、倒した。」
リリィは静かに微笑み、空を振り返った。
リリィ「素晴らしい。あなたの力、見込み違いではなかったわ。」
空はその言葉に照れくさそうに笑ったが、すぐにその表情が真剣になった。
空「でも、これで終わりじゃないんだろ?」
リリィは頷く。
リリィ「もちろん。迷宮にはもっと深い場所があり、強力な魔物が待ち受けている。だが、あなたの力があれば、きっと乗り越えられる。」
空は少しだけリリィに対する信頼を深め、前に進む決意を固めた。
空「そうだな。じゃあ、行こう。」
二人は再び迷宮の奥へと足を踏み入れた。霧がさらに深くなり、視界がほとんどなくなる中、空は迷宮の視覚を駆使して道を切り開いていった。
その先に待っているものが何であれ、空はすでに覚悟を決めていた。迷宮の中での冒険は、始まったばかりだった。
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