1 / 3
プロローグ
しおりを挟む
気づくと扉の前に居た。どうやってここまで来たのか、どうしてこの前に立っているのかさっぱり分からない。見知らぬ街だが周りには人も居るし、建物だってある、なのにその扉だけがやけに目に付いた。特別なこともない木目の扉なのに俺を惹き付けてやまない何かがあり、気づくと何も考えないで俺はその扉のノブに手をかけていた。
おい、どうして俺は入ろうとしている?この先になにがあるのか知らないのに。どうして、どうして、思考と行動が一致しないまま扉を引いて中へと踏み出した。眩しくて目が開けられなくて俺は目を瞑る、でも何が眩しかったのか分からずに恐る恐る目を開く、そこにあったのはなんてことの無いカフェ。
どうして俺はあんなに眩しく感じたのだろう?客だってちらほら居るしおかしなところなんてなにもない。
なんだ。普通じゃないか。けれど自分で入っておきながら戸惑う。別に喉だって渇いていないし、そもそもカフェなんてしゃれた場所に俺はあまり入らない、なのになんでここに入ったんだ?
「いらっしゃいませ」
疑問に首を傾げていると給仕服を着た男性が声をかけてきて、どうしようかと迷う。別に目的があってここに来たわけじゃない、どうしよう。
「こちらへどうぞ」
俺が戸惑っている間もその男性はどんどん席へと案内する。ここで帰るのもおかしいので、コーヒー一杯くらいならいいかと考えつつ俺は案内された窓際の席へと座った。
「お客様、こちらへのご来店は初めてでございますか?」
男性の綺麗な声が俺へと問いかけた。
「え、は、はい」
戸惑いながら頷いて戸惑う、なにか特別なことがここのカフェでは必要なのだろうか。
「それではメニューのご説明をさせていただきますね」
そういうと何故かその給仕は俺の前の席へと座って更に戸惑う、普通店員は立っているものじゃないのか?どうして客と一緒に座ってるんだ?俺の動揺をよそに給仕は白の装丁をされたメニュー表を広げた。
おしゃれな文字で書かれているが、俺が思っていたメニュー表と違ってただ値段だけが並んでいる。上から500円コース、5000円コース、50000円コース、500000円コース、ってちょっと待て待て!どこまで値段が上がっていくんだよ!!500円の次が5000円しか無いなんてそんな馬鹿な!
「お客様が御覧になっていただいたとおり、こちらのコースがございます」
「はあ」
それしか返事できない。というかカフェでコースってどういうこと?ケーキセットのコースとか?全世界のコーヒーフルコースとか?
「当店はお客様の願いを叶えさせていただいております」
え?
「金額によりその願いの幅や質は変わってきますが、最低コースであろうともきちんと願いは達成されます。細やかなご要望があるようでしたら金額を上げていただければある程度の細かな願いも叶えることが出来ます」
え、なに、なんなの?新手の詐欺?
「注意事項と致しましては、多額の金額を積まれても「お金が沸いてくる泉を発見する」「魔法使いになる」「人の感情を歪めて欲しい」「人に害のある願い」、たとえば人を殺して欲しい、などという人を不幸にするような願いは受け付けられません。
他にも細かく叶えられない願いというものは存在しておりますが、そちらのご要望を聞き無理な場合は金額を払われる前に確実にこちらから伝えますので、お金を払ったのに願いが達成されていないなんてことにはなりませんのでご安心ください。
ただ値段設定を低くされて求めていた願いと食い違っているというようなことがございましても、わたくし共はそちらがおっしゃられた希望通りに願いを叶えていますので、その願いが達成されたとこちらが受理した後には対応できかねますのでご了承ください。何か質問はございますか?」
綺麗な声で色々と語ってくれて、質問はございますか?なんて質問されても俺にはさっぱり意味が分からない。
「え……えぇと、ここってなんですか?」
「お客様の願いを叶える場所です」
そうだ、初めにそんなことを言っていた。
まさか、とかそんな馬鹿な、詐欺か。とか色々な考えが浮かぶけれども俺の頭の中はほとんど真っ白だった。当然だろう、こんな非現実的なことああそうですかなんて簡単に信じられるほうがおかしい。
でもそうだな。5000円なんて大きな金額は出せないけれど(それ以上の金額は俺の金銭感覚には含まれていない多額の金である)500円くらいだったら騙されたっていいかもしれない。
「じゃあ。500円コース。でお願いします」
もしこれが詐欺だとしても500円ならあきらめがつく。
「分かりました。お客様の願いはなんですか?こちらの紙へどうぞお書きください」
願い事と随分ファンシーに書かれた紙を差し出されて俺は早くも後悔した。女子なら大喜びするかもしれない、女子っていうのは占いとか好きみたいだから。これもそういうものかもしれない。
でもはてと俺のペンは止まってしまう、ピンと来る願い事がない、願い事、願い事、どうしようか。
テストで100点?…そんなの願ってない、別に何点だってかまわない、お金持ちになる、うん素敵だ。でも金銭に関することは駄目だって言ってたな。
うーん、うーん……、あ、そうだ。俺はさらさらとペンを走らせる。願い事はこうだ。
素敵な恋人が出来ますように
うん。なかなかいい願い事だ。今まで恋人が欲しいなんて騒いだことはなかったけれど、かわいい女の子とデートするのはきっと楽しい、ふわふわしてて笑顔がかわいい素敵な女の子がいい、恋人が出来たらとても大切にしよう、相手の望んでいることを出来るだけかなえてあげたい。
でもなんだか少女染みた願い事で、恥ずかしい気持ちも沸いてきた。
俺の願い事を見た給仕の男性はにこりと微笑んだ。
「とても、素敵な願い事ですね」
そう言われて恥ずかしさが更に増す。
「あなたの願い事、承りました」
おい、どうして俺は入ろうとしている?この先になにがあるのか知らないのに。どうして、どうして、思考と行動が一致しないまま扉を引いて中へと踏み出した。眩しくて目が開けられなくて俺は目を瞑る、でも何が眩しかったのか分からずに恐る恐る目を開く、そこにあったのはなんてことの無いカフェ。
どうして俺はあんなに眩しく感じたのだろう?客だってちらほら居るしおかしなところなんてなにもない。
なんだ。普通じゃないか。けれど自分で入っておきながら戸惑う。別に喉だって渇いていないし、そもそもカフェなんてしゃれた場所に俺はあまり入らない、なのになんでここに入ったんだ?
「いらっしゃいませ」
疑問に首を傾げていると給仕服を着た男性が声をかけてきて、どうしようかと迷う。別に目的があってここに来たわけじゃない、どうしよう。
「こちらへどうぞ」
俺が戸惑っている間もその男性はどんどん席へと案内する。ここで帰るのもおかしいので、コーヒー一杯くらいならいいかと考えつつ俺は案内された窓際の席へと座った。
「お客様、こちらへのご来店は初めてでございますか?」
男性の綺麗な声が俺へと問いかけた。
「え、は、はい」
戸惑いながら頷いて戸惑う、なにか特別なことがここのカフェでは必要なのだろうか。
「それではメニューのご説明をさせていただきますね」
そういうと何故かその給仕は俺の前の席へと座って更に戸惑う、普通店員は立っているものじゃないのか?どうして客と一緒に座ってるんだ?俺の動揺をよそに給仕は白の装丁をされたメニュー表を広げた。
おしゃれな文字で書かれているが、俺が思っていたメニュー表と違ってただ値段だけが並んでいる。上から500円コース、5000円コース、50000円コース、500000円コース、ってちょっと待て待て!どこまで値段が上がっていくんだよ!!500円の次が5000円しか無いなんてそんな馬鹿な!
「お客様が御覧になっていただいたとおり、こちらのコースがございます」
「はあ」
それしか返事できない。というかカフェでコースってどういうこと?ケーキセットのコースとか?全世界のコーヒーフルコースとか?
「当店はお客様の願いを叶えさせていただいております」
え?
「金額によりその願いの幅や質は変わってきますが、最低コースであろうともきちんと願いは達成されます。細やかなご要望があるようでしたら金額を上げていただければある程度の細かな願いも叶えることが出来ます」
え、なに、なんなの?新手の詐欺?
「注意事項と致しましては、多額の金額を積まれても「お金が沸いてくる泉を発見する」「魔法使いになる」「人の感情を歪めて欲しい」「人に害のある願い」、たとえば人を殺して欲しい、などという人を不幸にするような願いは受け付けられません。
他にも細かく叶えられない願いというものは存在しておりますが、そちらのご要望を聞き無理な場合は金額を払われる前に確実にこちらから伝えますので、お金を払ったのに願いが達成されていないなんてことにはなりませんのでご安心ください。
ただ値段設定を低くされて求めていた願いと食い違っているというようなことがございましても、わたくし共はそちらがおっしゃられた希望通りに願いを叶えていますので、その願いが達成されたとこちらが受理した後には対応できかねますのでご了承ください。何か質問はございますか?」
綺麗な声で色々と語ってくれて、質問はございますか?なんて質問されても俺にはさっぱり意味が分からない。
「え……えぇと、ここってなんですか?」
「お客様の願いを叶える場所です」
そうだ、初めにそんなことを言っていた。
まさか、とかそんな馬鹿な、詐欺か。とか色々な考えが浮かぶけれども俺の頭の中はほとんど真っ白だった。当然だろう、こんな非現実的なことああそうですかなんて簡単に信じられるほうがおかしい。
でもそうだな。5000円なんて大きな金額は出せないけれど(それ以上の金額は俺の金銭感覚には含まれていない多額の金である)500円くらいだったら騙されたっていいかもしれない。
「じゃあ。500円コース。でお願いします」
もしこれが詐欺だとしても500円ならあきらめがつく。
「分かりました。お客様の願いはなんですか?こちらの紙へどうぞお書きください」
願い事と随分ファンシーに書かれた紙を差し出されて俺は早くも後悔した。女子なら大喜びするかもしれない、女子っていうのは占いとか好きみたいだから。これもそういうものかもしれない。
でもはてと俺のペンは止まってしまう、ピンと来る願い事がない、願い事、願い事、どうしようか。
テストで100点?…そんなの願ってない、別に何点だってかまわない、お金持ちになる、うん素敵だ。でも金銭に関することは駄目だって言ってたな。
うーん、うーん……、あ、そうだ。俺はさらさらとペンを走らせる。願い事はこうだ。
素敵な恋人が出来ますように
うん。なかなかいい願い事だ。今まで恋人が欲しいなんて騒いだことはなかったけれど、かわいい女の子とデートするのはきっと楽しい、ふわふわしてて笑顔がかわいい素敵な女の子がいい、恋人が出来たらとても大切にしよう、相手の望んでいることを出来るだけかなえてあげたい。
でもなんだか少女染みた願い事で、恥ずかしい気持ちも沸いてきた。
俺の願い事を見た給仕の男性はにこりと微笑んだ。
「とても、素敵な願い事ですね」
そう言われて恥ずかしさが更に増す。
「あなたの願い事、承りました」
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
美澄の顔には抗えない。
米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け
高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。
※なろう、カクヨムでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる