SE転職。~妹よ。兄さん、しばらく、出張先(異世界)から帰れそうにない~

しばたろう

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最終章7 愛する人を迎えに

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 《オーロラ・パルス》プロジェクトは、
 俺たち4人の成功例をもとに全国の患者へ展開されることが決まった。

 “奇跡”ではなく“技術”として。
 再現性のある治療として。

 それは、この国中に眠り続けている人々にとって、
 一筋の光となった。



 夕方、俺たちは病室のベッドにそれぞれ腰掛けていた。
 キララも同じベッドの端に座り、4人を見渡している。
 
 「で……お前らの現実の職業って、どうなってんだ?」

 レオが聞くと、真っ先にルナが答えた。

「俺は、半導体のエンジニアだ。
 倒れる前は、研究所で開発をしていた。」

「やっぱりな。なんか同じ匂いがすると思った」
 俺は素直な感想を漏らす。

 キララが「技術系って似てるよね」と小さく笑う。
 
 次に、リオンが照れくさそうに言う。

「俺は大学4年。経営学部にいた」

「経営……?」
 レオが眉をしかめる。
「お前、意外と堅いこと勉強してんだな」

「おいおい、意外ってなんだよ!」

 その言い合いにキララがくすっと笑った。

 異世界で剣や魔法をふるってた3人が、
 こんな風に現実の肩書きで話す姿は、どこか不思議で温かい。

 さて……俺たちパーティの、この世界での最初のクエストは――

 決まっている。
 愛する人を迎えに行くことだ。

 橘月(ルナ)は、ミカを迎えに行く。
 あの元気で生意気な笑顔が、どこかで一人戸惑っているのかもしれない。

 久遠莉温(リオン)は、サオリを迎えに行く。
 サオリは、小さいころ、あの世界に来たらしい。
 名前も覚えておらず、サオリと名づけられ、戦士の村で育てられたという。
 十年以上眠っていたことになる。
 目覚めたときはさぞ困惑するだろう。
 それを思うと、胸の奥に重く、静かな焦りが生まれた。

 そして、俺は……

 レオがいたずらっぽく笑った。

「キララ、お前の兄貴はな……あっちの世界で彼女がいたんだぞ?」

「えっっ!?」
 キララはベッドから落ちそうになる。

「兄さんの彼女!? すごい! 会いたい!
 どんな人? 名前は? ねぇ!」

「おい、レオ……」

 俺は必死に話題をそらす。

「問題は……彼女たちが“どこにいるか分からない”ってことだ。
 どうやって探す?」

 レオたちが口をそろえて言う。

「こんなときは、マイト、お前の出番だな!」

「やはり、そう来たか。しかし……どうしたものか。
 この世界には《リンク》は無いし……」

 そのとき。

「――私、調べられるかも」

 キララが手を挙げた。

「前に全国の患者データベースの整理したことあるの。
 名前とか年齢とか、特徴が分かれば検索できる!」

「マジかよ!?」「助かる……!」「さすがマイトの妹だな!!」

 キララは照れながら言った。

「任せて。みんなの大切な人なんでしょ?
 研究室で調べてくる!」

「頼む、キララ」
俺は素直に頭を下げた。



 数時間後。

 キララが戻ってきた。
 少し息を切らしながら、資料を抱えている。

「見つかったよ」

 3人が同時に身を乗り出す。

 キララはまずルナに向き合う。

「美香(ミカ)さん。すぐ見つかった。横浜市の病院に入院してた。
 年齢も一致してるから、間違いないと思う」

 ルナの表情が一気に崩れる。
 喜びなのに泣きそうで、思わず目をそらしながら、小さく息を吸った。
 それが彼の素直な喜び方なのだと、俺はよく知っていた。

 次に、キララはリオンへ向き直った。

「サオリさんも……たぶんこれ。
 6歳の時に事故で意識不明になった女の子がいる。
 本名は華(ハナ)ちゃん。
 入院先は山梨県。
 ……きっとサオリさんだと思う」

 リオンは固く結んでいた拳をゆっくりほどいた。
 まるで凍っていた心が、静かに溶けていくように。

「……キララ……ありがとう」

「ううん。みんなの“仲間の大切な人”だもん。
 見つけられてよかった」
 
「それでね、兄さん、ハルカさんなんだけど。。。」

 俺は、固唾を飲んで次の言葉を待った。

「見つけられなかった。。。」

 時間が止まったようだった。

「……え?」

 声にならない声が漏れる。

「日本全国の患者さんを調べたの。
 名前も、年齢も、事故歴も……
 条件を変えて何度も当てはめて……それでも……」

 キララは首を振った。

「――“ハルカ”って女の人は、一人もいなかったの」
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