闇の王と菫青石の宝珠〜侯爵令嬢ですが、失踪した兄を捜すついでにイケメンだらけの騎士団に潜入して、魔物討伐も行って参りますっ!〜

藤原 清蓮

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第5章 侯爵令嬢、奮闘する

第57話 精霊王③(side お父様)

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 精霊王は、先程とは一変し、諭すような柔らかな口調で言った。

『ヒューバート。残念だが、あの花で人の命を救うことは出来ぬのだ……』

 その言葉に私は酷く驚き、思わず大声を発した。

「ッ! そ、そんな筈はありません! 植物図鑑にも、あらゆる病を治すとありました!」

 精霊王は、ゆるゆると首を左右に振る。

『それは、人の書いた図鑑であろう? ここに棲む我の言葉の方が真実であるとは、思わぬのか?』
「……そ……それは……」
『人間が出鱈目に書いた記述が、たまたま本当に、この崖に棲息していた。今までも、幾人かの人間がやって来たが、誰もが無事に帰れてはおらぬ……』

 私は……。
 本当は、わかっていた。

 精霊王が言うのだ。

 その通りだろうと。
 本当は頭の隅で、分かっていたのだ。

 その様な花が本当にあるのならば、市場に出回っていたとしても、おかしくはないのだから。
 それでも、諦めきれない私の顔は、きっと涙を堪え醜く歪んでいた事だろう。ひざまずいていた私の前に、精霊王は音もなくしゃがんだ。

 半透明な手を私の頬に当て『すまない……』と、寂しげに呟く。

 暫し、何かを考えるように口を噤むと『少し待っておれ。数本、手折って来よう』と言い、ふっと目の前から姿を消した。と、思いきや、すぐに十本以上の花を持って、再び私の目の前に現れた。

『これを持っていけ』
「え……」
『これで命を繋ぎ止めることは出来ぬ。だが、希望を持つ事は、出来るものだ』

 私は震える手で花を受け取る。それを見た精霊王は素早く立ち上がると、柔らかな手付きで風を生み出した。その風は私を立たせ、背中を押す。

『さぁ、もう行け。二度とここへ来るでないぞ?』
「しかし……!」
『ヒューバート。ここは人間にはとても危険な場所だ。今回は、お前は運が良かった。拙い風を操るお前を、風の精霊達がお前を気に入り助けた。今まで、ここで助かった人間は居ない。お前と、お前の先祖であるルイス以外は、な』

 その言葉に、私は驚き目を見開く。

『さぁ、分かったら花を持って帰れ。二度と来るで無いぞ。約束だ』

 再び少し強い風が、私の背中を押した。自然と足が先へ進む。

「あ、あの!」
『元気でな』

 私がもう近づく事が出来ないよう、精霊王は小さな旋風を起こした。
 私は風に背中を押されるままに、森を出て邸へと帰った。

 精霊王のいう通り、花の蜜を抽出した薬を飲んでも、母上の病が治る事はなかった。しかし、精霊王のいったとやらが、ほんの少しだけ母上に力を与えた。あと数日の命だった母上は、二年、大きな痛みに苦しむ事もなく、穏やかな生活を送り、眠る様に静かに亡くなった。


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