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第1章 第6話:心の試練
しおりを挟む迷宮の深部へと進む空とリリィ。番人の言葉が、心の中で反響し続けていた。これから彼らに待ち受ける「心の試練」とは、一体どんなものなのか。空はその言葉が意味するものを、まだ完全には理解していなかった。しかし、リリィの冷静な態度に、少しだけ安心感を覚えていた。
リリィはゆっくりと歩きながら、周囲を警戒していた。霧がますます濃くなり、視界が悪くなっている。しかも、空気の湿気が肌にべっとりとまとわりつき、気持ちが悪い。
空「うーん、なんか、この霧…嫌な感じだな。」
リリィ「気にしないで。霧は迷宮の一部よ。慣れるしかないわ。」
空はリリィの言葉を聞いて、少し気を取り直し、もう一度周囲を見回した。しかし、その視界に映るものはただの灰色の霧と薄暗い影ばかり。進む先に何が待っているのか、まったく分からなかった。
その時、突然、空の目の前に一筋の光が現れた。それは、まるで遠くの星が地面に落ちてきたかのように、ひときわ明るく輝いている。空はその光を見つめ、思わず足を止めた。
空「あれ、何だ?」
リリィ「あの光、近づいてみましょう。」
二人は慎重にその光の方へと進んでいった。やがて、光の正体が明らかになる。それは、小さな祭壇のようなもので、中央には一冊の古びた本が置かれていた。
空「本…?」
リリィ「まさか、これが試練の一部?」
空はその本を手に取ろうとしたが、リリィが先に止めた。
リリィ「待って。何か仕掛けがあるかもしれない。」
空は少し眉をひそめて、リリィの言葉に従うことにした。すると、突然、祭壇の上に文字が浮かび上がった。それは、空にとって見慣れた文字ではなく、まったく異なる言語だった。
空「うわ…これ、読めない。」
リリィ「これは迷宮の古代文字ね。でも、何かの暗号みたいなものかしら。」
その時、空の体内に感じる違和感が一層強くなった。胸の奥で、何かがうねるような感覚。まるで、自分の心の奥深くに触れられているような、そんな感覚だ。
空「なんか…この感じ、嫌だな。あの本、何か危険な気がする。」
リリィ「焦らないで。まずは慎重に。」
リリィが静かにその本に手を伸ばす。触れた瞬間、本がパッと光り、空とリリィの周りの霧が一瞬で消え去った。
空「え…?」
リリィ「これが試練の一部だったのかもしれない。」
光が収まった後、二人の目の前には、巨大な扉が現れた。その扉には、無数の象徴的な模様が彫られており、何かを語りかけているようにも見える。
空「扉…?今度は何だよ?」
リリィ「どうやら、ここが試練の入り口みたいね。」
二人はその扉に近づき、手をかけた。その瞬間、扉がゆっくりと開き、中から温かい風が流れ込んできた。風は穏やかで心地よく、どこか懐かしさを感じさせる。
空「この風…なんか不思議な感じがする。」
リリィ「試練は、心を試すもの。だから、この風も何か意味があるのかもね。」
二人は足を踏み入れた。扉を越えた先には、広大な庭園のような場所が広がっていた。そこには、美しい花々が咲き乱れ、小川が静かに流れている。空はその景色を見て、少し驚いた。
空「こんな場所、迷宮の中にあるなんて信じられないよ。完全に別の世界だ。」
リリィ「確かに。でも、ここも試練の一部。見た目に惑わされないことよ。」
その言葉通り、空の心の中に何かが起き始めた。彼は自分の胸の奥を見つめ、何か大きな力が自分に向かっていることを感じ取った。それは、心の奥底から湧き上がるような、無力感と共に。
空「リリィ、俺、なんか怖い…」
リリィ「大丈夫、空。怖いって思うのは、試練を受け入れた証拠だよ。」
その瞬間、空の体が軽く震えた。何かが自分の心に触れたような気がした。それは、過去の自分が背負ってきた悩みや、今まで向き合ってこなかった感情が、突然目の前に現れたような、そんな感覚だった。
霧の中、空とリリィは迷宮の深層へと進み、巨大な扉の前に立っていた。扉の向こうには恐ろしい魔物の気配が漂っている。心臓がバクバクと音を立てる中、空は少し不安そうにリリィを見た。
空「うぅ…こんな場所、どうして俺が来ちゃったんだろうな。」
リリィ「今更そんなこと言っても仕方ないでしょ?この試練をクリアすることが、私たちの目標なんだから。」
空「でもさ、試練って言ってもこんな魔物だらけの場所でどうやって生き残るっていうんだよ…?」
リリィは冷静に空を見て言った。
リリィ「試練の内容はわからないけれど、あなたの能力ならきっと乗り越えられるわ。だって、あなたには“迷宮の視覚”があるんだから。」
空は少し戸惑いながらも、リリィの言葉に自信を持ち始めた。しかし、その時、突如として背後から足音が響き、二人は振り向いた。
目の前に現れたのは、身の丈以上に大きな剣を背負った男だった。短髪で鋭い眼差しを持つ彼は、迷宮の中に不自然に佇んでいた。
空「誰だ、お前は…?」
その男は、一瞬空を見つめた後、にっこりと微笑んだ。
アダム「驚いたか?俺はアダム。この迷宮で試練を受けている者だ。」
リリィはその男の言葉に興味深そうに反応した。
リリィ「アダム?でも、どうしてこの場所に?」
アダム「実は、俺も試練に挑戦しているんだ。君たちのように迷宮の試練をクリアしようとしている。ところで、君たち、迷宮の中で道に迷ったりしてないか?」
空は警戒しながらも、リリィに視線を送る。リリィは少し考えた後、冷静に答えた。
リリィ「そうね…確かにこの場所では一人で行動するのは難しいかもしれない。助け合った方が効率的かもしれないわ。」
空「本当にお前は信用できるのか…?」
アダムは肩をすくめながら言う。
アダム「まあ、信用するかどうかは君たち次第だ。でも、俺がいなければ、この先を進むのはかなり厳しいかもな。」
その言葉に、空は不安そうに頷いた。迷宮の中で他の誰かに頼るのは気が引けるが、リリィの冷静さを信じて、一歩踏み出すことに決めた。
空「…仕方ない。お前に頼ってみるよ。」
アダムはにっこりと笑い、ゆっくりと前に進んだ。
アダム「じゃあ、行こうか。どうせなら、仲間として力を合わせる方が楽しいだろう?」
その言葉に、空とリリィは少し戸惑いながらも頷いた。アダムは、迷宮の中で長い間戦い続けてきた経験者であり、力強い戦士のように見える。空は、彼が持っている剣に興味津々だった。
空「その剣、すごくでかいな…。なんか、あれって…」
アダム「ああ、これか?この剣は俺の相棒だ。何度も戦いを共にしてきた。」
その言葉を聞いて、空は少し安心したような気がした。今、リリィと一緒にいるからこそ、少しずつ仲間との絆を感じ始めている。
リリィ「アダム、行くわよ。」
アダム「おお、ついてきてくれ!」
三人は再び歩みを進める。迷宮の中に入ると、空はその広さに驚くばかりだった。壁に刻まれた古代の文字、幻想的な光がほのかに照らす迷宮の道筋…全てが空を圧倒していた。
空「これ、ずっと迷宮の中を歩いてるってことだよな…?」
アダム「そうだ。だから、もし道に迷ったら、また俺を頼ってくれ。」
その言葉の直後、前方から魔物の気配がした。数匹の獣型魔物が、三人に向かって走り出してきた。アダムはすぐに剣を抜き、リリィと空に指示を出す。
アダム「二人は下がれ!俺が相手する!」
空とリリィはその指示に従い、少し後ろへ下がる。アダムはその大剣を振りかざし、魔物たちに向かって飛び込んだ。
空「うわぁ、かっけぇ!」
リリィも冷静にアダムの戦いを見守る。
リリィ「あの戦い方、まるで剣の達人ね。」
アダムは、魔物たちを一刀両断にしながら振り返った。
アダム「どうだ、俺がいれば心配ないだろ?」
その言葉に、空は少し照れくさい笑顔を浮かべた。
空「あ、ああ…まぁ、頼んだよ。」
アダムが魔物を倒すのを見届けた後、三人はさらに迷宮の奥へと進むことに決めた。
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