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会計を済ませて車内でもそもそと食べる。
「…ぅ」
具まで食べ進めた俺は顔をしかめた。からあげだ。からあげ自体は好きだが一緒にする意味がわからない。シンプルな塩むすびとおかずに唐揚げが一番おいしいのに、なんでこんなものを入れた?日本の心を忘れたか。でも買ってしまったものは仕方がないので全て食べる。どちらにせよこの状態では味などよく分からない。食べたというよりは胃に押し込んだという表現が正しい。子どもを見ると両手でパンを持ち、ちびちびと食べていた。普段ならおにぎりなど3つ4つは食べてしまうぐらいなのだが食欲も湧かず、コンビニ袋に食べ終えた包みと、手ずかずのおにぎりを入れて後部座席へと追いやって、お茶を飲んで子どもに視線を向けた。
「どっかの駐車場に停まって今日はもう寝よう、車出してもいいか?」
俺の言葉に子どもは、もぐもぐと咀嚼をしながらもこくりと頷いた。
車を走らせ、それほど時間も経たないところで丁度公園を見つけた、奥には街灯の光でぼんやりと照らされたゾウのすべりだいもあった。明るい時間では子供たちの楽し気な声が聞こえてくるのだろうが、深夜の公園はしんと静まり返っていてまるで死んでしまっているみたいだ。街灯も少なく不気味ささえ感じながら駐車場に滑り込んでて停車する。
車内で一泊過ごすことにはなるとは思わず、毛布もなにも持っていない。座席を倒して靴を脱いで、決して寝心地がいいとはいえない車内で横になる。子どももそれに習って横になるとすぐに寝息を立てはじめた。疲れているのだろう。無理もない、街頭の明かりのなか子どもの寝顔を見る。まだあどけないただの子ども。この子どもが「死にたい」と思うようなことがあるとは…俺がガキの頃は何も考えずに遊んで過ごしていたっけ。ぼんやりとそんなことを考えているうちに眠気が襲ってきて俺の意識はおちた。
こんこん、こんこん
誰かが窓を叩く音で目が覚めた。目をうっすらと開くと太陽の光が目に入ってきて眩しく、眉をしかめた。音源はすぐに見つかった、運転席側の窓を鳴らしているのは警察官の制服に身を包んだ年配の男だった。俺はドアを開ける。窓を開けるとなるといちどキーを回さないといけないから面倒だ。
「なんの御用でしょう?」
「免許証を見せてもらえる?」
俺は頷くと車内に入れっぱなしになっている免許証を警官に渡す、彼はそれに目を通す。
「こんな所で何をしていたんですか?」
「あー…旅行を」
「旅行?」
警官の顔が訝しげになる、それもそうだ。今日は平日、ホテルでもなんでもないところで大の男と年端もいかない女の子。この組み合わせは何か事件性を疑って当然だ。
「んん……」
声がして振り向くと寝ぼけ眼でこしこしと目元を擦りながら、もぞりと子どもが起きたところだった。
「おはよう、お嬢ちゃん」
「ふぁ…?おはようございます」
子どもは声に答えて呼んだ警官を見た。何が起きているのか分からない様子で首を横に傾げている。
「お嬢ちゃん、お名前教えてくれるかな?」
「……ゆいな」
「上の名前は?」
ここで俺ははっとした、子どもの名前を初めて聞いたうえに俺もこの子に名前など伝えていない。だがこの警官の手には免許証が握られている。親子関係ならばまぁこの状況も言い訳がつくだろうし、一緒にいてもなんらおかしくない。ところがそれが赤の他人だったらおかしい。旅行と言ってしまったし、この後この子の親が来ると言ったとしても連絡をとってくれといわれたらそれまでだ。どうしようか、もういっそのことばれてしまったほうがいいのでは?色々な考えが頭によぎったが、俺はただ子どもの返答を待つことしかできない。
「おぎわら」
「君、ちょっと一緒に来てもらえるかな?」
そうかこの子は荻原ゆいなというのか。俺とは一文字もあってない。
「いや、俺は…」
どうしたものかと戸惑っていると、警官が早くしろと視線で訴えてくる。
「なーんて、びっくりした?お父さん。昨日アイス買ってくれなかった仕返しだよ」
「え」
警官から威圧感がふっと消えるのを感じた。子どもの言葉に俺は目を見開く。
「お嬢ちゃん、そんな質の悪い仕返しはしちゃあいかんよ」
「だって、お父さんが」
「悪かったよ、今日買ってやるからそれでいいだろ」
子どもの頭を撫でて言ってやると、むくれていた子どもは嬉しそうに微笑んだ。
「たまには親子水入らずもいいが、ちゃんと学校にも行かせなさいよ」
ぽんと免許証が返される、俺は警官に分かりましたと手を上げて、ドアを閉めてエンジンをかけた。 警官に見送られて車は滑らかに進みはじめた。
「ありがとう、さっきは助かったよ」
「おじさんがいなくなるとあたしも困るから」
「お礼にアイス買ってあげるよ」
「うんん、アイスはいらない」
子どもは首を横に振るった。アイス”は”と言うくらいだから他には欲しいものがあるのだろう。
「他に欲しいものは?」
赤信号で止まり子どもを見ると、戸惑ったように視線を彷徨わせていた。少しすると心が決まったのか口を開く。
「おじさんは、死んでしまう前に行っておきたいところってある?」
「…、君は?」
「………」
そうか、この子は行きたい場所があったのか。けれど聞き返しても返答がない、信号が青になって車を走らせる。
「どうぶつえん」
ぽつりと零された言葉。
「動物園に行きたい」
死ぬ前に行きたい場所で動物園を上げるこの子が子どもなのだと改めて思い知る。胸元で拳を握りしめるのを横目で見た。
「分かった、動物園行こうか」
子どもがぱっと顔を上げて、ほっとしたように頷いた。とはいえ俺はこの土地を知らない、何処に動物園があるのかも知らない。人に聞くか、なんてことを思ったのも一瞬。遠出をしない俺が、車を買った時に子供が出きた時に遊びに行くかもしれないとつけたカーナビがあった。結局、妻との間に子供はなかった。1度流れてしまってから出来なくなってしまった。いや、今は妻の話はいい。
「おじさん…?」
気持ちが暗くなった俺を感じ取ったのか、隣から心配そうな声がかかった。なんでもないと首を横に振るって笑顔を作ろうとしたけれど、どうにも乾いたものになった。それもそうだ、ここ数日笑顔なんて出来ていない。
路肩に車を止めてカーナビをセットする。結局一度も使ったことがなかった。今日が初めて。操作して動物園を入力。ここから30分とかからぬ位置にあるみたいだ。動物園の規模は分からないが…。まぁ、子どもが気に入らないような場所だったらまた別のところに行けばいい。なに、時間はある。
「目的地を設定しました」
機械音声が告げて、車を走らせる。車を走らせている最中に子どものお腹がきゅるると鳴ったので、昨日の残りのおにぎりを食べていいことを伝えた。後部座席にあったコンビニの袋を開いた女の子の顔が嬉しそうに輝く。
「シーチキンだっ!……あっ、でもおじさんもシーチキンがいい?」
「もうひとつは何だっけ?」
「もういっこは、おかかだよ」
「おかかをもらうよ」
そう答えると子どもは嬉しそうに笑った。車を走らせて25分、目当ての動物園に到着した。 平日ということもあってか駐車場は空いている。入場料を払う前におかかのおにぎりを腹の中に押し込んだ。
「…ぅ」
具まで食べ進めた俺は顔をしかめた。からあげだ。からあげ自体は好きだが一緒にする意味がわからない。シンプルな塩むすびとおかずに唐揚げが一番おいしいのに、なんでこんなものを入れた?日本の心を忘れたか。でも買ってしまったものは仕方がないので全て食べる。どちらにせよこの状態では味などよく分からない。食べたというよりは胃に押し込んだという表現が正しい。子どもを見ると両手でパンを持ち、ちびちびと食べていた。普段ならおにぎりなど3つ4つは食べてしまうぐらいなのだが食欲も湧かず、コンビニ袋に食べ終えた包みと、手ずかずのおにぎりを入れて後部座席へと追いやって、お茶を飲んで子どもに視線を向けた。
「どっかの駐車場に停まって今日はもう寝よう、車出してもいいか?」
俺の言葉に子どもは、もぐもぐと咀嚼をしながらもこくりと頷いた。
車を走らせ、それほど時間も経たないところで丁度公園を見つけた、奥には街灯の光でぼんやりと照らされたゾウのすべりだいもあった。明るい時間では子供たちの楽し気な声が聞こえてくるのだろうが、深夜の公園はしんと静まり返っていてまるで死んでしまっているみたいだ。街灯も少なく不気味ささえ感じながら駐車場に滑り込んでて停車する。
車内で一泊過ごすことにはなるとは思わず、毛布もなにも持っていない。座席を倒して靴を脱いで、決して寝心地がいいとはいえない車内で横になる。子どももそれに習って横になるとすぐに寝息を立てはじめた。疲れているのだろう。無理もない、街頭の明かりのなか子どもの寝顔を見る。まだあどけないただの子ども。この子どもが「死にたい」と思うようなことがあるとは…俺がガキの頃は何も考えずに遊んで過ごしていたっけ。ぼんやりとそんなことを考えているうちに眠気が襲ってきて俺の意識はおちた。
こんこん、こんこん
誰かが窓を叩く音で目が覚めた。目をうっすらと開くと太陽の光が目に入ってきて眩しく、眉をしかめた。音源はすぐに見つかった、運転席側の窓を鳴らしているのは警察官の制服に身を包んだ年配の男だった。俺はドアを開ける。窓を開けるとなるといちどキーを回さないといけないから面倒だ。
「なんの御用でしょう?」
「免許証を見せてもらえる?」
俺は頷くと車内に入れっぱなしになっている免許証を警官に渡す、彼はそれに目を通す。
「こんな所で何をしていたんですか?」
「あー…旅行を」
「旅行?」
警官の顔が訝しげになる、それもそうだ。今日は平日、ホテルでもなんでもないところで大の男と年端もいかない女の子。この組み合わせは何か事件性を疑って当然だ。
「んん……」
声がして振り向くと寝ぼけ眼でこしこしと目元を擦りながら、もぞりと子どもが起きたところだった。
「おはよう、お嬢ちゃん」
「ふぁ…?おはようございます」
子どもは声に答えて呼んだ警官を見た。何が起きているのか分からない様子で首を横に傾げている。
「お嬢ちゃん、お名前教えてくれるかな?」
「……ゆいな」
「上の名前は?」
ここで俺ははっとした、子どもの名前を初めて聞いたうえに俺もこの子に名前など伝えていない。だがこの警官の手には免許証が握られている。親子関係ならばまぁこの状況も言い訳がつくだろうし、一緒にいてもなんらおかしくない。ところがそれが赤の他人だったらおかしい。旅行と言ってしまったし、この後この子の親が来ると言ったとしても連絡をとってくれといわれたらそれまでだ。どうしようか、もういっそのことばれてしまったほうがいいのでは?色々な考えが頭によぎったが、俺はただ子どもの返答を待つことしかできない。
「おぎわら」
「君、ちょっと一緒に来てもらえるかな?」
そうかこの子は荻原ゆいなというのか。俺とは一文字もあってない。
「いや、俺は…」
どうしたものかと戸惑っていると、警官が早くしろと視線で訴えてくる。
「なーんて、びっくりした?お父さん。昨日アイス買ってくれなかった仕返しだよ」
「え」
警官から威圧感がふっと消えるのを感じた。子どもの言葉に俺は目を見開く。
「お嬢ちゃん、そんな質の悪い仕返しはしちゃあいかんよ」
「だって、お父さんが」
「悪かったよ、今日買ってやるからそれでいいだろ」
子どもの頭を撫でて言ってやると、むくれていた子どもは嬉しそうに微笑んだ。
「たまには親子水入らずもいいが、ちゃんと学校にも行かせなさいよ」
ぽんと免許証が返される、俺は警官に分かりましたと手を上げて、ドアを閉めてエンジンをかけた。 警官に見送られて車は滑らかに進みはじめた。
「ありがとう、さっきは助かったよ」
「おじさんがいなくなるとあたしも困るから」
「お礼にアイス買ってあげるよ」
「うんん、アイスはいらない」
子どもは首を横に振るった。アイス”は”と言うくらいだから他には欲しいものがあるのだろう。
「他に欲しいものは?」
赤信号で止まり子どもを見ると、戸惑ったように視線を彷徨わせていた。少しすると心が決まったのか口を開く。
「おじさんは、死んでしまう前に行っておきたいところってある?」
「…、君は?」
「………」
そうか、この子は行きたい場所があったのか。けれど聞き返しても返答がない、信号が青になって車を走らせる。
「どうぶつえん」
ぽつりと零された言葉。
「動物園に行きたい」
死ぬ前に行きたい場所で動物園を上げるこの子が子どもなのだと改めて思い知る。胸元で拳を握りしめるのを横目で見た。
「分かった、動物園行こうか」
子どもがぱっと顔を上げて、ほっとしたように頷いた。とはいえ俺はこの土地を知らない、何処に動物園があるのかも知らない。人に聞くか、なんてことを思ったのも一瞬。遠出をしない俺が、車を買った時に子供が出きた時に遊びに行くかもしれないとつけたカーナビがあった。結局、妻との間に子供はなかった。1度流れてしまってから出来なくなってしまった。いや、今は妻の話はいい。
「おじさん…?」
気持ちが暗くなった俺を感じ取ったのか、隣から心配そうな声がかかった。なんでもないと首を横に振るって笑顔を作ろうとしたけれど、どうにも乾いたものになった。それもそうだ、ここ数日笑顔なんて出来ていない。
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「目的地を設定しました」
機械音声が告げて、車を走らせる。車を走らせている最中に子どものお腹がきゅるると鳴ったので、昨日の残りのおにぎりを食べていいことを伝えた。後部座席にあったコンビニの袋を開いた女の子の顔が嬉しそうに輝く。
「シーチキンだっ!……あっ、でもおじさんもシーチキンがいい?」
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