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39白き証、旅立ちの刻
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マルコ三世に礼を述べ、
〈セイクリオン大聖殿〉を辞した俺たちは、
その足で冒険者ギルドへと向かった。
ギルド長への礼を果たすため。
そして――
隠れ里〈セフィラ〉へ向かうための準備を整えるためだ。
俺たちは、ギルド併設の食堂で一つのテーブルを囲み、
道順、必要な装備、想定される危険について話し合っていた。
レグナスが地図を広げ、指で山脈をなぞりながら言った。
「ざっと見て……徒歩で十日ほど、というところか。ふむ、少し距離があるな」
「受付嬢から聞いたが、隠れ里〈セフィラ〉は山奥にあって、
人里から大きく離れているらしい。」
オルフィナが説明を引き継ぐ。
「古くから“魔道の聖地”とも呼ばれていて、
その神秘性ゆえに隠れ里と称されているのだとか」
「そろそろ気候もよくなる頃だし、荷物は少なめでも大丈夫そうだね」
エリオットが軽い調子で言う。
「だが、〈セフィラ〉までの途中には中継地はなさそうだ」
俺は地図を見直して判断する。
「念のため、保存食は多めに持っていこう」
そんな中――
俺は、先ほどから落ち着きなく身じろぎしているアヤメの様子に気づいた。
視線が合うと、
彼女は小さく肩をすくめ、口を開きかけては閉じる。
どうやら、
何か言いたいことがあるらしい。
「アヤメ。
何か、言いたいことがあるのか?」
俺がそう声をかけると、
皆の視線が一斉にアヤメへと集まった。
アヤメは、はっとしたように背筋を伸ばし、
少しだけ緊張した面持ちで、控えめに口を開く。
「皆様。
大切な旅のご相談の最中に、申し訳ございません」
一拍置いてから、
意を決したように続けた。
「私事で恐縮ですが……
実は、今日が誕生日で……
十六歳になりました」
一瞬の沈黙。
そして――
ぱっと、場の空気が明るくなる。
「なんだ、早く言ってよ!誕生日おめでとう!プレゼントは何がいい?」
エリオットが身を乗り出し、
すっかり浮き足立っている。
「十六歳か。つまり、成人だな」
オルフィナが、感慨深げに頷いた。
「アヤメも、もう大人というわけだ。時間が経つのは早いものだな」
「めでたいことだ。」
レグナスも、柔らかな声で言う。
「今夜は、ささやかでも祝宴としよう」
「皆様……ありがとうございます」
アヤメは深く頭を下げるが、
どうにも言葉が続かない様子だった。
皆が次々と祝いの言葉を口にする中、
彼女は何度も口を開きかけては、
遠慮がちに引っ込めてしまう。
その姿を見て、
俺はふと、去年聞いたアヤメの父バンジの言葉を思い出した。
――アヤメは今年十五歳。
来年には成人し、正式に冒険者登録ができますが……。
そこまで思い至って、
俺は、ようやく合点がいった。
「……そうか、アヤメ」
俺は、そっと声をかける。
「冒険者登録をしたい、ということだな?」
次の瞬間――
アヤメの顔が、ぱっと明るくなった。
「はい!
そうなんです!」
待ってましたと言わんばかりに、元気よく頷く。
「ああ……
そういえば、まだ見習いだったな」
オルフィナが、思い出したように言い、
アヤメの頭を優しく撫でた。
「すっかり、一人前だと思っていたぞ」
「丁度いい」
レグナスが、穏やかに言葉を重ねる。
「このギルドで、正式に登録するといい。
旅立つ前に済ませておくのが望ましいだろう」
こうして――
アヤメは受付へと向かい、冒険者登録の手続きを始めた。
「では、こちらの用紙に、
お名前と年齢を……」
受付嬢の説明を受けるアヤメの背後から、
俺たちは自然と身を乗り出してしまう。
新米冒険者の登録手続きを、
Sランク冒険者と聖堂騎士団団長が揃って覗き込む――
端から見れば、なかなか異様な光景だろう。
「……あの、皆さん。
少し、離れていただけますか?」
受付嬢にやんわりとたしなめられ、
俺たちは慌てて一歩下がった。
ほどなくして、
アヤメは戻ってきた。
胸元には、
Fランク冒険者の証である白いプレートが揺れている。
実力に関わらず、冒険者は皆ここが出発点だ。
それでも――
アヤメの表情は、誇らしげだった。
念願だった「正式な冒険者」になれたのだから、
その気持ちは、痛いほど分かる。
この姿を、
父親のバンジにも見せてやりたかった――
そんな思いが、胸をよぎる。
そのあと、新人冒険者向けの講習が二時間ほどあるらしく、
アヤメは案内役に連れられて奥へと姿を消した。
「しかし、自分たちも初めて冒険者登録したときのことを思い出すな」
オルフィナが懐かしむように言った。
「……あのころの俺は、すでにリオの影響で天狗になっていてな。
正直、白いプレートを素直に喜べなかった。今思うと、残念なことだ」
俺は苦笑しながら肩をすくめる。
「えー? ぼくは結構うれしかったけどね」
エリオットは飄々(ひょうひょう)とした声で言い、
こちらの肩の力を抜かせた。
そんな軽口を交わしつつ、俺たちはそのまま旅の計画を詰めていった。
地図を広げたり、装備の確認をしたり、
今日のうちに済ませておくべきことを話し合っているうちに
アヤメが講習から戻ってきた。
胸の白いプレートをそっと押さえながら、弾むように近づいてくる。
「講習、どうだった?」
俺がたずねると、
「とても……大変ためになりました!」
アヤメはキラキラした目で答えた。
一呼吸置いて、うれしそうに続ける。
「それで……
一緒に講習を受けた皆さんから、
パーティーを組まないかって、たくさんお誘いをいただいて……
すでに加入済みだって断るのが大変でしたけど……でも、
すっごく嬉しかったです!」
その笑顔は、心からの誇りと喜びがそのまんま表情になったような、
まぶしさだった。
(まあ……こんなキュートな新米冒険者がいたら、そりゃ誰だって誘うわな)
俺は内心で深く頷く。
特に男連中の行動は、目に浮かぶようだった。
「ふふん、アヤメは人気者だな」
オルフィナがからかうように笑い、
アヤメは照れくさそうに頬を赤らめ、
両手で胸元のプレートをぎゅっと握りしめた。
――こうして、俺たちの仲間はまた一歩、大きく前に進んだのだ。
〈セイクリオン大聖殿〉を辞した俺たちは、
その足で冒険者ギルドへと向かった。
ギルド長への礼を果たすため。
そして――
隠れ里〈セフィラ〉へ向かうための準備を整えるためだ。
俺たちは、ギルド併設の食堂で一つのテーブルを囲み、
道順、必要な装備、想定される危険について話し合っていた。
レグナスが地図を広げ、指で山脈をなぞりながら言った。
「ざっと見て……徒歩で十日ほど、というところか。ふむ、少し距離があるな」
「受付嬢から聞いたが、隠れ里〈セフィラ〉は山奥にあって、
人里から大きく離れているらしい。」
オルフィナが説明を引き継ぐ。
「古くから“魔道の聖地”とも呼ばれていて、
その神秘性ゆえに隠れ里と称されているのだとか」
「そろそろ気候もよくなる頃だし、荷物は少なめでも大丈夫そうだね」
エリオットが軽い調子で言う。
「だが、〈セフィラ〉までの途中には中継地はなさそうだ」
俺は地図を見直して判断する。
「念のため、保存食は多めに持っていこう」
そんな中――
俺は、先ほどから落ち着きなく身じろぎしているアヤメの様子に気づいた。
視線が合うと、
彼女は小さく肩をすくめ、口を開きかけては閉じる。
どうやら、
何か言いたいことがあるらしい。
「アヤメ。
何か、言いたいことがあるのか?」
俺がそう声をかけると、
皆の視線が一斉にアヤメへと集まった。
アヤメは、はっとしたように背筋を伸ばし、
少しだけ緊張した面持ちで、控えめに口を開く。
「皆様。
大切な旅のご相談の最中に、申し訳ございません」
一拍置いてから、
意を決したように続けた。
「私事で恐縮ですが……
実は、今日が誕生日で……
十六歳になりました」
一瞬の沈黙。
そして――
ぱっと、場の空気が明るくなる。
「なんだ、早く言ってよ!誕生日おめでとう!プレゼントは何がいい?」
エリオットが身を乗り出し、
すっかり浮き足立っている。
「十六歳か。つまり、成人だな」
オルフィナが、感慨深げに頷いた。
「アヤメも、もう大人というわけだ。時間が経つのは早いものだな」
「めでたいことだ。」
レグナスも、柔らかな声で言う。
「今夜は、ささやかでも祝宴としよう」
「皆様……ありがとうございます」
アヤメは深く頭を下げるが、
どうにも言葉が続かない様子だった。
皆が次々と祝いの言葉を口にする中、
彼女は何度も口を開きかけては、
遠慮がちに引っ込めてしまう。
その姿を見て、
俺はふと、去年聞いたアヤメの父バンジの言葉を思い出した。
――アヤメは今年十五歳。
来年には成人し、正式に冒険者登録ができますが……。
そこまで思い至って、
俺は、ようやく合点がいった。
「……そうか、アヤメ」
俺は、そっと声をかける。
「冒険者登録をしたい、ということだな?」
次の瞬間――
アヤメの顔が、ぱっと明るくなった。
「はい!
そうなんです!」
待ってましたと言わんばかりに、元気よく頷く。
「ああ……
そういえば、まだ見習いだったな」
オルフィナが、思い出したように言い、
アヤメの頭を優しく撫でた。
「すっかり、一人前だと思っていたぞ」
「丁度いい」
レグナスが、穏やかに言葉を重ねる。
「このギルドで、正式に登録するといい。
旅立つ前に済ませておくのが望ましいだろう」
こうして――
アヤメは受付へと向かい、冒険者登録の手続きを始めた。
「では、こちらの用紙に、
お名前と年齢を……」
受付嬢の説明を受けるアヤメの背後から、
俺たちは自然と身を乗り出してしまう。
新米冒険者の登録手続きを、
Sランク冒険者と聖堂騎士団団長が揃って覗き込む――
端から見れば、なかなか異様な光景だろう。
「……あの、皆さん。
少し、離れていただけますか?」
受付嬢にやんわりとたしなめられ、
俺たちは慌てて一歩下がった。
ほどなくして、
アヤメは戻ってきた。
胸元には、
Fランク冒険者の証である白いプレートが揺れている。
実力に関わらず、冒険者は皆ここが出発点だ。
それでも――
アヤメの表情は、誇らしげだった。
念願だった「正式な冒険者」になれたのだから、
その気持ちは、痛いほど分かる。
この姿を、
父親のバンジにも見せてやりたかった――
そんな思いが、胸をよぎる。
そのあと、新人冒険者向けの講習が二時間ほどあるらしく、
アヤメは案内役に連れられて奥へと姿を消した。
「しかし、自分たちも初めて冒険者登録したときのことを思い出すな」
オルフィナが懐かしむように言った。
「……あのころの俺は、すでにリオの影響で天狗になっていてな。
正直、白いプレートを素直に喜べなかった。今思うと、残念なことだ」
俺は苦笑しながら肩をすくめる。
「えー? ぼくは結構うれしかったけどね」
エリオットは飄々(ひょうひょう)とした声で言い、
こちらの肩の力を抜かせた。
そんな軽口を交わしつつ、俺たちはそのまま旅の計画を詰めていった。
地図を広げたり、装備の確認をしたり、
今日のうちに済ませておくべきことを話し合っているうちに
アヤメが講習から戻ってきた。
胸の白いプレートをそっと押さえながら、弾むように近づいてくる。
「講習、どうだった?」
俺がたずねると、
「とても……大変ためになりました!」
アヤメはキラキラした目で答えた。
一呼吸置いて、うれしそうに続ける。
「それで……
一緒に講習を受けた皆さんから、
パーティーを組まないかって、たくさんお誘いをいただいて……
すでに加入済みだって断るのが大変でしたけど……でも、
すっごく嬉しかったです!」
その笑顔は、心からの誇りと喜びがそのまんま表情になったような、
まぶしさだった。
(まあ……こんなキュートな新米冒険者がいたら、そりゃ誰だって誘うわな)
俺は内心で深く頷く。
特に男連中の行動は、目に浮かぶようだった。
「ふふん、アヤメは人気者だな」
オルフィナがからかうように笑い、
アヤメは照れくさそうに頬を赤らめ、
両手で胸元のプレートをぎゅっと握りしめた。
――こうして、俺たちの仲間はまた一歩、大きく前に進んだのだ。
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