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25 剣を置いた食卓
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「はっはっはっはっは!
もう、その辺で勘弁してやれ、エリシア。ああ、腹が痛い」
ついに堪えきれず、
魔王ヴァルディスが声を上げて大笑いした。
「……まあ、いいでしょう」
エリシア王女は、肩をすくめるように息をついた。
「セリスに免じて――
この話は、お父様には内緒にしておいて差し上げます」
「……っ!!」
全身の力が、抜けた。
「あ、ありがとうございます!!」
気づけば俺は、反射的に立ち上がり、
エリシア王女に深々と頭を下げていた。
……いや、待て。
(なんで俺、
お礼、言ってるんだ……?)
頭の中が、軽く混乱する。
「さて」
「挨拶は、このくらいにして」
そして、にっこりと微笑む。
「カエデ。お料理を」
「はい」
即座に応じ、
カエデが手際よく料理をテーブルに並べていく。
皿が置かれるたび、
湯気と香りが立ち上り、
思わず喉が鳴った。
(……うまそうだ)
「どれも、コックが腕によりをかけて作ったものだ」
ヴァルディスが、穏やかに言った。
「遠慮はいらん。存分に召し上がってくれ」
「あ、ああ……いただくとしよう」
……
………
なんだか――
さっきまで、あれほど気を張っていた自分が、
ひどく馬鹿らしく思えてきた。
剣に手をかけ、
一言一句を警戒し、
少しの隙も見せまいとしていた、あの緊張。
今はもう、
皿の上の料理と、
向かいに座る“魔王”の顔を見ながら、
普通に食事をしている。
(……なんだ、これ)
世界が、少しだけズレたような感覚だった。
◇
「勇者クラウス」
料理に手を伸ばしながら、
魔王ヴァルディスが、唐突に切り出した。
「私は――
アウレリア国王と、同盟を結ぼうと思っている」
……同盟?
思わず、フォークが止まる。
セリスとの旅で、
魔族=悪、という単純な図式は、
すでにかなり揺らいでいた。
だが、
同盟という言葉は、
その想像を、さらに一段、越えてきた。
「私は、魔族と人間は、共存できると考えている」
ヴァルディスは、淡々と続ける。
「眠りの森の幹線道路の話は、聞いたことがあるかな?」
「ああ。耳にしている」
「都市部の食料不足を解決した、とか……」
「あれは、私が作ったものだ」
「――そうなのか!」
思わず、声が上ずった。
「ああ。
私は、アウレリア王国となら、
互いに発展できると信じている」
その言葉に、
嘘や誇張の響きはなかった。
俺は、苦笑しながら肩をすくめる。
「……魔王ヴァルディスよ」
「正直に言うと、
かなり、俺の“魔王像”と違う」
向かいの男を見据えて、続けた。
「もっとこう……
『世界の半分をやるから仲間になれ』とか」
「姫を抱えて、『力ずくで奪ってみろ』とか」
「あるいは、『まずは魔王四天王が相手だ』とか……」
俺は、自嘲気味に笑う。
「正直、少し肩透かしを食らった気分だ」
ヴァルディスは、静かに笑った。
「それは――
人間の作った物語の中の話だろうな」
そして、穏やかに言う。
「時間はかかるだろう」
「だが、我々は、まず――
互いを理解するところから、始めなければならない」
「ああ……その通りだ」
俺は、深くうなずいた。
「実際、俺は、魔族について、何も知らなかった」
「セリスに出会って……
今までの認識が、ひっくり返るのを感じた」
そのとき。
「……わたしも、です」
控えめな声が、横から挟まる。
給仕をしていたカエデだった。
「勇者クラウス」
「正直、かなりのカルチャーショックでした」
そう言って、
少し照れたように笑う。
食堂に、
小さな笑いが広がった。
◇
食事が終わる頃には、
すっかり夜も更けていた。
窓の外は静まり返り、
屋敷の明かりだけが、闇の中に柔らかく浮かんでいる。
「クラウス」
デザートの皿にスプーンを入れながら、
エリシア王女が、何でもないことのように言った。
「今日は、この屋敷に泊まっていくといいでしょう」
「客室を用意させます」
「は、はい。ありがとうございます」
「そうさせていただきます、エリシア王女」
俺が素直に頭を下げた、その直後だった。
「ああ――それとも」
王女は、ふっと視線を上げ、
今度は真顔で続ける。
「セリスと、同じ部屋のほうが良いかしら?」
――一瞬、時が止まった。
「エ、エリシア様!」
セリスが、慌てて声を上げる。
「い、いえっ!」
俺も反射的に立ち上がりそうになった。
「そ、そのような……!」
「ぶ、ぶ、無粋な真似は……!」
「け、決して……っ!」
完全に、言葉が崩壊している。
エリシア王女は、そんな俺たちを眺め、
にっこりと、実に楽しそうに微笑んだ。
「ふふ。冗談です」
(……この王女)
(本当に、食えない)
もう、その辺で勘弁してやれ、エリシア。ああ、腹が痛い」
ついに堪えきれず、
魔王ヴァルディスが声を上げて大笑いした。
「……まあ、いいでしょう」
エリシア王女は、肩をすくめるように息をついた。
「セリスに免じて――
この話は、お父様には内緒にしておいて差し上げます」
「……っ!!」
全身の力が、抜けた。
「あ、ありがとうございます!!」
気づけば俺は、反射的に立ち上がり、
エリシア王女に深々と頭を下げていた。
……いや、待て。
(なんで俺、
お礼、言ってるんだ……?)
頭の中が、軽く混乱する。
「さて」
「挨拶は、このくらいにして」
そして、にっこりと微笑む。
「カエデ。お料理を」
「はい」
即座に応じ、
カエデが手際よく料理をテーブルに並べていく。
皿が置かれるたび、
湯気と香りが立ち上り、
思わず喉が鳴った。
(……うまそうだ)
「どれも、コックが腕によりをかけて作ったものだ」
ヴァルディスが、穏やかに言った。
「遠慮はいらん。存分に召し上がってくれ」
「あ、ああ……いただくとしよう」
……
………
なんだか――
さっきまで、あれほど気を張っていた自分が、
ひどく馬鹿らしく思えてきた。
剣に手をかけ、
一言一句を警戒し、
少しの隙も見せまいとしていた、あの緊張。
今はもう、
皿の上の料理と、
向かいに座る“魔王”の顔を見ながら、
普通に食事をしている。
(……なんだ、これ)
世界が、少しだけズレたような感覚だった。
◇
「勇者クラウス」
料理に手を伸ばしながら、
魔王ヴァルディスが、唐突に切り出した。
「私は――
アウレリア国王と、同盟を結ぼうと思っている」
……同盟?
思わず、フォークが止まる。
セリスとの旅で、
魔族=悪、という単純な図式は、
すでにかなり揺らいでいた。
だが、
同盟という言葉は、
その想像を、さらに一段、越えてきた。
「私は、魔族と人間は、共存できると考えている」
ヴァルディスは、淡々と続ける。
「眠りの森の幹線道路の話は、聞いたことがあるかな?」
「ああ。耳にしている」
「都市部の食料不足を解決した、とか……」
「あれは、私が作ったものだ」
「――そうなのか!」
思わず、声が上ずった。
「ああ。
私は、アウレリア王国となら、
互いに発展できると信じている」
その言葉に、
嘘や誇張の響きはなかった。
俺は、苦笑しながら肩をすくめる。
「……魔王ヴァルディスよ」
「正直に言うと、
かなり、俺の“魔王像”と違う」
向かいの男を見据えて、続けた。
「もっとこう……
『世界の半分をやるから仲間になれ』とか」
「姫を抱えて、『力ずくで奪ってみろ』とか」
「あるいは、『まずは魔王四天王が相手だ』とか……」
俺は、自嘲気味に笑う。
「正直、少し肩透かしを食らった気分だ」
ヴァルディスは、静かに笑った。
「それは――
人間の作った物語の中の話だろうな」
そして、穏やかに言う。
「時間はかかるだろう」
「だが、我々は、まず――
互いを理解するところから、始めなければならない」
「ああ……その通りだ」
俺は、深くうなずいた。
「実際、俺は、魔族について、何も知らなかった」
「セリスに出会って……
今までの認識が、ひっくり返るのを感じた」
そのとき。
「……わたしも、です」
控えめな声が、横から挟まる。
給仕をしていたカエデだった。
「勇者クラウス」
「正直、かなりのカルチャーショックでした」
そう言って、
少し照れたように笑う。
食堂に、
小さな笑いが広がった。
◇
食事が終わる頃には、
すっかり夜も更けていた。
窓の外は静まり返り、
屋敷の明かりだけが、闇の中に柔らかく浮かんでいる。
「クラウス」
デザートの皿にスプーンを入れながら、
エリシア王女が、何でもないことのように言った。
「今日は、この屋敷に泊まっていくといいでしょう」
「客室を用意させます」
「は、はい。ありがとうございます」
「そうさせていただきます、エリシア王女」
俺が素直に頭を下げた、その直後だった。
「ああ――それとも」
王女は、ふっと視線を上げ、
今度は真顔で続ける。
「セリスと、同じ部屋のほうが良いかしら?」
――一瞬、時が止まった。
「エ、エリシア様!」
セリスが、慌てて声を上げる。
「い、いえっ!」
俺も反射的に立ち上がりそうになった。
「そ、そのような……!」
「ぶ、ぶ、無粋な真似は……!」
「け、決して……っ!」
完全に、言葉が崩壊している。
エリシア王女は、そんな俺たちを眺め、
にっこりと、実に楽しそうに微笑んだ。
「ふふ。冗談です」
(……この王女)
(本当に、食えない)
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