SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~

しばたろう

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第49章 SE、消えたペットを追う。

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 空気はまだ冬の冷たさを残していたが、
 その中に、ふっと春の気配が混じるようになってきた頃だった。

 レオが意気揚々と、ひとつの依頼を持って帰ってきた。

「おい、マイト! 見ろ、この報酬額! これは“当たり”だ!」

 依頼主は街でも名のある大金持ち。
 依頼内容は――ペット探し。
 名前は「タマ」。北の森へ逃げ込んだらしい。

「金持ちの道楽だな」
 レオはしたり顔でうそぶく。

 タマの特徴は――
・トラ柄
・瞳は愛くるしいイエロー
・大きな赤い鈴のついた首輪
・好物はマタタビ、猫じゃらし

 とのこと。

「捜索系か。マイトの出番だな」
 リオンが言う。

「まあ、危険もなさそうだし、気楽に行こうぜ」
 ルナが軽く笑う。

 皆が軽口を叩いて盛り上がる中、
……俺だけは妙な寒気を覚えていた。

(今のルナの台詞……完全に“フラグ”だろ……)

 この依頼は断るべきだ。
 そう主張しても、誰も聞く耳を持たなかった。

 今回のメンバーは、
 レンジャーの俺、
 戦士レオ、魔法戦士リオン、魔法使いルナ、
 そして、新米僧侶マルコ。


 元僧侶のリオンと新米僧侶マルコが一緒にクエストへ行くのは初めてだ。

「リオンさん、よろしくお願いします!」
「まあ、肩の力抜けよ。マイトに鍛えてもらったんだろ?期待してるぞ。」

 回復役が二人いるのは心強い。

 出発前、ミカ、ハルカ、サオリが見送りに来てくれた。
 
 リオンがサオリに言う。
「俺がいない間、留守を頼む」
 
 ルナがミカに言う。
「心配いらない、すぐに戻る」

 ハルカが俺に言う。
「必ず帰ってきてね」

 ……おい。
 ぜんぶ 死亡フラグ に聞こえるんだが。

 俺の心配をよそに、意気揚々を出発するメンバーたち。
 そして、北の森に到着。

 森は昼でも薄暗く、湿った土と獣の匂いが漂っていた。
 
「さて……どうやって“タマ”を探すかだな。マイト、案はあるか?」
レオが鼻息荒く問う。

「ああ、いい案がある」

 俺は、マタタビを詰め込んだ袋を取り出した。

「これをちょっと『加工』する。」

 《リンク》を取り出してマタタビにカメラを向ける。
 属性がCSS形式で表示される。

.matatabi {
  香りレベル: 10;
  魅了度: 3;
  持続時間: 5;
  有効範囲: 30;
  中毒性: 2;
}

 俺は、
 “香りレベル”と“有効範囲” を 、それぞれ、“1000” に書き換えた。

 瞬間、周囲に とんでもない刺激臭 が充満した。

「ちょっと、やりすぎじゃねえか?」
「まあ、これなら数キロ先からでも嗅ぎつけるだろ。さあ、準備しろ」

 メンバーは思い思いの捕獲道具を取り出す。

 レオ は、 投げ縄。
 リオンは、キャリーケージ
 ルナは、 布袋(誘拐事件のドラマでてくるようなやつ)
 マルコは、虫取り網

(……やばい。こいつら本気で舐めてる。フラグが暴れ狂ってる)

 一時の後、
 不意に、背筋が凍る。

 殺気。

 ガサゴソッ。

 茂みが揺れ、そこから現れたのは――

 トラ柄で、
 瞳は愛くるしいイエローで、
 赤い鈴の首輪をつけた……

サーベルタイガー だった。

 凍り付くメンバー。

「ひっ……!」
 マルコが悲鳴ともつかない声を上げた。

「ほら見たことか。」
 俺だけやけに冷静だった。

「グルルルル……」

 タマと呼ばれし巨獣は、今にも飛びかかってきそうだ。

 その瞬間、仲間たちが一斉に 冒険者の顔 に戻る。

 レオが剣を抜き、前衛に立つ。
 リオンが防御魔法を展開する。
 ルナが攻撃魔法の詠唱に入る。
 俺が叫ぶ。「マルコ。動作遅延呪文だ。」
 「はい!」タマに向けて呪文を発動する。

 空気が張りつめる。

 そして俺は――

「《リンク》、オーバードライブ起動」
「《リンク》、速度向上(アクセル)!」

 身体が軽くなり、視界が伸び、世界が遅くなる。

 一瞬でタマとの距離を詰め、
 
 そして、

 懐から……猫じゃらし を取り出す。

「ほらほらほら……!」

 タマの瞳が猫じゃらしに吸い寄せられる。

 ――食いついた。

「ゴロゴロゴロ……」

 喉を鳴らし始める巨獣。

 すかさず――
 俺はタマの脇腹を……

なでた。

「ふにゃーん……」
 
 おなかを出して寝転がる。
 
 タマは一瞬でデレデレになった。

 こうして俺たちは、サーベルタイガーこと「タマ」を捕獲し、
 無事、街へ連れ帰ることに成功した。

 ◇

 街に戻ると、すぐさま、
 タマを連れて、依頼主の屋敷へ向かった。
 
 街でも噂の大豪邸。
 門は金ピカ、庭は無駄に広く、玄関前にはよくわからない石像が並んでいる。

 扉を叩くと、執事らしき男が無言で案内してくれた。

 広すぎる廊下を抜け、大きな扉を開けた先――

 金色のローブを着た、いかにもな大金持ちが玉座のような椅子に座っていた。

「……おお!タマ!!」

 依頼主は椅子から飛び降り、ものすごい勢いで走ってきた。
 
 タマ(サーベルタイガー)は、
 “ふみゃあああああ” と声にならない甘え声を出し、
 依頼主に飛びついた。
 
 依頼主は、タマを抱きしめながら満面の笑みを浮かべた。

「本当にありがとう、冒険者諸君!
 タマが戻ってきてくれて、これでやっと安心して眠れるよ!」

 俺たちはようやく肩の力を抜いた。

(やれやれ……今回は、死ぬかと思ったぜ……)

 すると依頼主が、ふとこちらを向いた。

「――ああ、そうだ。もうひとつ、依頼があるのだが、受けてくれまいか?」

「……?」

 依頼主は満面の笑みで言った。

「今度は、うちの“ポチ”を探してきてくれないか?」
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