悪役令嬢の私が姫に転生した件  ――それはいいのですが、なぜ魔王城に幽閉から始まるのですか?

しばたろう

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12 剣士見習いの試練

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 私は、カエデ・ミナセ。
 剣士見習いだ。

 今は、わけあって――
 ヴェルハイムにある、商人ヴァルス様のお屋敷で働いている。

 ……。

 護衛として、ではない。

 メイドとして、だ。

 最初にこの事実を突きつけられたとき、正直、頭が真っ白になった。
 剣を握ることしか知らない私が、メイド。
 どう考えても、場違いだ。

 これまで、私は男同然に育ってきた。
 剣の腕には、誰にも負けないという自負がある。
 だが――

 掃除。
 洗濯。
 配膳。
 裁縫。

 普通の女の子が嗜むそれらは、まったく、できない。

 できる自信も、なかった。

 そんな私に、セリスメイド長は、静かに言った。

「メイドに大切なのは、経験ではありません。
 奉仕の心――それがすべてです」

 不思議と、
 「形だけの言葉ではない」と思えた。
 理由は分からない。けれど、妙に説得力があった。

 セリスメイド長は、
 女の私でさえ、思わず見惚れてしまうほど凛とした美しさを持つ方だ。
 立ち居振る舞い、言葉遣い、視線の置き方。
 どれを取っても、非の打ち所がない。

 ――メイドの鏡。

 きっと、数え切れないほどの経験と実績を積まれてきたのだろう。

(私とは、分野は違うけれど……)

 それでも、見習うべき点は、確かにある。
 そう思えた。



 とはいえ。

 メイドの仕事は、やはり、四苦八苦の連続だった。

 姿勢。
 歩き方。
 物の持ち方。
 挨拶の角度。

 そこから始まり、
 トレイの持ち方、配膳の仕方。
 掃除、洗濯、繕い物。
 その他、細々とした雑多な仕事。

 メイドの仕事は、思っていた以上に多岐にわたる。
 そして――奥が深い。

 力任せでは、どうにもならない。
 相手の立場を考え、空気を読み、先を想像する。

(……剣とは、まるで違う)

 それでも。

 やると、決めたことだ。

 最後まで、やり抜く。
 それが、私の――剣士としての矜持だ。



 アレイシアお嬢様とは、仕事の合間に、ときおり言葉を交わす。

 最初の印象は――
 正直に言えば、少し、怖い人だった。

 どこか、ヴァルス様と似た雰囲気がある。
 静かで落ち着いていて、どこか底が見えない。
 さすが、ご兄妹だと思った。

 けれど。

 接しているうちに、その印象は少しずつ変わっていった。
 普段は、あどけない、やさしげな年頃の令嬢の雰囲気だ。

「気軽に、アレイシアって呼んでね。カエデ」
「仕事は、慣れてきた?」

 驚くほど、気さくに声をかけてくれる。
 私の失敗にも、笑って付き合ってくれる。

 普段は部屋にこもって熱心に本を読まれていたり、
 ヴァルス様とどこかへ出かけられたりしている。
 教養もあり、私の知らないことを、いろいろ教えてくれる。

 ――さすが、あの兄にこの妹。

 聞けば、私と同い年だという。
 大変失礼ながら、
 女友達とは、こんな感じなのかもしれない、と思うことがある。

 だが、ときどき。
 年上のお姉さんと話しているような気分になる。

 不思議な人だ。



 時間が空いたときは、グラド先生に、稽古をつけてもらっている。

「技に、執着している」
「基礎を、怠るな」

「お前の剣は速い。だが……」
「速さを、信じすぎだ」

「……力で、勝とうとしている」
「相手を、見ていない」

「剣は、振るうものではない」
「……“通す”ものだ」

 剣の話になると、先生は、よく喋る。
 ――驚くほど、喋る。

 普段の寡黙さとの落差が、すごい。

 正直、
「俺の背中を見て育て」
 というタイプの指導を想像していた。

 だが、全然、違った。

 身振り手振りで説明し、
 手本を見せ、
 必要なら手を添えて、何度でも。

 今まで出会った教官の中で、
 一番、丁寧で、的確で、分かりやすい。

 その理由が気になって、
 一度、素朴な疑問をぶつけたことがある。

「俺も、小さいころは……とても、弱かった」

 意外な答えだった。

「カエデ。才能は、お前のほうが、よっぽど上だっただろう」

 だが。
 良い師に出会えたから、ここまで来られた。
 だからこそ、分かるのだと。

 ――手本を見せること。
 ――やらせてみること。
 ――褒めること。

 それが、どれほど大切か。

 なるほど。
 そんな過去がおありだったのか。

 そして、先生は、少し照れたように付け加えた。

「それと……」
「俺は、剣が好きだ」

 一拍。

「その剣について、語れる相手ができた」
「……とても、楽しいのだ」

 その言葉は、
 なぜか、胸の奥に、温かく残った。

 ――ここでなら。

 剣も。
 奉仕も。

 どちらも、学べる気がする。

 私は、そう、思い始めていた。
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