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11 剣士見習いの矜持
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ヴェルハイムにある、商人ヴァルスの屋敷。
――その日。
ヴァルディスが、一人の少女を連れ帰ってきた。
剣士姿。
短く切り揃えられた黒髪。
年の頃は、私と同じくらいだろうか。
背筋を伸ばし、まっすぐこちらを見ているその瞳には、妙な覚悟の色があった。
「紹介しよう。彼女は、カエデ。剣士見習いだ」
……剣士?
思わず、セリスと顔を見合わせる。
ふたり揃って、きょとん、である。
「ランドロスに頼まれてな」
ヴァルディスは、少し困ったように肩をすくめた。
「ある知り合いの娘だそうだ。住み込みで働かせてほしい、と」
「商会からの頼みだ。無碍にもできん」
なるほど。
商会の“お願い”ね。
(……つまり、密偵、という可能性もあるわね)
まあ、ヴァルディスが承知した以上、問題はないのだろう。
その少女――カエデは、一歩前に出ると、きっちりと剣士の礼を取った。
「カエデ・ミナセと申します。よろしくお願いします」
硬い。
いかにも“剣士”という感じの挨拶だった。
ヴァルディスは、順に私たちを紹介する。
「こちらが、私の妹のアレイシアだ」
「よろしくお願いします。お嬢様」
次に、セリス。
「そして、メイドのセリス」
「よろしくお願いします!!」
逐一、律儀に頭を下げる。
真面目すぎて、少し面白い。
「あと、庭師のグラドがいる。今は裏で仕事中かな。後で紹介しよう」
そう言ってから、ヴァルディスがこちらを見た。
「さて。カエデのこの屋敷での仕事だが……アレイシア、どうしたものかな?」
その瞬間だった。
「はい!」
カエデが、前のめりで声を上げる。
「まだ見習いではありますが、多少剣には自負がございます!」
「世間は物騒です。ぜひ、このお屋敷の警備、皆さまの警護をお任せください!!」
「この屋敷の安全、私が守ってごらんにいれます!!」
熱意が、すごい。
まっすぐすぎて、少し眩しいくらいだ。
そんな彼女に、
私は、
メイド服を着せた。
「…………」
「お、お嬢様?」
挙動不審になりながら、カエデが自分の格好を見下ろす。
「この、服は……?」
「警護は、グラドで十分間に合っています」
私は、淡々と告げた。
「カエデには、このセリスの下で、メイドとして働いてもらいます」
「……な?」
完全に固まるカエデ。
「わ、私はこれでも剣士の端くれです!」
「大変失礼ながら、庭師の方に後れを取るとは思えません!!」
身振り手振り、必死に訴えかけてくる。
「いいでしょう」
私は、あっさりと言った。
「では、グラドと勝負してください」
「グラドから一本取れたら、あなたに屋敷の警護をお願いしましょう」
そして、付け加える。
「もっとも……」
「グラドは強いので、ハンデを差し上げます。両手使用禁止で」
「……!」
カエデの眉が、ぴくりと動いた。
「庭師殿に、そこまでのハンデとは……
私も、まだまだ未熟と見られているのでしょう。
ですが――承知しました。
その勝負、剣士としてお受けいたします」
「では、今から庭で」
「セリス、グラドを呼んできてください」
◇
屋敷の庭。
待ち構えるカエデの前に――
“それ”が現れた。
……山?
そう思ったのも、無理はない。
それがグラドだと認識するまで、数秒を要した。
「ちょっ……!?」
カエデが慌てふためく。
「……庭師と伺っていましたが……?」
「この方、どう見ても庭師の体格じゃありませんよね!?」
「ですから、言いましたでしょう」
私は涼しい顔で答える。
「グラドは強い、と」
ほどなくして。
両手を縛られたグラドと、カエデの試合が始まった。
「……」
無言で立ち尽くすグラド。
対するカエデは、合図と同時に表情が変わる。
集中。
一瞬で、剣士の顔だ。
直進――かと思わせて、手前でフェイント。
すっと横に跳び、側面から一撃。
速い。
うまい。
(なるほど。一本取ればいい、という割り切りね)
だが。
グラドは、その一撃をひょいとかわすと――
「ちょん」
軽く、カエデの足を払った。
「わっ――!」
くるん、と一回転。
勢いよく、すっころぶ。
「いたっ……」
起き上がれない。
「それまで」
私が告げる。
「約束通り。あなたには、メイドをやってもらいます」
「……はい」
すっかり意気消沈するカエデ。
だが、私は続けた。
「もっとも、それで剣が鈍るのも気の毒です」
「日々の仕事の傍ら、グラドから稽古をつけてもらうといいでしょう」
「……!」
「よ、よろしいのでしょうか!?」
一瞬で、目がきらきらする。
「先生!」
「どうぞご指導、よろしくお願いします!!」
グラドに、深々と頭を下げるカエデ。
「……」
グラドは、ほんのり照れていた。
◇
「では、メイドとしての仕事を教えます」
セリスが、腕を組んで言う。
「しっかり、覚えるように」
「……はい」
「メイドは、奉仕の精神がすべてです」
「たかがメイドと侮ってはいけませんよ」
「……はい」
「それから」
セリスは、にこりと微笑む。
「私のことは、セリスメイド長と呼ぶように」
「……はい。セリスメイド長」
やけに生き生きと指導するセリス。
すっかりしおらしくなったカエデ。
その様子を眺めながら、
ヴァルディスが、怪訝そうに私を見た。
「……エリシア」
「そなたが時折見せる、その“悪女っぷり”は、一体なんなのだ?」
――その日。
ヴァルディスが、一人の少女を連れ帰ってきた。
剣士姿。
短く切り揃えられた黒髪。
年の頃は、私と同じくらいだろうか。
背筋を伸ばし、まっすぐこちらを見ているその瞳には、妙な覚悟の色があった。
「紹介しよう。彼女は、カエデ。剣士見習いだ」
……剣士?
思わず、セリスと顔を見合わせる。
ふたり揃って、きょとん、である。
「ランドロスに頼まれてな」
ヴァルディスは、少し困ったように肩をすくめた。
「ある知り合いの娘だそうだ。住み込みで働かせてほしい、と」
「商会からの頼みだ。無碍にもできん」
なるほど。
商会の“お願い”ね。
(……つまり、密偵、という可能性もあるわね)
まあ、ヴァルディスが承知した以上、問題はないのだろう。
その少女――カエデは、一歩前に出ると、きっちりと剣士の礼を取った。
「カエデ・ミナセと申します。よろしくお願いします」
硬い。
いかにも“剣士”という感じの挨拶だった。
ヴァルディスは、順に私たちを紹介する。
「こちらが、私の妹のアレイシアだ」
「よろしくお願いします。お嬢様」
次に、セリス。
「そして、メイドのセリス」
「よろしくお願いします!!」
逐一、律儀に頭を下げる。
真面目すぎて、少し面白い。
「あと、庭師のグラドがいる。今は裏で仕事中かな。後で紹介しよう」
そう言ってから、ヴァルディスがこちらを見た。
「さて。カエデのこの屋敷での仕事だが……アレイシア、どうしたものかな?」
その瞬間だった。
「はい!」
カエデが、前のめりで声を上げる。
「まだ見習いではありますが、多少剣には自負がございます!」
「世間は物騒です。ぜひ、このお屋敷の警備、皆さまの警護をお任せください!!」
「この屋敷の安全、私が守ってごらんにいれます!!」
熱意が、すごい。
まっすぐすぎて、少し眩しいくらいだ。
そんな彼女に、
私は、
メイド服を着せた。
「…………」
「お、お嬢様?」
挙動不審になりながら、カエデが自分の格好を見下ろす。
「この、服は……?」
「警護は、グラドで十分間に合っています」
私は、淡々と告げた。
「カエデには、このセリスの下で、メイドとして働いてもらいます」
「……な?」
完全に固まるカエデ。
「わ、私はこれでも剣士の端くれです!」
「大変失礼ながら、庭師の方に後れを取るとは思えません!!」
身振り手振り、必死に訴えかけてくる。
「いいでしょう」
私は、あっさりと言った。
「では、グラドと勝負してください」
「グラドから一本取れたら、あなたに屋敷の警護をお願いしましょう」
そして、付け加える。
「もっとも……」
「グラドは強いので、ハンデを差し上げます。両手使用禁止で」
「……!」
カエデの眉が、ぴくりと動いた。
「庭師殿に、そこまでのハンデとは……
私も、まだまだ未熟と見られているのでしょう。
ですが――承知しました。
その勝負、剣士としてお受けいたします」
「では、今から庭で」
「セリス、グラドを呼んできてください」
◇
屋敷の庭。
待ち構えるカエデの前に――
“それ”が現れた。
……山?
そう思ったのも、無理はない。
それがグラドだと認識するまで、数秒を要した。
「ちょっ……!?」
カエデが慌てふためく。
「……庭師と伺っていましたが……?」
「この方、どう見ても庭師の体格じゃありませんよね!?」
「ですから、言いましたでしょう」
私は涼しい顔で答える。
「グラドは強い、と」
ほどなくして。
両手を縛られたグラドと、カエデの試合が始まった。
「……」
無言で立ち尽くすグラド。
対するカエデは、合図と同時に表情が変わる。
集中。
一瞬で、剣士の顔だ。
直進――かと思わせて、手前でフェイント。
すっと横に跳び、側面から一撃。
速い。
うまい。
(なるほど。一本取ればいい、という割り切りね)
だが。
グラドは、その一撃をひょいとかわすと――
「ちょん」
軽く、カエデの足を払った。
「わっ――!」
くるん、と一回転。
勢いよく、すっころぶ。
「いたっ……」
起き上がれない。
「それまで」
私が告げる。
「約束通り。あなたには、メイドをやってもらいます」
「……はい」
すっかり意気消沈するカエデ。
だが、私は続けた。
「もっとも、それで剣が鈍るのも気の毒です」
「日々の仕事の傍ら、グラドから稽古をつけてもらうといいでしょう」
「……!」
「よ、よろしいのでしょうか!?」
一瞬で、目がきらきらする。
「先生!」
「どうぞご指導、よろしくお願いします!!」
グラドに、深々と頭を下げるカエデ。
「……」
グラドは、ほんのり照れていた。
◇
「では、メイドとしての仕事を教えます」
セリスが、腕を組んで言う。
「しっかり、覚えるように」
「……はい」
「メイドは、奉仕の精神がすべてです」
「たかがメイドと侮ってはいけませんよ」
「……はい」
「それから」
セリスは、にこりと微笑む。
「私のことは、セリスメイド長と呼ぶように」
「……はい。セリスメイド長」
やけに生き生きと指導するセリス。
すっかりしおらしくなったカエデ。
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