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最終章2
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アウレリア王国は、混乱の極みにあった。
ヴァルガリア大帝国軍は、
フェルディナ平原の都市を、
ひとつ、またひとつと占拠していく。
工業都市は沈黙し、
鉱山は帝国の旗に覆われた。
王都ルクシオンには、
北から逃れてきた避難民があふれかえっていた。
着の身着のまま。
家も、仕事も、未来も失った人々。
戦線は、じりじりと後退している。
それは、誰の目にも明らかだった。
やがて、囁かれる声が、大きな流れとなる。
――これ以上の抵抗は無理だ。
――領土の一部を譲り、和平を結ぶしかない。
――多額の賠償金を払ってでも、生き延びるべきだ。
それが、唯一の選択肢なのだと。
国民の大半が、
苦渋の覚悟を決めかけた、そのときだった。
◇
王都の広場。
ひとりの男が、
人々の前に姿を現した。
勇者クラウス。
剣を掲げ、
群衆を見渡す。
ざわめきが、一瞬で静まった。
勇者クラウスは、
魔王討伐のため、
すでに魔族領の奥深くへ向かった――
人々は、そう聞かされていた。
その勇者が、
今、王都にいる。
青天の霹靂とは、まさにこのことだった。
「――聞け!」
クラウスの声が、広場に響く。
「俺は、魔王軍の援軍を得ようと思う」
どよめき。
「魔王は、俺の敵だ」
「だが――」
剣を握る手に、力がこもる。
「帝国は、俺たち全員の敵だ」
一拍。
「きっと、俺の願いを聞き入れてくれる」
困惑。
疑念。
だが、同時に――期待。
「魔王と話をつけて、戻ってくる」
「それまで、踏ん張れ」
「生きていろ」
そして、はっきりと告げた。
「俺が――
勝ち筋を、持って帰る」
正直に言えば、
何を言っているのか、よく分からない。
平たく言えば、
魔族に援軍を頼む、ということなのだろう。
平時の冷静な頭で考えれば、
そんな馬鹿げた話があるものかと、
一蹴されていただろう。
だが――
今は、平時ではない。
抜き差しならぬ危機の中で、
ひとりの英雄の言葉は、
理屈を超えて、人々の心をつかんだ。
『本当に、魔王が味方になってくれるのなら……』
『それは、とても、すごいことではないか』
『よく分からないが……』
『あの勇者が言うのなら、信じてみてもいいのではないか』
不安と希望が、入り混じる。
だが、確かに――
流れは、変わった。
勇者クラウスは、
民衆の声援に背を押されながら、
再び、魔族領へと旅立った。
その背に、人々は託す。
最後の希望を。
◇
――わずか、一週間後。
それは、あまりにも早すぎる帰還だった。
勇者が、戻ってきた。
魔王軍を、率いて。
眠りの森を貫く幹線道路。
その先、王都ルクシオン郊外に――
黒い波が現れた。
数、三万。
魔王軍。
その姿を目にした瞬間、
人々は息を呑んだ。
もっと――
身の毛もよだつ異形の集団を、
想像していたからだ。
だが、現実は違った。
そこにいたのは、
黒い鎧に統一された、
規律の取れた軍隊。
隊列は正確で、
一糸乱れぬ行進。
魔族の兵士たちは角を生やしてはいるが、
その姿は、人間と大きく変わらない。
無言のまま、静かに待機している。
ざわめきが、戸惑いへと変わる。
さらに、その後方。
巨人。
ドラゴン。
ゴーレム。
ベヒーモス。
圧倒的な存在感を放つ、
大型の魔獣たちが、
従順に控えていた。
恐怖と畏敬が、同時に胸を打つ。
そして――
その先頭。
勇者クラウスの隣に、
ひときわ強い“気配”を纏う存在が立っていた。
黒衣。
揺るぎない威圧感。
ただ、そこに立っているだけで、
空気が変わる。
――魔王。
魔王ヴァルディス。
本当に、勇者は魔王軍を連れて戻ってきたのだ。
その事実が、
ゆっくりと人々の胸に浸透していく。
(……勝てるかもしれない)
誰かが、そう思った。
次の瞬間、
それは、周囲にも伝播していく。
◇
魔王軍は、そのまま、
王都ルクシオンを通り過ぎていった。
城門の内には、入らない。
市場にも、広場にも、立ち寄らない。
ただ、
〈フェルディナ平原〉へと向かい、
進路を北へ取る。
黒き軍勢が、
王都を背に進んでいく光景を、
ルクシオンの人々は、
遠巻きに、そして息を潜めて見守っていた。
角を持つ兵士。
重厚な鎧。
そして、後方に控える巨大な魔獣たち。
身構えたままの者もいた。
祈るように手を組む者もいた。
恐怖は、消えていない。
だが――
誰一人として、
刃を向けられることはなかった。
誰一人として、
家を壊されることも、
命を奪われることもなかった。
それだけで、
人々の胸に、
小さな変化が生まれる。
希望が、
確かに芽生えていた。
人々は、固唾をのんで見つめる。
この黒き軍勢が、
アウレリア王国の敵となるのか。
それとも――
救いとなるのか。
答えは、まだ分からない。
だが、
その背が向かう先が、
王都ではなく、
戦場であることだけは、
誰の目にも明らかだった。
そして、
その事実が、
静かに――
民の心を、前へと押し出していた。
ヴァルガリア大帝国軍は、
フェルディナ平原の都市を、
ひとつ、またひとつと占拠していく。
工業都市は沈黙し、
鉱山は帝国の旗に覆われた。
王都ルクシオンには、
北から逃れてきた避難民があふれかえっていた。
着の身着のまま。
家も、仕事も、未来も失った人々。
戦線は、じりじりと後退している。
それは、誰の目にも明らかだった。
やがて、囁かれる声が、大きな流れとなる。
――これ以上の抵抗は無理だ。
――領土の一部を譲り、和平を結ぶしかない。
――多額の賠償金を払ってでも、生き延びるべきだ。
それが、唯一の選択肢なのだと。
国民の大半が、
苦渋の覚悟を決めかけた、そのときだった。
◇
王都の広場。
ひとりの男が、
人々の前に姿を現した。
勇者クラウス。
剣を掲げ、
群衆を見渡す。
ざわめきが、一瞬で静まった。
勇者クラウスは、
魔王討伐のため、
すでに魔族領の奥深くへ向かった――
人々は、そう聞かされていた。
その勇者が、
今、王都にいる。
青天の霹靂とは、まさにこのことだった。
「――聞け!」
クラウスの声が、広場に響く。
「俺は、魔王軍の援軍を得ようと思う」
どよめき。
「魔王は、俺の敵だ」
「だが――」
剣を握る手に、力がこもる。
「帝国は、俺たち全員の敵だ」
一拍。
「きっと、俺の願いを聞き入れてくれる」
困惑。
疑念。
だが、同時に――期待。
「魔王と話をつけて、戻ってくる」
「それまで、踏ん張れ」
「生きていろ」
そして、はっきりと告げた。
「俺が――
勝ち筋を、持って帰る」
正直に言えば、
何を言っているのか、よく分からない。
平たく言えば、
魔族に援軍を頼む、ということなのだろう。
平時の冷静な頭で考えれば、
そんな馬鹿げた話があるものかと、
一蹴されていただろう。
だが――
今は、平時ではない。
抜き差しならぬ危機の中で、
ひとりの英雄の言葉は、
理屈を超えて、人々の心をつかんだ。
『本当に、魔王が味方になってくれるのなら……』
『それは、とても、すごいことではないか』
『よく分からないが……』
『あの勇者が言うのなら、信じてみてもいいのではないか』
不安と希望が、入り混じる。
だが、確かに――
流れは、変わった。
勇者クラウスは、
民衆の声援に背を押されながら、
再び、魔族領へと旅立った。
その背に、人々は託す。
最後の希望を。
◇
――わずか、一週間後。
それは、あまりにも早すぎる帰還だった。
勇者が、戻ってきた。
魔王軍を、率いて。
眠りの森を貫く幹線道路。
その先、王都ルクシオン郊外に――
黒い波が現れた。
数、三万。
魔王軍。
その姿を目にした瞬間、
人々は息を呑んだ。
もっと――
身の毛もよだつ異形の集団を、
想像していたからだ。
だが、現実は違った。
そこにいたのは、
黒い鎧に統一された、
規律の取れた軍隊。
隊列は正確で、
一糸乱れぬ行進。
魔族の兵士たちは角を生やしてはいるが、
その姿は、人間と大きく変わらない。
無言のまま、静かに待機している。
ざわめきが、戸惑いへと変わる。
さらに、その後方。
巨人。
ドラゴン。
ゴーレム。
ベヒーモス。
圧倒的な存在感を放つ、
大型の魔獣たちが、
従順に控えていた。
恐怖と畏敬が、同時に胸を打つ。
そして――
その先頭。
勇者クラウスの隣に、
ひときわ強い“気配”を纏う存在が立っていた。
黒衣。
揺るぎない威圧感。
ただ、そこに立っているだけで、
空気が変わる。
――魔王。
魔王ヴァルディス。
本当に、勇者は魔王軍を連れて戻ってきたのだ。
その事実が、
ゆっくりと人々の胸に浸透していく。
(……勝てるかもしれない)
誰かが、そう思った。
次の瞬間、
それは、周囲にも伝播していく。
◇
魔王軍は、そのまま、
王都ルクシオンを通り過ぎていった。
城門の内には、入らない。
市場にも、広場にも、立ち寄らない。
ただ、
〈フェルディナ平原〉へと向かい、
進路を北へ取る。
黒き軍勢が、
王都を背に進んでいく光景を、
ルクシオンの人々は、
遠巻きに、そして息を潜めて見守っていた。
角を持つ兵士。
重厚な鎧。
そして、後方に控える巨大な魔獣たち。
身構えたままの者もいた。
祈るように手を組む者もいた。
恐怖は、消えていない。
だが――
誰一人として、
刃を向けられることはなかった。
誰一人として、
家を壊されることも、
命を奪われることもなかった。
それだけで、
人々の胸に、
小さな変化が生まれる。
希望が、
確かに芽生えていた。
人々は、固唾をのんで見つめる。
この黒き軍勢が、
アウレリア王国の敵となるのか。
それとも――
救いとなるのか。
答えは、まだ分からない。
だが、
その背が向かう先が、
王都ではなく、
戦場であることだけは、
誰の目にも明らかだった。
そして、
その事実が、
静かに――
民の心を、前へと押し出していた。
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