勇者の様子がおかしい

しばたろう

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最終章2

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 俺たちは、眠りの森を抜けた。
 鬱蒼とした木々が途切れ、視界が一気に開ける。

 その先――
 小高い丘の上に、黒々とそびえ立つ魔王城があった。

 圧倒的な存在感。
 石壁は夜を吸い込むように暗く、尖塔は空を裂くかのように天へと伸びている。

 あの城には、無数の魔王軍の兵が待ち構えているはずだ。
 だが、俺たちは勇者パーティ。

 正面からぶつかる必要はない。
 敵を避け、かわし、隙を突き――
 最短距離で、魔王のもとへ辿り着く。

 俺たちは慎重に進んだ。
 時には、避けきれぬ敵と刃を交え。
 時には、物音ひとつ立てずに背後をすり抜け。
 城の奥へ、奥へと踏み込んでいく。

 そして――
 幾度目かの回廊を越えた先で、ついに辿り着いた。

 玉座の間。
 
 まがまがしい魔力があたりを覆う。
 
 そこにいたのは、
 魔王ヴァルガディオス。

 巨大な体躯。
 玉座に深く腰を下ろし、漆黒の鬼のような形相で、こちらを見下ろしている。

「ようやく来たか。勇者ども」

 低く、重い声が、広い玉座の間に反響する。

「愚かな人間どもよ。ここで決着をつけようぞ」

 魔王が立ち上がる。
 その一挙手一投足に、空気が震えた。

 反射的に、
 俺たちは陣形を整える。

 ――その時だ。

「ちょっと、待った」

 マルクが、前に出て声を上げた。

「……ほう?」

 魔王が、怪訝そうに目を細める。

「どうした、勇者よ。
 まさか、ここに来ておじけづいたか?」

 嘲るような笑み。

 だが、マルクは気にも留めず、はっきりと言い切った。

「停戦を提案する!」

 その言葉に、俺は思わず息を呑んだ。
 想定外だ。

 サミュエルも、エリオも、言葉を失っている。

 マルクは続ける。

「人間と魔族は、本当に戦う必要があるのか?」
「共に生きる道を、探すことはできないのか?」

 その声音は、真剣そのものだった。

 ――なるほど。
 俺は、腹の底で納得する。

 眠りの森で見た光景。
 魔族の女たち。
 理不尽と、それに抗えぬ現実。

 マルクが見てきたもの、感じてきたもの。
 それが今、飾りのない言葉となって、ここにある。

 しかし――

 魔王ヴァルガディオスは、大きく笑った。

「くくく……こざかしい!」
「なぜ、そのような回りくどいことをする必要がある?」
「弱小な人間どもなど、ひとひねりで十分よ!」

 玉座の間に、嘲笑が響き渡る。

 マルクは、小さく息を吐いた。

「……やはり、通じぬか」

 そして、鋭く目を細める。

「残念だ。古い時代の遺物め」

 吐き捨てるように言い放ち、
 マルクは、魔王へと突進した。

 ――戦いは、避けられない。

 俺も、迷わずマルクの背を追う。

 背後で、サミュエルの詠唱が響き渡る。
 魔力の奔流が、空気を震わせる。

 そして、
 エリオの放った矢が、俺たちを追い越し、
 一直線に、魔王ヴァルガディオスを襲った。

 決戦の幕が、いま、切って落とされた。
 


「小癪な!」

 魔王は吼え、無数の火球を解き放った。
 エリオの矢は炎に焼かれ、
 マルクと俺は、かろうじて身をかわす。

 だが――
 火球は止まらない。
 次々と、容赦なく、降り注ぐ。

 なんという、物量。

 サミュエルの防壁呪文が展開される。

 見えない壁に火球が叩きつけられ、
 爆ぜ、散り、魔力の火花が宙を舞う。

 その隙に、
 俺とマルクは間合いを詰めた。

 俺は、魔王めがけて斬撃を放つ。
 魔王は、見たこともないほど巨大な大剣を引き抜き、
 俺の一撃を、軽々と弾き返した。

 ――重い。

 腕に、骨に、内臓にまで響く衝撃。

 だが、退かない。

 盾となり、囮となる。
 それが、俺の役目だ。

 マルクは、魔王の周囲をぐるぐると回りながら、
 詠唱を重ねていく。

 サミュエルが火球を放つ。

 魔王はそれを大剣で叩き落とし、
 返す刀で、俺に斬撃を浴びせた。

 一撃一撃が、凶悪なほどに重い。

 手がしびれ、
 膝が笑い、
 視界が揺れる。

 意識が、遠のきかける。

 それでも――
 耐えねばならない。

 刹那。

 横合いから、一本の矢が放たれた。
 エリオの矢だ。

 不意を突かれ、魔王がそれを払う。

 ほんの、わずかな隙。

 一瞬だった。

 魔王の懐に、
 マルクがいた。

 まるで、最初からそこにいたかのように。

 次の瞬間――
 マルクの剣が、
 魔王の心臓を、正確に貫いた。

 魔王は、何が起きたのか理解できないといった顔で、
 マルクを見下ろす。

 マルクと、魔王の目が合う。

「……単調なんだ。お前は」

 かすれた声で、マルクがつぶやいた。

 魔王は、そのまま崩れ落ちる。

 あたりを満たしていた、
 まがまがしい魔力が、霧のように消えていった。

 ――勇者は、魔王を倒した。
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