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最終章5 戦士の覚醒
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深夜。
モニターの一台が、突然、警告音を鳴らした。
「解析フェーズ2へ移行……特徴波形を抽出中……」
AIの合成音声が流れ、スクリーンに複数の波形が重なりはじめる。
その数、三百を超えていた。
医師たちも工学研究員も、それぞれのモニターにかじりつく。
「しかし……これじゃ範囲が広すぎる」
「覚醒例の数が少なすぎるのよ、比較が追いつかない」
焦りが室内に濃く散った、その瞬間。
「――ちょっと待って」
朝倉先生が指を止めた。
スクリーンに、一つのグラフが浮かび上がっていた。
それは、他の波形群とは明らかに異なる“尖り”を持っていた。
「これ……覚醒直前にだけ現れている?」
工学主任が表示を拡大する。
「……いや。違う。
覚醒の“数十秒前”に出現して……
その後、一度だけ強くスパイクしている……!」
キララが息を飲む。
その波形はまるで――
暗闇の中にひと筋の光が差すようだった。
「先生……これ、何なんですか?」
キララの問いに、朝倉先生は静かな声で答えた。
「“夢が終わる瞬間”の波形よ」
研究室の空気が凍りつく。
「人の意識は、浅い睡眠から目覚めるとき、
数秒だけ、局所と全体が同時に“同期”することがあるの。
いわば、夢から現実への橋渡し
……意識の“帰還波形”と言われているわ」
朝倉先生は、もう一度その波形を指し示した。
「これが……兄さんが夢の世界から戻ってきた“証拠”よ」
キララの唇が震えた。
「……兄さん……自力で、戻ったんだ……」
「ええ。そして、そのとき彼の脳に刻まれた“覚醒サイン”がこれなの」
工学主任が、ホワイトボードにマーカーで式を書き殴る。
「ここから逆算すれば……“覚醒刺激”を作れる。
この波形を、人工的に――」
そこまで言いかけて、キララがぽつりと言った。
「……夜明け、みたい……」
全員が彼女を見た。
「だって、暗い波形の中に……
一瞬だけ、光が差すみたいで」
たしかにその波形は、闇夜に揺らめくオーロラのようにも見えた。
ゆっくりと立ち上がり、最後にひとつだけ鋭く輝く。
「名前をつけましょう」
朝倉先生が言った。
キララは少し迷い、そして静かに答えた。
「――《オーロラ・パルス》」
研究室の誰もが、その名を否定しなかった。
工学主任が深くうなずく。
「夜明けを告げる……か。
いい名だ。科学的にも詩的にも、申し分ない」
モニターに新たなステータスが現れた。
《刺激プロトコル構築フェーズへ移行》
AIが低い唸りをあげ、無数の計算が走り始める。
研究室に、わずかな緊張と――希望が生まれた。
こうして、
“夢の終端波形”を再現する唯一の信号――
《オーロラ・パルス》が誕生した。
翌日。
研究棟の空気は、一夜にしてまったく別物になっていた。
AIが生成した《オーロラ・パルス》は、
医学班・工学班の手によって、
すでに“実行可能な刺激”へと変換が進んでいた。
脳全体を包み込む低周波。
特定領域を軽く叩く高周波。
そして、意識回復を促す微弱電流。
それらすべてを、たった一つの“波形”に合わせて同期させる。
言葉にすれば簡単だが、実際はとんでもなく繊細で、危険な作業だった。
「同期率 92%……93……まだ上がる……!」
工学主任が息を詰める。
「刺激値、上限ギリギリです。安全域に収まっています」
「過負荷警告なし。波形の乱れなし。……完璧だ」
朝倉先生が端末を操作し、最終チェックを始める。
「……よし。
《オーロラ・パルス》の実装完了」
その一言で、部屋の空気がふっと揺れた。
だが、その直後。
キララが先生を見つめ、かすかに声を震わせた。
「これで……本当に、起きるの?」
朝倉先生は、わずかに目を細めた。
「保証はできないわ。
医学的に見れば、これは“前例のない挑戦”だから。
でも――あの波形は、確かにあなたのお兄さんを救った。
それだけは事実よ」
キララはゆっくり、深くうなずいた。
◇
夕刻。
実験の準備はすべて整い、病院の一角にある特別病室に機材が運び込まれた。
そこには――
白いカーテンの並ぶ静かな空間が広がっていた。
三つのベッド。
規則正しい電子音。
眠るレオ。
眠るリオン。
眠るルナ。
どの顔も穏やかで、まるで異世界で戦っていた勇ましい姿が嘘のようだった。
(……本当に、お前たちまで来ていたんだな)
俺は三人の顔を順番に見つめた。
胸の奥が熱くなる。
あの世界で共に笑い、戦い、死線をくぐり抜けた仲間たち。
言葉はいらないほどの絆を築いた仲間たち。
その全員が、この現実世界でも――眠ったままだ。
「兄さん」
後ろからキララが声をかけてきた。
目を赤くしながら、それでも必死に強く立とうとしている姿だった。
「……ごめんね。
兄さん、ひとりじゃなかったのに……
私、ずっと兄さんのことばかり考えてて……」
「キララ。お前のせいじゃない」
俺は静かに首を振った。
「むしろ、ありがとう。
お前が動いてくれなきゃ……俺は今も眠ったままだった」
その言葉に、キララの瞳が揺れ、ほんの少しだけ涙が光った。
「それに――」
俺は三人のベッドに向き直る。
「こいつらは、お前が思ってる以上にタフだ。
魔物も罠も、不条理な世界のルールも全部ぶっ壊してきた連中だ。
《オーロラ・パルス》くらい、きっと乗り越える」
キララが弱く笑う。
「兄さん……そういうところ、変わってないね」
そこへ朝倉先生が入室してきた。
表情には緊張も焦りもない。
ただ、静かな決意があった。
「装置の準備が整ったわ。
――開始しましょう」
工学班のスタッフが次々と操作端末につき、
脳波計・刺激装置・同期機構が淡い光を放ち始める。
病室の空気が、一気に張りつめた。
「第一対象は……神谷 獅子(カミヤ レオ)さんから行くわ。
覚醒波形は個人差があるけれど、
強靭な身体の人ほど成功率が高い傾向があるの」
キララが小さく息を呑んだ。
「では――」
朝倉先生が静かに告げる。
「《オーロラ・パルス》投与シーケンス、開始します」
機材が微かに振動し、音もなく光が走る。
レオの頭部に装着された電極が、かすかに反応を示した。
俺は無意識に拳を握りしめていた。
(頼む……応えてくれ、レオ)
彼の胸が上下するリズムはそのまま。
表情も変わらない。
ただ、電子音と機器の光だけが病室に漂っている。
緊張で時間の感覚がなくなっていく――。
そのとき。
モニターに、一本のスパイクが走った。
「……っ! 出た! 覚醒前駆波形!」
「同期率上昇! 85、89、92……!」
キララが唇を押さえたまま、震える声を漏らす。
「神谷さん……!」
朝倉先生が息を詰め、画面を凝視する。
「――来るわよ」
次の瞬間。
ピ……ピッ……ピピッ……!
レオのモニター音が変わり、
彼の指先が、わずかに、ほんのわずかに――動いた。
レオの指が、かすかに震えた。
ほんの一ミリ。
ほんの一瞬。
それだけの動きなのに、
病室全体に衝撃が走った。
「反応あり! 随意性の可能性あり!」
「同期率、98……99……!」
研究スタッフの声が次々と上がる。
キララは胸の前で両手を強く握りしめ、涙が今にもこぼれそうになっていた。
やがて――
レオのまぶたが、ゆっくり、ゆっくりと持ち上がった。
そして、俺と目が合う。
「マイト、なんだ?その恰好は?」
レオは、目を覚ました。
モニターの一台が、突然、警告音を鳴らした。
「解析フェーズ2へ移行……特徴波形を抽出中……」
AIの合成音声が流れ、スクリーンに複数の波形が重なりはじめる。
その数、三百を超えていた。
医師たちも工学研究員も、それぞれのモニターにかじりつく。
「しかし……これじゃ範囲が広すぎる」
「覚醒例の数が少なすぎるのよ、比較が追いつかない」
焦りが室内に濃く散った、その瞬間。
「――ちょっと待って」
朝倉先生が指を止めた。
スクリーンに、一つのグラフが浮かび上がっていた。
それは、他の波形群とは明らかに異なる“尖り”を持っていた。
「これ……覚醒直前にだけ現れている?」
工学主任が表示を拡大する。
「……いや。違う。
覚醒の“数十秒前”に出現して……
その後、一度だけ強くスパイクしている……!」
キララが息を飲む。
その波形はまるで――
暗闇の中にひと筋の光が差すようだった。
「先生……これ、何なんですか?」
キララの問いに、朝倉先生は静かな声で答えた。
「“夢が終わる瞬間”の波形よ」
研究室の空気が凍りつく。
「人の意識は、浅い睡眠から目覚めるとき、
数秒だけ、局所と全体が同時に“同期”することがあるの。
いわば、夢から現実への橋渡し
……意識の“帰還波形”と言われているわ」
朝倉先生は、もう一度その波形を指し示した。
「これが……兄さんが夢の世界から戻ってきた“証拠”よ」
キララの唇が震えた。
「……兄さん……自力で、戻ったんだ……」
「ええ。そして、そのとき彼の脳に刻まれた“覚醒サイン”がこれなの」
工学主任が、ホワイトボードにマーカーで式を書き殴る。
「ここから逆算すれば……“覚醒刺激”を作れる。
この波形を、人工的に――」
そこまで言いかけて、キララがぽつりと言った。
「……夜明け、みたい……」
全員が彼女を見た。
「だって、暗い波形の中に……
一瞬だけ、光が差すみたいで」
たしかにその波形は、闇夜に揺らめくオーロラのようにも見えた。
ゆっくりと立ち上がり、最後にひとつだけ鋭く輝く。
「名前をつけましょう」
朝倉先生が言った。
キララは少し迷い、そして静かに答えた。
「――《オーロラ・パルス》」
研究室の誰もが、その名を否定しなかった。
工学主任が深くうなずく。
「夜明けを告げる……か。
いい名だ。科学的にも詩的にも、申し分ない」
モニターに新たなステータスが現れた。
《刺激プロトコル構築フェーズへ移行》
AIが低い唸りをあげ、無数の計算が走り始める。
研究室に、わずかな緊張と――希望が生まれた。
こうして、
“夢の終端波形”を再現する唯一の信号――
《オーロラ・パルス》が誕生した。
翌日。
研究棟の空気は、一夜にしてまったく別物になっていた。
AIが生成した《オーロラ・パルス》は、
医学班・工学班の手によって、
すでに“実行可能な刺激”へと変換が進んでいた。
脳全体を包み込む低周波。
特定領域を軽く叩く高周波。
そして、意識回復を促す微弱電流。
それらすべてを、たった一つの“波形”に合わせて同期させる。
言葉にすれば簡単だが、実際はとんでもなく繊細で、危険な作業だった。
「同期率 92%……93……まだ上がる……!」
工学主任が息を詰める。
「刺激値、上限ギリギリです。安全域に収まっています」
「過負荷警告なし。波形の乱れなし。……完璧だ」
朝倉先生が端末を操作し、最終チェックを始める。
「……よし。
《オーロラ・パルス》の実装完了」
その一言で、部屋の空気がふっと揺れた。
だが、その直後。
キララが先生を見つめ、かすかに声を震わせた。
「これで……本当に、起きるの?」
朝倉先生は、わずかに目を細めた。
「保証はできないわ。
医学的に見れば、これは“前例のない挑戦”だから。
でも――あの波形は、確かにあなたのお兄さんを救った。
それだけは事実よ」
キララはゆっくり、深くうなずいた。
◇
夕刻。
実験の準備はすべて整い、病院の一角にある特別病室に機材が運び込まれた。
そこには――
白いカーテンの並ぶ静かな空間が広がっていた。
三つのベッド。
規則正しい電子音。
眠るレオ。
眠るリオン。
眠るルナ。
どの顔も穏やかで、まるで異世界で戦っていた勇ましい姿が嘘のようだった。
(……本当に、お前たちまで来ていたんだな)
俺は三人の顔を順番に見つめた。
胸の奥が熱くなる。
あの世界で共に笑い、戦い、死線をくぐり抜けた仲間たち。
言葉はいらないほどの絆を築いた仲間たち。
その全員が、この現実世界でも――眠ったままだ。
「兄さん」
後ろからキララが声をかけてきた。
目を赤くしながら、それでも必死に強く立とうとしている姿だった。
「……ごめんね。
兄さん、ひとりじゃなかったのに……
私、ずっと兄さんのことばかり考えてて……」
「キララ。お前のせいじゃない」
俺は静かに首を振った。
「むしろ、ありがとう。
お前が動いてくれなきゃ……俺は今も眠ったままだった」
その言葉に、キララの瞳が揺れ、ほんの少しだけ涙が光った。
「それに――」
俺は三人のベッドに向き直る。
「こいつらは、お前が思ってる以上にタフだ。
魔物も罠も、不条理な世界のルールも全部ぶっ壊してきた連中だ。
《オーロラ・パルス》くらい、きっと乗り越える」
キララが弱く笑う。
「兄さん……そういうところ、変わってないね」
そこへ朝倉先生が入室してきた。
表情には緊張も焦りもない。
ただ、静かな決意があった。
「装置の準備が整ったわ。
――開始しましょう」
工学班のスタッフが次々と操作端末につき、
脳波計・刺激装置・同期機構が淡い光を放ち始める。
病室の空気が、一気に張りつめた。
「第一対象は……神谷 獅子(カミヤ レオ)さんから行くわ。
覚醒波形は個人差があるけれど、
強靭な身体の人ほど成功率が高い傾向があるの」
キララが小さく息を呑んだ。
「では――」
朝倉先生が静かに告げる。
「《オーロラ・パルス》投与シーケンス、開始します」
機材が微かに振動し、音もなく光が走る。
レオの頭部に装着された電極が、かすかに反応を示した。
俺は無意識に拳を握りしめていた。
(頼む……応えてくれ、レオ)
彼の胸が上下するリズムはそのまま。
表情も変わらない。
ただ、電子音と機器の光だけが病室に漂っている。
緊張で時間の感覚がなくなっていく――。
そのとき。
モニターに、一本のスパイクが走った。
「……っ! 出た! 覚醒前駆波形!」
「同期率上昇! 85、89、92……!」
キララが唇を押さえたまま、震える声を漏らす。
「神谷さん……!」
朝倉先生が息を詰め、画面を凝視する。
「――来るわよ」
次の瞬間。
ピ……ピッ……ピピッ……!
レオのモニター音が変わり、
彼の指先が、わずかに、ほんのわずかに――動いた。
レオの指が、かすかに震えた。
ほんの一ミリ。
ほんの一瞬。
それだけの動きなのに、
病室全体に衝撃が走った。
「反応あり! 随意性の可能性あり!」
「同期率、98……99……!」
研究スタッフの声が次々と上がる。
キララは胸の前で両手を強く握りしめ、涙が今にもこぼれそうになっていた。
やがて――
レオのまぶたが、ゆっくり、ゆっくりと持ち上がった。
そして、俺と目が合う。
「マイト、なんだ?その恰好は?」
レオは、目を覚ました。
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